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丹羽燐
2023-11-14 23:49:44
2147文字
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11月度あむあず版月間お題
お題 : 美術館,料理
週の折り返し故か、客のいないポアロの扉が開く。少し暖かい空気とともにやってきたのは、昼頃に退勤したはずの梓だった。
「あれ? おかえりなさい、梓さん」
「お疲れ様です、安室さん。まだコーヒーありますか?」
退勤したはずがなぜポアロに戻ってきたのかを尋ねる前に、梓はすっかり客としてカウンターの中央の席に座っていた。勤務時間外に安室もよくしている光景なので、ほかの客同様に対応することにした。
「ええ、まだありますよ。一緒にチーズケーキはいかがですか」
「どうしようかな、今日はレアチーズですよね」
「ちなみにブルーベリージャムです」
「安室さん手作りの?」
はい、と安室が返事をするや否や、梓は頭を抱えて悩み始めた。二十三歳の女子には重大な悩みらしく、ぶつぶつと独り言をつぶやいている。
「安室さんのレアチーズケーキ
……
美味しいから逃したくない
……
でもチーズケーキ2つ目
……
絶対おいしい
……
カロリーが
……
」
「あれ、2個目なんですか?」
「
……
そう、そうなんです。美術館のカフェでも食べちゃって」
「美術館のカフェですか」
「併設と侮るなかれ、美味しいんですよ。おすすめです」
ほう、と話を促した。二人しかいない喫茶店はコーヒーの香りと共に穏やかに時が進む。たとえ、まだ注文が決まっておらず、ほかの喫茶店の話をしていたとしても。
「特別展に合わせたメニューになっていて、今は猫展なので猫型チーズケーキでした。写真撮ってたはず
……
そうそう、これです」
スマホに映し出されたのはこげ茶よりも茶色の割合の多い三毛猫の顔を模したチーズケーキだった。
「茶に黒
……
こげ茶で大尉みたいですね」
「安室さんもそう思います? 大尉くんみたいでつい頼んじゃいました」
「そっくりですねえ。僕も白い犬のケーキがあったら頼んじゃうかもしれません」
「ハロくんみたいな?」
「ええ、ハロみたいな」
オウム返しのような会話をしながら、ハロに似たケーキを食べる安室と、大尉に似たケーキを食べる梓を想像して二人は顔を見合わせて笑った。
「ふふ、やっぱり、レアチーズケーキもお願いします」
わかりました、と言ってやかんを火にかける。マスターはフィルターに挽いた豆を入れてから、梓はマグを用意してからやかんを火にかける。微妙に淹れ方の異なる梓さんとマスターに最初は困惑していた安室も、なんだかんだ淹れ方が異なるのだった。
レアチーズケーキを取り出して皿に盛りつけながら、ふと疑問を思い出した。
「あれ、そういえば梓さんは今日午後休ですよね」
「そうですよ、お昼休みに安室さんと交代したじゃないですか」
まかないの菜の花パスタ美味しかったです、と続いた。今日のランチ限定、菜の花のくたくたパスタは梓にも好評のようだ。
「シフトもないのにポアロに?」
「来ちゃだめですか?」
「いいえ、梓さんがいてくれると僕は嬉しいですし」
「もう、炎上する発言は控えてくださいっていつも言ってるじゃないですか」
炎上させるつもりはないんですけど、と安室が続ける前に、楽しげな表情で梓が口を開く。普段とは異なる表情に、嫌な予感がした。
「じゃあ探偵さん、私がポアロに戻ってきた理由を推理してください」
「僕、人の心を当てるのって苦手なんですよね」
ヒントも出しますから、と笑う梓に負け、安室は状況整理から始めることにした。
「今日の梓さんは午後休で美術館の特別展
……
猫展に行っていた。その後、美術館併設のカフェでチーズケーキとコーヒーを注文。カフェからポアロまでに寄り道は
……
もしかして、特別展で三毛猫のボールペンを買いました?」
「えーっ、なんでわかったんですか」
「理由は二つ。一つ目は梓さんは大尉を飼っていることから三毛猫グッズを買いがちだということ。二つ目は、美術館の特別展グッズでポアロで使えるものは限られていること。とすると、オーダー用のボールペンかメモ帳に絞られます。でも梓さんは先週メモ帳を買い換えたばかりですから、ボールペンかなと」
「えへへ、正解です」
そう言いながら梓がカバンの外ポケットから取り出したのは、三毛猫柄のボールペン。安室の推理通りということだ。
「うーん、時間的にあとはどこにも寄れないですし、そうですね。大尉によく似たチーズケーキと三毛猫のボールペンを誰かに見せたかった、とかどうでしょう」
見たもの、美味しかったものを真っ先に伝えたい相手が何を意味するのか、安室は気がつかないふりをした。今までの梓の反応から間違ってもそうではないと確信をしていた。
「さすが安室さん、正解です。記念にこの猫柄ボールペンをプレゼントします」
「え、せっかく買ったのにいいんですか」
梓は柄の異なるボールペン2本をさらに外ポケットから取り出し、3本得意げに安室に見せた。一番大尉に似た配色は手放しがたいらしく、安室から取りづらい方に持たれているのが可笑しくも面白い。
「ふふふ、そう言うと思って3本買っておいたんです。マスターともお揃いです!」
お礼を言いながら、一番取りやすい、ハロのように真っ白な猫のボールペンを受け取った。お揃いのボールペンを使うのは炎上しないのか、と疑問に思いながら。
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