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河童の皿箱
2024-04-12 20:18:41
4288文字
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遊戯王:短め(2024年度)
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追走
サジータとフェリジットが追いかけっこするだけ。
大地を駆けるは、桃色の毛を持つ猫のような獣人の女。大空から狙いを定めしは、艶めく黒い翼で羽ばたく鳥のような獣人の女。
猫は名をフェリジットと云い、鳥は名をサジータと云う。猫は人のような滑らかな肌に、猫の耳や尾を持つ種族であり、一方の鳥は人の形をしているものの、体の全てが羽毛に包まれている。ひとくちに獣人と言えど、その姿形は全く異なっていた。2人はそれぞれの仲間を持ち、かたや引っ掻き回す遊撃手として、かたや孤高の狙撃手として、数多の戦場を駆けずり回っては、その銃で敵を討ち果たしてきた。
猫は走る。この荒野はあまりにも遮蔽が少なく、猫の持つ銃剣では、鳥の持つ狙撃銃の射程を越えられない。猫は空を見上げては、鳥の高さを確認する。これでは届かない。猫は荒野にのさばるわずかな遮蔽に身を隠しながら、一直線に廃墟群を目指す。だが、対する鳥は決して引き金を引かなかった。猫のすばしこさは、鳥の照準を撒いてしまうほど。それに、鳥の得意とする戦法は、他の連中が前で大暴れをして注意を引く中での精密な狙撃である。一対一のこの状況、大空の警戒を解かぬ猫を、鳥は仕留めきれないと判断し、滑空にてその背を追い回す。
走り去る2つの影は、砂埃を起こし、走り去っていく。それをじっと見つめる、より大きな2つの羽ばたく影がある。かたや凶鳥と恐れられし百舌の獣人の男、かたや英雄と称えられし竜の獣人の男。百舌は名をシュライグと云い、竜は名をラファールと云う。百舌は猫の仲間にして、属する〈鉄獣戦線〉の長であり、竜は鳥と志を同じくする仲間にして、属する〈空牙団〉の先導者である。2人は、猫と鳥の演習を見守っていた。
走り去った2人の抱える銃に装填されているのはどちらもゴム弾で、殺傷能力はない。だが、2人の女は互いに鋭き目を向けては、この演習に本気で取り組んでいる。そして素早い女たちを追う2人の男は、互いに顔を見合わせては、呟いた。あまり熱中しすぎなければ良いのだが。
一足早く、猫がボロボロの廃墟まで到達し、すぐに崩れかけた建造物に身を隠しては、その陰に身を隠し、息を整える。続いて到達した鳥は、その廃墟の高きに足を下ろし、景観に目を配った。城壁の如く続いていたのだろう白い壁はうずたかき瓦礫の山と化し、その山の隙間にはかろうじて建造物と判別できる壁が残っている。外壁が囲い込んでいる範囲はかなり広く、外側に向かえば向かうほど、建造物の状態は悪かった。鳥が降り立った中央の塔には錆びついた鐘が吊り下がっていたが、今にも外れてしまいそうであった。鳥は崩落に注意を向けながらも、猫の潜む場所に目星をつけるべく、己もまた廃墟に身を潜める。
しばらく遅れて、百舌と竜が崩れた外壁の上へと降り立つ。同時に、竜はそこかしこから鼻をつく異臭に顔を顰める。瓦礫の下にあるのは、燻る灰。今もまだ、何かが焼かれているのか。竜は勝負の行方から一度目を離し、特段臭いの強い瓦礫の下を掘る。すぐに出てきたのは、血まみれの拷問器具であった。竜は言う。そうか、ここが、お前たちの。百舌は答える。あぁ、ここは元々、神の名の下に加護を受ける教導国家だった。そして、俺たちの戦場だったんだ、と。拷問器具は、もともと人間であった。だが、ある人物が長年かけて及んだ凶行によって、人々はこの器具に姿を変えられ、自我すら塗り替えられた。そのような話を聞いていた竜は、初めは耳を疑っていたが、いざその様を目の当たりにすると、さらに顔を顰めた。
突如、銃声が廃墟へ響き渡る。竜が顔を向けるが、いやしかし、どこにも何も見当たらない。到達時点で見失ってしまった以上、今から見つけ出すのは難しいだろう。百舌も竜も、その意見は合致していた。せっかくここに来たんだ、昔話でもしていこうか。百舌がこの寂れた国で最も巨大であっただろう、崩れた塔を指差し飛び立てば、竜もそれに従い飛び立った。
さて、廃墟に身を隠す猫と鳥。鳥が廃墟の陰を進むと、建造物内の広い空間に出た。空間は天井に大穴が開き、中央は太陽に照らされているが、隅の方は薄暗く、鳥の目では何も見えないほどだった。だが、中央に目を凝らすと、そこには白く美しい調度品や、ピカピカに磨かれた大理石の椅子が、砕かれ、埃を被り、実に寂しげに散らばっていた。どうやら、ここは聖堂だったようだ。あの猫は夜目が効く。鳥は暗闇から離れ、大穴の下へと向かう。
…
その足元に、ゴム弾が跳ねた。幸い、被弾はせず。鳥が銃口を向ければ、暗闇の中に、黄金に輝く瞳が見えた。すぐパチリと消え去るが、時すでに遅し。鳥は引き金を引く。
…
が、ゴム弾はすぐに跳ね返ってきた。外れた。鳥は深追いせず、飛び上がっては大穴に爪を引っ掛けぶら下がり、銃を構える。暗闇から銃声が鳴り、風を切る。鳥は大穴の上へと身を起こしては、銃声が収まるのを待った。このままやり過ごせば、弾切れを狙えるかもしれない。また暗闇を覗こうとした。
…
猫が真下に迫っていた。
互いに向く銃口。容赦なく引かれる引き金。舞い上がる翼を、猫は跳ねて追う。上へ、上へと。鳥はなんとか距離を取ろうとするが、猫の跳躍力も負けていない。距離は開かず、縮まらず。塔の高きへ、銃声の応酬が続く。どうしても撒ききれぬ鳥と、追いきれぬ猫と。いつしか2人は瓦礫の山を登り、遥か遠くを見晴らす煉瓦に猫が足をかけた瞬間、かろうじて立っていた塔を構成していたブロックがひとつ外れ、猫は体勢を崩す。その好機を逃さぬ鳥ではなかった。落ち始める猫の身に銃口を向け、けれど猫もまた銃口を向け。猫は叫ぶ。
サジータ、後ろ!
その手には乗らぬと鳥が銃口を引けば、鳥の真後ろからゴーン、と大きな鐘の音が鳴った。翼に響く衝撃波に、何事かと振り返ると、真っ先に目に入ったのは竜の逞しき翼。さらに振り向けば、あぁ、猫の言うとおりであった。崩落に従って落ちてきた鐘を、一刀のもとに切り伏せ、吹き飛ばす英雄の姿が、そこにはあった。
錆びた鐘が、大地へ落ちる。何度か跳ね鳴る音が静まれば。サジータ、そこまでだ。英雄は静かに、そう告げた。鳥は頷き、先に落ちていった猫を見る。猫は、機械の翼を広げる凶鳥に抱えられ、砂埃舞い上がる崩壊跡から少し離れた、広場に降り立った。鳥も英雄も、追いかけて降りる。
猫の脇腹には、極めて真新しい、丸く真っ赤な跡があった。ゴム弾が着弾した痕跡だ。あーあ、負けちゃった、と猫は赤い跡を指差して笑い、でも、無事でよかった、と鳥を見る。鳥は猫の猛攻を凌ぎきり、崩落に巻き込まれず、勝利を掴み取った。だが、鳥の心のうちでは釈然としていなかった。言うなれば、試合には勝ったが、勝負には負けたのではないか。そも、竜が助太刀しなかったら、自分だって崩落に巻き込まれていた。
…
なぜ、あれだけ熱くなってしまったのだろう。なぜ、あれほど周りを省みなかったのだろう。
英雄は言う。サジータ、いい勝負だったぞ。凶鳥は言う。地形を把握しながらの立ち回りは、こちらとしても参考になった。だが、鳥にとってその賛辞は余計なものに思えて、どうにも素直に受け取れなかった。
すると、猫は竜と百舌に、いっかいどっか行ってて、と告げる。百舌は首を傾げたが、竜は素直に頷いて、どこか納得いかない百舌を連れて行った。
ねえ、サジータ。今度は鉄獣戦線全員と、空牙団全員とで勝負しようよ。今回はこうだったけど、仲間とならこうはいかないから、と。鳥は不思議であった。何故、こんな平和な地でそこまで戦おうとするのか、と。故に、鳥は問いかけた。猫は答える。ここは、教導国家ドラグマ、だった場所。私たちの仲間が、人間に捕えられていた場所なんだ、と。
猫は語る。はるか昔から続いてきた、人間と獣人の因縁と、人間が獣人に対抗するべく手に入れた手段、聖痕。その聖痕が産み出した国家転覆の悲劇と、犠牲、ある少年と少女によってもたらされた、この世界の平和を。続けて、猫は答える。またあんなことにはなりたくない。助けられた仲間もいたけれど、助からなかった仲間もたくさんいた。それに、この世界が開かれて、あなたたち空牙団がここにやってきて。初めはまた戦いが起きるかと思った。あなたたちはたまたまそうじゃなかったけど、この平和になった世界を、また戦火で包むような存在が現れるかもしれない。だから、鉄獣戦線は決めたんだ。これまでは取り戻すために戦ってきたけど、これからは守るために戦おう、って。だから今回、あなたたちに戦いを挑ませてもらったの。自分たちの力量を、改めて知るために。
…
まあ、余計な邪魔が入っちゃったけどね、と。猫は苦笑して見せた。
捕えられる苦しみ、恥辱、恐怖。鳥は、遥か昔の記憶を呼び覚ました。一刻も早く忘れ去りたいのに、全く忘れられない、おぞましい夢。鳥の頭の中で薄ぼんやりと、しかしどうにも不快で、拭いきれなかったその爪痕が、猫の言葉によって鮮明になった。鳥は確信する。あぁ、この傷が、瓦礫の熱で炙られていたのか、と。しんと静まり返った廃墟の風は生ぬるく、荒野の砂ぼこりは決して心地よいなどとは言えない。けれど、猫は微笑む。鳥は今まで、漂流の末に辿り着いたこの世界に、特段の興味を持っていなかった。けれど、踏む瓦礫と、燻る異臭、傷ついた世界と、それでもなお立つ者たちの姿を見れば、あぁ、なんだ。鳥の頭の中には、いつも自由奔放に暴れまわる獣たちの姿が思い浮かんでは、重なる。案外、同じだったのか、と。
鳥は、ただ真っ直ぐに猫の目を射抜き、頷く。今度こそは、アンタに真正面から勝ってやる。その宣戦布告に、猫はニヤリ笑って、それはこっちのセリフ、と。
それからと言うもの、鳥と猫は互いに遊撃手、狙撃手としての立ち回りの見識を深め、切磋琢磨するようになった。百舌はそんな様子を見て、やはり根っからの強かな戦士なのだな、と感心すれば、竜は肩をすくめた。違うだろ、と。はぁ、お前って女心ってものをわかってないな。竜の言葉に百舌は首を傾げたが、代わりに2頭の人狼は頷き、百舌はさらに首を傾げた。英雄は言う。いいか、女の事は女の事しかわからない事だってあるんだ、と。百舌はしばらく沈黙して考えた。猫のことはよく知っているつもりだ。だが、鳥と猫とが、自分とはまた違った方向で仲良くやっているのを見て、いまいち納得はいかないが、まあ、そう言うものか、と。ひとまずそういうことにして、冷えた水をひとくち、飲み込んだ。
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