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414SS[腐った実のような関係性]

背川とてつくん

「はい、プレゼントですよ」
日差しが温かいこの昼の街中、取っ手のついた真っ白な箱を目の前に突き出し手渡そうとしていた。
しかし、プレゼントされる側は目の前の出来事が理解できていない様子でまじまじと箱を見つめているだけだ。
「いや、誕生日でしょう?だからほら。受け取ってくださいよ」
はやくしろと不機嫌そうな顔で再度押し付けるもなかなか受け取ろうとはしない。
せっかちな背川が堪え続けられるはずもなく。
「もう!俺からのプレゼントですよ!何が気に食わないんですか!見てわかる通りケーキ買ってあげたんですよ!毒なんか入ってないからはよ受け取れ!!」
怒鳴られ、やっと反射的に受け渡すことができた。けれどもまだ喜ぶ素振りもなくぱちぱちまばたきをしながらケーキをしばらく見つめる。
……ええと、有難う。しかし急に気を利かせようなんてどうしたんだお前?」
何故ずっと引っかかった顔をするのか。
今日が誕生日である彼……鉄斎は、今日プレゼントしてきた相手である背川から「あ、へー今日誕生日だったんですね。おめでとう御座います」みたいな感じで適当に祝われるのが常であった。お互い仕事であったり立場の問題で一応一緒にいるくらいの関係なので別段、特別な関係だとか信頼だとかそこまで重要視してないのだろうと鉄斎は思っている。
時々ふざけて「祝いの言葉だけだなんて薄情」とか「一人で飯作って食うのが寂しいとか言うなら気を利かせるくらいできないのか」だの言うことはあったがこう、突然有言実行されると面食らう。
自分とこいつに本来そんな優しくする・される義理などないはずなのに。
監視役と元罪人。
ある日急に見張りを押し付けられた側の背川は罪人である鉄斎をもっと嫌なものとして感じて扱ってもいいはずなのに。本気で放棄したがっても良かったはずだ。
わざわざ別の都市に別人と捏造して逃げた自分に義務だからと言って付き添い続ける意志も、結局理解などできなかった。
自分がどうしようもなく優しくて無実で出来た人間だったというなら同情しているのかもしれないけれど。残念ながら対面しているのは罪と罰で出来た辛うじて人の皮を被っている正真正銘鬼だ。
だからずっと背川のことを内心不可解だと疑心に寄っている。彼はただの人間にしては、なにかがずっとおかしい――
そんな深刻そうな表情が滲み出てしまっていたのか、背川は鉄斎が自身へ無駄に深読みしていることにため息をつく態度で示す。
「文句言うなら買ってくるくらいしろって自分が言ったんじゃないですか~。だから今年はそれはもう親切にこうして買ってきてあげたのにちょっと俺傷つきます」
「まさか冗談が本気にされるとは思わんだろう」
「俺が本当になんかプレゼントしたら駄目なんですか?」
「い、いやそういうことはないが」
「じゃあ貰ってくださいよ!奮発してちょっと高めの買ってあげたんですよ!」
自信満々と自分を誇ってみせる。
鉄斎には隠しきれない不器用な一面があった。
側で見ていてその不器用さにこそ本来の気質の一部がずっとあるように思う。なんというか、ほんとはもっとお人好しな性格なんだろうなと。
少し前の普段ぼんやりしているがひとたび暴れだすと誰にも手がつけられない獰猛で悪質な犬みたいな雰囲気から変わり最近は主に暴君面が板についてきたようだが、人間が持つ正体というものはそうそうブレることはない。どれだけ化物になっても、悪に染まっても重要な記憶や経験は根幹に有り続け仕草や言動に現れるものだ。
放っておけないとなんとなく思ってしまうのも多分そういうところに起因している。ほんと、多分だが。
「まあ、その。わざわざ、再度になるが有難う。」
困り顔のままでとりあえずの微笑みを向ける鉄斎。
「せっかくだしお前も食べるか、これ?」
「え、てつさんの家に行くってことですか……?」
「そうなるな」
「え~っ。う~ん…………怖いやつがすごい睨んでくるし遠慮しようかな……めんどくさい
「俺の嫁のことなら別に気にしなくてもいいぞ、ちょっと他の人が苦手な分厳しいだけだ」
「ちょっとじゃないだろそいつ!」
「こんなに可愛いのに、なぁ?」
何もない空間を見つめまるで何かがいるように優しく撫でる姿は見えない人には不安を煽る不気味な光景だろう。
こういうところは主観気味で困るところではある。ケーキを食べてる最中ずっと圧をかけられ続けるなど誕生日パーティーにしては最悪ではないか。
是非遠慮願いたいと心で抵抗した。
「仕方ない。無理強いする訳にもいかんしこのケーキをお前と思って食べるとするよ」
「げっ、てつさん俺のこと食いたかったんですか?」
「いや別に……
ノリについていけない。思わずまた溜息が出る。
……渡すもん渡したんで俺は退散しますね。お二人で楽しい誕生日を過ごしてください」
「ああ。うん。しかし……いつもなんだかんだ有難うな」
「またお礼ですか?3度目ですよ」
「だってお前は俺といて何か得したことなんて無いだろう?こき使われてる、損ばかりだと思って当然だと俺は考えている。わかっていて今はこの調子なんだ。何時でも俺の前から去ってくれて構わないんだぞ」
本心で言っているのがわかる、真面目な表情と真剣でいて思いやりを含んだ少し優しい声。
さっき考えていたのはそんなことだったのかと背川は少し笑う。
「誕生日になにしんみりさせようとしてるんですか楽しい日にしろって言ってんのに」
「むしろ、こういう日だからこそ言っとくべきかと思って」
「言わなくて結構です。定期的に不安がってるようですけど、こういうのそろそろ問題視するだけ無駄ですよ」
「そうかな」
「てつさんとはこれからも向き合って付き合っていきますよ、どうしようもなく。業務と私情で。」
「私情というのはほっとくと死にそうだからか?」
「それにここまで来るともはや腐れ縁でしょ」
……縁が腐るには早くないか?俺と嫁程の長い年数付き合ってきた訳でもないだろうに」
「まあそれは。とにかく、これからも相方として居てあげますよ。俺はね」
背川は不思議そうに見る鉄斎に悪魔っぽくイタズラに笑ってみせた。
相変わらず時々不可解なことを口ばしる背川に引っかかったが、それでもこれからも共にいてくれるという言葉は素直に嬉しいと受け取ることにした。

贈られたブルーベリーのレアチーズケーキはその日の夜に滅茶苦茶美味しくてワンホールすぐに平らげたらしい。