玖乃歩の目の前をはらはらと薄い色の花びらが舞っていった。どこからか、舞う花びらの行方を、ふたつの瞳が追うのを見ていた。
向かいに座って、小舟は川を静かに流れ下りていく。
川の緩慢な流れに浮かぶ小舟はどこに行くか、わからず、あたりは暗かったが川の両側の山と岩の斜面はふしぎとはっきりと見えた。
川面がうすぼんやりと白く光っているせいだ。反射するような光は射していないのに。真っ暗な闇の空のしたで、小舟はゆっくりと漂い、流れに任せて下る。
風もなく、斜面には繁った木木だけで何の花も咲いてなかったが、薄い色の花びらがまた顔の前を舞い、玖乃歩はうっすらと唇から笑みのような表情を見せ、楽しそうにまばたいた。
その表情と、少し花びらを掴みたそうに、膝の上から持ち上げるか迷っているような手を見ていた。二人しか乗れない大きさの小舟で、膝をつきあわせて座って、こちらの腿の上には小さい包みがあった。布にくるまれた、四角い箱だった。
「いつ開いて、食べようか」
と訊ねた。
玖乃歩はふっと楽しそうな表情を無くして、つまらなそうにこちらの膝に目を落とした。
しばらく経った。玖乃歩は何も言わないまま小舟の外へ視線をやった。
もう少ししたら、と思った。
川を下っている小舟をはさむ山と岩の斜面の景色はずっと変わらなくて、玖乃歩はため息をついた。
なにもかも
煩わしい、とでも言いたげに玖乃歩は膝に肘を置いて、かがむように頬杖をついた。
どのくらい時が過ぎたかわからない。
白く煌めくような川面から、ふわっとぼんぼりの灯籠に似た明かりのような、蓮のような花がいくつも昇り、玖乃歩は両目を見開いて嬉しそうな顔をした。
腕を伸ばすが、触れはしなかった。
小舟のまわりだけでなく、川面のどこかしこからぼんぼり灯籠が出てきて、暗い空へ昇っていく。
そのなかを進む。玖乃歩はその川の様子を何か満足そうに眺めていた。
そしてこちらをまっすぐ見た。
満たされたような笑みの玖乃歩は手を出して、腿の上の包みを掴んだ。
掴みとって、自分の腿に置くと、布の結びを解いて、中の四角い箱の蓋をぱかと開けた。
新鮮な、生臭い、良い匂いがした。
中には牡丹のような白い花がぎっしりと積まれていた。
蓋が開いた途端、それらも一気に舞い上がった。
遠くなる、となぜだかその瞬間、思った。すると、箱を腿から落として、こちらに倒れこむように玖乃歩が抱きついてきた。
重みを感じた。
小舟の上には、もう誰もいなかった。
誰も乗せていない小舟が、川を下っていく。
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