きさぎ
2024-04-12 00:41:13
8736文字
Public Wednesday Strangler
 

【R18】模倣犯が出たって話

おまミク おまわりさんのキャラ調整したいけど書き直す気力ないのでそのまま出す
ニンフェアが女を調教してるシーンがあるのでR18 

 その男の、あからさまにげんなりとした顔を見てマイケルは笑った。
「ひどいなあ、おまわりさん。せっかく出迎えてあげたのに、そんな顔して」
「帰ったら指名手配中の殺人鬼に不法侵入されてんだ、こんな顔にもなるだろうがよ」
「慣れなよ、おまわりさん。何度目だと思ってんの」
「何度もあるからうんざりしてるんだ!」
 怒声とともに投げつけられた鞄を、マイケルはひょいと笑いながら躱す。こんなやけくその、致命傷にもなりえない攻撃を受けてやるつもりはさらさらなかった。
 マイケルは発言のとおり、この警官――ニール・プラット刑事の留守中に何度も部屋に上がり込んで“おまわりさん”の帰宅を待っている。殺してもらうためだったり、単純に二人きりで会いたくなってのことだったりと理由は気分次第で異なるが、とにかく彼がうんざりする程度の回数は訪問している。
 なのにいまだにマイケルが自由の身でいるのは、プラットが毎回マイケルに手錠をかけないからだ。マイケルに逮捕させる気がないから“できない”、と言ったほうが語弊が少ないだろう。
「だいたい今日はもう会っただろうが。好き放題暴れやがって……
 警官は低く文句を言いながらマイケルを通り越し、無様に落ちた鞄を拾い上げてソファに放る。
 彼の言うとおり、マイケルは日中すでに”おまわりさん”に会っている。会うつもりがあったわけではなく、彼の仕事を建物の上階から見物していたら容疑者に逃げられそうになっていたので手を貸したのだった。もちろん正義感だとか奉仕の精神だとかいうものからくる行動ではない。“おまわりさん”に迷惑をかけていいのは、彼を愛している自分だけだという独占欲によるものだ。
 その際ほかの警察官に逢瀬を邪魔されたのが不愉快だったから邪魔者――つまりプラットの相棒を蹴り飛ばして排除したのを暴れたというのだろう。二人きりになれた後で殺してもらおうとしたので、それも含めてのことだろうが。ちなみに今日の“おまわりさん”の運は、残念なことにマイケルを殺せなさそうだった。
「お前に蹴られた腹がまだ痛ぇんだぞ、こっちは」
 プラットがソファへと乱暴に腰を下ろし、マイケルをにらみ上げた。
「おまわりさんが隙を見せるからじゃん」
「またお前を取り逃がしたって上から嫌味を言われるこっちの身にもなれ!」
 マイケルはプラットの背後で背もたれに寄りかかり、一方的な思い人の、左の耳朶に唇を寄せる。
「そいつら殺してあげよっか?」
「余計なお世話だ!」
 甘くささやくマイケルの吐息がこそばゆかったか、プラットは飛び退るように横へ体をずらし左耳をふさいで怒鳴った。
 マイケルは過剰な反応をかるく笑い、“おまわりさん”に密着して座る。プラットは距離をとろうとしたが、マイケルはすかさず彼の膝に対面で乗り上げて阻止をした。
 悔し気に顔をゆがめるプラットの頬を両手でつつみ、彼の肉厚な唇を食んだ。けれどプラットはきつく唇を閉ざしたままで、マイケルを受け入れる様子はない。
「ねーぇ……くちあけてよ。キスしよ」
 甘えた声でねだっても、触れるだけのキスを繰り返しても、プラットは断固として応じてくれない。
 マイケルはむぅ、と口をとがらせて頬から手を離した。
 非道い男だ。拒むのだったら振り払って態度で示すべきなのに、試みようとすらしないなんて。
「こないだはしてくれたのに」
「お前が無理矢理やったんだろうが。毎回そうだ、俺からしたことなんてねえよ」
「じゃあしてよ」
「断る。――そんなことより」
 言いながらプラットがマイケルを押しのけようとしてきたが、マイケルは構わずプラットの首に腕を回して抱き着いた。ついでに行為中のごとく腰を揺らしてこすりつけてみると、プラットが一瞬だけ息をつめて体をこわばらせた。欲情の色がひそんだ反応に気をよくしたマイケルはさらに煽ってやろうとしたが、その前に腰を掴まれて制止させられてしまった。
「昼には聞きそびれたが、お前、今週の水曜に人を殺したか」
 つまらない、と不貞腐れていたマイケルは、唐突な問いに目を丸くする。
「水曜は用があったから誰も殺してないけど……
 警官の首から腕を解き、両肩に手を乗せて“おまわりさん”の目を見下ろす。
「俺、今週はおまわりさんにプレゼント贈ってないんだから、聞かなくてもわかるよね?」
 プラットの肩に添えた手に力がこもる。悲しくて憤ろしくて。
 プレゼント、というのはマイケルが“おまわりさん”に出会って以降に殺した男の持ち物のことだ。被害者が身に着けていたもの――主に時計などのアクセサリー類――を持ち帰って包装し、プラット宛に警察署へ郵送している。新たに殺しをしたことを伝えて構ってもらうためだ。
 回数自体はまだ多くないにしてもメッセージまでつけているのだから、プレゼントがないときにマイケルが殺していないことはわかるはずだろう。
 にもかかわらずこの警官はわざわざ殺しをやったかどうか聞いてきた。マイケルにとって唯一のひとが、マイケルのことをなにもわかってくれていない。それがあまりにも、あまりにも腹立たしい。
 ――だったら。いっそ、殺してしまおうか。
 こんなにも愛しているのにわかってくれないというのなら。
 自分を殺せる可能性のある男なら、何もこの警官でなくてもいいのだ。たまたま“おまわりさん”の弾がマイケルに当たったから、いままで彼に固執していただけのこと。可能性だけだったら、青蓮幇のジャック・リーにだって、きわめて低くとも存在する。あれはこの警官のように運や奇跡頼りではなく、自分の実力でマイケルを越えたがっている節があるから、確実性で言えばジャックのほうが上だと言える。
 ――だから別に、この人でなくたって。
「わかってる。念のために聞いただけだ。――お前じゃない」
 警官の首に伸びかけた手が、ぴたりと止まる。
「念のため」
「ああ」
 うなずく“おまわりさん”を見たとたんに、マイケルの中で噴き上がっていた怒りと殺意が瞬く間に霧散した。
 マイケルはプラットに一度ぎゅうっと抱き着いてからすこし身を離し、無理やりに口づける。プラットが嫌そうな顔をしたのが見えたが、マイケルの知ったことではない。
「おまわりさんが俺のことわかってくれててうれしいな。――でも何でそんなこと聞いたの?」
「ニュース見てないのか?」
「見てない」
 指名手配をされる以前は、マイケルも一般的な社会人として世間に溶け込まなければならなかった。だからニュースは毎朝見ていたし新聞も読んでいたけれど、指名手配された今はもうそんな必要がなくなったので以前ほどの頻度ではチェックしていない。
 ニンフェアに引き合わされる売春の客にしても上流階級の男ばかりだが、どいつもこいつも殺人犯を抱きたがるような変態ばかりで、教養のある会話などは求められないから余計だ。
「水曜日の絞殺魔の新たな犯行、って騒がれてんぞ」
「俺何にもしてないのに?」
「模倣犯が出たんだよ」
「模倣のしようがなくない? だって報道に出てるぶんじゃ不完全すぎる」
 マイケルがニュースを見ていたときに公表されていたのは、凶器が縄跳びであること、その縄跳びが現場に残されていることだけだった。“侮辱のために飾り付けるように巻き付けている”とまでは報道されていないから、完璧な模倣など警察関係者以外にできようはずがない。
「その報道されてる部分を真似した殺しが起きたってことだ。被害者は似ててもお前みたいな巻き付け方をしてなかったから、担当刑事は別件だとわかってる。何より俺に何も送りつけられてないからな」
「おまわりさん以外が誤認しようがどうでもいいけど。――でも俺のうわべだけなぞってマネして、自分の殺しを俺に擦り付けようとしてるやつがいるっていうのは……ちょっとムカつくなぁ」
 言ってマイケルはプラットから離れて立ち上がる。
「おまわりさんに抱いてほしかったけど、今日は帰るね」
「はっ?」
 プラットが目をむいた。無理もないことだろう。この警官を訪うたびにマイケルは強引にでもセックスに持ち込んでいて、性交渉なしに帰ることなど一度としてなかったのだから。
……何をする気だ」
 訝しむプラットに、マイケルは首をかしげる。
「うーん……奉仕活動?」
「は?」
「ふふ。じゃーね、おまわりさん」
 待て、と呼び止める声を無視して、マイケルは“おまわりさん”の部屋を後にした。――もちろん玄関から。

**

 警官の家を出たマイケルがその足で向かったのは、青蓮幇のニンフェアがオーナーを務めるストリップクラブだった。チャイナタウンの奥まった路地に存在する店の裏口から我が物顔で入り込んだマイケルは、目についた中国系の男にニンフェアの所在を尋ねる。
「なあ、ニンフェアいる?」
「地下の部屋で調教中だ」
「そ。さんきゅ」
 嫌そうにしながらも教えてくれた男に軽く礼を言って、マイケルは従業員専用ドアを開けた先にある階段から地下に降りた。
 上階の“個室サービス”用の部屋が並ぶフロアよりは簡素な内装の廊下の左右に、アルミ製のドアが四つ交互に並んでいる。マイケルはそのうち階段から一番近い部屋に人の気配をみつけ、ドアをノックなしに開け放った。
「ニンフェア、ちょっと――うわ、煙たっ」
「マイケルか。何の用だ?」
 扉を開けたとたんに何かの煙がまとわりついてきて、マイケルは眉をひそめて手で煙を追い払う。
 ニンフェアは部屋の中央に置かれたつまらないパイプベッドの横にある椅子に腰かけ、平然とした顔で煙草をくわえている。彼の股座には全裸の黒髪の女が顔を沈めていたが、マイケルの乱入に驚いて顔を上げた。アジア系の女だった。
 顔貌が見えたのは一瞬で、彼女はニンフェアに髪を鷲掴みにされ、ふたたび奉仕に戻される。百六十センチという小柄に対し、ニンフェアの陽物は太く大きい。それを喉奥まで強引に押し込まれ、女はくぐもったうめき声をあげた。チャイナ服ベースのロリータ衣装を着た男の股に女が頭をうずめている光景は、マイケルにはいささか奇妙に見えた。
「誰が勝手にやめていいって言った、物覚えが悪ぃな。――で?」
「煙いんだけど、なにこれ。煙草とは別?」
「ああ、催淫効果のある香を焚いてる。そのほうがすこしは従順になるからな」
「それあんたも吸うじゃん」
「慣れてる」
「あっそ。――で、用なんだけど。俺の模倣犯が出たって聞いたんだよね」
「模倣犯?」
 ニンフェアが、伸びた灰をサイドテーブル上の灰皿に落とした。
「水曜のか? またやったのかと思ってたぜ」
「水曜は俺ここで変態の相手してたじゃん」
「帰ったあとに」
「終わったあとはリーとセックスしてたから、水曜のうちに殺してる暇はなかったよ」
「相変わらず性欲旺盛だなお前は。それで何で俺のところに?」
「俺のマネをして、殺しを俺のせいにしようとしてるクソ野郎を見つけたいんだよね。おまわりさんたちより早く。――あんたらならできるでしょ。警察よりも早く俺にたどり着いた青蓮幇なら」
「できるかできないかで言われれば、できる。だが」
 煙草の煙をニンフェアは深く吸い込んで、ゆっくりと吐き出しながら短くなったそれを灰皿に押し付ける。そうしてから、右目だけでマイケルを見据えた。
「ウチにメリットがねえだろ」
「客取ってやってんじゃん」
「そりゃお前がウチの部下を殺したことの代償だ。ウチの身内を殺したお前が、俺らの情報網を使おうってんだから、それ相応のモンはもらわねえと上や本部にも面目がたたねえ」
「わかったよ、何が欲しいわけ」
 マイケルは腕を組んでドア枠に肩を預ける。念のために少しでも隙間を空けておきたかった。
「そうだな――青蓮幇への所属、とか」
「殺しが好きで殺してるわけじゃないって断ったろ」
 二度目にニンフェアと会ったとき、彼は青蓮幇に殺し屋として所属するよう要求してきた。要求、というよりは命令だ。
 むろんマイケルに青蓮幇の命に従う義務も義理もないので一蹴したのだが、代わりに提示されたのが臨時の男娼としてニンフェアのもとではたらくことだった。好きでもない殺しを無理やりさせられるよりはいいだろうと承諾した。全体マイケルは男に抱かれるのが好きなのだ。
 すべて断って刺客を再度送られたところで返り討ちにする自信はあったが、一般的な人間として振る舞っている日中の暮らしを邪魔されるのも、当時は面倒だったということもある。
「黒幇ったって四六時中人を殺してるわけじゃねえよ。頼んだ時だけ、殺りゃあいい」
「だから」
「まあ所属はともかく、依頼は受けろ。情報が欲しけりゃ対価を払え。慈善事業はやってねえんだからな、俺らは」
……チッ」
 舌打ちをすると、ニンフェアが一重の隻眼を満足げに細めた。次いで彼は股座の女に視線を戻し、長い黒髪をまた乱雑に引っ張って顔をあげさせる。ニンフェアが立ち上がると重力に従ってスカートの布地が落ち、唾液に濡れた怒張の姿を隠す。
 ニンフェアは女をベッドに放り投げてからマイケルを振り向いた。
「ついでだ、手伝ってけ」
……エロい作用のある煙が充満してるって聞いた覚えがあるんだけど? そんな部屋に長居しろって? あと俺女に興味ないよ」
「効果が出たらジャックに相手させればいいだろ。別に見物してるだけでいい。俺が見てるだけじゃ、どうも客の存在を意識できねえらしいからな」
「絶対暇じゃん……
 ぼやいて先ほどまでニンフェアが座っていた椅子に腰かけたマイケルをよそに、ニンフェアはキャビネットから性具とローションを取り出している。
 ニンフェアが手にしたディルドを見て、マイケルは首を傾げた。
「あれ、自分で犯さないの」
「この女は初物だからな。倍の金を払ってでも買いたいって客がいるんだ、商品の価値をわざわざ落とすことはねえだろ」
「ふうん」
 マイケルは椅子の上で胡坐をかいて、適当な相槌を打った。
 哀れな女はベッドの上から逃げようと後ずさりをしているが、シーツと肌がこすれるたびに力が抜けてくずおれている。おそらくニンフェアの言っていた香の効果が大いに出ているのだろう。息を荒くして頬を染める女をニンフェアは背後からつかまえて、曲げた両足を大きく開かせる。蛍光灯の下あらわになった女の女たる部分は、不本意な奉仕をさせられていたとは思えないほど濡れそぼって光を反射していた。
 ニンフェアが愛液を絡めとるために指を滑らせると女の足がひくひくと跳ねて、指の一本をねじ込めばそれだけで甲高い嬌声があがった。
「ほら、頑張って覚えろよ? お前の頑張り次第で親の借金も帳消しになるくらい稼げるんだからよ」
 言うニンフェアの表情は至極楽し気で、また狂気的でもあった。商品の躾が趣味だと言い切るような男なのだから、事実心底楽しんでいるのだろう。
――そういやマイケル、模倣犯を探し出して何をするつもりなんだ?」
 女の嬌声を背景に突然話を戻され、マイケルは一瞬反応が遅れた。
「ん? んー……そいつがどういう目的で俺のマネをしたのかによるけど……。とりあえず、俺に自分の殺しの罪を擦り付けようとしたことは詫びてもらうつもり」
「詫びだけで済むのか」
「どうかな。……どうだろ。まあ自首するように“説得”はしようとも思ってるけど」
「相手によっちゃ説得の最中に死にそうだな」
 ニンフェアが鼻で笑った。
「俺が殺してるような男と同じ被害者だったらしいから、犯人もそれなりに頑丈なんじゃない」
「自分より屈強な男を殺しまわってるお前が言うか?」
「俺が例外って自覚はあるんだよ、俺にも」
 自分よりも体格がよく膂力もある人間を殺そうとするなら、体格と力の差を埋める手段が普通は必要になる。たとえば銃や爆弾、薬物、人質といったものが。
 けれどマイケル・クラフトにそのような武器は必要がない。筋骨隆々とした男でも、鍛え上げられた軍人でも、マイケルには関係がなかった。隙をつけば、あるいは油断させておけば、より簡単に命を狩ることができた。純粋に、誰よりも強いから。
 大多数の人間が自分のような異様な強さをもっていないのを、マイケルは知っている。マイケルが“例外”でなかったのなら、自分はとっくに誰かに殺されているだろう。ある種の苦渋によって、それはマイケルの自覚するところになったのだった。
「ねえ、何で俺、マネされたんだと思う?」
 すこしだけ話をそらしたくて、マイケルは挿入する指を増やしていくニンフェアに聞いた。
「異名のついたシリアルキラーの犯行をマネしたがる連中ってのもいるし、そういう手合いじゃねえのか」
「だとしても、俺のやり方って模倣に向かなくない? だって相手に振り払われたりせずに、ずっと縄跳びなんかで首を絞め続けなきゃいけないんだよ。力も体力も相当なきゃ」
「やり通せる自信があるから選んだんじゃねえの」
……そんな力のある人間が、わざわざ他人のマネして殺す?」
「自分のほうがお前より凄いんだって言いたいのかもな」
「俺より上だって示したいなら、俺を探し出して直接襲ってくればいいのに。俺より凄いなら俺を殺せるはずだろ」
 マイケルは膝を抱えて口を尖らせた。同時に女の喉がのけぞり、足先をぴんと伸ばして痙攣する。前後不覚といった様子の喘ぎ声に、マイケルは「うるさいな」と眉をひそめた。自分が“おまわりさん”に抱かれているときの嬌声は完全に棚に上げている。
「お前のおまわりさんはどうしたよ。奴に殺されてえんじゃなかったのか?」
「そうだよ。おまわりさんだけが俺を殺せる。――いまのとこはね」
「お前を殺せる可能性がありゃ誰でもいいってか、さすが淫売だな」
 ひどい罵倒だが、ニンフェアの声にマイケルを侮辱する意図はかけらも滲んでいない。ただの感想と既知の事実として言っているからだろう。マイケル自身も自分が性に奔放すぎる自覚はあるので聞きとがめはしなかった。
「ほかに現れたって本命はおまわりさんだよ。はじめて俺を撃てたひとだからね。だから俺はおまわりさんのことを愛してる」
「愛ね」
 ニンフェアは今度は明らかに嘲笑した。
「なんだよ」
「いや? お前みたいなやつが愛情なんて抱けるのかと思ってな」
「愛せるに決まってるだろ」
「まあ俺には関係ねえがな」
 関係ないというなら最初から言うな、という恨み言は無視された。ニンフェアは女の股にローションをまぶしたディルドをこすりつけながら「強請れ」と下命していたので。
 ニンフェアの意識がマイケルにふたたび向けられたのは、女が性奴隷に寄った娼婦としての合格点を出してようやくだった。ニンフェアは女の股にディルドを挿れながら言う。
――あとは私怨で殺して、お前に擦り付けて罪を逃れようとしてるパターンだな」
「それこそムカつくなあ。俺が何で縄跳びなんかで殺して、どうして殺してるのかも知らないくせに、形だけなぞって俺のせいにしようとしてるなんて」
「へえ、凶器に理由があったのか」
「いくら何でも縄跳びくらいだったら相手も抵抗できるかなって思って。……だぁれもできてないけど、今んとこ」
 一瞬だけニンフェアの手が止まった。すぐに躾を再開したニンフェアが、胡乱な顔をしてマイケルを見た。
……つまり、殺しの凶器に縄跳びを選んだのは、お前なりの手加減ってことか?」
「そうだけど」
「で、手加減されてなお、ウチのやつはお前に殺されたと。……もっと鍛えとけと言っとくべきだったか、手加減になってねえとお前に言うべきなのかわかんねえな」
「どう考えても前者でしょ。ちゃんと強くて抵抗できてれば俺に殺されたりしないんだから」
「ああお前はそういうやつだよ。ったく、この化け物が」
「化け物なんてひどいなぁ」
 マイケルはニンフェアの暴言を気にも留めずにけらけら笑う。これが“怪物”とでも言われようものなら殺していたが、化け物呼ばわりなら目くじらを立てるほどではない。ましてニンフェアの言いかたは軽口と呆れで占められ、嫌悪や恐怖は存在していないし、危害を加えて青蓮幇の伝手を利用できなくされるデメリットをあえて取る必要もなかった。
 ――笑っていたが、体勢を変えようとして動かした体に生じた違和感に気づいて舌打ちをした。
「どうした?」
……リーって今どこ」
 問うために開いた口からこぼれる息がわずかに熱い。体全体も熱を持ちはじめているように感じる。服が肌に擦れれば、ぴりりとかすかに快感が走った。
 唐突にジャック・リーの所在を尋ねたことで、ニンフェアはマイケルの体に生じた異変の理由を悟ったようだった。当然だ、そもそもの原因を作ったのはニンフェアなのだから。
 マイケルの質問に答えるニンフェアの顔には、至極面白そうな笑みが浮かんでいた。
「意外と早く効いたな。ジャックなら事務室じゃねえか」
「ああもう最悪、気分じゃなかったのに」
 できるだけ体の疼きを意識しないよう立ち上がり、ニンフェアに背を向けてドアへ向かう。引き留められることはなかったが、代わりに、
「楽しんで来いよ」
 ……などと揶揄に満ちた声に送り出されて、さすがにマイケルは吐き捨てた。
「くたばれクソ野郎」
 短絡的な罵りにも、笑いが返ってくるだけだった。