マロビ
2024-04-11 21:28:49
4660文字
Public リョ三
 

一年ぶりに三井サンと

【SD/リョ三/片想い】
セフレだけど宮城の留学でそのまま別れたリョ三
🇺🇸留学中に一時帰国した宮城が三井の部屋を訪れる
⚠️性行為の前後の描写があります

Xのリョ三ワンドロワンライより
お題:一時帰国

一年ぶりに三井サンと


 オレとあの人はセフレだった。
 高三の頃、少しでも時間があれば大学生のあの人の部屋に入り浸って、ゲームをしたりセックスしたりしていた。
 一年ぶりにアメリカから日本へ帰国して、夜の湘北OB会までに持て余した時間。ふと思い立ってあの人が一人暮らししている部屋を訪ねたのは、そんな過去の懐かしさがあったからだと思う。
 でもオレはかなり浅慮だったのかもしれない。
 玄関先に出てきた三井サンの髪型も服装も、あの頃と少し違っていて、たった一年でたくさんの変わってしまった事があるんだと気づいた。
「おめー……来るなら連絡しろよ。いや、夜の飲み会には来るんだと思ってたけどよォ……
 少し伸びた前髪の下、ちょっと困惑した顔にまたひとつ、一年前との変化を見つけて肝が冷えた。
 でも、懐かしくて寄ってみただけだから、って言い訳して背を向ける前に「入れよ。部屋散らかってっけど、オレは片付ける気ねーぞ」って、迎え入れるように扉を押し開けてくれた。
 三井サンの言う通り部屋は散らかってる。でもそれは一年前に遊びに来ていた頃も同じだ。オレはそんな部屋でも気にしないのに……散らかってんのを気にするような相手がいるってことか?
 今は別のセフレがいんのかな……。それも仕方がない事だけど。
 床に散らかった本や服を足で部屋の隅においやる惰性な三井サンの背中は、白いシャツの下に隠れていてもあの頃と変わらずオレの欲情をかき立てた。
 後ろから抱きしめると、腕の中でビクッと緊張したのが伝わってきた。
 前は抱きしめると体を預けてきて、少し甘い声で「あんだよ」って振り向いてくれたのに。
「ねえ、ヤリたい」
 背中に顔を押しつけたままそう伝えれば、三井サンの手が持ち上がって、抱きしめたままの腕を握るように撫でられた。
……風呂入ってくるから待ってろ」
「オレも入る。準備手伝わせて」
……やめろって。マジでムリだから」
 そのまま完全に拒否されそうなのが怖くて手を離したら、三井サンはオレの腕の中から抜け出すと、ワガママをとがめるようにオレの頭を軽く小突いてから風呂場に向かった。

 高二の頃、オレが童貞だって知った三井サンがその体で卒業させてくれた。それがすごく気持ちよくて、ズブズブに三井サンの体にハマった。そのまま三井サンが高校を卒業しても、アメリカ留学する前まで関係は続いた。
 でもそれはスポーツの一種みたいなもんで、スッキリするし、ひとりでするより満たされるからしていただけ。
 好きだとか愛してるなんて言葉はお互いに言ったことはなかった。
 オレはだから、これがセフレか、と当時思っていたけど……今、三井サンに別の相手がいるのかもしれないと気づいたとたんに独占欲が湧いている。
 セックスで疲れたのか、三井サンは裸のまま背を向けて寝てしまった。そんな三井サンの剥き出しになった背中と肩をジッと見る。
 三井サンの肌は色白でアザがつきやすい。だからオレ以外の相手の跡が無いかと探るように観察したけど、結局さっきオレがつけた跡しか見つからなかった。
 それにその背中をみているとまたムラムラしてきて意識がそっちに持ってかれる。
 後ろから腕を回して抱きしめると、三井サンの体がピクッと震えた。
 なんだ、起きてたんだ。
 それなら遠慮なく。
 背中に密着して、その体を後ろから撫でていたら、その手を抑えるように掴まれた。
「オイ、もうしねーぞ。主役が飲み会に遅刻するわけにいかねーだろ」
「主役って、もしかしてオレ?」
「ったりめーだろ。宮城が一年ぶりに帰国するからって安田がみんなに声かけて集まんだよ」
「そっか…………じゃあ飲み会の後、また来ていい?」
「あ? 泊まる気かよ。実家帰んねえの」
「それは明日でもいいし、……まだ足りねーし」
…………しかたねーな」
「やったー、ありがと」
 甘える声でお礼を言って、体を起こすと滑らかな頬にキスを落とす。
 時計を見ると、確かにもう時間が迫っていて慌てた。
 すでに兆していた股間を隠して、汗を流すために風呂場に向かった。

 飲み会は懐かしい顔が並んでいたけど、やっぱり髪型や雰囲気が一年で少し変わっていて、時の流れを感じた。
 それでも気のおけない仲間との会話が弾み、今夜は三井サンの部屋に泊まるつもりと口を滑らす。その事に自分でも驚いた。変に勘繰るヤツはいないだろうけど、オレはよほど浮かれていたらしい。
 三井サンには耳打ちするように顔を近づけられ、「……いうなよ、バカ」と少し掠れた声で咎められた。その声に不覚にもゾクゾクした。
 声が掠れたのは酒焼けのせいかもしれないけど、セックスの時の喘ぎ声を真っ先に思い出して動揺した。
 この人を前にすると、なんでもそっちに結びつけてしまう。どんだけサカってんだよ、と少し落ち込んだ。
 二次会まで参加して、深夜に三井サンの部屋へ足をもつれさせながら帰宅した。

 朝日が眩しい。
 窓から入る陽光が顔に直撃して目覚めてしまった。時計を見れば、まだ寝落ちしてからそれほど時間がたっていない。寝不足で頭が重かった。
 三井サンと同じベッドの中、珍しくこっちを向いて寝ている三井サンの顔に悪戯する。
 目を閉じるとまつ毛の長さがよくわかる。少し上にカールしたまつ毛に指先で触れた。あと綺麗な鼻筋に触れ、細かな縦ジワの入った唇の輪郭をなぞる。
 アメリカに留学して離れていた間も三井サンの輪郭は覚えていた。その頭と体のバランス、シュートフォーム、歩き方、声。三井サンを構成するモノはオレの中に刻まれていて、何かの拍子にその形を思い出す。
 アメリカのチームメイトを見て、三井サンって日本人離れした足の長さだよな、とか。いい感じのストバスコートを見つけたら、三井サンとバスケしてえって思ったり。
 でも実物は圧倒的な情報量で、オレの中の記憶を呼び覚ました。
 三井サンと初めてした時のキスの味とか。三井サンがイキそうな時に、背中に指が食い込む痛みとか。
 体が気持ちいいだけじゃ足りなくて、「好きだ」って言いたくなって無性に泣けた夜とか。
 離れていた間は薄れていた記憶が、本人を目の前にすると鮮明によみがえった。
 それもこれも、三井サンが簡単にそばに戻る事を許してくれるから。その体に触れるのを許してくれるから。間近で寝顔を見せるから。
 記憶が鮮明になると共に、独占欲が湧き上がって苦しくなる。
 オレはまたアメリカに戻るんだろ。オレの勝手な願いをぶつけていい相手じゃない。
……まだ、ヤんのか」
 唇を撫でていると、三井サンの目がパチパチと瞬きしながら開いて、朝日の眩しさに眉間をしかめた。
 その顔に朝日が当たらないように覆い被さって柔らかい唇を塞ぐ。
「みあぎ……?」
「もーいっかい、したい」
 自分で振っておきながら、マジかよって感情を露わにする三井サンの表情に少し笑った。

 簡単な朝飯を食べている時は笑っていた三井サンは、時間が経つほどに表情が暗くなる。
 荷物をスーツケースに詰め直して玄関に行くと、ダルそうにしながらも三井サンは玄関まで見送りに来てくれた。
「1週間くらいでまたアメリカ戻るんだけどさ、また最終日くらいに遊びに来ていい?」
……いや、他にやる事あるだろ。もう来んなよ」
「それ、ぜってぇダメってこと?」
「ぜってぇ……ではねーけど」
「それじゃ、来るから。今回はあんまり話せなかったし。……アンタがシたくねーならシねーからさ」
……わーったから」
 腕を組んで壁に寄りかかった三井サンが微かに頭を揺らした。俯いた顔が前髪に隠れて見えない。
「じゃ、また」
「おう」
 扉を開けてスーツケースごと通路に出て、扉をしめた。見えなくなった三井サンに胸が痛いほどの喪失感を覚えた。
 それでもそれは時間と共に薄れることを知ってる。前もそうだったから。
 エレベーターホールまで行き、下ボタンを押したところで忘れ物をした事に気づいた。お土産の入った袋。スーツケースと別にしていた。
 慌てて戻ってドアノブに手をかけた時、鍵がかかってるかも、と一瞬頭をよぎったけどそれはすぐに裏切られた。
 あっけなく開いた扉の向こう、まだ腕を組んで壁にもたれたままの三井サンと目が合った。

 なんで、泣いてんの?

「みつ……みついさんッ?」
 玄関に上がるとスーツケースを外に置き去りにしたまま、背後で扉が閉まる音がした。
「なんで戻ってきたんだよ」
「荷物、わすれて」
「ンだよ、待ってろ」
 背を向けようとした三井サンの腕を思わず掴んだ。まだ動揺しているのか息が苦しい。
「な、泣いてんの?」
「泣いてねえ、あくびしただけ」
 そんなわけねえし。
「なんで? オレなんかした?」
「なんもしてねーって、うぜえな」
 そんなわけねえ。さっき別れた時、なんか機嫌が悪くなってたし。
「オレが帰んの寂しくなった、とか?」
「おめーなぁ――
 目が合った。
 涙の滲む目がいつかの屋上で見た目と重なった。あれは傷ついた男の目だった。
 はあ、と大きなため息をつかれた。

――断ち切れねえだろ」

「え?」
「おめーのことなんて忘れようとしてんだ、こっちはよォ。なのに忘れた頃に帰ってくんな。思い出すだろーが」
 置いていく側より、置いていかれる側の方がつらい。きっと。
 ソーちゃんに置いていかれたオレはその事を知っていたはずなのに。
 今、三井サンを前にして、ようやく鮮明にあの時の悲しさを思い出した。沖縄の海で、波止場からソーちゃんを見送った時の感情を。
「ごめん。三井サン、ごめん」
 それでもオレは置いていくんだ。あの時のソーちゃんみたいに。
 そして断ち切りたいと思うほどに、オレへの執着があったと知って嬉しくなってる。
 アメリカへ留学すると決まった時も、決まってからも、別れた日も、寂しそうだけど笑顔を浮かべてくれたのに。
「てめーとは、もうただのバスケ仲間で、良い先輩後輩って間柄あいだがらでいいだろ。なのに汚ねえ部屋に押し掛けてきて、あの日の続きみたいにセックスして……無自覚に全部ぶち壊しやがって」
 部屋が汚えの気にしてたのは、見栄張りたかったから? 抱きしめるたび体が緊張してたのは戸惑ってたから?
「ごめん、嫌だったよね」
「それが嫌なら追い出してんだよ。だから、苦しくなんのわかってんのに……許したのはオレだから」
 そんな三井サンに湧き上がるような喜びを感じる。身勝手なヤツだ、オレは。
 濡れた三井サンの頰を手のひらで拭った。寝ている時に長いと思ったまつ毛も涙に濡れて乱れていた。
「オレ、言ってなかったけど、三井サンのこと好きだよ。だからオレは三井サンのこと断ち切らないし、許される限り押し掛け続ける。ごめんなさい」
 三井サンが小さく笑った。
「図々しいやつ」
 三井サンは好きだとは言ってくれないらしい。当たり前だ。日本に置いてまた旅立つオレに、そんな言葉をもらう権利はない。
 でも今だけはその涙で、三井サンの心の在処ありかがわかった気がした。
 グイッと腕で顔を拭った三井サンが少し唇を尖らせた。

「でもちげぇから、涙が出たのはあくびしただけ。勘違いすんな」

 強がる三井サンに、オレは思わず笑った。


END