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lolo
2022-11-28 07:40:53
3488文字
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お話
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知ってる
中3弔くん×中1出久くん。未完。
『おまえの秘密を知ってる』
見慣れない筆跡で綴られた文章を目にした僕は、ひらいたメモ紙を反射的に閉じていた。
始業の十五分前、昇降口はたくさんの生徒たちであふれている。
誰も僕のことなど気にとめていないだろうけどそれでもそこで続きを読む勇気はなく、僕はその紙をスラックスのポケットにしまって階段下の暗がりへ移動した。
どきどきする心臓をなだめ、呼吸を落ち着かせてそっとポケットから紙をとりだす。
少ししわになってしまったそれには、こう書かれていた。
『緑谷出久へ おまえの秘密を知ってる。バラされたくなければ、放課後三年の空き教室に来い』
差出人の名前は書かれていない。
手紙を最後まで読んだ僕の足からは力がぬけ、思わずその場にしゃがみこんでしまった。
祈るような気持ちで穴があくほどあて名を見つめてみたけれど「緑谷出久」という文字の羅列が分解されることはなく、まぎれもない僕の名前がそこに記されていることを再認識しただけだった。
指定された空き教室というのは、三年四組の教室と階段をはさんで隣りあっている場所のことだろう。
その空き教室が三年生の「わるい」先輩たちのたまり場になっているという噂くらいは、一年の僕でも知っている。もちろんそこに入ったこともなければ、近づいたことさえ一度もない。
そんな場所を指定してきたということは、この手紙を送ってきたのはその先輩たちのなかの一人なんだろう。
地味で目立たないナードの僕がラブレターなんてもらえるはずないと思ってたけど、わるい先輩にはしっかり目をつけられるなんてあんまりだ。
「ぼくの、秘密
……
」
思い当たるふしがないわけではない。
数日前、登校時に目撃したヒーローの大捕物がニュースになってないか気になって、一時間目の休み時間にこっそりスマホでチェックしてしまった。携帯端末の使用は校内では昼休みにしか許可されてないにもかかわらず。
それに僕は、小さなころから大事にしてるオールマイトのマスコットを、実はいまも通学リュックの中にお守りとして入れている。
昨日の席がえでは、前回前々回にひきつづいてまたしても幼なじみのかっちゃんと席が前後になりそうになり、僕を嫌ってる彼の逆鱗に触れたくないばかりに、かっちゃんのことを好きなクラスの女の子とこっそり、本当は禁止されてる席がえくじの交換をしてしまった。
だけど、たぶん。この手紙の差出人が握っているという僕の秘密はこんなちっぽけなものじゃないんだろう。
もっと何か別の
――
脅しの材料になるような。
必死に頭を回転させる。
そんなに重要な秘密を、誰かに知られるなんて絶対にいやだ。
まだ入学して数ヶ月しか経ってないのに、ただでさえ無個性だということでからかいの的にされてるのだ。これ以上悪目立ちなんてしたくない。
僕は手紙を握りしめよろよろと立ち上がる。
教室ではいつもどおりに授業を受けたが、内容は三分の一も頭に入ってこなかった。
長いようにも短いようにも感じる一日を終え、放課後重い足取りで呼び出された空き教室へと向かう。
ありったけの勇気を出して扉に手をかけ、からからと音を立ててひらいた。
「しつれい、します
……
」
小声で中に声をかける。
部屋の片隅に使わなくなった机やいすが雑然と積み上げられていて、その机のひとつに腰かけた人物がこちらを振り向いた。
「あぁ、逃げずに来たな。えらいえらい」
しんとした教室に響く少しかすれた声。
窓から差す西日に照らされて、色素のうすい髪の毛がきらきら光る。
僕は目を見開きその場に立ち尽くした。
そこにいたのはうちの中学でいちばんの不良だといわれている、死柄木先輩だった。
「何つっ立ってんの。中入れよ」
紅く鋭い目が僕を射る。
今にも逃げ出したくてたまらないというのに、先輩に言われるがまま教室に足を踏み入れ、扉を閉めて自ら逃げ道さえなくしてしまう。
扉を閉めたとたんに酸素がうすくなった気がした。
棒立ちになる僕に先輩からの視線が突き刺さる。こわくて顔を上げられない。
何時間にも感じられる数十秒が経過したあと、かたん、と音がした。
先輩がこちらに向かって歩いてくる。
上靴の先がうつむいた視界のはしに映って息を飲んだ。
あと一歩、の距離を保って先輩の足が止まる。心臓の音がうるさい。今にも口から飛び出してしまいそうだ。
「俺の名前わかる?」
唐突に、低い声が降ってきた。
頭が真っ白になりかけたけどとにかく答えないとと思い、からからの喉から声をしぼりだす。
「し、しがらき、せんぱい
…………
」
「そう。
……
なぁんだ、俺のこと知ってんだ?」
抑揚のない声にほんのわずか愉快そうないろが混じった気がして、僕はそおっと目だけ動かして様子をうかがう。
死柄木先輩は、笑っていた。
長い前髪のすきまから見える紅い瞳を三日月みたいな形にして。
死柄木先輩のことは遠目からしか見たことないけど、いつも猫背でだるそうに歩き不機嫌そうな仏頂面で、他の先輩たちといっしょにいても笑ってるところなんて見たことない。
思わずぽかんとして、こわいのも一瞬忘れて先輩の顔を見ていたら紅い瞳が細められた。
「俺もおまえのこと知ってるよ、いろいろと」
含みのある言い方をされて身体に緊張が戻ってくる。すうっと息を吸って、怖じけそうな心を奮い立たせて、目の前の紅い瞳を見つめた。
「せ、せんぱいの手紙
……
読みました。僕の秘密を知ってるって」
「ん?
……
あぁ、そう、秘密。知ってるよ」
「なにを、先輩は僕のどんな秘密を知ってるんですか」
「教えない」
あっさりと言った先輩は口のはしを歪めた。
「自分のことなんだ、おまえが一番よく分かってるはずだろ?その秘密がクラスメイトや親にバレたらどんな事態になるかも予測できるはずだ」
先輩の言葉が頭のなかにこだまする。足下がぐらぐらして、息苦しさが増してくる。
僕の秘密。
今日丸一日考えて考えて、
――
いや、正確には手紙の文面を見た瞬間頭をよぎったひとつの可能性から、一日かけて目をそらしつづけていた。
だってあれは、ぜったいに僕しか知りえない出来事のはずだから。
だけど、もしも。
もしも目の前のこのひとが、本当に僕の最大の秘密を知っているというのなら。
恐ろしい予感にひやりと胸がつめたくなる。
赤い西日がひらいた喉から流れ込み、窒息してしまいそうな錯覚を覚える。
今度こそ誰からも守り通さなくてはならない。
僕はこの秘密を、クラスメイトにも先生にもお母さんにも、決して知られるわけにはいかなかった。
「どう、したら」
「あ?」
「どうしたら、誰にも言わないでいてもらえますか」
声が震える。じわりと瞼が熱くなる。
懇願するように見上げると、死柄木先輩はじいっと僕の顔を見て満足げに頷いた。
「何事もただでってわけにはいかないからな。うん、よし、分かった」
ひとりごとのように呟き、先輩は突然僕に向かって手を伸ばした。
おどろいて固まる僕の肩に腕をまわしてぐいっと引きよせ、耳元で内緒話をするときみたいに声をひそめる。
「おまえの秘密を黙っててやる代わりにおまえにしてもらうこと、考えとくから。とりあえずまた明日、昼休みにここへ来い」
「え
……
」
呆然とする僕の頬を先輩はぺちぺち叩く。
何だかとても楽しそうな顔をして。
先輩の腕がはなれると、背負っていたリュックがずしりと重たく感じた。
今日はもう帰っていいぜ。そんなふうに声を投げて、死柄木先輩はひらりと片手をふった。
「あ。ちゃんと弁当も持ってこいよ、昼休み」
脱け殻のようになって空き教室を出る背中に念押しされる。
その言葉に力なく頷き、僕はとぼとぼと学校をあとにした。
「はぁ
……
」
大きなため息が洩れる。
明日からの日々を思うと、いまはオールマイトのマスコットにすら泣いて縋りたい気分だった。
*
死柄木弔は夕闇とあかいろが交差する教室の窓から外を見下ろしていた。
「あんな手紙に引っかかってのこのこ現れるなんて、本当にまぬけだぜ」
みどりやいずく、と死柄木は校舎を出ていく背中へ甘やかに唱える。
鼻先に触れた髪もまろい頬も、どこもかしこもやわらかくて、こちらを見るまなざしは怯えているのに決然としていて。
「やっぱりいいなぁ、あいつ」
死柄木はうっそりと唇を吊りあげる。
明日からの日々を思うと腹の底から笑いが込み上げ、鼻歌のひとつでも歌いながら帰りたいような気分だった。
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