澄川とあの日、曇り硝子越しに目が合った気がした。
西棟の内部ゲートはところどころ、いまだに手動で、扉は重たいときた。
だから開けるのに、ちょっと力が要る。
あの日は、偶然、向こう側からも扉を引かれた。はめこまれた灰色の曇り硝子の向こうに立っていた、澄川と目が合ったと思ったのは僕だけかもしれない。
理科の授業中、実験に失敗して火傷ぎりぎりの微妙な傷をおった僕と澄川はいっしょに治療室に行った。
午後の広い治療室のベッドの並びと治療処置スペースとはカーテンで仕切られていた。大きな機器がたたずんで、なにもかも銀色のものばかりの無機質な空間で薬をもらって隣の休憩室のツルツルした布カバーのベンチに並んで座った。
「さっきさ」
僕はエナメルの光がかったような暗い紫色の蓋がついた塗り薬の小さい入れ物を手のひらに転がしながら、言った。
「好きなヒーロー、いるってきいたじゃん、おまえ
……」
澄川の襟元のボタンの二つめの小さい丸の灰色と赤色のマーブル模様を見て、僕はじつはヒーロー物が好きなことを言いかけたのを思い出した。
「あ? いないって言ったくせに
……」
聞き咎める、怒った
表情で澄川は僕を睨んだ。
せっかく言おうとしたのに、そういう反応されると、こっちも、なんとなく、む、となってしまう。
だって、それは話の
「最初におまえが、ハリウッドとかアメコミとかは凄くて、ライダーとかは違うとか言うからじゃん」
「とかとかうるせぇな
……」
と澄川は顔をふん、とそむけた。
壁の張り紙に目をやって、しばらく黙っていて、口をひらいた。
「
……それで、何が、好きなん?」
「え
……、おまえ知らないと思うけど
……」
僕は塗り薬の入れ物をベンチに、腿の傍に置いて、宙で指を動かし、ホログラムの画面を立ち上げた。動画のサービスを呼び出す。
「この、戦士のやつ」
見せると、澄川はのぞきこんだ。そして、なんだというような表情になり、そんなもの当然知っている、というふうにうなづいた。
それから顔を揺らしつつハミングした。僕はすぐそれが主題歌のメロディだとわかったけど、澄川がハミングなんてすると思わなくて、おもわず、じっと見つめてしまった。
そうしたら、澄川はちょっと気まずそうに、恥ずかしそうに唇をきゅ、と結び引いた。
授業の終わりのチャイムが鳴るのが遠くから聞こえてきた。
いつもなら、きっと僕ははやく教室にもどらないとって思うのに、今日はまだ、ここで話していたくなった。
澄川もチャイムに一瞬、瞳を外へ動かしただけでどうでもいいことだとでも言いたげに座り直して、自分でもホログラムの画面を開いた。
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