やや
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告白、駆け引き、落花流水

両片思いビマヨダの告白話です。ラブコメ風味甘めテイストになってるかなあと思います。

「ドゥリーヨダナ、好きだ。俺の恋人になってくれ」
「〜〜っ、嫌だ!おまえがっ、わし様のっ、恋人になるのだ!!」
昼食後、ごろごろと部屋で休んでいたドゥリーヨダナの元にビーマは突然やってきて、とんでもないことを言い放った。だから、ドゥリーヨダナはベッドから即座に立ち上がりビーマと相対し、返す刀で先のように言ってやったのだ。

実のところ……も何も返答でわかるとおり、ドゥリーヨダナはビーマのことが好きだ。恋人になれればと夢見たりもしていた。しかし、好きな相手とは言え、あのビーマに先手を取られるのはいささか癪なのだ。何としても、どんな屁理屈を捏ねても、たとえ少しだけであろうと、優位を取りたい。ドゥリーヨダナの、ビーマ相手に染みついた長年の習性が咄嗟に発露したわけである。

さあ、どう出る?とドゥリーヨダナはビーマを注視する。そのドゥリーヨダナの視線を受けて、ビーマは一度見開いた目を元に戻し、ひとつ鷹揚に頷いてみせた。
「わかった。それでいい……あ、いや」
ドゥリーヨダナの思うとおりにうまくいくと思った矢先、ビーマはすいと視線をドゥリーヨダナからずらした。目をそらしたことも気になるが、ドゥリーヨダナにとってより重要なのは、ビーマの言葉に続いた「いや」である。ドゥリーヨダナの眉がぴくりと動く。ビーマともあろうものが、一度「わかった」と受け入れたくせに今更発言を翻すつもりか?やはり恋人にはなりたくないとでも?虚仮にしようとでもいうのか?頭の中に次々と疑念が浮かび上がり、それに比例してドゥリーヨダナのまなじりは吊り上がっていった。ドゥリーヨダナは、許さんぞ……!という激情を持ってギロリとビーマを睨みつける。

そのタイミングで、ついにビーマの視線が再びドゥリーヨダナと交わった。ビーマのまっすぐな目の輝きからは何も読み取れなかったが、何を言い出されても迎え撃ってやろうとドゥリーヨダナは勇み立つ。ビーマの弁明によってはジャイ・カウラヴァしてくれる。ドゥリーヨダナがそんなことまで決意した瞬間。
「それ、いい。おまえの恋人に、俺はなりたい」
ビーマの真剣な眼差しと言葉がドゥリーヨダナを貫いた。ビーマの想いは暴風のようにドゥリーヨダナを襲う。それに耐えながらビーマの真意を理解しようと努めたが、そもそもにわかに降って湧いた幸運が信じられなくて、口を無意味に開閉することしかできない。

そんなドゥリーヨダナの動揺なんて露知らず、ビーマはぐいとドゥリーヨダナの腰を抱いてきた。ビーマとの距離が近づく。というか、くっついている。こんなにビーマと密着したことなんて、これまでなかった。口から心臓が飛び出そうとはこのことか。ドゥリーヨダナは最近覚えた慣用表現を思い返すほどに混乱していた。ドゥリーヨダナを己の両腕の中に迎えたビーマの顔がみるみるほころぶ。ビーマのこんな表情も、見たことがなかった。狼狽え、かちこちに固まったドゥリーヨダナにビーマが口を開く。
「俺はおまえの恋人として何をしたらいい?何を、してほしい?」
浮かれた声音で、でも甘やかに紡がれるビーマの言葉たちがドゥリーヨダナの耳に刺激的に響く。

まずは、その腰に添えている手をどけろ!お花の飾りが潰れるわ!触れるのを許してはおらんぞ!……これが想定問答。いつものドゥリーヨダナならこう返せるだろう。しかし、今の、「わし様の恋人」のビーマ相手にはどうもドゥリーヨダナの優秀な頭はうまくまわらない。いつもより頭がカッカッとしてる。ビーマからの告白、笑顔、甘い声。その全てのせいでドゥリーヨダナはすっかり茹だっていた。
「ん?」
ドゥリーヨダナの返事を促すために落とされた音ひとつ取っても甘い。弾けてしまいそうな胸を押さえながらドゥリーヨダナは思いを巡らせる。ビーマに「してほしい」こと。それは。
「キ……!」
「き?」
ドゥリーヨダナは告げようとして思いとどまった。洋風の言葉は、もしかするとビーマは知らないのではないかと考えたからだ。ならばと言い換える。
「せっ……!」
「せ?」
再び思いとどまる。古風な言い方すぎて、逆に恥ずかしいのではないかと気づいてしまったから。
「く、……っ」
「く??」
これはこれで、どこにすればいいのか、などととぼけたビーマに聞かれたら答える自信がない。ドゥリーヨダナは必死に考えた。召喚されたばかりの頃、マスターにビーマの悪口を言おうとした時くらい頭をひねる。
「ちゅ…………ちゅーを、しろ……
真っ赤な顔で絞り出すように、ドゥリーヨダナはビーマに告げた。日頃の物言いからは考えられないほどに弱々しく甘えたな口ぶりで、ドゥリーヨダナは自分から出たその声に驚く。こんな自分の声音は、人生で一度も聞いたことがなかった。

いっぱいいっぱいのドゥリーヨダナの命令を聞いたビーマは、ふむと考えるような素振りをしてすぐに顔を明るくした。
「ああ……キス、接吻、口づけ、か?」
「全部知っておったのか!?」
ドゥリーヨダナは動揺を隠せない。こんな単語なんてビーマは知らないだろうと思ってあんなに悩んだのに。なぜ。ドゥリーヨダナの素朴な反応に、ビーマがはにかむ。
「おまえとしたくて、色々調べた」
照れくさそうに伝えられたその答えの威力たるや。攻撃に匹敵するそれに耐えきれず、ドゥリーヨダナは小さく、ぽろりと、「わし様も……」とこぼした。ビーマの笑顔がいっそう輝いて、もうドゥリーヨダナは目を離すことができない。

とうとうドゥリーヨダナは、震える両手でぎゅっとビーマの服を握った。ここに至って、そういえばビーマは一臨の姿だななんてことに気づく。告白の衝撃で何も見えていなかった。ビーマの顔しか、見ていなかった。
「なあ、ちゅー、してもいいか……?」
こんなに間近で、気恥ずかしげに立てられたビーマからのお伺いに、こくりと頷く以外の対処法をドゥリーヨダナは持っていない。
「ありがとな」
頷いただけなのに、ビーマからお礼を言われる。変な気分だ。
「わし様が、しろと、言ったのだから。は、はやく、せんか」
どうにも緊張で口が回らない。みっともないことこの上ないのに、目の前のビーマは嬉しそうで。ドゥリーヨダナも自分が今どんなにカウラヴァの長兄として形無かたなしかなんて、どうだってよくなった。
「ドゥリーヨダナ……好きだ……
ビーマの目が閉じられ、その端正な顔がゆっくりとドゥリーヨダナに近づく。睫毛が長いだとか、唇の厚さだとか、そんなところを目で追ってしまう。口づけごときでどぎまぎして本当に情けない。今日は何もかもが自分のペースに持っていけない。それでも。
「わし様も、好きだ……
唇が重なる一瞬前。ドゥリーヨダナは一番大切なことだけ、なんとか言葉にした。それだけ告げて慌てて目を閉じようとして、ビーマの口角がやわらかく上がるのを見る。ああ、伝わった。ドゥリーヨダナの体からようやっと力が抜ける。嬉しい。口元が緩む。緊張してビーマの服を掴んでいただけだった手をビーマの背にゆるりと回し、瞼を下ろす。

そうして、ドゥリーヨダナはこれから共に生きる愛しい男にその身をあずけた。