3月10日『殉教』


この頃ドーザー達が怪しげな宗教を作っている。
半年前だろうか。
私の店がある町の外れの廃工場を占拠して、十数人のドーザー達が宣教を始めた。
なんでもコーラルは生物で、我々よりも高等な知識を持っているそうな。
今までコーラル漬けだった連中が逆に断食を始めている。
 
断食し始めはコーラルを消費するな、知性ある者を殺すのかと事あるごとに騒ぎ立てていたのだが
今は生きるのも無理だったようで、拠点の外には干からびた死体がいくつか転がってる。
 
煩いのが居なくなるのは嬉しいが、死んだ人間を供養しないのも気が引ける。
売れ残って店の肥やしになっている花を持ってドーザー達の元へ行く。
廃工場のトタンの壁にもたれかかるようにして、皆目を開けたまま死んでいる。
 
気味が悪い。
 
作業と思って葦の茎のように細い手首に花を結ぶ。
あらかた作業がおわり、最後の1体の腕を掴むと、腕が動いた。
 
私は思わずぎゃあと叫んで、尻もちをついてしまった。
尻がコンクリートに当たって、大変に痛い。
一方、私のことを意に介すこと無く死にかけのドーザーは中空を見たまま息だけをしている。
 
私は息を呑んだ。
 
その瞳は確実に何かを捉えていて、そして愛おしげだった。
中空をまっすぐに捉えて、笑みを浮かべ
その瞳は爛々と輝き、充足していた。
手が伸び切って、何かを優しく撫でて……
私にはこの光景が、恐ろしく幸福に見えた。
 
怖い。それと同時に羨ましいと思ってしまった。
信奉とはこれ程までに幸せなのだろうか。
私も彼らと同様になれば、幸福になれるだろうか。
そういう考えが脳裏を過ぎる。
 
私が死の淵に立つ、聖者の姿に見惚れていたその時。
彼の体が傾いて、バンと音を立てて体が地面に当たった。
さっきまで生きてた“ソレ”が干からびた死体になっていた。
美しさの欠片も無い、ただの干からびだ醜い死体に。
 
干からびて死ぬのは嫌だな。
私はそのまま家に帰った。

TOPに戻る