千代里
2024-04-05 07:51:59
8156文字
Public 君ふれ短編
 

ケイとミィハの話・短編・その5


ラノシアと呼ばれる地域一帯は、元々が海に囲まれた島だ。そのため、そこに住まう人々にとって、海とは非常に身近な自然の一つでもある。
とはいえ、島には海しかないわけでもない。島の奥には山の緑が濃い場所もあるし、各所には鉱山もある。しかし、いかんせんそちらは獣人種族も数多く姿を見せるため、人の住める集落は少ない。必然的に、人々の住まいは沿岸部に集中し、結果的に冒険者の多くも海岸沿いの街に拠点を置く。
ケイたちも例に漏れず、彼らにとって海は身近な存在だった。居住区の窓を開けば潮風が入ってくるほどに、日常的な眺めの一つに過ぎない。そのはずなのだが。
「ミィハ! 見てよ、あの海! めちゃくちゃ透き通ってる! 砂浜もミストヴィレッジのよりも白い気がする!」
「ケイ、走ったら砂浜に足を取られて転ぶぞ」
「大丈夫だって、ほらほらはやくーーあっ」
ミィハが言ったそばから、ケイの姿が彼の前から消える。案の定、予想よりも柔らかな砂浜に足をとられて、見事にすっ転んだのだった。
しかし、魚拓ならぬ人拓を砂浜に残したにもかかわらず、ケイは目をキラキラと輝かせてガバリと起き上がる。着ている服が冒険者用の装束ではなく水着や私服だったら、観光地で浮かれ回っている子供にしか見えなかったのだろう。
だが、あいにくミィハたちは観光のために来たわけではない。
「ケイ、僕たちがここに来た理由は?」
起き上がったケイの元に近寄り、ミィハはじとっとした目で彼を見つめる。流石にミィハにそんな目で見られて、己の振る舞いを振り返ったのか、
「依頼のためです……
ケイは耳を垂れ下げて小さく呟いた。
ミィハとて本気で怒っているわけではないが、適度な引き締めは重要だ。今までと異なる場所ーーしかもリゾート地などという、浮かれずにはいられない場所に到着したせいで気持ちが昂るのは分かるが、かといって仕事を放り出しては本末転倒である。
「まずは怪盗の噂についての調査。それと、落とし物の持ち主の捜索だ。前者については、ウルダハ出身の者に聞いて回るといいだろう」
「そうだね。じゃあ、俺の方から怪盗については話を聞いてみるよ」
「それは構わないが……僕らは観光客にとっては知らない相手だぞ。そんなにすぐ打ち解けられるのか?」
ミィハにとって、見知らぬ人間にいきなり話しかけるなどというのは、魔物と一騎打ちを迫られるような難しい内容だ。どういうわけか、ミィハが話を続けていると、相手の方が警戒心を高めていくのである。そして、ミィハもミィハで愛想を振り撒くという事柄から真逆のような場所に位置する性格のため、どうしても聞き込みは不得手となってしまうのだ。
しかし、ケイは「任せてよ」と胸を叩き、まずは砂浜で遊んでいる親子に向かっていそいそと駆け出したのだった。



ミィハにとっては難局だった、見知らぬ人からの聴取。しかし、ケイはそれを軽々とやってのけた。
「こんにちは、ちょっといいかな。少し話を聞きたくって。君たちって、ウルダハの方の出身だったりする? あ、やっぱりそうなんだ。その服とか、見てたらなんだか懐かしくなってさ! 実は、俺、ウルダハにいたんだけど、色々事情があってこっちの方に引っ越すことになっちゃったんだよ。でも、この前帝国のことで色々あったからさ、ウルダハに残してきた知り合いのことが気になっちゃって。せっかくのリゾートなのに何だか落ち着かなくて、せっかくだから今のウルダハがどんな感じなのか教えてほしいなあって思ってさ」
ざっとこのような切り口でケイが話し出すと、あっという間に相手は聴取相手はケイに心を開いてくれた。ケイの人柄もさることながら、リゾート地という開放的な状況と現在の世情が追い風となってくれたようだ。
ちょうど今は、光の戦士とかいう英雄と帝国の衝突が話題になっている時期だ。ウルダハから北に向かえば、すぐそこには帝国軍の前線基地もある。
かの基地内において、英雄と帝国将校との衝突もあったことは、ウルダハの国民に少なからぬ不安を抱かせたらしい。知り合いの現状を知りたいという事情をケイが口にすると、話しかけられた者のほとんどが同情と納得の表情で質問に応じてくれた。あとは、世間話から怪盗の話題にそれとなくシフトしていけば、彼らの多くは「ああ、あの怪盗騒動ね」と頷いてくれた。
とはいえ聴取できた内容のほとんどは、ススナムがまとめてくれた資料のものと同じだった。神出鬼没の怪盗。名前も定かではなく、その全容は謎に包まれている。目敏い興行主たちは、早速舞台に怪盗の題材を取り込んでいるが、それも結局は脚色された内容を盛り込んでいるに過ぎない。
だが、ケイが七人目に話しかけた女性だけが、今までの相手と少し異なる反応を見せていた。
「あの怪盗騒動ね。実は私、被害者の人と友達なんだけど……実は怪盗騒動については、被害者の狂言なんじゃないかって思ってるのよね」
「狂言? でも、実際に怪盗に宝石が盗まれたんだよね? 被害者の人たちは、あまり表立って捜索はしてないみたいだけど」
「そうよ。だけど、ほら。その『捜索してない』ってのが如何にも怪しいじゃない」
女性は自身が名探偵であるかのように、一人で納得してうんうんと頷いている。
「ええっと、それはどういうこと?」
「怪盗が盗んだって言い張って、宝石の紛失を誤魔化すこともできるでしょ」
なるほど、とケイは頷く。それなら、怪盗の姿を見たものがいないのも納得だ。
被害者の全員がそうでなくても、一部だけでも怪盗が手を出していない被害者もいるかもしれないとなると、神出鬼没なのも当然である。
「ちなみに、盗まれた宝石……っていうよりも、なくした宝石がどんなものかってわかる?」
「たしか……そうそう。あなたがその首につけているような、薄い紫色の、何だかぱっとしない宝石だったわ」
ケイが首につけている落とし物は陽光の下では主張が控えめになってしまうが、それにしたって随分な言いようである。ケイは苦笑混じりの相槌だけ返した。」
「その友人、言い渋ってたからはっきりとは言わなかったんだけど、絶対にそうに決まってる。細工もちょっと稚拙だったし、珍しい色味だからって買ってたみたいだけど、前々から私はいまいちだと思ってたのよね」
彼女の推理によると、その友人はやや見栄っ張りであるがゆえに、怪盗を隠れ蓑にして、自身の失態を隠そうとしているという結論になったらしい。
もの珍しさからとある宝石を買ってみて自慢してみたものの、今ひとつ周りの反応は悪かった。しかも、自分でもなんとなくそこまで魅力的に思えなくなってきた。しかし、身につけていなければ、あんなに自慢していたのにどうしたのか、とあれやこれやと言われるかもしれない。
「だから、怪盗が盗んだことにしちゃえって思ったのかもね。それに、無くしたことは本当みたいだったし、おおかた興味をなくして適当に扱ってたってところじゃない?」
彼女はそう話を締めくくると、連れの男性と共に海に向かって行ってしまった。
ケイは自分が聞いた内容をメモに残しながらも、うーんと首を傾げて見せる。
(そういえば、似たようなことを別の人からも聞いたような……
ぱらぱらとメモをめくると、二人目の聴取相手がそのようなことを漏らしていた。
曰く、怪盗の姿を見たものなどいないのだから、本当にそんなものが実在するのか怪しいという内容だ。その人物も知り合いに被害者がいたが、実際に詳細について尋ねるとはぐらかされてしまったとのことだった。
「被害者の人たちも、おおっぴらにできない事情があるってことかな?」
先ほどの相手は、衝動買いを誤魔化すためと見栄を張るためだと言っていた。それが正解かはわからないが、同じような理由か、あるいは異なる理由で存在しない怪盗を生み出している偽の被害者がいるのかもしれない。
ケイがメモを片手にうんうん唸っていると、不意に影が落ちてきた。誰だろうと思うまでもない、そこにいたのは麦わら帽子を被ったミィハだった。
「ミィハ、おかえり。落とし物の持ち主、探してたんだよね。そっちはどうだった?」
落とし物の持ち主探しなら、聴取ほど相手に踏み入る必要もない。それならミィハでも問題なくこなせるだろうと、彼はそちらの聞き込みに従事していた。
だが、ケイの問いかけに対して、ミィハは首を横に振った。
「残念ながら。これと似たようなものを見た覚えすらない、という反応がほとんどだった。もしかしたら、持ち主はリゾートの客ではないのかもしれない」
「そっか。そうなると、持ち主探しは難しいかもしれないね」
「ああ。だが、それ以上に面白い話も聞けた」
ミィハはケイに見えるように、腕輪がついている方の腕をケイの前に差し出す。麦わら帽子の影の下、薄紫の光が静かに瞬いていた。
「この石を使った装飾品については、一時期ウルダハでも出回っていたらしい」
「えっ、そうなの?」
「ああ。だが、他の宝石よりいささか脆くて欠けやすいのが災いして、あまり手に取るものもいなかったようだ。色味や加工も、当時の流行から外れていて、ウルダハの富裕層の好むものではなかったらしい。結果、すぐに市場から姿を消したそうだ」
「それなら、怪盗騒動が狂言って話は本当かも……?」
どういうことかと目線で問いかけるミィハに、ケイは自分の聴取の内容を伝えた。
先ほどのミィハが説明していた内容が正しければ、もの珍しさに飛びついたものの、うっかり壊してしまって、苦し紛れに怪盗を言い訳にしたとも考えられる。
「どちらにせよ、ウルダハで一度流通したものなら、宝石商のススナム氏が知らないというのは妙な話だな。やはり何か訳ありの宝石なのかーー……
そこまで言いかけて、ミィハはふ、と遠い目をしたかと思いきや、何やら眠たげに目を閉じた。どうしたのかとケイがミィハの顔を覗き込むと、彼の顔は先ほど別れたときに比べるといくらか赤みを帯びているように見える。
……すまない。昼間だというのに、急に眠くなってきてしまったんだ。睡眠は十分にとったと思うんだが」
「それ、暑気あたりじゃないかな。頭痛がして、頭がくらーってするやつ。ちょっと日陰で休もうよ」
砂浜は遮蔽物がない上に、砂浜そのものが白砂が多いために全方向から太陽で焼かれることになる。北方出身のミィハにとっては、コスタ・デル・ソルの太陽は少し強すぎるのだろう。
大人しく手を引かれて、砂浜に生えていた木の根本までたどり着いたミィハは、そのまま腰を下ろす。日陰に入ったものの、大きな幹にもたれかかってぼうっとしているので、やはり知らぬ間に消耗してしまっていたに違いない。
「俺、体を冷やせそうなものを買ってくるよ。俺が聞き取ってきた内容、ミィハも見ておいてくれる?」
ケイが差し出したメモを受け取り、ミィハは無言で頷いた。
正体不明の眠気はやはり暑気のせいのようで、日陰に入れば少しずつおさまってくれた。頭部よりはいくらか冷えている手を額に載せ、熱を測っているかのような状態でミィハはメモを読み始める。
……ウルダハでは売れなかった宝石。怪盗が持ち去ったのも薄紫の石の装飾品という話だった。ならば、怪盗は売れない装飾品をわざわざ回収している?)
換金目当てなら、全くもって利益のない話だ。物珍しさから手を出すようなコレクター気質とも考えられるが、その割には行動のリスクが高すぎる。それぐらいなら、持ち主から直に買い取ってしまえばいい。
「それに、被害者が己の被害を言い渋っていたというのも気になるな。自分が被害者だと思いたくないのは、単なる見栄によるものなのか……?」
そこまで考えて、ミィハは目を瞑った。頭の端が重く、じーんと響くような感覚があって、筋道立てて物事を考えられない。ケイの言うところの暑気あたりのせいだろう。
本来ならば頭痛を感じるところなのだろうが、あいにくミィハはその手の類の痛みには縁がない。ケイが戻ってくるまで体を休めていようと思った矢先、
「おう、坊ちゃん猫。こんなところで何してるんだ」
聞き覚えのある男の声に、ミィハは顔を上げる。視線の先では、ススナムに会った時は着ていた上着を片手にかけたフェリキシーがいた。傍では、ユキハネも同じようにしてポンチョを外して手に持っている。
コスタ・デル・ソルはザナラーンの砂漠に比べれば気温は低いが、れでもラノシアの他地域よりも気温は高くなる傾向があるようだ。薄着をしている者が多いのも、気温的な問題もあるのだろう。
「ケイはどこに行ったんだ。てめえ一人で休憩中か?」
「今は買い物に行っている。君こそ、怪しい奴がいないか探りに行っていたんじゃないのか」
「行ったはいいが、大した収穫はなかったんだよ。あのススナムってやつ、最近まで兵士への金払いが良くなかったらしいな。その愚痴を延々と聞かされたところだ」
「あれは愚痴ではありません。嫌味というのです、お師様」
珍しく怒った様子のユキハネに対して、フェリキシーはどこ吹く風の様子だ。何かあったのかとミィハが彼女に問うと、
「わたしたちはただ、冒険者ギルドに提示された依頼を受けただけなのに、ちょっと顔を出しただけで高額の報酬が支払われるのはずるいと言われたのですよ」
「事実だろうが。あの依頼主、どこに金を払うのか分かってなかったんだろ」
怒るユキハネとは対照的に、フェリキシーはいつもと変わらない顔だ。彼らの話によると、ススナムが個人的な護衛として雇っていたウルダハの傭兵たちは、彼からの報酬に不満を抱いていたらしい。
「最近までは、ということは改善されたのか」
「改善はされたみたいだが、長らく染みついた不満ってのはそう簡単に拭えねえよ。宝石商だからか知らねえが、あれは自分の商売にばかり目がいっちまって、足元を見てねえタイプだな」
そして、それはウルダハに限らず、人と人の関係においてはしばしば起こりうることだ。単にウルダハは金で傭兵を雇う気風が常態化しているので、そのような軋轢が生じやすいというだけである。
「怪盗騒ぎが自分に関わりが出てきたとあって、慌てて地固めを始めたというところか」
「だろうな。手抜きの見張りの方が都合がいい、なんてことは、普通はねえだろ」
そこで会話が区切られたのを見計らったように「おーい」とケイの声が響いた。ミィハが見遣った先、砂浜に出ている露店で何か買ってきたらしいケイが、ミィハたちに向かって走ってきているところだった。
「フェリキシー、ユキハネも! そぅちも聞き込みは休憩?」
「そんなところだ。……というか、てめえ、その手にあるのはなんだ」
「ロランベリーのソースをかけたシェイブドアイスだって!」
「まあ、カキゴオリですね!」
ケイの説明とユキハネの反応が同時に響き、ミィハとフェリキシーは揃って己の相棒に視線をやってしまう。
「ケイ、今なんと言ったんだ?」
「ロランベリーシェイブドアイス! コスタ・デル・ソルの最近の名物らしいよ。削った氷にロランベリーのソースをかけた、甘くて冷たくて美味しいお菓子だって」
ミィハはケイから手渡されたそれを、眉を少しばかり寄せて見つめる。ミィハは見知らぬ食べ物を渡されると大抵そんな顔をしてしまうのだ。
見た目はともかく、持っているだけで器越しに冷たさが伝わるほどに冷えた菓子のおかげで、暑気あたりでぼうっとしていた頭が少しずつしっかりしてくる。
「で、ユキハネ。お前は今何つった」
「かき氷です、お師様。わたしの故郷では夏によく食べていました。ケイさんの言うように、氷を削ったものに果実を絞ったものをかけて味わうのです」
「氷なんざ食って何が楽しいんだ?」
「氷だから体が冷えて、夏にはちょうどいいのですよ」
ユキハネが力説している傍で、ケイは既に露店で手に入れた匙を使ってパクパクと食べ進めている。だが、勢いよく食べすぎたせいか、数秒後には体をぶるぶると震わせていた。尻尾の毛先までぴーんと伸ばしているのは、彼なりに寒さに耐えているからか。
ミィハもおずおずと匙を進めていく。一口二口と食べていくうちにペースが上がっていくが、こちらはケイのように衰える様子がない。
「ミィハ、あまり勢いよく食べすぎない方がいいよ。頭がキーンってする」
「ああ、なるほど。それで君はさっきから歯痛が起きてるような顔をしていたのか」
ミィハの説明を聞いて、ケイも彼が食べるスピードを緩めない理由を理解した。ミィハは冷たいものを食べすぎても、痛覚がないので頭痛に至らないのだろう。
「ミィハさん、冷たいものは一息に食べない方がいいですよ」
「ああ、それは分かっている。ゆっくり食べると溶けてしまいそうだが……薄味のベリー水になっても、飲めなくはないだろう」
「うーん、俺は溶けたら勿体無いから、頑張って急いで食べる! ユキハネたちも買ってくるといいよ。体がひんやりしてきて太陽が気持ちよく感じるから」
上着を脱いで少し暑そうにしている二人に向けて、ケイは早速提案してみせる。フェリキシーはあまり乗り気ではないようだったが、ユキハネがケイの手元にある郷土の氷菓子に視線を奪われているのに気がつき、
「買いすぎんなよ」
一言釘を刺して、ユキハネを露店へと送り出したのだった。程なくして戻ってきたユキハネは、フェリキシーの言いつけを守って小ぶりのものを買ってきていたが、彼女の尻尾は珍しく嬉しそうに左右に揺れていた。
ユキハネから渡された削り氷を受け取り、フェリキシーも口にする。ケイとユキハネの期待の視線とは裏腹に、彼の顔は憮然としたもののままだった。
「それで、そっちは何かわかったのか」
「怪盗が存在しないかもしれないという話を聞いたところだ」
怪訝そうな顔のフェリキシーに、ミィハは自分達の調査内容を簡潔に説明する。薄紫の宝石の出所と怪盗の因果性について、フェリキシーは結びつけるのは時期尚早と言いつつも、
「全く無関係ってわけでもなさそうだな。昨日ちらっと見せられた護衛対象の首飾りも、そ名前からしてそんな色なんじゃねえか?」
「怪盗が売れなかった宝石を重点的に狙ってると言いたいのか。だが、利益にはならないだろう」
「利益以外にも色々あるだろ。その宝石が、実は見つかったらやばいようなウルダハご禁制の品とかだったら、売りに出したやつを脅す材料になる」
さすがウルダハを渡り歩いてきた冒険者と言うべきか。ミィハではすぐに思いつかなかった物騒な可能性を、フェリキシーは難なく口にした。
「ススナムさん、もしかしたら悪い人かもしれないってこと?」
「ウルダハの商人なんざ、総じて良い悪いで括れるもんじゃねえよ。俺は金さえ払うなら、ウルダハとあの依頼主が後でどう揉めようが知ったこっちゃねえって思ってるからな」
フェリキシーの意見は冒険者としては真っ当なものだ。たとえ、ウルダハで出回ってはならないような品を守らされたところで、冒険者ギルドを一度通した依頼なのだから、ウルダハが文句をつける先も冒険者ギルドであるはずだ。
そして、どのような文句をつけたところで、依頼を成し遂げたなら、その事実は変わらない。ならば、ススナムには冒険者に報酬を支払う義務がある。
「それに、たとえ問題のある品であろうと盗まれるのを許容していい理由にもならないだろう。それに、これはあくまで推測に推測を重ねた上でのことだ。あの宝石が何の問題もない品である可能性も十分にある」
ミィハの言うように、今までの話は全て憶測で語られている。伝聞だけでは十分な証拠とは言えない。
「とにかく、ごちゃごちゃ悩むのは、依頼を片付けた後にしろってこった」
「あっ」
フェリキシーはそう締めくくり、溶けかけた氷をまとめて飲み干すようにして喉に流し込む。数秒後、ケイとユキハネが忠告する間もなく、フェリキシーはこめかみを抑えるような仕草をしてしかめ面を浮かべてみせたのだった。