私は今輸送ヘリの中に居る。
ヘリの中は町の人間ですし詰めで、床にはようやく一人が寝られるかどうかのスペースしかない。
持っていく荷物についてあれこれ考えてはいたが、持ってこられたのはかぎ針一つとレース紐の玉8つ、父が残してくれた編み図を纏めたノート、あとは緊急用の食料くらいだ。
結局のところ、私の人生の大半はあの町に残して行くしかなかった。
我々は今、多重ダムの方面に向けて南下を続けている。
多重ダムは変電施設が破壊された後は放置されており、企業のMTや兵器も残って居ないとのことだ。
事実、道中は穏やかで何事もなく進んでいる。
ヘリの中は人で溢れかえっているにも関わらず、静かだ。
聞こえる声はただ一つ。
酒屋の爺がアカペラで歌う“I can’t Stop Loving You”。
これ一つだけだ。
“愛することを止められない、君を知る前の寂しさを抱え生きていかなきゃならない”
誰も居なくなった町、町の至る所に張り巡らされたロープに私達は無数の花を残していった。
ロープに結ばれた花の一つ一つが、あの町で生まれ死んでいった人々との縁《よすが》の証
私達は彼、あるいは彼女達を故郷に置いて逃げるのだ。
ヘリに乗る前に、花達が揺れる様を見た。
さようならと言っているようだった。
“さようなら お元気で”
風によって振られる“手”に、私はただ泣くことしかできなかった。
私は今、花を編んでいる。
故郷で揺れる花のことも、これから起こる末路のことも忘れたくて花を編んでいる。
黙々とかぎ針一つで花を編んでいる。
私には、編むことだけしか残されていない。
追伸
今夜は多重ダムでキャンプを張ることになりそうだ。
キャンプについたらここを見てくれている皆に連絡する。
TOPに戻る
If you make a mistake, you can cancel it by pressing the reaction.