Ykanokawa
2024-04-03 18:22:52
7577文字
Public クリテメ
 

ラム酒のティラミス

※エピローグまでクリア推奨
※エピローグ後にフレチャで同棲しているクリテメが料理を作って食べるだけの話
※若干の事後表現があります。気持ちだけR-15。

レシピを紹介する作品ではありません。料理して食べる2人を眺めるだけ。むしろレシピを守っていないので参考になりません。

 ――さて、どうしたものか。
 腰から下の痺れに耐えながら、テメノスは読んでいた手紙を閉じた。
 窓の外ではとっぷりと日が暮れて、細い月が中天に差し掛かっていた。食後に淹れた濃い目の珈琲はすっかり冷めきっている。暖炉の火の薪もそろそろ尽きそうだ。それだけの時間、ソファから動いていなかった。
 いや、動けなかったというのが正確だ。
「子羊くーん?」
……
「クリックくーん」
……
 名前を呼び直しても効果がない。
 1人で掛けるには大きく、2人で座るとぎゅうぎゅうになる。そんなソファに掛けたテメノスの腰元へ、蹲った子羊が腕を回してしがみついていた。顔は完全にテメノスの膝に埋められ表情は伺えない。時折、ぐりぐりと頭を押しつけられるので、その度に金糸の巻き毛を撫で回している。それで多少は落ち着くのか、ほう、と溜め息のような吐息が聞こえる。
 つい最近、自分の過保護を自覚する出来事があったが、甘やかし癖もついてしまったかもしれない。いけないな。これはいけない。そう思いはする。けれど、ふわふわとした巻き毛の触り心地がよいものだから、手を止める気があまり起きない。
 だがしかし、貧弱な膝の方がそろそろ限界を迎えつつある。何とかしなくてはならない。
「お風呂冷めちゃいますよー?」
……
 沈黙を守っていたクリックから、うう、と低い唸り声が上がる。テメノスの家には個人宅にしては珍しいことに浴室が設けられている。薪と水がもったいないので、普段は大聖堂の浴場を利用するか、沐浴で済ませたことにしてしまう。今日はその浴室を掃除して特別に温かい湯を張った。
 それが誰のためかといえば、この萎れた子羊のためだ。当人もそれがわかっているから入らなければと思っている。けれど、気分としては離れ難い。そんなところだろう。
「温まったら、またくっついていいですよ?」
 甘やかしすぎだろうか。でも、ここは外ではなくテメノスとクリック、2人の家の中だ。今のテメノスは聖火教会の異端審問官でも、聖堂機関の客人でもない。ただのクリックの恋人だ。
 緩慢とした所作でわずかにクリックが顔を上げる。秋晴れを思わせる青い瞳が、どんよりと曇って見えた。まるで本当に迷える子羊のようだ。耳があったら垂れ下がっていることだろう。
……本当ですか?」
 久しぶりに聞いた鳴き声には覇気がない。覇気どころか元気もない。
 日頃はつい歪曲的な表現や態度を取るテメノスだが、こう真正面から甘えられるとどうにも突き放せない。
 そもそもこの子羊がここまであからさまに弱った姿を見せることは滅多にない。若くして相応の責任感を備えてしまっているからだ。年上であるテメノスに対する意地もあるかもしれない。見せたところでテメノスが激励代わりに突き放す場合が多い、という事実は脇に置いておく。
「特別ですよ」
 金糸の巻き毛に両手を差し入れ、さわさわとくすぐる。駄目押しに身を屈めてつむじに口づけを落とすと、ようやくテメノスの腰を拘束していた腕の力が緩むのを感じた。


 クリックの後輩にあたる騎士が大怪我を負ったのだという。それもクリックのことを庇ったために。
 当たり前のことではあるが、新人はいつまでも新人ではいられない。あの事件当時に新人であったクリックも、新しく入信する騎士が増えれば必然的に新人ではなくなる。
 ストームヘイル近辺の魔物退治を目的とした部隊の長として、彼が選ばれること自体は何も不思議ではなかった。そして、そういった任務で不測の事態が発生するのもままあることだ。
 魔物の巣穴が報告よりも大規模であったこと。想定外の群れが思わぬところから部隊を襲ったこと。充分に起こり得ることだ。即座に布陣を切り替え、部隊そのものを守り切ったクリックはよくやったと言えるだろう。
 ただ、その中に部隊を指揮しているのがクリックだと気づいた賢い個体がいた。その個体が射かけた矢に気がついた騎士が、身を挺してクリックを庇った。そういうことらしい。
 ――騎士としては、いや、兵としては、正しい判断なんだろう。
 騎士とは主となる者を守り、兵とは自身を指揮する者を守る。その騎士の判断は間違ってはいない。事実、その矢にクリックが倒れていたら部隊が瓦解する可能性だってあったのだから。
 正しくて、騎士として栄誉なことなのだそうだ。
 矢に倒れ伏した騎士が冷たい雪に埋もれたとしても。彼が流す血に雪が染まっていったとしても。その光景を前にして、しかし指揮官故に駆け寄ることさえ許されなかったとしても。それらの出来事が、クリックの心にどんな大嵐をもたらしていたとしても。
 騎士にとっては誉れで称賛されるべき行動だったのだ。
 治療の末に無事、目を覚ました騎士は誇らしげだったらしい。拳を握り、瞳を輝かせ、声高に叫んだそうだ。自分は部隊長のお役に立てたのだ、と。
 クリックは。
 クリックは、相応の言葉をかけたそうだ。君のおかげで任務が遂行できた。勇気は称えられるものだ。だが、自身の命を軽く見てはいけない。今度、一緒に防御重視の訓練をしよう。
 歯を食い縛り、笑顔を張り付け、そんなことを言っていた、と。そう彼の親友の手紙に綴られていた。
 クリックが予定より早くフレイムチャーチへ帰還できるよう手配してくれたのも彼だ。テメノス宛ての手紙と手土産つきで。
 手紙の内容は事の顛末の説明と親友への心配と激励だった。「さっさと使い物になるようにしておいてくれ」という若干、捻くれた表現ではあったけれど。
 ――励ますとか慰めるとか、けして得手ではないのだが。
 彼が持ち帰った手土産の袋と珈琲のカップを手に炊事場に立つ。中身を覗くとストームヘイルでよく飲まれているラム酒の瓶。上物だ。そしてツマミとして食されているビスキュイ。彼の親友――オルト・エッジワースの算段を推察するに、晩酌でもして甘やかしてやってくれ、と。そういった意図があるのだろうが。
……ラム酒とビスキュイ、冷めた珈琲、か」
 そして浴室には元気のない子羊が一匹。これはまた誂えたように揃ってしまったなぁ、と考える。
 きっと、クリックとてわかっているのだ。
 騎士として在り続けると決めた以上、人の上に立つこともある。そうなったとき、どうしようもできない息苦しさと葛藤に出会うときがくる。ちょうど今回のように。
 わかっているから、ストームヘイルでは気丈に振る舞っていた。己を奮い立たせて、笑みを湛えて、叫びたい文言も衝動も我慢して、耐えて、堪えて。
 やっとこの家の敷居を跨いだ途端に、少しばかり駄目になってしまったのだろう。
 不満やら、軋轢やら、理想と現実との乖離やら。そういった理不尽なものに殴られて、精神的な疲弊が限界を超えてしまった。たぶん、そんなに大きくは外れていないはずだ。
 励ますとか慰めるとか。本当、不得手で柄ではないのだが。
 ――子羊くんがあの様子では私だって調子が狂う。
 そんな言い訳を胸中で唱えて食材ストックを開けた。明日の朝食になる予定だった卵と貰い物のクリームチーズを取り出す。本当はもっと滑らかでフレッシュなものがベストなのだが、あれはまったく保存が効かないので手元にない。
 ――まあ、なんとかなるか。
 何とかするためのミルクをついでに取り出しておく。
 ボウルにクリームチーズを空け、少量のミルクと一緒にヘラで切るように練る。固めのクリームチーズがミルクで伸ばされて徐々に滑らかになっていく。しばらく置けば、室温でさらに柔らかくなるだろう。
 食器棚から適当に深さのある皿を探す。グラタンに使っている器が目に入った。気取るようなものでもないし、これでいいか。
 袋からビスキュイを取り出して包装を破く。一口、味見代わりに齧ってみる。寒冷地において非常食にもなるビスキュイは表面に砂糖が振られていて、やや甘めだ。欲を言えばもっと柔らかめのものがベストだが、せっかくの彼の親友の好意である。有難く使わせてもらうことにしよう。
 ビスキュイを適当な大きさに割りながらグラタン皿の底に敷き詰める。多少の隙間は気にしないし、問題ない。
 ラム酒の瓶の蓋を開け、冷めきった珈琲に垂らす。酒精とともにナッツのような、カラメルのような、芳醇な香りが漂った。香ばしい蒸留酒の匂いは誘惑が強い。グラスに注いでしまいたくなる前に蓋を閉め直した。
 ティースプーンで混ぜ合わせた珈琲液を、敷き詰めたビスキュイの上に回しかける。小麦色のビスキュイにじんわり濃い珈琲が染みていく。少々、水分が多く感じるが、ビスキュイ自体が硬いのでこれくらいが妥当だろう。
 次は卵だ。2つ取り出したボウルのうち、ひとつには卵白を、ひとつには卵黄を、それぞれ分けて割り入れる。菓子というのはこういった工程に丁寧さが求められるから面倒だ。手を抜くのに限度がある。
「そんな面倒なことをこんな夜更けにやるような質ではなかったのだが」
 いつからそんなことをしてもいいと考えるようになったのだか。少なくとも遠い昔の話でないことだけは確かだ。
 泡立て器を手に気合を入れる。
 バットに冷却用の精霊石を置き、その上に卵白の入ったボウルを置いて固定する。塩をひとつまみ入れ空気を含ませるようにひたすら混ぜる。白く泡立ってきたら、砂糖を加えてさらに混ぜる。いつものメイプルシロップでは粘度が足りないので贅沢に砂糖を使う。その砂糖も一度には入れない。泡立てて、泡の粒が揃ったと思ったらまた入れてを繰り返す。少なくとも3回には分けて。
 ツノが立つ、きめの細かい泡状になったらメレンゲの完成だ。
「ああ、疲れる……
 細腕にはこれだけでも重労働だ。戦闘で杖を振るうときとはまた違った疲労感に、軽く利き腕を揉み解す。休憩が欲しくなるが、もたもたしているとせっかくのメレンゲの泡が潰れてしまう。
 卵黄にはメイプルシロップを注いで混ぜていく。黄色い卵黄が白っぽく色を変えたらクリームチーズの出番だ。艶が出たクリームチーズを卵黄のボウルに入れて滑らかになるまで混ぜる。卵黄とチーズが上手く合わさったら、作って置いたメレンゲをこれまた3回に分けて混ぜていく。こちらはごく軽くさっくりと。折角の泡を潰さないよう、優しく生地を馴染ませる。
 メインのクリームが出来上がった頃には腕と肩がぱんぱんに張っていた。元気になった暁にはマッサージを希望しようと心に決める。
 グラタン皿に並べたビスキュイをつついてみるとまだ固い。
 ――朝には食べ頃になるだろう。
 ビスキュイの層にクリームを落としていく。ヘラで整え、平らにならすようにクリームを敷けば、あとはクリームがビスキュイに染みてふやけていくのを待つだけだ。
 精霊石の欠片を敷いたバットの上にグラタン皿を固定する。手を翳してみれば、ひやりとした冷気が指先を覆った。この分なら朝まで中身を冷やしておいてくれるだろう。大きめのクローシュでバットごと覆ってしまう。
 仕上げに使うココアパウダーは残っていただろうか。あれは風味の問題なので、なくとも支障ない菓子ではあるが。
 もう一度、食材ストックを覗こうとしたときに、背後から伸びてきた太い腕に捕まった。湿ったままの髪が首筋に触れ、ぴったり密着した背中と腹に回された腕が熱い。タイミングを鑑みるに、一応、作業が終わるまでは待っていてくれたらしい。
 ――どうしようか。
 主だった作業は終わったが、汚したボウルや調理器具は水桶に放り込んでそのままだ。予洗いくらいは済ませておかねば後が大変になる。こびりついたクリームや珈琲の渋は落としづらい。
 だが、甘えん坊の子羊はもう待てが効かないようで。腹を覆う腕に触れてみたがびくともしない。むしろぎゅうぎゅうと締め付けが強くなった気がする。それにいつまでも濡れた髪が気にかかる。やれやれ。まったく手のかかる子羊になってしまったものだ。
 諦めてすべてを明日の自分に委ねることにした。力を抜いて後ろへと倒れ込む。難なくテメノスの身体を受け止めたクリックが、テメノスの両足を掬い上げて抱き上げる。割れ物でも扱うかのような手つきだった。


 かちん、と硬いものがぶつかる音で目を覚ます。
 全身が気怠く重たい。感覚が鈍いのに身体の中心がまだ熱を持っている。首や背中、胸元に咲いた痕がじんじんと疼く。心なしか唇もやや腫れぼったい。
 身じろぎをする。最後の記憶とは異なって、乾いた肌着を纏っているようだった。シーツからも石鹸の匂いがする。どこかにいってしまった枕も頭の下にある。ただ、いつも隣にある高めの体温だけがない。
 重い瞼を叱咤して、テメノスはゆっくりと目を開いた。ぼんやりとしたランタンの灯りが薄暗く部屋を照らしている。窓から光は差していない。白んでいる気配もない。大分、眠ってしまったと思ったが実はそれほどでもないのかもしれない。
 探そうとした子羊はすぐに見つかった。シャツを肌蹴させたまま、寝室に置いている小さな椅子に掛けてスプーンを動かしている。スプーンが向かう先に小分けされてガラス皿に盛られたティラミスが見えた。クリームの表面がココアパウダーに覆われている。どうやらきちんと戸棚の中に残っていたらしい。
 小さなスプーンに掬われたひと匙が、大きな口の中へ消えていく。さくり、と歯がビスキュイを砕く音がする。ああ、朝になったら柔く仕上がっていたはずなのに。そっちの〝待て〟も出来なかったの。
 さく、さく、と咀嚼音がする。とうに夜半も過ぎた寝室に他に響く音もない。
 俯き加減で表情はよく見えない。伸びた金糸の前髪が目元を隠してしまっている。雪焼けした頬が動いて、じっくり、ゆっくり、一口を味わっていることだけはわかる。ココアがついたままの厚めの唇が、何かに耐えるようにきつく結ばれて、スプーンを持つ手に力が入る。
 前髪の奥にある目の端から、何か光るものが落下していった。それを確かに見てしまった。
「クリック君」
 名前を呼ぶ。掠れているのはご愛嬌。だって、彼のせいだ。
 クリックがゆるりと面を上げてこちらを見た。太めの眉が下がり、目元に薄く水の膜が張っている。目尻が赤い。唇が薄く開いて、音なくテメノスの名前を呼んだ。
 ベッドに寝そべったまま、テメノスはぱかりと口を開いた。一瞬だけ驚いたクリックは、それでもティラミスをひと匙分、テメノスの口の中へ運んでくれる。差し出されたスプーンに食らいつく。熱の籠った身体に冷えたスプーンが心地いい。
 贅沢なカカオの香りがする。ほろ苦さを感じた後に、どっしり甘いチーズクリームが舌をねっとりと包み込む。甘すぎるくらいに甘い。甘いがちゃんとミルクの優しいまろやかさが生きている。
 濃厚なクリームの甘さを珈琲とラム酒を吸ったビスキュイがさらりと緩和してくれる。置く時間が短いせいでまだざくざくとした歯触りが残っている。しっとりとした味わいと口当たりが特徴のティラミスだが、これはこれで楽しい食感かもしれない。普通のそれより食べ応えがある。
 クリームは舌の上で融け、クランチのようになった珈琲味のビスキュイを噛み砕く。後味にふわりと香るのはラム酒の香ばしい匂い。
 即席で作ったにしては上出来ではないだろうか。
 テメノスが次の一口を求めないので、甘えたな子羊はスプーンを自分の口へと運ぶ。何度か食器の擦れる音がして、小さなガラス皿はあっという間に空になった。
「美味しかった?」
「はい」
「そう。それはよかった」
 ガラス皿がベッドサイドに置かれた。ぎしり、とベッドが鳴る。
 乗り上げてきたクリックを、テメノスは抵抗することなく両腕を広げて迎え入れた。普段以上に素直な子羊は縋りつくようにテメノスの胸元に顔を埋める。あちこちに跳ねた金糸の髪が少々くすぐったい。
「テメノスさん」
「はい」
……ごめんなさい」
 吐露された一言に首を傾げた。
「僕、わかっていませんでした。あなたが、いつもどんな気持ちで守らせてくれていたのか」
 どんな気持ちで、僕の怪我を治してくれていたのか。わかっていなかったんです。
 そんな告白がテメノスの耳を打つ。瞬きを2回、3回。
 ――ああ、なるほど。
 落ち込んでいた要因はそれもあったのか。ようやっと理解する。
 テメノスの体温を確かめるように、クリックが強くその痩身を抱き締める。壊れてしまわないように。離れてしまわないように。
 何かが大きく変わるわけではない。変わらずクリックはテメノスを守ろうとするのだろうし、テメノスもまた守られてばかりの審問官でいるつもりはない。2人の関係も、戦い方も、日常も、きっと何も変わらない。
 ただ。ただ、ほんのわずかだけ。
 クリックは自分の身を大事に考えるかもしれないし、テメノスは彼を頼ることが増えるかもしれない。たったひとつの願い。2人が2人でいるために。
「僕、もっと強くなります」
 クリックが誓いのようにそう口にする。腕っぷしだとか、剣の腕だとか、指揮官としての才覚だとか。そんなものではないことはすぐにわかる。言うなれば、避けて通れない何かに負けないだけの。
 どうしようか、迷う。
 君ならできますよ。誰にでも言える言葉だ。
 期待していますからね。してはいるが、無理はしてほしくない。
 信じていますよ。自分の口では薄っぺらくなるだけだろう。
……ええ」
 どれもこれも口に出すには相応しくない気がした。だから、答える代わりに彼の背に腕を伸ばし両手を結ぶ。自ら彼の頭を引き寄せるように。
 胸元のちょうど中央に頬を寄せられる。とく、とく、と当たり前の鼓動が互いの肌を通じて届く。
「でも、だから、今はちょっとだけ」
 もうちょっとだけ、こうしていてもいいですか。
 賢しさが戻った、可愛らしいおねだりに微笑が零れた。
 ――私を引っ張りあげてTira mi su〟の恩恵は確かにあったようだ。
 もう大丈夫。朝には寝不足でやや舌足らずな、おはようございます、が聞けるだろう。洗い物と洗濯は彼に任せてしまおうか。それとも一緒に済ませてしまって残りのティラミスでお茶にしようか。ああ、そうだ。労働した腕のマッサージもしてもらわないと。
 夜が明けた後の予定を組みつつ、テメノスは降ってきた唇を受け入れた。ほろ苦いココアの香りはすぐに消え、甘すぎるほど甘いキスはラム酒より易く酔いが回る。

 夜が明けるまで、もう少しだけこのままで。