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沁月
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ウ教×ハ♀ 相思相愛 読み切り
南瓜の甘露日
MHRウ教×ハ♀。相思相愛。ハ♀視点。
微妙に本編ネタバレあり。
2023年の10月、ハロウィンネタ。
大連続狩猟依頼の最終日。
カムラの里の『猛き炎』と見込んでの依頼とのことで、わたしは連日大連続狩猟に明け暮れていたが、この十月最後の日にようやく一息つく。
「今日は確か、クルルヤックにプケプケ、リオレイアだっけ
……
」
いざ狩猟に出かけようかという午前中、里の門に向けて歩を進めつつ気を引き締める。
誰が相手であろうと油断は禁物とは、わたしの師であり恋人でもある、ウツシ教官の教え。
到着した門から出発しようとした、その刹那。
「おーい! 愛弟子ー!!」
翔蟲を放ち、風のように近付いてくる聞き慣れた声。
わたしは、躊躇いなく振り返った。
「ウツシ教官! どうしましたか?」
「愛弟子! ああ良かった、出発に間に合って!」
わたしの前に着地したあなたは、特に息を整えることもなく穏やかに微笑む。
「愛弟子! ロンディーネ殿から聞いたんだけど、今日はハロウィンという西洋行事の日らしいよ!」
「ああ、ハロウィン
……
もうそんな日でしたね」
「おお! 凄いじゃないか、知っていたんだね!」
カボチャとお菓子と仮装の話なら、わたしもロンディーネさんから聞いたことがあった。
あなたは大仰な手振りと共に嬉しそうに「さすが愛弟子!」と付け足しながら、輝く
金色
こんじき
の瞳をわたしに向けてくる。
「そんなわけで愛弟子! 今夜は俺の家に来てくれないか!? 一緒にハロウィンを楽しもうよ!」
「え。
……
教官の家で、ですか?」
あなたから誘ってくれた、という事実に心臓がどきんと小さく、
初心
うぶ
に跳ね上がる。
思わず言われたことを復唱するように問いかけてしまったが、あなたは嫌な顔をせず満面の笑顔で「うん!」と大きく頷いてくれた。
「最近、キミは大連続狩猟を頑張っていたからね! こんな日くらい気晴らしが出来たらなと思って!」
「嬉しいです、ありがとうございます! じゃあ
……
よ、夜に、お伺いしますね!」
「うん! 待っているよ! 気を付けて狩猟を完遂して、帰っておいで!」
わたしを見つめるあなたの金色の双眸の奥には、勇声とは正反対に、とても心配そうな光が宿っている。
けれど最後に「頑張ってね!」と付け足しながら微笑んでくれたあなたのおかげで、わたしの内なる炎が奮い立った。
「教官とハロウィンしたいので、頑張って来ます!」
わたしはあなたに一礼後、笑顔で門から駆けて行く。
あなたは大きく両手を振って「気を付けてねー!」と一人で百人分の声量をもって、見送ってくれた。
その後、砂原での狩猟は、大好きな人と過ごすハロウィンのために普段よりも捗ったものの、やはり最後のリオレイアが強敵。
昼前から狩猟を開始し、何とか夕暮れには狩猟を終えた。
だが、里に戻って来た頃にはすっかり夜になっていた。
宵闇が空に迫る
度
たび
、暗がりに心落ち着くどころか、愛する人と過ごせる時間が近づいている事実に心が密かに踊り出す。
足取りも軽やかに、わたしは一直線にウツシ教官の自宅を目指した。
妖艶な
紺碧
こんぺき
の
靄
もや
を
纏
まと
った雲の狭間、
黄金色
こがねいろ
の月が放つ輝きの力は歩き慣れた里ではなく、どこか異世界を歩いているような心地だ。
今夜がハロウィンだという気分が高まる中、ようやく見えてきたウツシ教官の家。
格子窓
こうしまど
から温かな光が漏れる家の
玄関引戸
げんかんひきど
を、わたしは優しく叩いた。
「こんばんは、ウツシ教官。お邪魔します」
「待ってたよ、愛弟子! お疲れ様! さあ、入って入って!」
中から聞こえてきた声に安堵しながら、わたしはがらりと引戸を横に滑らせる。
一歩中に足を踏み入れた刹那。
わたしの目の前に現れた、大きな影。
「ハッピーーハロウィーーーン!!」
決め台詞と共に、ウツシ教官がわたしの前に飛び出して来るような形で、上がり
框
かまち
に立った。
その顔には、
橙色
だいだいいろ
に手塗りされた、木彫りのカボチャのお面。
更には近くの炊事場の鍋から、山盛りのカボチャの煮付けが甘い香りを漂わせていた。
「
……
え。
…………
あ
…………
えー、と
…………
?」
「愛弟子! ハロウィンだよ!! 俺と一緒に甘いカボチャを食べようッ!!」
「え?
……
え?
…………
っ、ふふ
…………
!」
カボチャのお面に、カボチャの煮付け。
まさかこんなハロウィンが待っているなんて。
愛する人があまりにも愛おしくて、わたしは「あはははっ」と声を出して笑ってしまった。
カボチャのお面をしていても、あなたが目を丸くしたのがよく分かる。
「え!? え!? 俺、何かおかしい!? ハロウィンはカボチャになって、お菓子みたいに甘くしたカボチャを大切な人と一緒に食べる日じゃないのかい!?」
「っ、ふふ
……
! あー、お腹痛い
……
! それ、ロンディーネさんから聞きました?」
「そうだよ!?
……
えっ、もしかして俺
……
!」
はっとしたように言葉を切ったあなたは、全て悟ったようだった。
最初はあなたが何か勘違いをしているのかと思ったけれど、やはりロンディーネさんにからかわれたらしい。
カボチャのお面をつけていても、あなたが耳まで赤くしたのが分かった。
「うわあぁ! ハロウィンってそうじゃないの!? ち、違うんだね!? お、俺、てっきり
……
!」
「いえ、わたし
……
それでも良いと思います」
あなたの隣、上がり框に立って、わたしはそっと両手であなたの着けたカボチャのお面を外した。
中から出てきた、顔を赤くしてバツが悪そうにわたしを見つめてくるあなたの表情は、あなたが年上だと忘れそうになるほど愛らしい。
わたしはそのまま、お面に視線を落とす。
独特の鮮やかな色使いと繊細な手彫り。これを作ったのは間違いなく、愛しいあなただ。
「教官、もしかして今夜のために、ずっとカボチャのお面とカボチャの煮付けを作ってたんですか?」
「う、うん
……
! 甘いのは疲れを癒すから、大変な狩猟の後にちょうどいいなと思って
……
キミと一緒に食べたかったのと
……
その
……
」
恥ずかしそうに、あなたが金色の目を伏せる。
先程より頬が上気して、赤くなっているようだった。
わたしが首を傾げると、いつも元気で
饒舌
じょうぜつ
なあなたが「その
……
」ともじもじと言葉を繋げる。
「さ、最近、お互い、忙しかったから
……
! せっかくの西洋行事の日だし、記念に少しでも二人でゆっくり過ごせたらいいなあって
……
」
「!
……
あ
……
」
一際
ひときわ
大きく、わたしの胸がどきんと跳ね上がる。
静かな水面に石が投げ入れられたように、心臓からじわりと広がる熱の波紋。
それはたちまち、顔にまで集まっていくのを感じた。
やがて「嬉しい」と、わたしの心からの言葉がぽつりと口から零れ出る。
わたしは先程まであなたの着けていたカボチャのお面を、顔を隠さず頭に着ける。
二人の記念に
相応
ふさわ
しいお面だ。
その言葉にすぐにあなたは顔を上げ、そんなわたしを見て満面に微笑んでくれたのが、幸せでたまらない。
わたしの腹の虫が
微
かす
かに鳴いたのは、そんな時。
「
……
教官。わたし、教官の作ってくれたカボチャの煮付け、食べたいです。美味しそうな匂いで、食べさせてもらえないとイタズラしちゃいそう」
「ハッハッハ、それは大変だ! 大丈夫だよ、いっぱい作ったからね! 二人で一緒に食べよう!」
笑顔で「おいで」とわたしの手を引いてくれたあなたの温かな手から、甘い匂いがするような気がする。
本当に、イタズラをしてしまいそう。
あなたならきっと笑って許してくれる。
気付けばわたしは言葉もなく唐突に、畳の間であなたの背中に抱きついていた。
「
――
あ
……
ッ
……
!?」
上擦
うわず
ったあなたの声が、とても可愛らしい。
全身で感じるあなたの温もりが、とても久しぶりに感じられた。
狩場に出続けていると妙に人恋しくなることがあって、つい甘えてしまう。
「
……
ウツシ教官
……
あったかい
……
」
広く温かな背中でぽつりと呟くと、あなたはゆらりと振り返り、わたしをすっぽりと腕に抱きしめてくれた。
逞しい両腕が繊細に、菓子より甘く蕩けそうな恋人の甘さを
伴
ともな
って、優しくわたしを包み込む。
命が満たされる温もり。
「
……
大好きだよ、愛弟子」
「
……
わたしもです
……
ウツシ教官
……
!」
見つめあって、微笑み合う。
しばらく、互いに互いの命と想いの温もりを感じていたのだが。
突如としてまた。
ぐうう、とわたしの腹の虫が、間抜けな音を響かせる。
「
――
あ
……
!!」
恥ずかしい。
なんてタイミング。
今度はわたしが目を見開いて、顔を赤くする番だ。
その音を聞いたあなたは、愛おしそうに目を細めて笑ってくれた。
「ご飯にしようか? 俺もお腹すいちゃった」
「うう
……
は、はい
……
」
微笑むあなたは、ずっと変わらず優しい。
カボチャの煮付け以外にも、すいとん汁や天ぷらなど、狩猟後のわたしの空腹を見越して、あなたは沢山のカボチャ料理を用意してくれていた。
二人で畳に膳を用意し、並んで座って「いただきます!」と声を揃えることができる幸せ。
真っ先に箸をつけたのは、あなたの作ってくれた『本日の主役』、カボチャの煮付け。
それは口の中でほろりと崩れ、あなたのように、深く優しい甘さで溢れていた。
「
――
ん
……
美味しい! すごく美味しいです、ウツシ教官!」
「それは良かった! 嬉しいよ! まだまだたくさんあるから、おかわりしてね!」
膳を並べて、顔を見合わせ笑い合い、愛する人のお手製カボチャ料理に舌鼓。
西でも東でも構わない、今日はなんて素敵な日。
頭に着けたままのカボチャのお面が、大好きなあなたのように微笑んだ気がした。
@acadine
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