りっつぁ
2021-07-24 22:28:59
5828文字
Public その他(男女)
 

オトナのレンアイ

このシャル→デュの続きhttps://twitter.com/litsatom/status/1390714468854759424?s=46&t=94gNiMC6sW-MgWzmWmKoHw
ED後、光の司祭を継いだシャルと騎士になってるデュ
捏造設定がもりもりなので、片目をつぶって見逃してください。

 夜中に抜け出すなんて、子供の頃だって滅多にやらなかった。最低限の灯りだけが残された通路を、シャルロットは急ぎ足で進む。生まれ育った神殿に、知らないところなどないはずなのに、真っ暗闇に沈んで先の見えない階段や曲がり角の奥に、得体の知れない何かが潜んでいるような想像をしてしまう。二十歳をいくつか越えて、もういい大人だというのに情けない。シャルロットは胸の前に抱えた室内履きを握りしめた。少しでも足音を殺したくて、今は裸足で歩いている。
 神殿の奥に与えられていたシャルロットの自室は、そのまま司祭の私室となった。そこから、一応は客人であるデュランがいる部屋までは、結構距離がある。彼が聖都に来てすでに数日、今だに初日ことを思い出すと笑えてくる。神殿騎士として招聘された、英雄王からの覚えもめでたい青年。彼はそんな前評判に違わぬ落ち着きと典雅さを持って、光の司祭の前に跪いた。けど、その目が。十七の頃、シャルロットを叱り飛ばしていたときと変わらず、ギロリと光る。お前、やりやがったな。やったもやった、手を回したに決まってる。こちらも落ち着き払って、女神と司祭の守護にその身を捧げるという誓いを受け取った。どこまでも穏やかなアルカイックスマイルの裏で、思い切り舌を出す。いつまで経っても相手にしないのが悪いんだ。
 彼にあてがわれた部屋の場所は知っていたけれど、訪れるのは初めてだった。気心が知れた仲なのは、シャルロットの身近な者達だけでなく大体皆に知られているのだから、ちょっと様子伺いに行くくらいなら何もおかしくないだろう。けれど、単純にお互い忙しかったのだ。加えて、シャルロットの目的はもちろん、単なる顔見せだけではないから。
 客室の扉を数えて、目当ての部屋の前に立つ。灯りは漏れていないし気配も感じられないから、寝てしまっているのかもしれない。でも、それならそれで好都合。そろそろとドアノブに指を滑らせ、押す。なんの抵抗もなくノブは下がって、ドアが薄く開いた。合鍵まで手に入れていたけれど、やりすぎたったかも。でも、ちょっと不用心すぎやしないだろうか。今の自分の行動を棚上げしながら、シャルロットは出来うる限りゆっくりと、ドアを開けた。流石に客室は手入れがよく、蝶番もかすかな軋む音を立てるだけ。頭を室内に突っ込んで、部屋の中を見渡す。半分を過ぎて満ちていく途中の月の明るさに目が慣れると、ベッドの上がちょうど人間一人分くらい、膨らんでいた。やっぱり、もう寝てる。どうしようかと少し迷って、でももう足が限界で、えいっと思い切りをつけて部屋に入った。石造の床をずっと素足できたから、足がかなり冷えている。デュランが寝ているベッドに足早に近づき、そっと腰を下ろした。抱きしめていた室内ばきは、床に放ってしまった。ある程度音を立てているのに、彼は身動ぎもしない。シャルロットはベッドの縁をじりじり移動して、デュランの顔の上、と思われる辺りに身を乗り出した。
 ふかふかの掛け布からはみ出る、後ろに向かってツンツン伸びる髪。顔も鼻から下がよく見えないけれど、目は閉じている。寝息に合わせて上下する体。よく寝ているように見えるけど、模範的すぎて不自然だ。
「デュランしゃん、起きてるでしょ」
…………寝てる」
「バレバレの嘘ついてんじゃないでち」
「お前がドア開けたとき起きたんだよ」
「嘘」
「これは本当だっつの」
 のっそり起き上がったデュランは、大きな欠伸をして滲んだ涙を手で擦った。確かにこの欠伸は、演技ではなかなか出来ないかもしれない。旅をしている間もよく見た寝起きの姿だ。
「寝るの、早すぎないでちか」
「んな宵っ張りでもねぇよ、もともと。それに、最近は夕飯食った後くらいからもう眠くてしょーがねぇ」
「あらら、お疲れでちか」
「見りゃわかんだろ……やっぱ向かねえな、こういうとこは」
「そのわりに、よく頑張ってまちね」
「仕事だからな」
 ため息と一緒に吐き出された言葉が、シャルロットの胸をぐさりと刺した。仕事、役目。彼は主君の命じたことを忠実にこなしているだけ。それでも構わないから、どんなことをしてもそばに来て欲しいと思った。覚悟はしていたけど、実際に突きつけられると思ったより辛い。彼に恋愛対象として意識してもらうことなんて、本当に出来るんだろうか。
「で、お前何しに来たんだよ。司祭様だろ、こんな時間にこんなとこでフラフラしてたら不味いんじゃねーか」
 欠伸をしいしい、真っ当なことを言ってくるデュランに腹が立つ。本当に眠いらしいが、そんなことは知らない。これで少しは目を覚ませばいいんだ。
「いいんでち。シャルロットは、ヨバイに来たでち」
「よばい…………って夜這いか。あー、一瞬わかんなかったわ」
「いつまで寝ぼけてるんでちか! やっぱりこれくらいしないと、ニブチンのアンタしゃんはシャルロットの気持ちなんてわかんないでち! 女神様に仕える乙女にこんなことまでさせて、恥を知れ!でち!」
「夜中にでかい声出すんじゃねぇよ、近所迷惑だろうが」
「神殿の壁はぶあっついんでち! デュランしゃんがイイコにしてればなーんの問題もないでち」
「イイコってなぁ、」
「問答無用!」
 今を逃せばチャンスはもう無い。シャルロットは半身を起こしたデュランに体ごとぶつかった。うわ、と間抜けな声をあげて、デュランが後ろに倒れる。柔らかく空気を孕んだ枕が、ぼん、と音を立てて二人を受け止めた。
「おい、何すんだよ」
「だから、ヨバイでち!」
 肩を両手で支えられて、しっかり庇われながらベッドに倒れ込んだだけ。これだけでも心臓が口から飛び出しそうで、この後どうするかなんて何も考えていない。シャルロットはデュランを睨みつけながら、そうっと彼の胸に手を触れさせる。抱きしめてもらえたら、どんな感じがするんだろうか。
「ちゃんと意味わかって言ってんのか?」
「わ、かってる!でち!」
 夜にこうして忍び込んでいくことだ。字面の意味としてはあっているはず。シャルロットが強がると、デュランは目つきを険しくする。
「本当に、わかってんのか」
……わかってるでち」
 いつになく低い声に怯んだけれど、ここで引くわけにもいかない。お腹に力を入れて、彼を見下ろす。小さく舌を打つ音が聞こえた気がした。
「わかってねぇだろ、」
「ひゃっ、」
 ぐるん、と視界が回って、デュランの下にいた。
「デュラン、しゃ、」
「こういうことだぞ」
 お前が、やろうとしたことは。耳に吐息がかかってぞくりとした。両腕を抑えられて、身動きが取れない。そうでなくても、こんなに大きな体にのしかかられたら、動けない。耳を唇で挟まれて、首筋に唇が触れる。一回、二回、ぺろ、と舐められる感触も。唇にキスされたこともないのに。
「デュランしゃん!」
 呼びかけても、返事をしてくれない。顔が陰になるせいで、いつもは明るい菫色の目が濃い灰色に見える。寝間着の裾近くのボタンが外されて、体が竦んだ。手が、入ってくる。
「や、デュラン、しゃ、いや、」
 脹脛を撫でた手が、するする這い上ってくる。寝間着の裾がめくれて、脚が顕になっていく。見上げた彼は、知らない顔をしていた。知らない男の顔だ。太腿の内側に感じた硬い指の感触に、全身が総毛立つ。とっくに子供ではないのだから、こういうことをするのはわかっている。この未熟な体にも、男を受け入れる場所がある。でも。
 嫌だ。いつもみたいに笑ってくれないと嫌だ。あまりにも浅はかだったから、嫌われてしまったんだろうか。それくらい好きだってわかってほしくて、でも、嫌だ。怖い。怖い。

「待っ、て!!」

 片腕を思いっきり突っ張ったら、覆い被さっていた体はあっさりと退いた。
「え、?」
「その年で何の経験もなきゃ、ま、こんなもんだろうな」
 外したボタンをわざわざ留めなおしながら、デュランはぬけぬけと言った。何だったんだ、今のは。あまりの展開で呆然としていたが、沸々と怒りが湧いてくる。シャルロットはがばっと起き上がって叫んだ。
「な、なんでちか、いきなり!」
「いきなりも何も、お前が言ったことだろ」
「そう、だけど、」
「焦んなよ、時間はたっぷりあるんだからよ」
……たっぷり?」
 神殿騎士の任期はもちろん決まっている。それにデュランは国王からの信頼も厚く、いつ呼び戻されるかわからない。時間はある、なんて言い難い状況なのはわかっているはずなのに。やけに態度が投げやりなのも気になる。
「何だお前、覚えてないのかよ。オレの貸し出し期限。無期限だぜ、無期限」
「むきげん……?」
「正確に言えば、司祭様が納得されるまで、だな。こんなの国公認の身売りだろ……
 深い深い、呆れと諦めとその他もろもろが混ざったため息を吐いて、デュランはベッドにどさりと寝転んだ。
「デュランしゃん、ついに売られちゃったでちか……
「お前のせいだろうが。何言ったんだよ、陛下に」
「なにって、……
 おたくの騎士さんが好きで好きでしょうがないのでちょっと貸してください。というようなことをほとんど包み隠さず伝えた。そんなことはとても言えないので、シャルロットは視線を明後日の方向に飛ばす。
「特別なお話はしてないでちよ。英雄王しゃんは優しいから、シャルロットの気持ちを汲んでくれたでちね、きっと」
「そんなもんかね……
 デュランは腑に落ちないようだったが、勘違いするなよ、と付け加えた。
「仕事としちゃ、そんなに悪いもんでもないと思ってる。情報も入ってきやすいし、それに神殿騎士なんて名目つけちゃいるが、アレだろ、人質って言ったら言い過ぎかもしんねーけど」
 女神と司祭と、この神殿を守る騎士。古くからあったしきたりが形骸化していたのを、祖父の代で制度として固めたものだった。大使くらいの意味合いだと思っていたが、どうも違うらしい。デュランは淡々と話し続ける。
「マナが無くなって、女神信仰もちょっとずつヒビが入ってくるかもしれない。いろんな国から集めた、しかも君主に近いような近衛の連中が多いな、ソイツらをここで睨み合わせといて手は出させない、と。そういう奴らを束ねてるってことで司祭の発言権も大きくなるだろうし、中立保ってくためにはそれなりの効果があんじゃねーか」
…………でも、でも、そしたら、デュランしゃんがあんまり長くウェンデルにいたら、……
 特定の一国とだけ深く関わっているということになると、保とうとしている均衡が崩れてしまうのでは。それだけじゃない、自分が我儘を通したせいで、彼が非難されたり危険な目にあったりしたら。怖くて不安で、デュランに触れようとした手を押し留めて膝の上で握りしめる。
「ああ、そのへんは大丈夫だと思うぜ。陛下が直に根回ししたらしい。次に派遣する奴は現司祭様と“非常に懇意にしていただいている”から、お目溢しを、ってな」
「そ、うだった、でちか」
「一言あるとなしとじゃ全然違うみたいだな。にしたってなぁ、もっと何かあるだろ言い方ってもんがよ。他の奴らから生温い目で見られてしょーがねぇ」
 何やら不平を溢すデュランの声も耳に入らない。知らなかった。誰も教えてくれなかった、なんて言い訳にもならない。自分の故郷の在り方を知ろうともしないで恋にかまけていたなんて、恥ずかしくて悔しくて消えてしまいたくなる。泣きたくなくて、強く瞬きをした。
「いいんだよ、お前は」
 優しい声。大きな手が、シャルロットの拳を包み込む。
「こういう面倒ごととか、きな臭いこととは無縁でいりゃいい。女神様と、お前を頼ってくる人達のことだけ考えてろ。そうしてほしくて、お前のじいさんだって頑張ったんじゃねーのか」
 祖父と、周囲の者達と、何より彼と。皆の厚意に甘えていていいのだろうか、仮にもここの長なのに。鬱々と考え込みそうなところで、ぐん、と腕を引かれた。
「わ、」
「寝ろ寝ろ、難しい顔すんな」
 デュランの隣に引き摺り込まれて寝かされて、きちんと布団まで掛けられた。
「寝かしつけないでほしいでち!」
「オレがもう眠ぃんだよ」
 トントンと腹の辺りを叩く手を払い除け、シャルロットはデュランの方に向き直った。折角一緒に寝るのだから、二人並んで仰向けでいてもつまらない。肝心のデュランは何も気にしていない風で、また大きな口で欠伸をしている。
……デュランしゃん」
「あ?」
「デュランしゃんがこのままお婿に来てくれる可能性も、ゼロじゃないってことでちよね」
……世の中に絶対ってもんが無いとすれば、そうなんじゃねぇか」
「じゃ、いいでち。おやすみなさーい」
「切り替え早すぎだろ、おい」
 とりあえず、シャルロットの気持ちを認めさせるという、本日最大の目的は果たせた。後は彼もこっちを向いて、背中に腕でも回してもらえたら完璧だけど、今日はもういいや。くわぁ、と欠伸をして、目を閉じた。


 シャルロットの寝顔を横目で見て、デュランは後悔した。やっぱり部屋に返せば良かった。
 コイツは年が二つしか変わらなくて、立派な大人。今日やったこともさしたる問題にはならない、はず。無理矢理手を出したと言えなくもない状況だったから、そこは不味かったかもしれない。
 でもそれ以上に、罪悪感がすごい。重い。でかい。
 彼女の脚に触れた手に、まだ残る。滑らかで張りがあってもちもちした、内腿あたりの感触。思わず腿の裏にまで指を滑らせたのがまたいけなかった。
 挟むくらいならセーフじゃないか?
 ふっと浮かんだソレがはっきり形になる前に追い払ったつもりだったのに、気を抜くとすぐにむくむくと大きく育つ。そんな目で見てしまっている自分へのおぞましさだけで話が済めばいいのに、こんななりをしたコイツがそのへんのアレコレを望んでいるんだからややこしくなる。
 いいから、寝ろ。言い聞かせてみたってそうそう眠れるわけもない。目を閉じたら浮かんでくる幻影は、今だ少女のような彼女をうつ伏せにして、長い法衣をかき分ける己の手。相当えげつない。勝手にその先まで妄想しようとする本能を、どうにか取り押さえて何も考えないよう努める。明日はきっと寝不足だ。