りっつぁ
2020-11-28 22:16:37
4142文字
Public ホーケヴィ
 

あなたのすきなところ

お題:「一目惚れ」https://shindanmaker.com/591476
ホーケヴィで雰囲気微エロです。

 牢屋の中の二人組を見た時は、なんて派手な奴らだろうと思った。一先ず同行を許されて安堵したけれど、冗談か本気かよくわからない軽口を言い合う二人について歩きながら、ケヴィンは目をぱちぱちさせた。何だかやっぱり、目が慣れない。

 初めて乗った船から降り立ったのは、活気に溢れる港町。ケヴィンはきょろきょろと周囲を見渡した。とにかく人が多い。ジャドもそれなりに大きな街だと思ったが、雰囲気が全然違う。あそこでは、みんな獣人に怯えて小さくなっていた。物珍しさで浮かれた気分が一気に地に落ちて、目を伏せる。そんなはずないとわかっていても、ここにいることを責められているような気がした。
「ケヴィン?」
「あ、……
 いきなり、ホークアイの顔が目の前にひょいと現れた。黙り込んだのを変に思われたのだろうが、取り繕う言葉が出てくるでもない。一声発したきりまた黙ってしまう。彼は気にした風もなく、屈めた腰を伸ばしてケヴィンの肩を軽く叩いた。
「どうしたんだよ、ボケっとして。今頃船酔い?」
「それは大丈夫、だと思う。……アンジェラは?」
 もう一人の仲間の姿が見えない。尋ねるケヴィンに、ホークアイが苦笑する。
「先に行ったよ。とりあえず別行動で情報収集しようってことになったろ。聞こえてなかったか?」
「う、……うん」
 しどろもどろに頷く。別行動ということは、自分も一人で聞き回った方がいいのだろうか。街の人達は皆大きな口を開けて話したり笑ったり、あんまり賑やかで何となく気圧されてしまう。通りを見てからもう一度横に立つホークアイに視線を戻すと、はぁっとため息を吐かれた。
「わかったわかった。もともと、アンジェラともケヴィンを一人で行かせるのは無理がありそうだって言ってたしな。あっちもフェアリーがいて二人だし、こっちも二人で行こうぜ」
「うん。……ありがとう」
「律儀だなぁ」
 頭にのせられた手は、髪を撫でつけるようにして離れていった。この短い時間でやけに触られた気がするが、不快ではない。自分よりも大きいようだけど、薄くて細い手のひら。
「アンジェラがあっちの方に行ったから、オレらはこっちな」
 露店の立ち並ぶ海沿いの通りを指さし、ホークアイが歩き出す。アンジェラは、港から離れた街中に入ったらしい。
 人の流れにそって歩くと、聞こうとしなくても次々にたくさんの話し声が耳に飛び込んでくる。脳みそをぐわんと揺さぶられるような感覚で、思わず耳を塞ぎたくなった。ぐっと眉間に力を入れて、長い髪を揺らす後ろ姿を見失わないようについていく。
「んー……ちょっと待ってな」
 手で制する動作に気づいて足を止めた。ホークアイは手近な露店の店番に話しかけている。様々な地方の雑貨やら本やらを扱っているのが売りの店らしい。が、詳しい話はそれ以上聞いていられなかった。人の声の洪水に飲み込まれて、もう区別がつかない。時折浮き立つように聞こえてくる単語の中に、“ジャド”や“ウェンデル”があった気がしてケヴィンはぎくりと体を硬らせた。ジャドを占拠してアストリアを焼き払って、彼らはウェンデルを目指した。その後はどうなったのだろう。同胞達のしてしまったことは許されるものではなく、消えることもない。重たくて硬い石を無理やり飲み込まされたような、耐え難い胸苦しさ。何か掴むものを探した手がふらりと持ち上がって、胸に爪を立てた。
「隣の店の奴も首突っ込んできたからついでに話聞いたけど、はずれ。こういうとこだったらいろんな話が集まってるだろうし、次行くか」
 いつの間にか戻ってきたホークアイが肩を竦める。ケヴィンが顔を上げると、彼は怪訝そうにこっちを見た。
「何かあったか?……おい、それ」
「え、」
 右の手首を掴んで引っ張られた。彼がそっと指を伸ばした自分の胸元に視線を下ろすと、細い三日月型の傷が五つ、生々しい赤色を覗かせていた。
「あ、」
「何で今気づいたみたいな反応なんだよ」
 そのまま手を引いて、通りの端まで連れて行かれた。ホークアイは胸の傷をまじまじと確かめて、険しい顔をする。
「これ自体はすぐ治るだろうけど、自分でやったってのが問題だな。なぁ、本当にどうしたんだ?」
……うまく言えるか、わからない」
「うまくなくても、まぁ何とかなるだろ。おんなじ言葉喋ってんだし?」
 だから言ってみろと背中を強めにはたかれた。勢いづけられた気がして、重い口をどうにかこじ開ける。
「えっと……オイラ、獣人、だから、……
 相槌も打たず、彼はひたとこちらを見据える。聞こうとしてくれている。そう思った瞬間に、堰を切ったように言葉が溢れた。
……獣人兵、したこと、取り返しがつかない。獣人、すごくキライになって、憎む人も、いるかもしれない。オイラは、同じ獣人だし、同じ国から来たし、しょうがないけど、でも、……二人が、悪く思われたらって、……
 そこまで話して、詰めていた息を吐いた。全力で走った後のように、心臓が早鐘を打つ。こんなに、誰かに何かを伝えないといけないと思ったことは、今まで無かった。
……オイラ、ここにいてもいいのかって、ホントに二人と一緒に行ってもいいのかって、思った」
 何とか思ったことは言えたように思う。ホークアイはふむと頷き、通りに目をやった。相変わらずの人通りと騒がしさだけれど、さっきまでよりはうるさく感じない。彼と話すのに集中していたからかもしれない。
「そうだなぁ……何言われても納得できないときってあるもんだから、オレはオレで思ってること言うな」
……うん」
「そんな身構えなくてもいいよ。まず、一緒に来てくれるのは有り難いな。貴重な戦力ってのが一番だけど、それなりの事情があるんだろ。じゃなきゃ、マナの剣がどうこうなんて雲を掴むような話、付き合いきれないよな。後、ジャドで助けてくれた。今のとこはこれで十分」
 矢継ぎ早に並べ立てられて面食らったが、取り敢えず頷いて返した。悪い印象を持たれているわけではないらしい。
「それと、種族だとか出自だとか、そういうので人を見るのってあんまり好きじゃない。君は獣人だからって気にするけど、数の問題ってのも大きいと思うよ。もしオレが君の故郷に行ったら、人間ってだけで目立つだろ。それくらいの話でしかない」
 ケヴィンも露店が並ぶ通りを眺めて、急に陽の光を眩しく感じた。夜が明けない森で闇に紛れていたものが、昼間の世界では見えてくるのかもしれない。
「オレは、なんでも自分の目で見てから判断する。お宝もヒトも、目利きにかけてはちょっとしたもんなんだぜ」
 自慢げな顔が子供のようで、ケヴィンもほっと体の力を抜く。ふと、ホークアイの瞳の色が目に止まった。自分と同じ金色だと思っていたが、明るいところで見ると色味が違う。
「ホークアイ、目」
「目?」
「目の色、ちょっと違った。オイラと」
 ホークアイが頭を突き出すように前屈みになって、目を覗き込んできた。見上げる程ではないにしろ、向こうの方が背は高い。
「あー、そうかも。ケヴィンの方が、色が濃いな。蜂蜜みたいな色だ」
 そんな美味しそうな例えをされたのは初めてで、ケヴィンはぱちんと瞬きをした。
「オレの目の色、ナバールには結構いるんだよ。砂漠には多いのかもな。……肌の色も目の色も近いし、君の国とも縁があったりして」
「それは、なさそう」
「笑うなよ。女神様が世界を作ったってときは、みんな大体同じだったかもしれないだろ」
「わかんない」
 笑うなと言っておきながら、ホークアイだって笑っている。弓形に細まる目の色を、そのときは何に似ていると思ったのか、あまりよく覚えていない。その後すぐ、目ぼしい話が聞けたとアンジェラが走ってきて、いろいろなことが立て続けに起こったから。


 もしかしたら、あのときからもう始まっていたのかもしれない。少なくとも、自分の中では。
 月の光を照り返す抜き身のような、金色。今はきっと誰よりも、近くで見ている。
……なんだよ、目、開けてたのか」
 少しだけ掠れて柔らかい声に甘やかされる。散々舐めて吸われた唇が、じんじんと腫れたように熱い。
 ベッドに倒されて、腕の中から彼を見上げる。早くどうにかしてほしくて、でも恥ずかしくて、身の置き所が無いこの時間もそんなに嫌いではない。ことが始まってしまう前に、彼の顔をじっくり見ていられる。
「ホークアイ、髪、」
「ん? 解く?」
「う、ん」
「いいよ。お前ホント、好きだよなぁ」
 可笑しそうに許しをくれたホークアイの首の後ろ側に、手を伸ばした。髪を束ねていた細い紐を引くと、呆気なく解ける。薄暗い中でもわかる艶のある髪が、幾筋も頬にかかった。
「こう、引っかかったり下敷きになったりすると痛いんだよなぁ」
「気をつける、から」
 応じた声は上の空なのが明らかだったと思う。長い髪を指にかけて、ゆっくりと梳いた。ホークアイが口の端を片側だけ上げて、にっと笑む。心臓がぎゅっと締め付けられたような気がした。この人は、綺麗。
「今日は、ずっとこのままするか?」
 このまま。彼に組み敷かれたまま、脚を大きく開いて受け入れて、目を合わせて。腹の底の方に、うずうずと掻きむしりたくなるような焦れったい感覚。彼のモノが入り込む穴の入り口が、びくりと引き攣れる。
「その目、なんて言うかなぁ、……とろっとろ。舐めてみてもいい? 白目のとこだったら痛くないから」
 もう何でもいい。こくこく頷くと、冗談だと言って笑われた。
「そういうのはまた今度にしとくから。……今日は、いっぱい泣いて」
 目尻をくすぐった唇が、どんどん降りていく。頬、首筋、鎖骨、胸。さらさらと肌の上を流れる髪。
「ぁ、あぅ、ホーク、アイ、」
 思ったよりずっと甘ったれた声が出て、恥ずかしくて唇を噛んだ。でもまたすぐ、喉が勝手に震えて言葉になんてならない音を出す。
「我慢、するなよ」
 一つずつ、いつもの自分を形取るものが外されていく。ケヴィンは熱の篭った息を吐き出し、目を閉じる。涙が、細い筋を引いて流れた。