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brancoccom
2024-03-29 11:20:21
12793文字
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星降る夜に
小国の王子とボディガードが贈り物をしあうという某メーカーからのパロです
ボディガード🍃×小国の王子🍉
えっちな事はこれから少しずつ
📿さん💎さんがそれぞれ出て来て伊アオ要素ありです。
何もかもが凍てつく国だ。
地下資源を巡って或いは少しでも凍らぬ土地を巡って小さな争いを起こすしかないこの国では食べ物も人間も栄養が行き届かず頼りない。
その中にあって身体が大きく丈夫な国王一家とそこに仕える代々の者達は富を象徴していた。
広大な敷地の屋敷地下には温水の循環するパイプが張り巡らされ極寒のこの地においても年中暖かい。
室内には温室で育てられた植物や花も活けられ、甘い香りが漂う。
ここだけは年中春であるかのように穏やかな屋敷の中で、まったく心穏やかになれない者がいた。
早く大きくなりたい、大人の男になってあの人に守られるだけの存在ではなく肩を並べたい。
15歳になる第一王子ゲンヤはその年頃の子どもと比べても小柄で身体も薄かった。
10歳になる頃に亡くなった母は大柄な父と並ぶと半分も無いような小柄な人だった。
小柄な母親の血を引いては大きく育たないのではと心配されたが、その頃既に母親と並ぶ背丈であったゲンヤはこのまま父のように大柄になるだろうと期待された。
しかしその期待は虚しく、成長期を迎えたにも関わらず10歳から15歳までで伸びた身長はわずかに10cm、今もじわじわと伸びてはいるものの160cmに届くかどうかというところだ。
母の死とともにパタリと成長が止まってしまったかのような身体は我ながら見窄らしく、益々焦りを生んだ。
そして焦りは苛立ちへと変わり、王子の態度は頑なに荒々しいものとなっていた。
周りから何を言われても自分を貶める言葉に聞こえ、周囲からの目線は貧相で王子らしくもない自分を憐んでいるように感じた。
悪循環だと自覚をしていてもいつまでも成長し切らない細い身体、鋭い目付き、おまけに侍従達からも匙を投げられた頑固な癖毛が王子を現実に引き戻し、理想に及ばない自分との葛藤はいつまでも晴れる事が無かった。
何を取ってもあの人に敵わない、隣で肩を並べる事が出来ない。
***
その人は美しい人だ。
輝く新雪のような髪、彫刻のように精悍でいながらどこか幼さを残した顔、鋼のように鍛えられた身体、ゲンヤが物心つく頃から身の回りの世話を、街へ出る時には護衛をしてくれるその人は憧れの人であり、家族のような自分を導く兄のような存在だ。
自分も大人になったら彼のように強く逞しく(美しく
…
はちょっと難しいなと諦めているが)なるのだとずっと思っていたのに。
「聖バレンタインのお話はご存知でしょうか」
「知らない」
「では今日はそのお話を」
日課である剣技や馬術の稽古を終えて、山のように積まれた分厚い本や大きな地図が広げられた部屋で今日の勉強範囲を過ぎるとゲンヤは教師にひとつだけ「お話」をせがむ。
「時のローマ皇帝クラディウスは軍事力強化を図っており、兵士達に家族が出来ると「士気」が下がると考え結婚を禁じました。」
「そこに反対をしたのが聖人ヴァレンチノ、キリスト教の司祭であった彼は密かに若者の結婚を行っていました。」
「怒った皇帝クラディウスはヴァレンチノ司祭をローマ宗教へ改宗させようとしますが、ヴァレンチノはそこでも皇帝に反論、愛を説いてついには処刑されてしまいました。」
「後の人達はヴァレンチノの勇気ある行動を讃え 聖人ヴァレンチノを恋人達の守護神とし、処刑された2月14日は愛の告白が許される聖バレンタインデーと呼ぶようになりました。」
ゲンヤは知識として恋愛の事もバレンタインデーの習慣も市井では一般的である事は知っていたが、何しろ経験が無い。
いつかは見合いをして結婚するのかも知れないが、恋愛が士気を下げるような代物なのか全く想像もつかない。
「質問はひとつだけですよ。」
「分かってるよ!」
お話をひとつだけせがむ代わりに、教師からも質問はひとつだけと言われている。
話をよく思い返して慎重に質問を考える。
恋愛は分からないが家族の事なら分かる。大切な人も。
それが士気を下げるとは到底思えない。
人は大切な人を守る時最も強くなると自分の頬に走る一筋の傷を触り確信していた。
まだ初陣を許されていないが、いずれは先陣を切り彼と肩を並べたいと思っているのだ。
となれば自分はヴァレンチノと同意見だが、果たして反対する皇帝に愛を説く事は出来るだろうか
…
そもそも
…
「愛ってなに?」
「
…
難しい質問ですね」
「サネミでも分からない?」
いつも即答してくれる教師が答えられない質問をして得意満面になるのが抑えられない。
「分かりませんね、私は恋愛の経験がありませんので。ただ、大切な守りたい人というならゲンヤ様です。」
「そう
…
なの
…
」
真っ直ぐに目を合わせて大切だと言われた。
こんなにも心臓が高鳴るものなのか、こんなにも嬉しく永遠にしたいものなのか。気持ちが溢れて言葉がすんなり出てこない。
ふとサネミも恋愛経験がないという言葉に勇気が湧く。
「街の人達は贈り物をするんだよね」
「そうですね、一般的には男性が女性に贈り物をして愛の告白をするようです」
「俺、サネミに贈り物をしたい」
「私に?ですか
…
?」
長く音がしそうな睫毛が二度瞬きをする。
自分も、と真っ直ぐに目を見て、言う。
「愛は分からない。だけど俺も一番大事なのはサネミだよ。だから俺は2月14日に贈り物をする」
ドキドキと自分の鼓動が耳まで昇ってくるようだ。
サネミは長い睫毛を少し伏せて考え事をする時の顔になっている。
「
…
では、僭越ながら私からもゲンヤ様へ贈り物を致しましょう」
「わぁ
…
!本当に?!すごいや!」
思いがけない返事に鼓動ばかりか身体までも跳ね上がってしまう。
早く2月14日にならないだろうか、ワクワクして眠れないような気がする。
「ゲンヤ様」
「はぁい」
つい浮かれた声になってしまう自分を諌めるような目線が届く。
「私の身分ではゲンヤ様から贈り物を賜る事も、その逆も侍従長へ許可を頂かなくてはなりません」
「わかった、内緒だね」
神妙な表情を一生懸命に作って頷く。
「内緒、でございます」
サネミも少し嬉しいのだろうか、内緒と言う時唇に指を当て悪戯っぽい表情を見せた。また鼓動が跳ねる。
内緒で出来る範囲の贈り物、何が良いだろうかと考えるのも楽しみだ。
***
軽率
…
!
カツカツと軽快な足音をたてながら早足に自室へ向かい自問する。
あまりにも軽率な自分を殴りたい。
いや既に部屋を出た瞬間自分の両頬を叩いたのだがそれでも足りない。
顔を腫らしていればゲンヤ様に心配させてしまう。これ以上は止めておかなければ。
贈り物など、加えて秘め事など
…
自分はなんて事を
…
サネミはゲンヤに出会った瞬間からこれ以上なく大切だった。理由は分からない。出会った時から彼の望みを全て叶えたい、全身全霊で守りたいと思ってしまったのだ。
これは恋であり愛であるとハッキリ自覚しているが本人に愛を問われて言葉を失った。
あの瞳、普段は自信無さげに揺らぐ事も多い紫の水晶は強い意志を持ってサネミを見据えた。
抗えなかった、あんなに強烈な愛を向けられて嬉しくて恐ろしくて全身が粟立った。
自室につき乱雑に書類を放り投げ、椅子にどかりと座る。
「あんなに喜ぶなんて可愛過ぎるだろうがァ
…
」
顔を両手で覆い、深い深いため息を吐き、本来の雑な言葉遣いが漏れてしまう。
この後は夕食と湯浴みのお世話があり、早く支度をしなくてはならないのに先程のゲンヤの様子を反芻してしまって動けない。
身の回りの世話はそれぞれメイドに任せても良いのだが、サネミがほとんど全てを担っている。
侍従長と自分を除いて他の侍従やメイドにゲンヤはなかなか打ち解けない
…
特に女性は苦手な様子でほとんど目も合わせない。そこも可愛いのだが。
とにかく気を鎮めて毒味に向かう。
「お毒味お願いします!」
真面目を絵に描いたような給仕長のアオイから皿を渡される。
「おお、今日はゲンヤ様の好きなメニューじゃねェか」
「私も何年も給仕係を務めさせておりますので、陛下不在の際は必ずゲンヤ様のお好きなメニューを準備させて頂いております!」
「侮られては困りますってかァ、うん、味も申し分ない。毒も入ってねェな」
「ありがとうございます」
給仕長はニコリともせずお辞儀をして皿を下げていく。
本来毒味も給仕もアオイの仕事だが、ゲンヤの強い希望でどちらもサネミに取られてしまったアオイはもはや厨房からサネミの元へ食事を運ぶだけの役割となっている。
そうは言ってもそのまま楽な役どころではいられないアオイは献立の立案と調理の補助も担うようになってきている。
なかなか見上げた少女だと思う。
「美味しい
…
」
頬を明るく染めて、暖かいスープを飲むゲンヤの表情は柔らかい。
沢山の野菜を細かく刻んで透明になるまで煮込んだスープだ。
「お気に召しましたか」
「うん、また食べたいって伝えてくれる?」
「ゲンヤ様、それは是非とも直接お伝えください。きっと喜びますよ」
「でも
…
」
「私に話掛けるように話をしてごらんなさい、ゲンヤ様はこれから女性とお話する機会が増えるのですから、慣れておきませんと」
「でも
…
サネミだって恋愛経験は無いんでしょう?俺も無いし、無くても良いよ」
ゲンヤがこういう危うい発言をするのを嬉しく思ってしまいついつい絆されてしまうが、先程の軽率な約束を反省して主人の狭過ぎる視野を広げようと努力する。
「そういう訳には参りません。社交界で上手くやっていく為にも少しは慣れておくべきです」
まだ何か言いたげな目を見てしまうと意志が揺らぐので目を閉じてダメ押しをする。
「侍従長からも強く言われております。もう少し下々の者にもお優しく接するように、と」
「はあ
…
わかったよ
…
」
侍従長であるギョウメイは護衛としてサネミの師であり、ゲンヤを乳飲児の頃から世話している重鎮のため、サネミの頭が上がらないのは勿論の事、“侍従長から”と言われるとゲンヤも渋々頷くしかないのだ。
「大丈夫ですよ、元々ゲンヤ様はお優しいのですから最初だけ少し勇気がいるかもしれませんがお話してみれば優しい者達ばかりです」
「じゃあ、サネミも一緒に来てくれる?」
バチっと目が合ってしまった。いけない、この子犬のような子猫のようなとにかく可愛いお願い目線に抗う術をサネミは持っていなかった。
「勿論ですとも」
しまったと思った時にはニッコリ微笑んで答えていた。我ながら恐ろしい。
「あのっ、アオイって子はいる?」
「ゲンヤ様!こんな所へお越しいただくだなんて!もしかして私何かまずいものを
…
?」
真っ青になり泣きそうなアオイを手で制して大丈夫と頷いて見せる。着いて来たのは正解だったようだ。
「えっと
…
今日のスープ美味しかったから、また作ってください
…
って言いに来た」
もじもじと半分サネミに隠れながら言うゲンヤを見てアオイの目にみるみる涙が浮かぶ。
「そんな
…
ゲンヤ様
…
お越し頂いた上にお言葉を賜りありがとうございます。他にもお気に召した物があれば何なりとお申し付けくださいね」
「わっ!泣いて
…
どうしようサネミ!」
「悲しくて泣いてるのではありませんよ、ゲンヤ様から直接お褒めの言葉を賜る事が嬉しいのです」
「そ、そうなの
…
?」
アオイは涙を拭いながらコクコクと頷く
どうやら本当に自分の言葉に喜んでくれている様子にゲンヤは自然と笑顔になった。
「そっかあ
…
じゃあ、また美味しかったら報告に来るね」
「嬉しいです!ゲンヤ様そうやって笑っておられるととても優しいお人柄がみえるようです。お気に召したものでも、その反対でもむしろお嫌いな物は改善のきっかけになりますので大歓迎ですし、どうかまたお越しくださいね!」
「う、うん」
「さ、そろそろ湯浴みのお時間ですよ」
「わかった。またね、アオイ」
「はいっ」
アオイはゲンヤが視界から外れて角を曲がっても深く頭を下げていた。
「サネミ、ありがとう!サネミの言う通り優しい人ばっかりだった」
湯浴みをして上気した無防備な肌を晒したゲンヤはとびきりの笑顔でサネミにお礼を言う。
あの後、通りかかった侍従の者にもゲンヤは話かけてみせ、普段自分の剣や武具を手入れをしている者だと分かるといつも怪我なく過ごせるのはあなたのお陰だと言うと泣きこそしないが大変喜ばれた。
ゲンヤは元々優しい素直な性質でひと度心が通えば求心する事は容易だった。
そつなく人付き合いをして、決して懐には入らせない自分とは真逆の性質だ。
自分から話掛けることが出来るようになり、打ち解けていく様子は微笑ましく、喜ばしい事の筈なのにゲンヤが明るくなる程サネミの心は狭く暗くなっていた。
***
気に食わない。何もかも気に食わない。
ゲンヤが自分以外の人間と打ち解けていく事も自然な笑顔が増えた事も、この1ヶ月で急に身長が伸び始めた事も。
他の者にゲンヤの世話や授業の時間を少しずつ取られ、自由な時間が増えてしまったサネミは執務室で鬼のように仕事を片付けながら腐っていた。
そこへ侍従長がトドメを刺す。
「近頃ゲンヤ様は随分明るくなったようだ。ようやく兄離れかな?」
「
……
はあ」
剣呑な様子を隠しもせずに侍従長を睨みつける。
「兄の方は複雑なようだ
…
フフ
…
恐ろしいな」
「チィッ」
「品が無いぞ」
「失礼致しましたァ」
「主人の成長が喜ばしくないか」
「そりゃあ、嬉しいですよ」
自分を、自分だけを慕うゲンヤを見るのが喜びだったとは絶対に言えない。
自分の目の届く範囲に、出来る事なら自分の手が届く所へ閉じ込めてしまいたいとさえ思っているが、この昏い想いが世間にもゲンヤにも認められる事はないだろう。
いつかあの人は誰かのものになる。
だけどあの日確かに約束をした。お互いが一番大切だと、愛はわからないが自分に贈り物をしたいと。
自分はきっとその贈り物を、約束を、今生の思い出に一生手離さず大切にするだろう。
***
「アオイいる?」
「ゲンヤ様!またこんなところにお越しになって
…
!」
給仕係が正式にアオイになってからゲンヤはしょっちゅう厨房へ顔を出していた。正確には実際に調理を行う調理室ではなく配膳室だが。
先日直々に声をかけられた時アオイは嬉しさのあまり咎める事を忘れていたが、厨房という裏方の仕事場に王族が顔を出す事は通常ありえないのだ。
食堂へ呼び付けられ料理の内容を聞かれたり、稀にお褒めの言葉を預かったり、逆に手打ちにされる事はあっても、こうも気安く厨房に顔を出す身分の高い人間は今までいなかった。
「ごめん、迷惑だったか
…
」
しかもこの様に叱られた子犬のような顔をされては敵わない。
「いえ、私はまったく迷惑ではありません。ただ、私のような小間使いにゲンヤ様のようなご身分の方が頻繁に声をかけていては周囲の者が何と言うか
…
ゲンヤ様のご迷惑にもなります。」
「迷惑?何で俺が?」
「
…
私がゲンヤ様を誑かしていると思う人間もいるという事です」
ですから屋敷内での行動はくれぐれも慎重に、と続けようとした瞬間空気が変わる。
「何だよそれ
…
アオイに嫌な事言う奴がいるって事か!?
…
許せねえ!」
「ちっ違いますゲンヤ様!誤解です!」
「誰が言った」
「誰も言ってません、大丈夫です!」
この人はたかが給仕係の自分にこんなにも優しい。
何と言ったら収まってくれるだろうかとハラハラしていると後ろからズカズカと遠慮のない足音が近付く。
「おうテメエか!アオイにちょっかい出してるって奴は!あんま強そうじゃねえな!」
ガハハと豪快に笑うその男は猪頭を被せ半身は逞しく裸のまま、腰には蓑のように猪の毛皮を巻き、足元も何やら毛皮で出来た脚絆をつけている。
肩には獲物であろう兎が5匹、麻紐で括って担いでいる。
あまりにも風変わりな容貌と勢いにゲンヤは面喰らって先程までの怒りも自分が馬鹿にされた事もすっかり忘れて目を丸くしていた。アオイが間髪入れずに言葉を返す。
「イノスケさん!!ゲンヤ様に失礼な事言わないで!それに入る時は裏口からと何度も言っているでしょう!!!」
アオイは猪頭の男、イノスケの剥き出しの腕をつねり黙らせて厨房に引っ張っていく。
アオイ強いな
…
嵐のようなイノスケを調理室に押し込むとアオイが身体を90度に曲げて謝る。
「大変失礼致しました!」
「なあ、アオイに嫌な事言ったのアイツか?」
「へっ?!いえ
…
あの
…
」
どうやら正解のようで、アオイは青ざめている。先程のやり取りを見る限り主導権はアオイにあるが、どうにもあいつに弱い所があるらしいのは見てとれた。
「俺一発ぶん殴って来ていいか?」
「ダメ!」
思いの外強い否定にゲンヤは驚く。
アオイも咄嗟に出てしまった否定に自分で驚き両手で口を塞いでいる。
「ごめんなさい、あの、でもイノスケさんがクビになってしまったら新鮮な肉が手に入りにくくなりますし
…
その、どうかお許し頂けませんか
…
」
珍しく歯切れが悪く消え入りそうな有り様のアオイを見て、ゲンヤはひとつの直感を得る。
「もしかして、アイツのこと好きなのか?」
「ヒェ!?ちが!違います!!全然まったく好きじゃありません!!」
真っ赤になって慌てて否定するアオイを見て確信していると、後ろから猪頭が顔を出す。
「じゃあやっぱりお前このゲンゴロウとかいう奴が好きなのか
…
!」
ゲンゴロウ誰だよ
獲物を置いてやはり裏口ではなく表玄関から堂々と帰ろうとしている。
「違うわよ!何度も言ってるじゃない!ゲンヤ様はこの国の王子様なのよ?お優しいから今お咎めなくいられるけれど普通ならあなたとっくにクビよ!!」
「ハンッ!こいつが王子なら俺は山の王だ!王子なんかよりよっぽど強えぜ!」
「もう!何訳の分からない事言ってるのよ!」
ガハハと豪快に笑う様子にゲンヤは完全に毒気を抜かれ怒りもどこかへいってしまった。
多分この生き物には常識や言葉が普通には通じない。
それにしてもアオイは本当に強い、こんなおかしな奴が好きだというのも面白い。
恋愛っていうのは分からなかったけど、この二人がお互いの事を好きだとわかる。きっと身分とかそういう事は関係なくお互いの生き方が好きで波長が合うんだと思う。
「いいな、そういうの」
騒がしくやり取りする二人を見てゲンヤはポツリと独り言ちた。
最近、屋敷内ではゲンヤが召使いのアオイに手をつけたという話題で持ちきりである。
話によれば、ゲンヤから見初めたらしい。
最初、娘の方は身分違いから身を引こうとしたがゲンヤが強引に召し上げたようだ。
ようやくあの王子にも春が来て、態度も柔らかくなっていくだろう。
周囲の期待と関心を乗せた噂の内容は勿論サネミの耳にも届いていた。
毒味と給仕から外され、厨房へ行く事も無くなったのでアオイの様子を見る事も出来ず、ゲンヤはこのところ随分ご機嫌で、それはつまり
…
と自分でも納得するしかない状況だった。
あの約束も反故になるかもしれない、自分から招いた事とはいえ、ゲンヤがこんなに早く周囲に打ち解けるとは思っていなかった。
表には決して出さないようにと思っているが実弥の胸中は嵐の如く嫉妬と羨望の風が巻き起こっていた。
剣の稽古と算術の担当はサネミが死守した時間であり、ゲンヤにとっても一番大切な時間だ。厳しいのが玉に瑕だが。
今日もたっぷりと課題の数式を解いて解いて解きまくったので最後にご褒美のお話をせがむのだ。
「今日は物語じゃなくてサネミの話が聞きたい」
「私の話なんて聞いても面白くありませんよ」
「良いから、ひとつだけ質問!サネミは甘い食べ物好き?」
「好きですよ」
「そっかあ」
へへ、とはにかみながら聞くゲンヤは可愛らしい。しかしそんな事を聞いて楽しいのだろうか。今日もこの後あの娘の所へ通うのだろう
…
「私からもひとつ質問よろしいでしょうか?」
「え!いいよ!何だろ」
珍しいサネミからの質問に二つ返事で快諾してしまう。
「最近給仕の娘との仲が噂されていますが、ゲンヤ様はあの娘をどう思っていらっしゃいますか?」
「給仕
…
アオイ?うん、だってサネミが教えてくれた子だし、真面目で他の女の人みたくあんまり緊張しないで話せるし、い
…
」
掌で牽制され話が途切れる。サネミの様子がどうもおかしい。
「わかりました、もう結構です」
一体どうしたと言うのか、全く状況が分からずにいるゲンヤを置いてサネミは手早く書類を片付け丁寧に一礼をして部屋を出て行ってしまった。
「サネミ
…
?」
ひとり残されたゲンヤは何もない空間に呼びかける。
自分は何かおかしな回答をしただろうか?サネミは何を聞きたかったのだろう。あれは完全に拒絶だった。
確かに最近アオイとは仲良くしている。親切で話もしやすいしゲンヤの知らない事を沢山知っている。大切な妹のようだとも思っている。
何よりサネミに紹介してもらったという事が大きい。
ゲンヤは昔からサネミが導いてくれる先は絶対に安全だという盲目的な信頼がある。
だからサネミから紹介された色々な人に話を聞いて、勉強をして追いつきたい、いつか肩を並べたいと思っているのに
…
それにしても自分で選んだ事とはいえ、サネミと過ごす時間が減っている事に少々
…
いや、かなり不満がある事も確かで今みたいにサネミがいつもと違う様子であっても、以前は食事や湯浴みの時間で話す機会はいくらでもあったのが、今では明日のこの時間までお預けである。
これまではサネミの負担が大きく異常だったと侍従長にも言われていたので一度変更した事をまた以前のように何もかもという訳にはいかない。
八方塞がりで心まで取り残されたような重たい気持ちだが、今はやる事がある。
何とか背筋を伸ばしてゲンヤは日課となりつつある厨房へと向かった。
***
完全に失恋した。
ゲンヤはあの娘が好きで、自分は男で一介の召使いに過ぎない。アオイは女で城に仕え王族へ対面が叶うのだから身分は低くない。妃は別に貰うにしても側仕えくらいは許されるようになるのだろう。
ハッキリと言われていないが、あの仲睦まじい様子では恐らく約束も贈り物も無かったことになる。
義理堅いゲンヤの事だから贈り物は用意してくれるかもしれないが、期待はしない方が良いだろう。
世界中が灰色に見え、全てを呪いたくなるような気持ちでいた所で、頼んでいた物が届いた。
「いよぅ!シケた面してんな!俺様直々のお届けだってのによお!」
ノックも無しに部屋へ入って来たのは昔から付き合いのある豪商のテンゲンだ。
「珍しく浮かれたモン頼んで来ると思ったんだがなあ?」
派手な美丈夫はビロード張りの小さな箱を差し出す。
確かにこれを頼んだ時は天にも昇る気持ちで浮かれていた。箱を開けると注文通りの物が収まっている。あの日の約束と紫の澄んだ水晶が重なる。
「ああ、良い出来だァ、お代はそこに」
男はたっぷり金貨の入った袋を改めると納得した様子で懐へ仕舞い、代わりに酒瓶が出て来る。
「毎度!ところでテンゲン様は気が利くからこんなモノも用意したんだが
…
」
「
…
貰おうか」
いつもは酒など飲まないが、こんな日は飲んでしまった方が良いかも知れない。
「珍しいねえ、愛しの王子様は良いのかよ」
「今日はもう仕舞いだァ、問題ねェよ」
持ち込まれた酒と部屋に置いてあったが殆ど手をつけていなかった酒まで飲み干してしまったので厨房へ向かうと、ちょうどゲンヤが出て来たところだった。顔を見るなり表情がパッと明るくなりサネミの方へ小走りで寄って来る。
「サネミ?どうしたのこんな夜遅く
…
」
ゲンヤこそこんな夜更けまで何をしていたかは明確で、タイミングが最悪な自分に嫌気が刺す。
大して酔ってもいないが酒の力を借りてつい悪態をついてしまった。
「ゲンヤ様、お楽しみも良いですが、この様な場所ではあの娘にも無体というものです。ご自身の部屋へ誘われては?」
「無体?夜は確かに冷えるけどそっか
…
でもここじゃないと出来ないし
…
ていうかサネミお酒飲んでる?すごい匂い」
ここじゃないと出来ない?一体どんな無茶な
…
優しい性質と思っていたが閨ではサド気質なのか
…
?と眩暈を覚えながら立ち尽くしているとアオイが出て来た。
「ゲンヤ様忘れ物です」
手には膝掛けがあり、そこには2人分の温もりがあったのだろうと思われて全身が軋むようだった。
「ああ、ありがとう。なあ、アオイ身体痛かったりする?」
まさかここで聞くのか?!聞きたくないと思ったが身体は硬直し身動き出来ない。
「いえ、まったく。立ったままには慣れていますし合間には座らせて頂いてますから」
立ったまま
…
時には座らせて
…
?
「サネミがアオイの事心配してて、身体は大丈夫かって、俺の部屋で休んだ方が良い?」
「はい?!」
驚いたアオイだったがそれ以上に固まっているサネミを見て合点がいく。
「
…
ゲンヤ様」
「はい」
アオイからピリッとした物を感じゲンヤが緊張に身を硬くする。怒っている。
「女性を部屋に、しかもこんな夜更けに招くという事は閨を共にするという事です。いらぬ誤解を生みますから今後はお控えくださいね」
毅然として断るアオイにゲンヤは唖然とする。
「へ
…
?ねや
…
?」
という事は今まで夜に厨房へ行っていたのも見る人によっては自分がアオイと「そういう事」をしに行っていると思われても仕方がないという事だと気付くと、ゲンヤは頭の先から指先まで真っ赤になり物も言えなくなってしまった。
アオイは所謂「通う」意味を分かっていたが、ゲンヤに他意が無い事も勿論分かっていたので、自分から意味を伝えるのは逆にゲンヤを欲しがっていると取られても困ると思ったからここまで何も言わずに、周りから何を言われても適当に誤魔化してきたのだ。
なのに一番教示すべき立場の人間がこの様子では
…
沸々とした怒りを抑えて隣で同じように呆けているサネミへ冷ややかな目線を送る。
「サネミ様、こういった慎みをお伝えするのは女性からではなく貴方の様な一番側に仕える方のお仕事と存じますが」
事ここに至ってようやく事態を把握したサネミが正気に戻る。
「仰る通り、私の力不足故にご迷惑をお掛けした。この通り謝罪する」
身体を深く折り謝罪をする。全くもって恥ずかしい。全身が燃えるような後悔があった。
厨房で何をしていたかまでは分からないが二人が恋仲では無い事は明白だ。
「分かって頂ければ私は何も問題ありません、ゲンヤ様をお部屋へ連れて行って差し上げてください」
ゲンヤの様子を見るとまだ全身を赤くして動けないでいる。確かにこのまま一人で部屋へ戻す訳にはいかないと思った。
ゲンヤを部屋へ連れて行き、気付にブランデーを一滴垂らした紅茶を渡すと一気に飲み干してようやくひと息ついたようだった。
「俺、アオイとは何も無いよ」
「はい」
「サネミ、誤解した?きっと他のみんなも俺がアオイの事好きだって思ってるよね
…
」
ため息を吐いて両手で顔を覆い、ぶり返した恥ずかしさを何とか抑えようとしている。
サネミは聞きたい事がたくさんあったが、この状態のゲンヤに質問をいくつもするのは酷だと思いどうしても気になる事だけ質問する事にした。
「ひとつお伺いしてもよろしいですか?」
「うん」
「ゲンヤ様は厨房で何をしていらっしゃったのでしょう」
「やっぱり
…
気になるよね
…
当日まで内緒にしようと思ってたんだけどな
…
」
ゲンヤは力無く項垂れたが、少し照れたように笑って話してくれた。
「サネミに贈り物作ってたんだ。チョコレートのお菓子。俺料理なんてした事ないからさ、アオイにイチから教わって、思ったより時間かかっちゃったけど何とか形になったから、明日食べられると思
…
」
言い終わる前にサネミはゲンヤを抱き締めていた。
何故信じる事が出来なかったのだろう、ゲンヤが約束を反故になんてする筈も無かった、こんなにもいじらしく自分の為に時間を使ってくれていたのに。
「ごめん
…
なさい
…
貴方を疑ってみっともなく嫉妬をしました」
絞り出すようにやっとそれだけ言った。自分の言動を振り返ると羞恥で身を焼かれそうな程なのにたったひとつの贈り物でこんなにも気持ちが昂揚するなんて
…
抱き締められたゲンヤは驚きはしたものの、少し落ち着いていた。いつも冷静なサネミの慌てた様子が何だか可愛らしくて、嬉しさが勝った。
サネミが嫉妬した、寂しいと思っていてくれた、自分達は同じ気持ちで、お互いが初めての相手なんだという確信が勇気をくれた。
「いいよ、俺も一緒の時間減らしちゃってごめんなさい。時間が欲しかったんだ。他にも
…
たくさん勉強してサネミに追いつきたかったし」
しがみつく様なサネミの背中をぽんぽんと軽く叩いてみると自分が癇癪を起こした時にこうして貰ったなあとくすぐったい気持ちが湧き上がる。
何だろう、サプライズが失敗してガッカリしてたのにサネミが可愛くて嬉しくて、顔がニヤけてしまう。
もうひとつサプライズしてみようと悪戯心が湧き上がる。
「ねえ、明日の夜さ、俺の部屋で一緒に寝て欲しいんだけど
…
」
しがみついていたサネミが今度は一気に身体を離す。大きな眼を見開きバチっと音がするような視線をぶつけて、ゲンヤの両肩を持つ手には力が込められ、全身で無言の問いかけをしてくる。
予想以上に真剣な反応にドキリとして心臓が高鳴る。悪戯心はあるけど覚悟が無い訳ではない。コクリと喉を鳴らし、目を合わせて答える。
「い
…
意味は、分かってるよ?分かったのさっきだけど
…
でも、具体的にどんな事するのかは分からないからサネミが教えて
…
ね?」
「それも贈り物ですか?」
食い入る様な目線が痛い、肩に食い込む指も。
「えっ贈り物になるの?教えてもらうのに
…
?」
どう考えてもご褒美でしか無いのだが、それすらも知らない無垢なゲンヤを自分がこれから手取り足取り開いても良いと言う。あまりの事に益々手に力が入りさらにゲンヤの肩に指が食い込む。
「サネミ痛い
…
」
「もっ申し訳ありません、取り乱しました
…
」
ハッとして両手を離し、頭を下げる。
「もしかして痛かったり怖かったりする
…
?」
「はっ、いえ
…
個人差があるかと
…
」
「サネミは恋愛経験ないって言ってたけど、その、そういう事は
…
?」
「一般的な知識としては
…
」
答えながら拙いこれは上級者を呼ばれお役御免になる流れかと思うと意外な反応が返ってくる。
「じゃあ、一緒に勉強出来るんだ。明日楽しみにしてるね
…
」
はにかみながら頬を染めるゲンヤがあまりにも可愛らしく、今すぐにでも手を出したかったが部屋に客を残したままだったのを思い出す。
「はい、それではまた明日。おやすみなさいませ」
どうにか平静を装い丁寧にお辞儀をして退室すると、疾風のように自室まで駆け戻り色事に詳しい客人を質問攻めにした。
***
2月14日、約束の日はサネミは揃いのデザインのイヤーカフを、ゲンヤはチョコレートのケーキをそれぞれ贈り、密かに初めての夜を迎えた。
殆どキスだけでゲンヤが果ててしまい、それ以上の事はお預けになったが、この先に待っているいくつもの夜を思うとサネミは興奮して眠れなかった。
健やかな寝息を立てるゲンヤの髪を梳きながら、大きな窓に降る様な星をいつまでも眺めていた。
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