千代里
2024-03-27 12:54:40
8080文字
Public 君ふれ短編
 

ケイとミィハの話・短編・その2

コスタに向かう道中の話

 リムサ・ロミンサからコスタ・デル・ソルがあるブラッドショアまで辿り着く方法は、主に二つある。
 一つは、チョコボ車を使って陸路で向かう方法。そしてもう一つは、リムサ・ロミンサから出ている船を使う方法だ。
 海に面したコスタ・デル・ソルには当然ながら船着場がある。リゾートに向かう乗船客が使う船はもちろんのこと、漁師にとってあの地域も立派な漁場であるようで、相乗りさせてもらう冒険者も少なくない。
 しかし、今、ケイはチョコボ車の荷台から降りて大きく伸びをしていた。びょうびょうと吹き渡る海風に短い髪の毛を靡かせ、勢い余って吹き飛ばされそうになる外套を肩から羽織り直す。
 塩っけの強い風はリムサ・ロミンサでは当たり前のものだが、今日に限っては常よりも強くケイの体にぶつかり、うっかりするとつんのめりそうになるほどだ。
「やはり、船ではなく陸路を選んで正解だったな。出発するときもそうだったが、また風の強さが増している」
 傍らにやってきた友人ことミィハの発言を聞いて、しかしケイは唇を僅かに不満げな形に歪めた。
「そりゃ、そうかもしれないけどさ。せっかくだから、俺は海からコスタ・デル・ソルを見てみたかったな。だって、すっごく眺めがいい所って話じゃないか」
「景勝地ではあるのは事実だが、眺めのよさと海の荒れ模様はまた別だ。風が強ければ、それだけ船が揺れる。船酔いで気分が悪くなっても知らないぞ」
「う……それは、多分大丈夫だと思うけど……
 以前、ウルダハからリムサ・ロミンサに向かう道中で、ケイは一度船に乗ったことがある。その時は船酔いで苦しむことはなかったが、あれは海が荒れていない天気をミィハが選んでくれたからだ。大きく揺れる小舟も船酔いも、ケイにとっては未知の経験だった。
 ケイたちが海路ではなく陸路をとった理由――それは、今もごうごうと吹き荒れる強風が原因だ。いざ出立という段階になって、風が強くなる気配を察知したフェリキシーとミィハが、揃って陸路を使うように主張したのである。
 日程を考えてもまだ余裕はある。強風に煽られて海上で立ち往生するよりは、安全な陸路を取った方がいい。二人にそう主張されて、同道者であるケイもユキハネも首を縦に振るしかなかった。
「ケイさーん。この後、一旦休憩とするそうです。食事などをする場合は、今のうちに済ませておいた方がいいと御者さんから言伝がありました」
「分かった。いつもの小休憩だね。ご飯はさっき食べたところだし、俺は軽く見張りをしておくよ」
「お願いします」
 ケイが降りた別の荷台から、ユキハネが伝言を伝えてくれた。ケイは軽く手を挙げ、それに応える。
 重たい荷物をチョコボを使って長距離運ぶためにも、ケイたちが相乗りさせてもらった商隊は水場や開けた土地を見つけると小休憩を都度挟むことにしていた。その間、ケイたちは同乗の礼として魔物たちへの警戒を買って出ていた。
 早速、ケイは魔道書の魔法陣を介してカーバンクルを召喚する。見慣れた宝石の使い魔は、召喚されると同時に荷台にかけられた幌を軽々と上っていく。そうして幌のてっぺんから周囲を観察してくれているのだ。
 カーバンクルに偵察を任せて、同じく見張りに徹しているミィハへとケイは駆け寄る。彼は見張りだけではなく、地図を広げてこの後の予定も考えていたところだったようだ。
「ミィハ、目的地まで後どれぐらいか分かった?」
「この分なら、あと一時間もすれば到着するだろう。今日中には、依頼主のところに顔を見せられそうだな」
「本当!? それなら、今日は野宿じゃなくてコスタ・デル・ソルの宿を使わせてもらえるんだね」
「そういう契約になっているはずだからな。あいにく、到着は夜になりそうだが……
 いくら景勝地として名高くとも、すでに空は夜の帳が降りかけている。おまけに、今日は生憎の曇り空だ。満天の星空さえ、この様子では望めないだろう。
「大丈夫大丈夫。遊びに来たわけじゃないんだし、天気が多少悪くても俺は気にしないよ」
「そうなのか? なら、君が荷物に水着を入れているように見えたのは僕の気のせいだったか」
「う……っ。いや、終わった後、ちょっとぐらい泳げたらなあって思ってはいるけど……
 話をしながら、ケイたちはチョコボ車から少し離れて、街道の先へと歩き出す。向かう先に魔物がいないか確認するためだ。
「やっぱり、依頼が終わった後であっても遊ぶのはやめた方がいいかな?」
「いや。君がやりたいなら僕は構わない。ただ、僕は泳がないからな」
「そうだね。ミィハは……まずは体を浮かす所から慣れた方がいいだろうね、うん」
 ミィハの家の近くにある海水浴場で泳ぎの練習をした時のことを思い出して、ケイは少しばかり遠い目になる。
 今まで、体の事情もあって、海水浴はおろか水泳すらさせてもらえなかったミィハは、浅い海に半身をつけるだけでも随分と慎重になっていた。全身には緊張が漲っており、そんな有り様では当然ながら体を浮かせるなどという初歩の技法もまともにできず、道のりは未だ険しいといった状態だった。
「でも、ミストヴィレッジの砂浜とは違う景色もあるだろうし、ぶらつくだけでも楽しいと思うよ。俺、海辺のリゾート地なんて初めて行くし!」
「グリダニアやウルダハにリゾート地はなかったのか?」
「ウルダハには遊技場はあったけど、自然の中で遊ぶって考えはなかったなあ。どこも乾燥して砂っぽかったし、そんなことよりも知り合いを家に招待してお喋りしてる方が好きな人が多かったんだよ」
 ウルダハもグリダニアも、ケイにとっては楽しい記憶ばかりが残る場所ではない。だからこそ、彼がどんな受け答えをするか、ミィハは微かに緊張を持って見守っていたの。しかし、ミィハの懸念を超えて、存外にケイはあっけらかんとした様子で答えてくれた。
 過去の出来事を完全に忘れたわけでも乗り越えたわけでもないだろう。それでも、自分の積み重ねた経験の一つとしては受け入れられている。そんな彼の様子に、ミィハは内心で小さく安堵の息を吐いていた。
「シャーレアンはどうだったの? シャーレアンは海に面してるんだよね。リゾート地ってなかったの」
「あそこは学問に基軸を置いた国だから、そのような行楽の施設はなかった。強いて言えば、生物の生態系観察のために、各地域の気候に合わせて調整を行った地下施設はあるようだったが」
「えっ、なにそれ! 何かすごそう! じゃあ、ミィハはそこに遊びに行ってたの?」
「いや、関係者以外立ち入り禁止だった。僕のような若輩の研究者では、入り口を覗かせてもらうのが精々だったな」
 それに、たとえ施設側から立ち入りの許可が出たとしても、ミィハの両親が息子の入場の許可を出さなかっただろう。調整された気候のせいで体調を崩したら、危険な生物に出会して怪我でもしたら。そんな理由をあれこれ並べ立てて、ミィハを自分たちが定義した安全地帯に閉じ込めていたに違いない。
……ケイよりも、僕の方がよほど引きずっているな)
 過去をただの思い出として切り捨てられないのは自分も同じだ。己の立場を顧みて、ミィハは自嘲の笑みをこぼしかけた。
「あ、ミィハ。ちょっと待って」
 だが、ミィハがそんな思考に没入する前に、ケイが彼に制止の言葉をかける。
 言われるがままに足を止めると、薄曇りのせいで少し早く訪れた暗闇の中、ケイが金色の瞳を爛々と輝かせて草むらを凝視していた。
 ムーンキーパー族であるケイであっても、猫のように極端に夜目が利くわけではない。それでも、他種族よりはいくらかは夜の視界は良好なはずだ。
 その日最後の光を投げかけている太陽の助力のおかげで、かろうじて輪郭を保っている草むら。それをじっと観察すること数秒、ケイは草むらに向かって迷わずに歩き出した。
「ケイ。一体どうしたんだ」
「さっき、何か光った気がしたんだ。夕日が雲から一瞬差し込んで、その光を反射したんだと思うんだよね」
 説明をしながら、ケイは草むらの一角でその場にしゃがみこむ。光った何かの正体を発見したようだ。
「何が光っていたんだ?」
「これだと思う。多分、誰かの落とし物じゃないかな」
 ケイが拾い上げたのは、ブラッドショアに続く街道の途中にあるにしてはやや不釣り合いな、細かな細工が施された装飾品だった。一つは腕輪で、一つは首飾りの形状をしている。どちらも揃いの石を使っているようで、薄紫の淡い輝きが日の光を受けてちらりと輝いた。
「これって、お金持ちの人がつけているアクセサリーだよね? 俺、似たようなものをウルダハのお金持ちの人がつけているの、見たことあるよ」
「ああ、恐らくはな。コスタ・デル・ソルは裕福な者もよく遊びに来る場所だ。客人の誰かが落としたのかもしれない」
 見たところ、汚れも少なく傷もほとんどない。落とし物だとしたら、持ち主の元から離れて何日も経過しているというわけではなさそうだ。
――あのさ、ミィハ」
「落とし主を探そうというなら、依頼の後にした方がいい。ついでに探していたら、君は気もそぞろになってしまうだろうから」
「俺、まだ何も言っていないのに何で分かったの!?」
「君の場合、気持ちが全部顔に書いてある」
 ミィハの発言を真に受けたのではないのだろうが、ケイは咄嗟に自分の顔に手をやった。自分なりにポーカーフェイスを身につけようと思っても、ミィハのようにはできそうにもない。
「落とし物を拾っている、ということは周知してもいいだろう。依頼主を経由してリゾートの管理主に連絡をできないか、持ちかけてみる分はいいんじゃないか」
「なるほど、そういう手があったね! じゃあ、早速到着したら、依頼主に話してみるよ」
「それもいいが、あくまで依頼の内容を聞くのが先だ。あまり勝手な行動をすると、フェリキシーに怒られるぞ」
「う……気をつけるよ。フェリキシー、怒ると怖いだろうからな……
 今までミィハと二人で引き受ける依頼が多かった分、ついつい友達と一緒の感覚が抜けきらないが、今回はフェリキシーたちも同道している。
 そのうえ、依頼そのものを引き受けているのはあくまでフェリキシーであり、ケイは協力者に過ぎない。彼に迷惑をかけてしまっては本末転倒だ。
「この件も話す必要があるだろうから、一度チョコボ車に戻ろう。そろそろ休憩も一区切りつく頃合いだ」
 段取りを決めるためにも、ミィハは年若い友人に帰還を促す。彼の意見に首肯を返し、ケイは腕輪と首飾りを懐に仕舞った。
 
 *
 
「落とし物の話? 一体何を拾ってきたんだよ」
 出発して再び荷台の上の人となったケイは、早速同乗しているフェリキシーたちに自分の見つけた落とし物について切り出した。すっかり暗くなった荷車の中、クリスタルの照明を入れたカンテラだけが唯一の灯りとして、ぼんやりと一行を照らしている。
「これ。草むらに落ちていたんだ……って、あれ」
 懐に手を突っ込んだものの、肝心の装飾品たちが指に引っかからない。一瞬ひやりとしたものの、助け舟は傍の友人から差し出された。
「ほら、これだろう。座ったはずみに落としたみたいだぞ」
 ミィハが言うように、ケイのすぐそばに目当ての装飾品は転がっていた。落とした拍子に傷つけていないかとひやりとしたが、幸い表面に歪みや傷は見られない。
「おいおい、大丈夫なのかよ。そんな小せえもん、落とし物だなんだって話する前に無くすんじゃねえか?」
「それもそうだな。だが、荷物袋の中に一緒に入れておいて傷がついても困るだろう」
「うーん、どうすればいいかな」
 フェリキシーの言う通り、腕輪も首飾りも大きなものではない。懐に入れているだけでは、また落としてしまう可能性もある。
 改めてケイの掌の上に載せられたそれらのアクセサリーは、灯りを受けて薄紫の石をあわい暖色に染めていた。静かな光を放つ装飾品を目にして、フェリキシーは鼻の上に皺を寄せる。
……こいつは、ウルダハで作られたもんだろうな。石自体に見覚えはねえが、似たような飾りを見た覚えはある」
「はい、わたしもク・ハナさんが……知り合いの方が、似た作りの細工品を受け取っていたのを目にしたことがあります」
 ケイたちでは曖昧な予想しか打ち立てられなかった装飾品の出自を、フェリキシーたちはあっさりと看破してみせた。恐らく、といった推測ですらない。彼らは「そうに違いない」と断言してみせていた。
「フェリキシー、ユキハネ。君たちはウルダハに住んでいたことがあるのか?」
「住んだたことがあるも何も、俺は二年前より前はウルダハの冒険者ギルドを拠点にしてたんだよ。言ってなかったか」
「いや、はっきりと覚えては……。つまり、ウルダハに長らく滞在していた君がすぐ分かるほどに、この細工はウルダハ流の作りをしているということか」
 ミィハの確認に対して、フェリキシーは数秒の逡巡を挟んだ。
……正確には、ウルダハで流行りそうな彫金細工だって言い方になるな。俺も彫金師どもがどんな細工を施しているかなんて、細かいところまでいちいち覚えてねえよ」
「ウルダハは彫金師ギルドがある街でもあります。お師様は、その徒弟の方々が取り扱ってそうだと言いたいんですよね」
……恐らくは、って前置きは要るがな」
 ユキハネの補足を、フェリキシーは言葉少なに肯定した。普段はすっぱりとした物言いが多い彼にしては珍しく、その言葉はやけに煮え切らないものだった。
「じゃあ、これはウルダハから来た人の落とし物の可能性が高いってことだね。ありがとう、二人とも」
 そう言って再び懐にしまい直そうとしたケイに、「ちょっと待ってください」とユキハネが制止の言葉をかける。
「そこに仕舞っていては、また落としてしまうのではありませんか?」
「あー……そっか。じゃあ、どうすればいいだろう」
「いっそのこと、てめえらで身につけていたらどうだ。そのサイズなら、てめえらの腕やら首やらに合うだろ」
 フェリキシーが指さした通り、腕輪や首飾りはちょうどケイやミィハの体格に合った大きさだった。ユキハネでは体が小さすぎて、腕輪や首に巻きつけるタイプの形状の飾りはぶかぶかして収まりが悪いだろう。逆に、エレゼン族の中でも大柄なフェリキシーでは、そもそも装着することすらままならないに違いない。
……落とし物なのに、俺たちが勝手に着けてていいのかな」
「もう一度無くすよりは良いと思ってもらうしかないな」
 まだ躊躇が残っているケイとは対照的に、必要なことと割り切ったらしいミィハは既に腕輪を手にかけていた。名もわからぬ薄紫の鉱石が、ミィハの腕を控えめに飾っている。
……ミィハってさ。変なところで結構思い切りがいいよね」
「何のことだ?」
「ううん、何でも。人のものを身に付けてるなら、壊さないように慎重に行動しないといけないなあ」
「結果的に、その方が良かったんじゃないか。浮かれたまま依頼を受けるよりも、少し引き締めるぐらいがちょうどいいだろう」
 拾得物で気を引き締めるのはいかがなものかとも思うが、今回は見つけられただけでも僥倖の場所に落ちていたのだ。落とし主にもそう納得してもらうしかない。
「それにしても、思ったよりも平和な道のりだったね。魔物もほとんど出てこなかったし、新人冒険者の人たちが頑張ってくれてるのかな」
 幌の隙間から外を覗き、夜道を眺めながらケイは言う。彼の指摘通り、以前ミィハのクリスタルを拾いに行った時に比べると、今回の道中は平穏そのものだった。せいぜい、群れから逸れたと思しき野犬を数度追い払った程度だ。
「リムサ・ロミンサ近辺に限って言うなら、ケイの言う通り新人の冒険者たちが頑張ってくれているのだろう。しばらく、レディバグすら通らない道になりそうだと、イエロージャケットの者が言っていたぞ」
 レディバグとは、都市の近くでよく見かける甲虫に似た魔物だ。通常の虫より大きいものの、よほどのことがない限り人を襲わない温厚な気性の持ち主である。虫の例にもれず、その数は一定量を行きつ戻りつしているようだが、今は乱獲されて減少傾向にあるらしい。
「コスタ・デル・ソルは傭兵の人たちが頑張ってくれてるんだっけ?」
「そうらしいが、何事も起きずに平和ってわけでもなさそうだぞ」
 答えたのは、ケイと同じく外への警戒を厳にしているフェリキシーだった。今も幌の隙間からわずかに見える外の風景を眺めながら、彼は言う。
「何かあったのか」
「はい、ミィハさん。実は、つい二日ほど前に、帝国軍の兵士がこの付近に姿を見せていたみたいなんです。それで、冒険者と小競り合いをしていたらしいとのことでした」
 ケイとミィハが巡回に行っている間、停泊していた行商の元に別の冒険者が通りがかったのだそうだ。そのときに、彼らがユキハネや商人の面々に教えてくれたのが、先ほどの話だった。
「帝国軍って、この辺りも帝国兵が進軍してきているの?」
「はい。コスタ・デル・ソルからは少し離れたところではありますが、帝国軍の駐屯地があるのは事実です。もっとも、近頃は英雄様の活躍もあって、基地に篭って出てくる気配はないとのことでしたが」
「今ここで兵をあげたところでどうにもならないことは、帝国軍も分かっているだろう。一体何のために?」
 ミィハの独り言めいた質問に答えられる者は、この中にはいなかった。ガレマール帝国軍はエオルゼアの侵略者である。それ以上の知識を、この中の誰も持ち合わせていなかったからだ。
「単に見回りをしていただけかもしれねえけどな。だけど、注意するに越したことはねえだろ」
「うん。俺も気をつけておくよ」
 ケイがそう言ったとき、折よく四人が乗っていた荷台の幌、その前面が大きく退けられる。顔を見せたのは、御者の近くで道案内をしていた商人の一人だ。
「冒険者さんたち、外を見てごらん! コスタ・デル・ソルが見えてきたよ!」
「え、どこどこ!?」
 彼の声を聞いて真っ先に反応したのはケイだった。遅れて、ユキハネも腰を浮かせて荷台の前方へと向かい、前方の幌を大きく横にずらす。そうすると、彼らの向かう先の光景がよく見えた。
「うわあ……!」
 時刻は夜であり、抜けるような青空も、コバルトブルーの海面も到底望めそうにもない。それでも、濃紺の夜空を吸い込んで広がる海と、ビロードのような表面をぽつぽつと照らす暖色の照明は、昼とは違う形でケイたちの目を惹きつけた。
 砂浜と夜の海自体は、ケイの住まいでもあるミストヴィレッジと大差ない。しかし、如何にも南洋を思わせる木々や、幾重にも伸びた桟橋はミストヴィレッジの小さな砂浜とは比べるまでもない。一瞬無限にも広がっているかのように見える、今は灰色に沈んだ砂浜の稜線を見つめて、ケイはひたすらに歓声をあげていた。
「ミィハ、来てみてよ! すごいよ、砂浜があんなに続いてる!」
 興奮気味の少年少女の声に、ミィハは軽く肩をすくめてみせた。どうやら、自分が向かうまでケイはずっと前方の光景に釘付けになっていそうだ。
「悪いが、そっちの見張りは任せていいか」
「ああ。さっさとあいつらの様子見てこい、保護者さんよ」
「悪いな、フェリキシー。どうにも僕の連れは物見遊山の気分が抜けないままのようだ」
「それはお互い様だろ」
 コスタ・デル・ソルの光景に見惚れているのは、ケイではなくユキハネもだ。自分の分も彼女の面倒を見ろとフェリキシーが暗にそう言っているのは、ミィハにも既に分かっていた。
 ケイたちの様子を見に行ったミィハを見送り、フェリキシーは闇に沈んだままの夜道を見るともなしに眺め続けていた。