涼華
2024-03-27 02:48:16
1664文字
Public 支部掲載済み
 

薔薇と野盗虫

ダングレ、↓の続き。それでも1番は譲れないはなし

 車内に漂う花の臭い。発生源は女性陣、ではなく時計頭の我らが管理人だった。
「ダンテ、どうしたのー?その香り」
〈うん?何かにおう?〉
「匂うどころじゃないわよー。なによそのすっっっっっごい薔薇の香り!薔薇の香水付けた子とお茶した?もしかして浮気?グレッグっていう健気でかーわいい恋人がいるのにー?」
〈ロージャ!さすがにそれは冗談でもやめて!〉
 面白いおもちゃが見つかったとにやにやと笑みを浮かべるロージャと本当に身に覚えがないんだよ!と騒ぐ管理人 こいびとを横目で見ながら昨晩見た夢を思い出す。
 それは【茨の花園】、もとい【薔薇の掲示板】に頼まれ身体を貸し、あのひとに抱きしめられる夢だ。夢の中で俺はあいつに身体を貸す一時の間に死にたくなるような地獄の痛みを味わった。あいつが日頃受けている、全身を縛りつける茨に与えられる激痛に加え、茨という支えを失いぼとぼとと肉体が崩れていく痛みは想像を絶するもので。そして薄皮1枚すら無い剥き出しのやわい肉塊同然の身体に触れられるとそれ以上の痛みが襲いかかってきた。通りであのE.G.Oに侵蝕されると触るな、とすべてを拒絶してたくなるわけだ。あんな状態でさらに触れ合いを望むなんて狂ってやがる。さすが幻想体。ヒトの常識が通用しない。
 けれども、まあ。あのひとに抱きしめられたい、って思いはわからなくもない。あのひとはヒトの身体をしていない俺を当たり前のように人間扱いして、おまけに愛してくれる奇特なひとだ。そんなの他にいるわけない。きっとあのひとはおれが虫ケラになろうが肉塊になろうが愛してくれる、抱きしめてくれる。あの幻想体の“俺”にしたみたいに。
 でも、あのひとは俺のものだ。俺の恋人、俺の唯一。俺が、あのひとのいちばん。そこだけは譲れない。今回は“貸して”やっただけ。お前にはやらない。もちろん、他の“俺”にも、絶対に。

「管理人の旦那」
〈っ!違うんだグレゴール!本当に浮気とかじゃなく──────〉
 かちり、とライターで火をつけたタバコをひと吸い。それからふう、と薔薇の残り香を漂わせる恋人に紫煙を吹きかけた。
〈え?は??きみ、きみいまなにして???〉
上書き」
 戸惑う男を無視して胸元に顔を埋める。すん、とにおいを嗅げば薔薇のにおいはかなり薄れた。おまけでもう1回煙を吹きかければしつこい薔薇のにおいは消えた。残念だったな。お前の痕跡なんて残してやるもんか。
よし」
〈よし、じゃないんだけど!?〉
「あーらあらあらあらあらあら!!!」
「グレゴール君!そんなことをすれば管理人殿が煙たくなってしまうではないか!」
「これは問題にするところが微妙に違うんですよドンキホーテさん
 慌てる恋人とにんまり笑顔でこちらを見るロージャ。騒ぎを嗅ぎつけやいやいと騒ぎ出すドンキホーテと、おずおずとそれを宥めるシンクレア。それからゲンナリした顔でなりゆきを見守る他囚人。
「やるじゃないグレッグー!やっぱり嫉妬?」
「うるさいなあ。いいだろ、少しくらい」
「やーん!かわいいー!」
「ぐえ、」
〈ロージャ!ストップ!グレゴールが胸で圧死しちゃうからほんとにストップ!〉
 あとあんまりくっつかないで!私のグレゴールが減っちゃう!そう言って今度は彼に抱きしめられた。

 この馬鹿に甘ったるい空気に耐えきれなくなったヒースクリスがキレ始めるまであと30秒。混乱して滅茶苦茶なことを言う管理人が正気に戻るまであと1分。それから遅れてバスに乗り込んで来たヴェルギリウスさんからの絶対零度の視線が飛んでくるまであと2分。始業時間前の騒ぎはまだまだ続く。










グレゴール
比較的自己肯定感が高めなのは多分正妻の余裕
でもどこからか生やしてきた嫉妬傲慢スキルで完全共鳴を決める

ロージャ
愉快犯

他メンバー
被害者

ヨトウガ
アブラナ科、マメ科、キク科、バラ科他幅広い植物に食害をもたらす害虫
幼虫のことを野盗虫 ヨトウムシと呼ぶことも