ひさね
2024-03-25 21:53:22
1657文字
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秘密の共有

あるいは脅迫とも言う

 宿屋の一室。昼下がり。
 カキは部屋で読書をしている。そこに外出していたケントが帰ってくる。

ケント「ただいま。今日はやけに暑いな」
カキ「……おかえり。日差しが一等強いからだろう」
ケント「あー成る程な。道理で外が眩しかった訳だ」
ケントがカキの所に寄り、本を覗き込む。
ケント「読書とか珍しいな。何読んでるんだ?」
カキ「魔法と科学の融合と歴史に関する本だ。シオンから借りた」
ケント「シオンからか。下心で?」
カキ「まあ、そういうものだろう。話の種になるなら良い」
ケント「……分からなくはないけど分からないな」
カキ「ひとを見る目が無いと?」
ケント「本当に」
カキ、本を閉じる。
カキ「ところで以前から気になっていたのだが」
ケント「ん?」
カキ「日差しを気にしなくてもいいのか、と。髪や目の色からして、全体的に色素が薄い方だろう。日光は余り良くないと聞くが」
ケント「ああ、野生動物でも良く見るあれか。ぼくは余り関係ないな。専ら遺伝だし」
カキ「……そうか」
ケント「何か思う所でも?」
カキ「此方の話だ」
ケント「それをこっちに共有するつもりは?」
カキ「無い」
ケント「下心のことを話すと言ったら?」
カキ「む、脅しか」
ケント「そんな大したものじゃないだろ。隠すつもりもないんだろうし」
カキ「それはそうだが」
ケント「だから大丈夫だぞ。ぼくも出自のこと隠すつもりないし。等価値な話だろ」
カキ「貴方にとっては命に関わる話だろう。貴族……引いてはあの家にもなると秘密主義も甚だしい」
ケント「だって人身供御やってるからな。供物の肉が逃げて、外で捕まったら不味い事この上ない! だから殺す。スラムの側の別邸に集めてるから見つけやすいし、万一殺しそびれても勝手に死ぬ。烏に脳ごと突付かれた一族の割に考えてる方だな!」

 ケントが心底おかしそうに笑う。カキはそれを一瞥してから目をそらす。

ケント「あー、面白い。腹が痛くなりそうだぞ」
カキ「おれは頭が痛くなりそうだが。それも、見つからなければの話だろう」
ケント「そうだな。この十七年間だっけ? 現にスラムにいても見つかってないし、今後見つかることもないだろうな」
カキ「……そのことについて、ずっと考えていたのだが」
ケント「どう考えてもあり得ないって?」
カキ「監視する者がいるだろう。言うに憚られることをしているのであれば尚の事。だがその気配も影もない。撒いたにしては目立ち過ぎている。密告もあるだろう。気が付かない方が不自然だ。それにも関わらず監視者はいない」
ケント「ふーん。それで?」
カキ「魔法を使ったようだな、と思った。認識阻害を起こす魔法があるらしいと聞いた事がある。血族単位でかけることも不可能ではないらしい。失伝した古代の様式でないといけないそうだが」
ケント「成る程。精霊の集まる所に隠遁する高貴な事情があるきみが言うと説得力があるな」
カキ「いよいよ本格的な脅迫だな。手段であって核心に触れたという訳でもない」
ケント「それだけ近付いているって事だぞ。命に関わる事情って奴に」
カキ「それを態々言葉にする辺り、露呈した所で手が出せないようになっているのだろう。もう済んだ事であるとか。……おれと同様に」
ケント「ま、それはそうだな。きみのとこ、跡継ぎは決まったって聞いたし」
カキ「ああ。そうだな」
ケント「今後のご健勝を、と言っておいた方が良いか?」
カキ「……どうだろうな。今後の事は良く分からない。先の事を話せば鬼が笑うとも言う」
ケント「はは。望みは口にすると叶わなくなるとも言うしな」
カキ「言霊信仰もあるが。時と場合に依るのだろう」
ケント「あとは結果だな。結果論に過ぎない。きみは流れに合わせてやることをやっているだけだし、ぼくはぼくで対策としてやる事はやった。それだけの話だぞ。先の事はとてもとても、知れた事じゃない」
カキ「……例に漏れず秘密主義という訳か、互いに」
ケント「はは、そうだな」