2024-03-25 20:55:06
865文字
Public 駄文
 

英霊エミヤという概念

植田真梨恵/さよならの代わりに記憶を消した
sn時空の弓凛

 目を閉じ、開けた瞬間。広がるのは戦の匂い。火薬、血、悲鳴。様々なネガティブな感情だけが渦巻く戦地に降り立っていた。
 命乞いをされる。これも、何度も、何度も。繰り返しても答えは変わらない。引き金を引く力は、変わらないんだ。性別も年齢も一緒くたに、転がるのは同じが匂いがする、ひとつの例外もない遺体だ。

 自分で選んだことだろう?ずっと、ずっと……

 誰も居ない、何もない戦場で、そこに言葉は無く。罵声は聞こえども、感謝の言葉はひとつも聞こえない。
 首元がちくりと痛むんだ。気のせいだと、そう思っても上手く呼吸ができなくなる。もうあの縄は首に掛かっていないというのに、今更。

 正解を探す。正義はどこにあるのかと、頼るものも縋るものも何も無い、モノクロの世界で問うていた。
 返事は無い。返事は、無い。





 ルビーのペンダントが、ひどく手に馴染むんだ。

 巻き戻る記憶。どうせこれも、もう二度と思い出せはしないのだろう。
 分かっていて、もう少しと乞うてみている。馬鹿みたいに、何かを手繰りよせようとしている。
 こぼれた涙があまりにも美しくて、全てが惜しいと、思ってしまったんだ。

 分かっていたんだ、分かっていたんだよ、なぁ。

 もうどうしようもないんだ。縁取った形を見てもその中身はどこにも無くて。
 記憶は残らずとも、事実は変わらず心の中に在るんだよ。




 風に靡く貴女の長い黒髪。
 ティーカップに口を付ける貴女の横顔。
 夜に見た星座の名前を教えた貴女の声。
 天蓋付きのベッドで丸くなる貴女の寝姿。
 機嫌が良いと口ずさむ貴女の歌声。

 その笑顔。
 消えそうな、約束。

 そのどれも、もう二度と触れられはしない。





 掌からこぼれて手首をつたって、いずれ砂は全て落ちていく。

 異変は確かにあった。脳を通さず、この体は勝手に涙を流した。
 欠けていく感覚がした。だが、そこに怯えはなかった。

 遥か遠くへと目指す。
 足元に落ちている砂粒は、もう見えない。