皆瀬茶太(シキゴウ全)
2024-03-24 19:39:51
3351文字
Public 小説
 

叫ぶ前に【バリ/ブル】

JL、ザフラのバリブル。
時期設定は特になし。君が好きだと叫びたいお年頃。
ブルースだって不安だけど年上ぶって隠したり外堀埋めてからだし相手の言葉を先に引き出そうというずるさもあれば、バリーも逃げ道を塞いでしまえば良いと式をすっ飛ばした黒い答えを自分の中で矯正している。純情に育てたいのにできない執着と愛情を飼いならして欲しいバカップル。バリブル

場所はブルースが所有するセーフハウスの一つ。
 ゴッサムシティのど真ん中にあるパーティー用も、バットマンとしていくつも隠してある一つでもなく、ここは橋が見える中心から少し外れたマンションの一室。
 そんな場所で起きて理解するまで2秒。外に出るまで0.1秒、はかかりすぎた。
「やばい」
 僕、裸で出てきちゃった。
「そっちもヤバイけど、もっとヤバイ」
 ブルースとエッチした。
 ああっ 今のセリフを声に出して叫んでしまいたい。
 声に出したら落ち着くかもしれない。絶対無理だけど。
「待って。うわ、思い出した色々」
 もちろん記憶はある。
 僕は今のところ悪酔いなんてした事ないし、多分、そうなる前に消化する。
 そしてブルースも酔ってはいたが泥酔じゃなかった。だってばっちり勃ってたもん。
「うわあ」
 思わずまた移動した。
 さっきがベッドルームのすぐ隣のバスルーム。今は服を取りに行ってバルコニー。
 部屋はいくつかあるけど、外の空気が吸いたかった。多分ブルースはまだ寝ている。
「あ、寝顔一瞬しか見てないや」
 ブルースの起床時間が分からないけど、大丈夫だろう。今日は僕も午前中は休みだ。
 今の僕の心拍数の方が酷い。
 動悸が激しいし顔の火照りも自覚ある。外気じゃ静まってくれない。
「今細かく思い出すと朝勃ちが……
 心無し蹲る。ゴッサムの街はとっくに動き出していて、夜と同じ街にはここからじゃ見えない。
 街の影が思ったより短いことに気づいた。
「そりゃそうか。ブルースが仕事のパーティー参加してバットマンになって僕に付き合ってちょっと飲んでからだから、え、今何時?」
 服に入れっぱなしだったスマホを出すと、午前中ではあった。おはよう? おそよう?
「お腹空いた」
「ひとまずこれならあるが」
 バルコニーの窓が開く音と共に、ブルースが声をかけてくる。
 手には大皿に盛られた昨日の残り物たち。反対の手には瓶の炭酸水。
 残り物といっても、アルフレッドさん手製の食事だ。この部屋の備蓄の確認に僕が付いてきて、入れ替えるならとご相伴に預かったのだ。
 そこにブルースが来て、後はこの通りだ。
「バリー?」
 僕が食事を前にして黙っているのはあり得ない。
 お腹は空いている。ただ、伸ばしたい先が食べ物が先かブルースが先か体が悩んでいるのだ。
 自分でもよく分からない感情でいると、ブルースはバルコニーのテーブルに食事と飲み物を置いて椅子を引いた。
「食べないのか」
……食べる」
 ひとまずブルースの言葉に従う。彼が食べろというならそれが正しい。
 冷めた料理でも美味しい。一口食べれば呼び水となって、どんどん手が食べ物と炭酸水に伸びる。
 ブルースは一口も食べずに、炭酸水のみを時折口に含むだけ。
「もしかして僕に遠慮してる? ブルースも食べてよ」
「コーヒーが飲みたいだけで食欲は無い」
 それよりと、僕の頬に手を添えた。
「おはようのキスがしたい」
 言うなり、頬に当てるだけのキスを受けた。
「っ⁈」
 驚いて立ち上がったけどバルコニーから逃げてはいない。先に僕の手をブルースが握ったからだ。
 彼の体温を離すのは難しい。
「速い君を捕まえるのは気分が良い」
「な、にそれ」
「起きてバリーがいなかったのが、少し寂しかったから」
「なにそれっ」
 座りかけた足がまた立った。でもやっぱり逃げたくはない。
 ついでに残り少なくなった食事も惜しい。
「食べながらで良いし後でも良いが、出来るなら今のうちにバリーの不安は拭っておきたい」
 大きめのパイを齧ったタイミングなのはわざとだな。
 不安。ブルースは不安と言った。
 どうやら僕は不安らしい。
「僕が……どうして不安、だって……思うのさ」
 食べながら聞いて、炭酸水で水分を取る。
 僕は、この人がブルース・ウェインであるのを、妙なことに今実感した。
 僕の手を握り、僕を見て曖昧な笑みを浮かべる。
 それだけで僕は、彼の経験則という統計の中に紛れていたのを悟った。
「やだな」
「ん?」
 駄目だ、空腹が埋まると考えなしに言葉が腹の底から出てきちゃう。
「自分がみっともない。惨めとか恥ずかしいとかじゃないよ、それはブルースがそうさせないようにしてくれているから。みっともないのは、僕は今更どうしようもない事で嫉妬したからだ。それを僕が『ブルースから離れた』事実で僕より先に察しちゃうところを含めてね」
「そうか」
 その余裕ぶった顔。でも、それだけじゃないのは、握られた手から伝わっている。
 僕は生い立ちと能力故に人との距離感がうまくない。
 皆、遅すぎる。だけど、遅い方が普通なんだ。
 僕は人より出来ることが多い。けど、そうではない方が普通で、そんな普通の人たちより正しく相手に伝わるまでのセンテンスが多い。
 ブルースは、それらを最初から受け入れてくれたように思う。
 不法侵入は頂けないけど、今じゃ僕も人のこと言えない。ブルース邸のセキュリティはリーグのメンバーにとって知恵比べのような物になっている。
……確かにブルースと全てが同じ人なんてそうはいないだろうね」
「ああ」
「ゴッサムの寵児だけなら似た人は世界中のどこかにはいるかも」
「リッチマンは俺だけじゃないさ」
「うん。あなたみたいにゴシップ誌をコントロールしたりプレイボーイの浮世を流すのもね」
「そこはアルフレッドも共犯と言っておく」
「ふっ、はは、うん、そうだよね。でもリッチマンでプレイボーイはたくさんいてる。バットマンなのはブルースだけだけど、ヒーローていう広義的なら条件は変わる」
 僕は、握ってくれているブルースの手を握り返した。
「リッチマンでプレイボーイでヒーローで、こうして僕の言葉を待ってくれるとなれば、あなたぐらいだ」 
「惚れた相手だからの打算もある」
「それだと僕んちに不法侵入者の時からだったらになるけど?」
 ふふん、と鼻であしらってみる。ちょっと空気を変えられたかな?
 心はブルースのことだけで逸っているのに、厄介な頭は昨日まで思っていた午後の予定は全てキャンセルか中止だな振り替えはどうしようかなと計算する。
 自分の予定がその通りに進まないのはストレスだけど、こういうのは、違うんだな。
 今は互いに、お互いの為に時間を使っている。
 答えは簡単だ。
 どうして逃げたか。どうして叫びたくなったか、
「ごめん、逃げたのは卑屈になったからじゃないんだ。流れでやったから不安て訳でもないし、あなたを打算し始めてもいない。
 行動が正直すぎて困るんだけど、ブルースが来なかったら僕はここで好きな人とえっちした嬉しさを叫んでたかもしれない。そういう動揺だよコレ」
「んっ、そ、うか」
 喉の奥で笑いを堪えたな。
 空いている方の手で我慢できなかった声を隠してるけど意味ないね。
「さすがにマズイでしょ」
「どうだろうな。俺はゴシップ誌の記者をわざと泳がせるプレイボーイだ」
「リッチマンはその情報も潰せるし?」
「ああ」
 まだ笑ってる。
「そんな変な事言ったかな。絶対そういう事する人、居てたと思うんだけど」
「俺だって好きな人と望む関係になれたなら見せびらかすさ」
「さっきえっちしたヒャッホーって?」
……ジェネレーションギャップは否めない」
「実際したら僕も恥ずかしくて逃げるから」
 そこで年上ぶるのはずるいけど、埋めようもない事実はどこにでも転がっている。
 だから僕は今も消化しきれない言葉が溢れそうだし、まだ僕の知らないブルースの言葉もある。
 手をつなげば解決なんてのは、超能力より魔法の世界だ。
「あ、僕も言い忘れてた。本当は起きたらこう言いたかったんだ」
 すっごくブルースが好きだ。と言ったら
「それはえっちの時に溺れるほどに聞いた」
 ああ、うん、ここで『えっち』て言うのわざとだプレイボーイめ。
「バリーからの言葉はどこで何度聞いても良いが、都合よくそこにベッドがある」
 僕らは魔法使いじゃないけど、セックスした朝の顔ぐらいは魔法使いに勝てる。
 もちろん、お互いにね。