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著者: 雷歌/らいと
2024-03-24 16:51:18
3259文字
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吸死
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【吸死 / ヒヨロナ】好きって言ったら?
ヒ←←←←ロという程度です。
お題箱のお題ガチャ「いい感じの題名欲しいガチャ」をお借りしました。
https://odaibako.net/detail/request/3bae5157-8fa5-4571-80e1-e6d12c806892?card
「我が名は吸血鬼ここ」
「オフの日に出てくるんじゃねぇええ!!」
「ブェー!!!」
バチーン! と、名乗ろうとした吸血鬼はすぐにその右頬に衝撃をくらった。衝撃の元はロナルドの振るったハエ叩きだ。哀れ吸血鬼は、名乗りを完遂することもできずその場で気絶した。
腹の虫がおさまらないのか、もう数発ハエ叩きで両頬を行き来して念入りに叩く。
「ったく、せっかく兄貴と出かける日だってのに」
憤慨しながらも手早くVRCに連絡して吸血鬼の回収をお願いする。VRCが到着するまではそこを動けないので、本日の約束相手である兄のヒヨシにも連絡済だ。
いつものVRCの職員が到着すると、いつも通りの手続きをしつつ吸血鬼を引き渡す。
「どうもロナルドさん。それで、こちらはどういった能力の吸血鬼なんですか?」
「あー、すいません、それを聞く前に倒しちまったんで」
「そうですか。まあ大丈夫だとは思いますが、もし調べて害がありそうなら連絡しますね」
「あ、はい」
それじゃあ失礼しますよろしくお願いします、と早口でやり取りをすると、ロナルドは物凄い速さでその場を去った。
目的の場所にはすでに目的の人物であるヒヨシがいる。
(ああ、兄貴の私服も超格好いい!)
昔はよく見ていたが、今は仕事で関わることが多いため吸血鬼対策課の制服姿をよく見る。もちろんのこと、ロナルドからすれば吸対の制服姿も最高である。
「兄貴! 悪い遅くなっちまった!」
「いや、吸血鬼に遭遇したのならしょうがにゃー。きちんと後始末もしてきたんじゃろ? 偉いな、ロナルドは」
「ああああ兄貴が俺を! 褒めてくれた! もっと、もっと褒められたいからもっと吸血鬼退治してくる!」
「待て待て待て!」
いますぐ駆け出しそうなロナルドの服を掴み、ヒヨシは慌てて止めた。本心ではあるのだが褒めるのも時を考えたほうがええなあ、なんて苦笑する。
「せっかく兄ちゃんと約束したのに、一人にしてしまうのかの?」
「あ! ごめん兄貴、そんなつもりじゃ」
「わかっとるわかっとる。ほら、さっさと行くに」
ぽんぽんとロナルドの背中を軽くたたくと、ヒヨシは先導するように歩き出した。予定していた通りの居酒屋に入ると、それぞれの好きなもの──というより、兄貴の好きなものでいいぜ! というので、ヒヨシがおみゃーの好きなものも知りてゃーなあと言って、好きなものを頼ませた次第だ──を頼む。その際、ロナルドは飲み物はソフトドリンクを頼んだのが、
「なんじゃ、おみゃーは酒飲めんのか」
「ああ、それが俺弱くて
……
」
「そうか、成人したおみゃーと酒を飲みかわすのも夢だったんだがな」
「じゃあ飲む!」
「待て待て! 酒を飲むときは家で飲もう! な!」
それだったら酔いつぶれても店に迷惑かからないからいいだろう、と添えて。わかった! と頷くロナルドにヒヨシはホッと息を吐いた。
(元々素直な子ではあるが、ここまでだったかのう)
どうにも兄に盲信的なところがあるためそれのせいもあるかもしれない、とヒヨシは苦笑する。
美化されまくった話をうっかり聞いてしまった時には、大変慌てたものだ。なんとかロナルドウォー戦記に盛りに盛りまくった自身の話が掲載される事態は防げたが、口に戸は立てられなかった。
頼んだメニューも届き、ヒヨシにはほどよく酒が入り、ロナルドは大好きな兄とたくさんしゃべれて場酔いし、大いに盛り上がった。ヒヨシはロナ戦を読んでいたとはいえ、会えてなかった年数分の積もる話もあったためだろう。
二人とも上機嫌でその帰途へつく。
遅い時間帯になったためであろう。ロナルドは人気が少ないことに気付いた。兄のゆらゆらする手をみて、自身の手をのばす。指先が少し触れたところで、ハッと気が付く。
(いやいや! いくら人気がないとはいえ大の男が手を繋ぐとか! 兄弟とはいえ、大人になってんだから!)
──でも、繋ぎたいだろ?
脳内で、天使のロナルドと悪魔のロナルドが言い合うが、天使のロナルドの声は小さい。みるみる内に悪魔のロナルドが脳内を支配し、
「ヒデオ?」
気付いたら、兄の手を握っていた。
「ヴァー!! ち、ちがうんだ兄貴! これ、これは!」
そういえば、先ほどの酒のやり取りの時もそうだ。今飲んだら兄貴にも店にも迷惑かかるから我慢しなければと言う天使と、飲んだら兄貴が喜んでくれるから飲めば? と言う悪魔がいた。いたのだが、一瞬にして天使は消えて悪魔が脳内を支配したのだ。
「なんじゃあ、手を繋ぎたかったのか? 可愛い奴め!」
ヒヨシは嫌がることもなく、むしろロナルドの手を握り返して歩き出した。
その様子に安堵しつつ、そしてまた違う悪魔が脳内に現れる。
──好きって言ったら?
今の様子だったら酔った勢いでいい返事がもらえるかもよ? と続けて言う悪魔。天使は、酔いに任せるなんてよくない、と訴えるがやはりその声は小さい。
──好きって言ったら?
脳内を支配する悪魔の声に、唇が震える。稀に見る動悸の速さに息が苦しい。ぎゅううと手に力が入り、それに気が付いたヒヨシがどうした? と振り返る。ヒヨシと目が会った瞬間、ロナルドは止まらなくなっていた。
「兄貴、す」
デンワワワ
「ウワァー!! ワァー!!」
あまりに昂った緊張の中だったため、突如として鳴ったスマホの通知音にその勢いのまま取り出し、通話ボタンを押した。いきなり叫び声を聞かされた相手は動揺した声を漏らす。
『えっロナルドさん? どうかされました?』
「あっいえなんでもないです!」
通話の相手はVRCの職員で、ヒヨシと合流する前に回収してもらった吸血鬼担当者の声であった。
『そ、そうですか? あの、さきほどの吸血鬼のことなんですけど』
「あ、はい」
『吸血鬼・心の悪魔に従え、という吸血鬼でして』
「は?」
『人が理性と本能、もしくは善性と悪性で悩んだ場合、本能を選ばせてしまう、という能力ですね』
ロナルドの電話から漏れ聞こえる話に、ヒヨシはなるほどなと頷く。どうにも素直すぎるし行動もすぐ取る。図体はすっかり大人ではあるがまだ子どもなのだろうかとも思ったが、すべては吸血鬼の催眠だったのだろう。
「あ、兄貴悪い。いきなり電話取って」
「いや、VRCからの電話だったんだろ。気にせんよ」
「それで悪いんだけど、俺どうやら来る前に倒した吸血鬼の催眠にかかってる可能性あるみたいで。帰らないといけないんだ」
「そうか、それはざ
……
」
ここで残念だなどと言えば、やっぱ帰らない! とでも言い出しそうでヒヨシは慌てて口を塞いだ。いや、一緒にいるのはやぶさかではないのだが、明日のハンター業に支障が出るだろう。
「そうだな、大事をとった方がええだろうでな。今度は宅飲みでもしよう」
「うん!」
嬉しそうに頷くロナルドに、ヒヨシはよしよしと頷く。そしてふと思い出して
「そういやあ、電話がかかってくるみゃーに何か言おうとしてなかったか?」
「ビャ」
ロナルドは自身の口を思いきり抑えて、首を横に振った。その話題を出さないでくれ、とでも言いたさげだ。
どうやらそれも吸血鬼の催眠によって言いそうになったことらしいと察したヒヨシは、なんか悪い、と謝っておいた。
その後は、ロナルドの妙な話し方に、妙な刺激を与えないようにとヒヨシも気を付けながら話をしていたのでぎこちない様子であった。
事務所に帰ってきたロナルドはひとつため息をつく。
(兄弟の好きだったら、もっとするっと言えたんだろうなあ)
すでにその二文字にこめられている意味は兄弟愛を超えてしまっている。だからこそ、あそこであんな悪魔の選択肢が生まれたのだろう。
「おやお帰り。お兄さんの前で痴態さらさなかったかね」
ひとまずドラルクを砂にして、ロナルドは解決しない悩みを抱えながら深いため息をつくのであった。
end.
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