つぶ
2022-04-20 05:30:57
1063文字
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妄想

王獄 / og1w_tb - 08




 汚い泣き顔に違いない。涙に鼻水とよだれが混じり、低い嗚咽は獣のようで。
……。よく頑張ったね。本当にすごいよ」
 悲しさと苦しさと何よりの後悔、そういうものを険しく寄せられた眉間に垣間見せ、葛藤と決意を、上げては伏せる瞳に映して。
「ありがとう、ゴン太とお話してくれて」
 涙で声をがさがさに枯らして、追い縋る言葉はいっそう稚拙で。
「それから、……
 目に浮かぶよ。ありありと、まるで実際に見てきたように、目の前で立ち尽くす姿が頭の中に流れてる。そのくせ、そんな泣き顔を晒す要因はとんでもなく些細で引くほど下らないものなんだ。あってもなくても良い言葉で、今も未来も変わらない選択で、きっとお前は無様に泣いて見せるんだろうな。
………………さようなら」
 さようなら。
 手の中の小さな、本当に小さな、かつての友達の亡骸をそっと地面におろすゴン太は、始めから終わりまで一貫して泣くことなど無かった。目尻を潤ませることも、声を震わせることもなく、ただひたすらに寂しそうに、さようならと呟いた。
 膝を抱えて地面を見つめる大きな身体。真っ直ぐでかたくなな視線だけが、ひとり置いて行かれてしまった公園の砂場の少年だった。
「あの、……王馬君」
 だからこれは妄想だ。
 頭の中でこちらを見ているみすぼらしい姿のゴン太は虚像だ。
 独りよがりな感情を激しく燃やして、被害者ヅラした顔で迫り、無意識に罪悪感を引き摺り出そうとしてくる最低野郎。
「付き合ってくれて、ありがとう。えっと、……ゴン太、上手く言えないんだけど」
 汚い泣き顔で、決してさようならなんて言わない。
 物分かりよく頷いたりしない。説得なんかされない。なにひとつだって聞き入れない。
「王馬君がいてくれて、良かったって、思うよ」
 置いて行かないで、って、自分の可愛さのためだけに怒鳴る小さい人間。
 全てが、取るに足らない妄想だ。
……。まぁたまたま居合わせただけだけど、ゴン太の役に立ったなら良かったよ! オレみたいな軽薄が服着て歩いてる奴がこの場で言えることなんて何一つだって無かったけどさ」
 吐き捨てた言葉に慌てて頭を振っているゴン太は、いつも通りの、……つまらない奴だ。
「そ、そんな風に言わないで。ちゃんとさようならが言えたのは、王馬君が隣に居てくれたお陰だよ」

 オレのさようならにもお前は。

「ふーん。良かったね、きれいなお別れが言えて、さ」
 喉までせりあがっていた言葉を飲み込んで、オレは正しく妄想を終える。