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つぶ
2021-12-21 03:27:39
1592文字
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ぜんぶダメ
王獄 / og1w_tb - 03
王馬君はずっと笑っていた。顔を背けることも、手のひらで隠すこともダメだよ、と言って、だからゴン太は困ってしまう。他にどんなことがダメなんだろう、そう考えながらきゅうと両目を閉じる。
「あー、それもダメ!」
すぐに触れるほど近くから、王馬君が楽しげに叫ぶ声がする。どうしよう、これもダメなんだ。さっきから速い胸の音がもっと速くなっていく。うぅ、と小さく声が漏れた。ダメと言われても難しい。それを目の当たりにしてしまったら、きっと何が何だか分からなくなってしまう。
カチャ、と小さくかたい音。ふいに鼻筋が軽くなる感覚。ゴン太がかけてる眼鏡を外したんだ、そう気付いた途端に背筋がしなるほど伸び上がった。
これからダメなことをするんだ。
閉じたままのゴン太の右目に、瞼のところに、何かが触れた。ほのかに暖かい。
……
人の体温だ。
「あ
……
」
瞼、目尻、頬骨の下の、柔らかいところ、口の端っこ。
次から次へと熱が移っていく。見なくても分かる。いや、むしろ、見ることなんて出来ない。
どうしよう。どうにか、しないと。
「ぅ、あの、
……
王馬君
……
」
薄く開いた唇の隙間に、ふう、と息を吹きかけられて。
「ひゃっ、う、」
背筋に知らない感覚が走って。
ああもうダメだ。そう思った時には目のふちに涙が滲んでいた。
王馬君の笑い声がする。顔の輪郭をなぞるように触れられて瞼が震えた。つ、と顎を持ち上げられて、あれ、ゴン太、いつの間にか顎を引いていたんだ。それで、
……
これも、ダメなんだ。と、どんどん頭がいっぱいになっていく。
「モチロン、泣くのもダメだからねー」
王馬君はどんどんダメを重ねていく。
「でも、
……
でも、ゴン太、」
「目。閉じるのダメだって、言ったよね?」
強い言い方に息を飲む。結局良い考えなんて思いつかなくて、ただ身体が熱くなっていくばかりで、限界が来てしまった。
恐る恐る瞼をひらく。視線を、ゆっくり上へと持ち上げていく。
「ひ、
……
」
王馬君は、笑ってなんかいなかった。
目尻をほんの少し赤くして、真剣そのものみたいな顔で真っ直ぐにゴン太を見つめていた。
それを見たらなんだかもう、ぎゅうう、と胸が痛くなって、ゴン太はどうしたら良いのか分からなくなって、息も浅くなっていく。なんとか吸い込んだ息を吐き出すことすらはばかられた。もしかしたら、これもダメなのかな。いっぱいになってしまった頭にそんなことがぽわんと浮かんで、それもすぐに分からなくなってしまう。
彼が、ゆっくり近付いてくる。
「っ
……
ねぇ、ゴン太は、」
「うん?」
「息をするのも、は、話すのも、ダメなの、かな
……
王馬君、って、名前を呼ぶのも?」
近付く顔がぴたりと止まる。
王馬君が、目をまたたかせていた。浮かんでいた真剣さが消えて、
……
それから、いつもみたいににこりとして。
「ダメに決まってるでしょ」
それからゴン太は、なんにも見えなくなる。口に触れている王馬君の体温が、全ての感覚を奪ってしまったみたいだった。そわそわ、熱くて仕方ないうなじが下から上に撫でられて、漏れる声すら飲み込まれて、心臓がぎゅうぎゅうと痛くて、熱くて。
「は、ぁ」
ただ、それはたしかに気持ちがよくて。いつの間にか口を開いて、顔を傾けて、舌を突き出して。そうやって身体が勝手に動く瞬間がいつも怖くて、けれどそれだってお見通しみたいに王馬君が手を引くから、繋がれたところを頼りにすればゴン太はいつも戻ってこれる。
「ん
……
」
にじんだ視界の先に紫色の光が見える。
「
……
嘘うそ。いいよ、名前なら」
いくらでも。
唇が触れ合ったまま王馬君がそう呟いて、目を細めた。
名前を呼んだら息をしちゃうよ。ゴン太はそう言いたかったんだけれど、言えないまんま、また何も見えなくなる。
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