つぶ
2021-11-07 01:04:39
1246文字
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決定権

王獄 / og1w_tb - 02




 体温の違いを知っている。首筋は暖かく、手首はぬるく、ふくらはぎは冷たく、頬は熱い。
 視線は合わず、指先は絡まず、顔は背けられ、抑揚に否定が混ざっていても。
「王馬君、」
 知っている。知らないふりをしているのだと。温度は理解の深さだ。熱は知識の蓄えだ。人差し指の背で耳の付け根から顎の先までをつうと撫ぜれば、はっきりとした動揺でもってそこにある真意が浮かび上がってくる。
 粟立つ肌の感触と熱は、正しく指先に伝えられた事実だ。
「っ……、あの、王馬君、ゴン太は」
 よく分からなくて、と続くはずの言葉を撫ぜていた人差し指で制して。
「良いの?」
「ぅ、えっ……?」
「知らなくて良いの? 本当に?」
 胸の前で固く握られている大きな両のこぶしに、人差し指をトンと落として。
「ゴン太が知りたいなら、教えてやっても良かったけど」
 トン、トン、とこぶしの上でリズムを取る指先が、自身の胸へと帰ってくる。
 とん、とん。胸を差す動きに向けられた視線は熱を帯び始めている。
「う……
「実はさぁ、さっきから心臓ばっくばくなんだよねー! 手も震え出しそうで、それを抑えるのに必死なんだー」
…………?」
 両手を広げ、殊更明るい調子で言えば熱はあっさり引いていった。不理解に温もりは宿らないからだ。勿論こんな言葉は嘘で、心臓は正常に穏やかだ。広げていた手のひらをおろして、身体の前でゆるく組む。
「まぁ、嘘なんだけど」
 下がる視線に落胆が混ざっている。真意は、今やこちらの手の中にあった。
「ゴン太は、王馬君の、……
「嘘なんだけど、さ。知らないよね? 実際のところどうなのかなんて。知りようがないよね? こんな嘘つきのことなんか」
……王馬君?」
「ゴン太もさ、知りたくなんかないよね? こんな嘘つきで嫌われ者のオレのことなんて。どうでも良いよね? だってオレは何一つだって本当の事を言わないし」
「ご、ゴン太は」
 組んでいた指先が掴まれる。知っている。何を言うのか。
……知りたいよ。王馬君のこと」
 軽く組んでいただけの右手が大きな右手に覆われて、包まれて。その人肌より少し高い体温がどんな意味を持っているのか、どんな価値を見出しているのか、知っている。
 王馬はちゃんと理解していた。
 彼の首筋は暖かく、手首はぬるく、ふくらはぎは冷たく、頬は熱い。
 触れる意味と温度の価値を、王馬は既に決めている。
「ゴン太の中の、……王馬君のことも」
 視線が合う。指先が絡み、真正面からこちらを見据えた彼の、意味と価値が決まろうとしている。
 嘘が嘘なのか真実が真実なのか嘘が真実なのか真実が嘘なのか。それが決まる瞬間を、ずっとずっと待っていた。
「ゴン太。おいで」
 深い深い笑みが零れた。繋がった右手を優しく引けば、心得ているのか無意識なのか、右手は左胸へと差し伸べられた。
 皮膚と、骨と、肉の下に隠されている王馬の心臓へ、彼の暖かな手のひらが触れる。