【ミスルチ】木に宿るもの

東の国に依頼で行ったミスラとルチルが、木に宿る小美人を見る話です。

 酒を飲んで、酔っ払って、月がきれいで、そんな夜のことだった。
 私たちは東の国での依頼を終え、そこで宿を取った。久しぶりに誰の目を気にすることもなくセックスをして(いつもは魔法を部屋にかけているけれど、それもしないで)、私はいつもより大きく喘ぎ声を上げた。ミスラさんはそんな私を揶揄うこともなく、ただ、丁寧に丁寧に全身を愛撫した。
 月がきれいで、そんな夜だった。私はセックスを終えた後、ミスラさんのたくましい喉仏や、美しい鎖骨や、筋肉のついた胸元にキスをしていって、ミスラさんはそんな私の背中をさすった。
 ミスラさんは厄災の傷で眠れないせいなのもあってか、射精した後もじくじくと熱を発し、後戯がしつこいところがある。私が感じ入って声を上げそうになる微妙なラインを、彼は責め立てるのだ。
 そんなことを考えている時、窓辺がぼうっと光った。私ははて何だろうと思って、身体をさするミスラさんを置いて、寝台に膝をつき、起き上がり、裸のまま窓を開けた(寝台は窓辺にあった)。立て付けの悪い窓と格闘していると、ミスラさんは呆れているのか、それともそこにあるものが何か知っているのか、私の行為には何も言わず、寝台脇のテーブルから水を汲んで飲んだ。
「あ……
 窓を開けてすぐあるのは大きな古木で、そこには小さな美女が、小美人がほう、ほう、と薄く光りながら歌っていた。着物は当世風ではなく、昔の東の国の流行を見せた、そんな服だった。髪の毛の結い方もそうだ。今じゃああんなに凝った結び方はしない。もしかしたら、木に根付く古い妖精なのかもしれない。
「鳥を待っているの」
 私が何か言う前に、その小美人はそうつぶやいた。
「ここから逃がしてくれる鳥を待っているの」
 か細いが迫力のある声に、私は何も言えなくなった。すると、ミスラさんは呆れ顔で、「また魅入られて」と、ため息をついて私にシーツをかけた。
「あれは花魄ですよ。東の国の妖精です。三人以上首を吊った木に、人の無念が集まって生まれる妖怪みたいなものです、あまりいいものじゃありませんよ。悪いものでもありませんが」
「え、でも綺麗ですよ、悪意も感じられません」
……悪意の塊は綺麗なもので、悪意すら感じさせないものなんですよ。それにまぁ、花魄は飼育する人間もいるって言いますから、あなたでも大丈夫でしょう」
 ミスラさんはやっぱり呆れていた。私は怒涛のように与えられる情報に何も言えず、月の下でシーツを掴んだ。すると、ミスラさんはそんな私を見て、花魄に、こう言ったのだった。
「どこへ行きたい」
「遠いところ。鳥がいるところ」
「じゃあ、南の国でいいか。ティコ湖にしましょう。あなたは水浴びが必要だし、あそこは鳥が多いから」
「え、そんな簡単に……
「アルシム」
 ミスラさんは、そう言って、すぐに花魄を飛ばしてしまった。もう光り輝くような小美人はいない。
「あれは悪いものではありませんが、いいものでもありません。次に会った時は会話しようとしないでください」
 ミスラさんはそう言って、私をシーツごと抱き上げ、また寝台に横たえた。さっきセックスは終わったはずなのに、ミスラさんはどこで火がついたのか、彼の手はすごく熱っぽかった。
 月がきれいで、そんな夜だった。私はそれだけで、ミスラさんがいつもより愛おしく思えた。
 
 
 翌朝宿を出ると、あたりがざわついていた。小美人が見えない、見えないとひそひそと宿屋の人々が口にしているのだ。そうか、あれをつまみに酒を飲む客を見込んでいたのか。私はそう思い、けれど何も言わなかった。ただ、多くの人が首を吊った古木だけが残るこの宿のいく末が気になったけれど。
 小美人は、今頃何をしているのだろう。人の無念が固まった花魄。彼女は人の怨念で、消えることはない。でもそういったものは、突き詰めると本当はきれいなものなのかもしれない、私はそう思い、小美人の宿を去ったのだった。