農林水産課のKさんの話

時の政府の職員の実話系怪談2

 農林水産課のKさんから聞いた話だ。
 農林水産課はその名の通りに各本丸の農林水産を担当している。内番の畑作業の指導や、山に近い本丸ではキノコ類の採取量や狩猟の時期の管理、海辺の本丸で捕れた魚介類の流通の補佐など、実に手広い。Kさんは本丸の畑の指導が主な業務だ。
 近年、政府では、内番用畑で栽培する作物の統一を図っていた。各本丸の自主性に任せていたのだが、格差が酷かったのだ。一律に種や苗木を支給して、作物にあった手入れ方法を指導した。更には出来高によって報賞も出した。その甲斐あって、どの本丸でも最低限の季節の野菜を自家調達可能となった。
 Kさんは収穫の頃になると、三つある受け持ちサーバーの、すべて本丸を視察して回っている。どこの本丸でも短刀や燭台切が嬉しそうに収穫物を見せてくれて、この仕事をしてて良かったと心底思える瞬間であるとKさんは笑った。

 さて、問題の本丸の話に入ろう。

 それは、因幡国の本丸だったそうだ。
 Kさんが訪問すると、その本丸の審神者、仮にNさんと呼ぶことにしよう、Nさんはいつものように歓迎してくれた。Nさんの本丸は畑仕事が取り立てて得意という訳ではないが、それなりに愛情と熱意はもっていた。
「調子はどうですか?」
「今回は枝豆があるでしょう?伊達の連中が張り切っちゃって」
 たしかに、Nさんの所の大倶利伽羅から頻繁に枝豆の肥料について問い合わせがあった。
「大豊作すぎたおかげで、逆にずんだ尽くしにならずにすんだんですけどね」
使いきれないから、保存食にしようって。
「それは良かった」
 談笑混じりに中庭を抜ければ、なるほど、青々とした畑が広がっていた。
「うん、枝豆と、あれは……
 西瓜が植えられていた。さっきも言ったが、Nさんの本丸は愛情はあっても畑仕事が得意とは言い難い。配給の作物以外を独自に栽培して、それがちゃんと繁っているのだから珍しい。
「Nさん、頑張ったんですね」
「ああ、スイカですか?」
 枝豆ほどじゃないけど豊作だったんですよ、と照れて笑った。
「収穫のおまじないを教えてもらったんです」
「おまじない?」
「端から毎日一つずつ収穫するんです。■■■■■■■■■、って呪文を唱えながら」
「え?」
 だから、■■■■■■■■■、です。とNさんは繰り返したが、どうしてもKさんには聞き取ることが出来なかった。
 戸惑うKさんをよそに、Nさんはにこにこと話し続ける。
「呪文を唱えて、刀で西瓜を真っ二つに切る真似をするんです。で、それから同じ刀で蔓を断って収穫すると、すごく甘い西瓜がとれる」
 農林水産課の縺九a繧?∪さんが言ってました。そうNさんは言うが、やっぱりKさんには上手く聞き取れなかった。
「最後のひとつは、新月の夜に、今度こそ本当に刀で真っ二つにしろって言われてるんですけど」
 明日ですね、などと言うものだから、KさんはNさんの肩を掴んで、「駄目です!!」と叫んでしまった。

 兎角に厭な気配しかしなかったので、Kさんは政府本部に連絡して陰陽課を派遣してもらった。
 陰陽課の職員がスイカを囲んで九字を切る姿は珍妙でしかなかったが、呼んだKさんも来た担当職員も本気も本気だ。結界を巡らせた中でスイカを一刀両断すれば、中からはどろりとした赤いものと、干からびて最早何ともわからなくなったものが出てきた。Nさんは「うひゃあ!」と叫んで腰を抜かした。
 陰陽課の職員は、テキパキとスイカの破片と出てきたソレを箱に入れて封をしてしまった。持ち帰って調査するということだった。結局、スイカがなんだったのかは、その後もKさんにもNさんにも伝えられることはなかった。
 ただ、Nさんは「確かに政府から苗をもらったんだけどなぁ」としきりに首をひねり、KさんはKさんで、その後もいくつかの本丸でそのようなスイカやマクワウリに出くわすようになったそうだ。