目的地はドイツとスイスとデンマーク


「海外に行きたいんだよね」
 そう呟いたのは、酒呑童子だった。全日本童子親睦会の最中のことだった。昨今、童形の者の飲酒に対する視線が厳しくなって久しい。その手に握られているのがノンアルコール梅酒になったのも致し方ないことだった。
「そう、それ!だから海外なんだよ!!」
 叩きつけられた梅酒がカンッと高い音を響かせる。
 曰く、海外ならば、飲酒可能年齢がもっと低い。人ではないのに人の法に従うのも癪に障るが、令和の世まで生きてしまったのだから仕方がない。しかし、従う法は選ばせてもらおう、という理屈であった。
「とりあえず独逸に行って麦酒ビールが飲みたい。麦酒ビール。いいよな、麦酒ビール。平安京にはなかった味だよな」
 日本人はみんな童顔だと思われてるから、逆に16歳で通ると思うんだよ!俺、童子としては高身長な方だし!!と力説する。酒に対するこの熱量はなんなんだろうなぁ、と周りの童子仲間はスナック菓子を食べながら呆れていた。
「というわけで」
 手渡された化粧道具とタブレットに、茨木童子は首を傾げる。
「女装!させて!服は任せる。好きに買っていいから」
「いや、なんで?」
 なぜ女装するのかと、なぜ自分が手配するのかと、二重の意味で。
「だって、茨木くん、昔してただろ?」
 渡辺綱を騙そうとしてたじゃん。
「それはそうだけど……。いや、そうじゃなくて」
「ギリ成年の男子は無理だけど、童顔の女子大生なら余裕でいけるって!たぶん!!俺たち、顔は良い!!」
 自信満々に言う酒呑童子に、まずデパートのコスメ売り場でパーソナルカラー診断を受けてから出直してこいと、茨木童子はため息をついたのであった。

 そんな話も記憶から薄れた頃、全日本童子親睦会のLINEグループに写真が送られてきた。女子大生風の出立いでたちの酒呑童子と茨木童子が、国際線の待合室で自撮りした写真であった。
「行ったのかぁ、デパートのコスメ売り場……