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chu!ppiness
2024-03-17 06:24:59
1977文字
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chu!ppiness 第5話「しあわせ」
nanaにて活動予定のアイドルユニット「chu!ppiness」結成秘話🌸
第5話「しあわせ」
千堂遥香の願いと幸福な巡り合わせのお話です。
書き手:柚鈴 (
https://twitter.com/Citlisamusic
)
🍀千堂遥香>>
https://nana-music.com/sounds/06b0205e
chu!ppiness 公式nanaアカウント>>
https://nana-music.com/users/10589522
chu!ppiness 公式Twitterアカウント>>
https://twitter.com/chuppiness_
❁千堂遥香
夕暮れの被服室を包み込むように、柔らかな茜色が頬に触れた。眩しさに目を細めて、小さく嘆息する。遥香の手の中には、クローバーを形どった手作りのお守りが握られていた。弟にプレゼントするために作ったのに、要らないと返されてしまったのだ。
「
……
俺、要らない。姉ちゃんが持っててよ」
ぶっきらぼうにふいと視線を背けて、四葉のクローバーが突き返される。弟が幼い頃からぬいぐるみやキーホルダーを作ってはプレゼントしてきたけれど、要らないと言われたのは初めてのことだった。昔は何をあげても、にこにこ喜んで受け取ってくれたのに。うちの弟にも、いよいよ噂の反抗期がやってきたのだろうか。数年前まではいつでも遥香の後ろを着いてきていた小さな弟も、今年の春から中学生だ。歳が離れていたこともあって、遥香は彼のことを溺愛していたのだけれど──思春期に差し掛かった今、弟としては姉とべたべたするのは恥ずかしいのかもしれない。大きくなったなあ、なんて母のような気持ちが湧き上がる。実際、母親代わりの役目を果たしてきた遥香からすると、弟の成長には喜びもひとしおだった。遥香の母親は、弟がまだ幼いうちに交通事故で亡くなっている。だから遥香は小学生の頃から、率先して家事を担当し、弟の面倒を見てきた。仕事で忙しい父を母に代わって支えることが、天国の母に託された自分の役目だと思っていた。遥香も寂しかったけれど、幼い弟はもっと寂しいに違いない。だから出来るだけ寂しくないようにと、暇さえあれば弟に構っていた。その気持ちは彼にも伝わっていて、遥香を慕い懐いてくれていた、はずだった。だけどどうにも最近、態度がそっけないのだ。
「姉ちゃんも、俺の世話ばっかしてないで、自分のしたいことをしろよ」
いつのまにか一人称を僕から俺に変えていた弟は、遥香に向かってそう言い放った。その言葉が今でも、脳裏に焼き付いている。自分のしたいこと。そう言われたときに、何も浮かんでこない自分に気が付いてしまったからだ。これまでは、空いている時間のすべてを家事や弟の世話に費やしてきた。それが遥香にとっての当たり前だったし、嫌だと思ったこともなかった。自分が好きでしていることだったから。だけど、それ以外に、自分は何が好きなんだろう? 初めて浮かんだ問いの答えは、いくら探しても見つからない。強いて何かを挙げるなら、お裁縫だろうか。昔から、弟にぬいぐるみを作って喜んでもらうのが嬉しかったから。だけど中学生はもう、そういう年頃でもないのだろう。この間作ったお守りも、要らないと言われてしまったのだから。
中学に入った弟は部活を始めて、去年よりもずっと帰りが遅くなっている。だから遥香も、放課後すぐに帰る必要がなくなった。特別趣味も持っておらず、部活にも入っていない遥香は、放課後にすることがなくなってしまったのだ。自分のしたいことをしろよ。考えるたびに弟の言葉が思い出されて、頭の中をぐるぐると巡っている。先生に頼んだら被服室を空けてもらえたから、今まではそこで縫い物をしていたのだけれど──弟のために何かを作る必要もなくなった今、遥香は時間を持て余していた。自分自身のしたいことって、何だろう。これまで考えたこともなかった疑問に、悩み続けていたとき。
「千堂さん、だよね? 隣のクラスの! ねえ、一緒にアイドルになろう!」
突然がらがらと音を立てて被服室の扉が開き、それと同時に明るい声が飛び込んできた。びっくりして顔を上げると、瑞々しいフルーツみたいに澄んだ瞳と目が合う。彼女はまっすぐに、遥香だけを見つめていた。アイドル? 告げられた言葉をようやく飲み込んで、思考を再開する。テレビの音楽番組で歌っている、あの? 流行りの話に疎い遥香は、「アイドル」という言葉に対して眩い笑顔を振り撒くキラキラした人たち、というイメージしか持っていない。それでも声をかけられたことは、素直に嬉しかった。放課後はすぐに帰宅していたこともあり、これまで特別に親しい友人がいなかったから。この春、遥香は三年生になった。華の高校生活も、最後の一年だ。新しいことにチャレンジするなら、きっと今しかないだろう。これまで手を伸ばすことも考えなかった青春が、突然目の前に降り注いできたみたいな気持ちだった。アイドルになれば、見つかるだろうか。何にも左右されない、遥香自身のやりたいこと。見つけるためにはきっと、踏み出さなければいけない。
「私でよければ、是非。よろしくお願いします!」
初めて出会った予感に背中を押されるように、遥香はあんなに向かって頷いた。手の中にあるお守りを握りしめれば、弾んだように跳ねる心臓の音がする。幸せを象徴する四葉のクローバーが、新たな出会いを呼び寄せてくれたような気がした。
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