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きさぎ
2024-03-12 00:17:17
2553文字
Public
Wednesday Strangler
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【NSFW】ジャック→ミックの執着のたぶん起点
ミック君がおまわりさんに出会った後のジャクミク 濡れ場に入りかけなのでNSFW
「撃たれたって、本当だったんですね」
黒いハイネックのカットソーを脱がせた白い腹部に残る銃創を見て、ジャック・リーはつぶやいた。
実物を目の当たりにしてもなお信じがたい。あのマイケル・クラフトが、一介の警察官ごときの銃弾に撃ちぬかれるとは。
ジャックは、こと回避能力においてマイケルを上回る人間を知らない。マイケルの動体視力と反射神経、空間認識能力、運動能力は人間離れしたもので、彼はあらゆる攻撃を視認してからですら躱せてしまう。彼に対する支部全体の共通認識が『化け物』になるのも当然なほど、マイケルの身体能力は常軌を逸している。眼前で放たれた銃弾をかすらせもせず避けたのを見たときなどは、ジャックは自分の視力を疑った。回避だけの男であればまだ手の打ちようはあったが、彼自身の戦闘能力も他の追随を許さないから始末に負えない。
そういう化け物じみた人間だからこそ、マイケルが撃たれたという知らせは誤報だと思ったのだ。マイケルの治療をした支部と青蓮幇と懇意の闇医者から直接聞いてすら真実味は薄かった。
「そうだよ」
するり、とマイケルの細長い指がゆっくりと銃創を撫でる。やけに淫靡な動きを、目で追わずにはいられなかった。
喜色に満ちたマイケルの声に、ジャックは彼の腹から顔へ視線を移す。移して、わずかに後悔をした。
「おまわりさんの弾が、ここに、当たったんだ。おまわりさんの弾だけが、俺に当たった」
恍惚とした笑みだった。とろけるような、情欲混じりの、見たこともないような笑み。自分を撃った警察官へ愛情を抱いているのだと錯覚させられるほど、それは恋の顔に似ていた。
「やっと俺を殺せる人に出会えたんだ。俺の琴線にかすりもしない男だったのは想定外だったけどね。ふふ、道理で見た目強そうなやつらを試しても、見つからないわけだよ」
「
……
ただの警官でしょう。特殊な訓練も受けていない、あんたを圧倒するような力だってない、平凡な。そんな奴があんたを殺せるって? あんたは自分より強い男に殺されたいんじゃなかったんですか」
妙に胸の奥底が焦げ付く。種火でも埋まっているかのような気分だ。頬を上気させたマイケルの、いつもと違う、感情のこもった笑貌が、ジャックをいやに不快にさせる。
じりじりと広がる胸裏の小火をごまかすように、ジャックはマイケルを押し倒す。それでもこの殺人鬼の興味を自分に向けさせられないのが、言いようもなく腹立たしかった。
「あの警官はどうひいき目に見てもあんたより弱いでしょう。マイケル・クラフト、あんたを殺す器じゃない」
「それでも弾は当たった」
言うマイケルの声はとろけるほどに甘い。にもかかわらず、ジャックの頭には冷や水が浴びせられた。
「あの場にいた警官の誰も、俺にかすり傷一つつけられなかった。腕に自信があるらしいあんたらだって誰一人無理だった。そのなかで、おまわりさんの弾だけが俺に当たったんだ。それが運であれ、奇跡であれね」
「
……
運や奇跡に頼らなきゃあんたを殺せないような男で、いいんですか」
抜糸済みの傷跡を太い指先でぐっと押し込む。マイケルが息をつめて目を細めた。
「ッてェな、クソが
……
」
青蓮幇の人間に化け物呼ばわりされているこの男が、痛みに顔をゆがめるのを見るのも初めてだった。マイケルが実際には粗野な言葉遣いの男だと知っているという事実は、なんの慰めにもなってくれない。
――
マイケルに痛みを感じさせるこの傷を作ったのが自分ではない、という苛立ちと無力感の慰めには。
「俺のほうがあの警官よりも強いんですよ」
不快に眇められていたマイケルの目がまるく見開かれた。ようやく彼の明るいコバルトグリーンの瞳がジャックをうつしたかと思えば、数度瞬きをして、
「
――
っく、はははっ!」
心底おかしそうに笑いだした。目に涙までためての嘲笑だ。こうもあからさまに嗤われては、さすがに顔をしかめずにいるのは困難だった。
「ッは、ああ、笑わせんじゃねえよ、ジャック・リー」
「そこまでおかしいことを言いましたかね、俺は」
「言ったさ。強い?
――
あんたが? こんな思い上がった妄言、笑わずにいられるかよ」
「あんたを撃った警官より強いのは事実でしょうよ」
「腕っぷしだけならそうかもしれないけど
――
なあ、そのおまわりさんより上だって自負してる腕で、俺に一発でも食らわせたことがあるか?」
否だ。気まぐれにマイケルが手合わせに付き合ってくれても、ジャックは一撃をかすめることすらできていない。
ただその一点において、ジャックをかの警察官よりも格下だと言っているのだ、彼は。
――
反論ができない。マイケル・クラフトに傷を負わせたかどうかが優劣の基準であるなら、ジャックはたしかに話題の男よりも劣っている。
唇をかんだ。腸が煮えるようだった。悔しくてたまらない。たかだか“運”に、青蓮幇のために鍛え上げてきた武技が負けるのが。積み重ねてきた鍛錬と費やした時間が、まぐれ当たりの銃弾などに覆されていいわけがないのに。鍛えてくれた支部の先達たちの指導と彼らの武技は、奇跡風情に踏みにじられていいものではないというのに。
ぎり、と奥歯をかみしめる。
「
……
俺が今後、あんたに一撃でも食らわせられたら、俺のことも認めるんですか、ミック。運じゃなく、事実あんたより強い男として、あんたを殺せる人間だと」
マイケルの緑色をにらむように見つめて言う。マイケルがすこしだけ考えるそぶりで視線を右上へやった。
「
――
そんなことより、ヤるならさっさとヤろうよ。今日の客は物足りなかったからさ」
ぐっと顔を引き寄せられ、唇がふさがれた。
……
どうやら話に飽きたらしい。
否定をするのをはばかったわけでは絶対にない。一般人ぶって社会生活をしているときならともかく、いまは他人を気遣える振りをする必要がないからだ。
ともかく答えがどうあれ、マイケルの中でジャックの言葉に一考するだけの価値があってくれたのは確かだ。
――
つまり、まだ入り込む余地はある。あの警察官だけがマイケルを殺しうるという認識を改めさせることも、可能ということだ。
今はそれで、満足しておくことにした。
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