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スサ
2024-03-11 19:43:57
2421文字
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【鬼水】後朝の話
初夜の翌朝ネタが3度の飯より大好きなので…体は小さいけど中身などは大人です
「わ
…
」
倦怠感だとか、あらぬところの痛さだとか
…
、幸か不幸か記憶はそこまで飛んでいなくて(最後意識自体が飛んでいたらしいあたりは別として)、それらの不調の原因が昨夜から今朝にかけての出来事であることはわかっていた。
思わず声が出てしまったのも気恥ずかしいが、その声がかすれているのも恥ずかしい。声なんて出したくなかったのに、なんて言ったところでもう無駄だ。
…
視界に飛び込んできた、強く握られすぎたのか痣のようになっている己の手首は言い訳やごまかしを許してくれない。
どうやら布団に寝かされていたのは水木ひとりだけで、向こうは気配もない。もっとも、あちらは妖怪、のようなもの。気配など出したり引っ込めたりは朝飯前だろう。近づく時に気配を感じさせてくれるのは、気づかせる意図がある時と、驚かせたくない時だ。
…
あの子は優しいから。
「
………
」
水木はうつ伏せの姿勢で一度枕に突っ伏した。もう、どうしようもなく照れくさい。頭をがりがりかき回しても羞恥は消えない。
あー
…
と小さく呻きながら、それでもまた顔を上げたのは煙草が吸いたかったからだ。そうだ、きっと一服すれば落ち着くはず。ニコチン中毒と叱られても、今ばかりは吸わずにはやっていられなかった。
枕に肘をつき、片手は煙草、片手は顎へ。枕元に水差しと煙草、灰皿、ライターが置いてあるのがなんとも。
…
体が清められているらしいのがまたより一層恥ずかしいのだ。まるで介護ではないかと思うから。たとえ、相手がそう思っていなかったとしても。
馴染んだ香りに包まれれば、頭が少しは冴えてくる。たけれども、障子越しの朝の光の中という清浄な空間だというのにもかかわらず、水木の頭の中では、めったに息を切らせたりしないあの子が荒い呼吸の下で自分の名前を呼ぶ声や、少々意地悪に甘やかされた胸のてっぺんだとか、いたずらにくすぐられた臍だったり、親譲りの長い舌であさられた喉の奥、骨付き肉のようにかじられたふくらはぎ、砂糖でもまぶしてあるのかと思うほど執拗にねぶられた欠けた耳
…
、深いところではないらしい(と言われた)が抉られた内側──そういった体感と、その時の声や湿度が繰り返し思い起こされていて、たまったものではない。
とうとう指に煙草を挟んだまま枕に突っ伏してしまう。顔はきっと真っ赤になっているに違いない。
…
これで枕からあの子の匂いでもしたら大変だったが、それはなかった。しかしそれはそれで寂しいような気もして、いや、寂しいとはなんだと動揺してしまう。
「
……
寝煙草はいけませんよ」
うつ伏せに突っ伏して、足だけをバタバタしている姿は後ろからどう見えただろう?
「
………
」
気配は全く感じなかったから、こちらに知らせるつもりがなかったか。
スイ、と取り上げられた煙草の行き先、それは細い子どもの指に抜き取られた後、灰皿に押し当てられ──はせず、小さな唇に収まった。紫煙をくゆらす姿はサマになっており、全く子どもの外見では考えられないことなのだが、堂に入った喫煙姿だった。
ぎょろりと大きな目がわずかに細められる。目が合えば、そらすことはもうできなかった。
しかしどんな顔をしたものか迷ってしまって、無意識に唇を尖らせてしまう。
「
…
最近また値上がりしたんだぞ」
昨日までは愛しい養い子、今朝からはすこし肩書の変わった、あくまで見た目は少年でしかない相手は意外そうに瞬きし、それからやわらかくたわめて、笑う。
「禁煙しろってことじゃないか?」
鬼太郎は小さく笑って、自分の口からそっと煙草を外し、元の場所に戻してやる。つまり水木の口だが。
「
…
それは嫌だね」
気持ちよさげに目を細める水木に肩をすくめて苦笑した後、今度は彼は水木の手首を取った。そうして、くっきりと痕が残ってしまった場所に唇を寄せる。
なんでもない風を装いたくて、水木は気にせず煙草をふかす。
…
照れ隠しだとばれているかもしれなくても、意地をはらずにいられない。
「
…
ごめんなさい。痛かった?」
…
昔、鬼太郎がうんと小さかった頃。まだまだ力加減のよくわかっていないこの子を遊ばせていた水木が骨折してしまったことがあった。その時鬼太郎は大泣きして、みじゅごめしゃい、とずっと離れなかった。愛おしく、美しい思い出だ。
声こそまだ子どものそれだけれど、今の鬼太郎の話しぶりにその面影はない。中身はそもそももうとっくに成人きている年齢なわけだが、それにふさわしい抑揚だった。
水木の手首に口づけながらのぞきこんでくる子どもは、確かに男の顔をしている。
「
……………
」
水木はくわえ煙草で、掴まれているのと逆の手でビシッ、と幼いおでこを弾いた。さすがに予想外だったのか、鬼太郎も驚いた顔をする。その幼い顔を見れば、いくらか溜飲も下がる。
水木は煙草をゆっくり灰皿に置いて、枕にぺたりと顎をつけて寝そべる。膝から下は折って上げたままだったが。
「
…
そんなに夢中になるほど好かったか?俺は」
いいようにされているばかりは癪だ。せいぜい色を込めての流し目でからかってやる。どうなったかといえば
…
、
「
…
もうっ!」
「あはは!」
早業で水木をひっくり返し、鬼太郎が馬乗りになる。しかし水木は笑うのをやめず、どころか自分の腹に乗っかった格好の鬼太郎の髪をわしゃわしゃ撫で回す。
「水木!」
「俺に格好つけるのなんざ百年早い」
わはは、と笑い飛ばす声にも顔にも夜の淫靡さは影さえもない。と、思ったのだけれども、それはすこし早計だったようで。
「
…
おはよう、
…
鬼太郎」
今まで幾度も呼ばれた名前。けれど、どこがとは言えない、言えないのだけど、今までとはあまりにも違う調子だった。鬼太郎は言葉を失って目を見開く。
それに満足そうに笑った水木の、どこか幼気な顔。鬼太郎は肩の力を抜いて苦笑した。
「おはよう。水木」
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