みみみ
2024-03-10 22:47:35
1277文字
Public
 

Flavor Of Love

悪意の在り処のオーナー×凄腕ディーラー

 カジノの制服を着替え、セキュリティチェックを終えると、俺は誰もいない更衣室で人の気配がないかを念入りに見回した。
ここは施設内でも数少ない監視カメラがついていない場所だ。
誰も居ないことを確認すると、俺は逸る気持ちを抑えながらジャケットの内ポケットからこっそり拝借したオーナーの煙草を取り出した。
あの人の仕草を思い出しながら、見よう見まねで先端にライターを近づけて口に咥えてはみたものの
……火がつかない」
 先端が赤く灯るはずなのに、どうしてだか上手く火がつかない。
当然ながらなんの味もしない。
まさかこんなことになるとは思いもしなかった俺が、吸い方について事前に調べておくべきだったと、肩を落とした時だった。
「煙草に火を点けると同時に、息を吸い込むんだよ」
「ッッ~~~~?!」
後ろから不意に聞こえた声に、俺は文字通り飛び上がってあわや手の中のライターを落とすところだったが、寸前で何とか握りしめる。
「おや失礼、困っているようだったからね」
……オーナー、これはそのッ」
「君が私の部屋から煙草を持っていったのは気付いていたが……まさか興味があったとは意外だな」
 そう言いながら、俺の手の中の煙草を取り上げるとオーナーは慣れた手つきで口に咥えると今や骨董品であるガスライターを取り出して、自分の口元に近づける。
一呼吸の後に、チリチリと音を立てて紙の端が燃えだすと嗅ぎ慣れた紫煙の香りが鼻をくすぐった。
「ほら、吸ってみるかい」
 差し出された吸い口を咥えて息を吸い込むと、とたんに肺に流れてくるいがらっぽい煙を体が異物とみなしたのか盛大にむせ返った。
「ゲホッ、ガッ……ゴホゴホッッ」
「大丈夫かい、最初から一気に肺に入れるとキツイだろう」
 そう言いながらもオーナーの顔はどこか楽しそうで、絶対にこの状況になることを分かっていて言わなかったのだろう。
「もう一服どうかね?」
……ご遠慮します」
 それは残念だ、と全く残念に思っていなそうな笑い声とともに白い煙が吐き出される。
「一体どうして煙草なんて吸おうと思ったんだい?」
 その言葉にぎくりと肩を揺らしてしまった。
ああ、しまった、興味を抱いた視線がこちらに向けられる。
「その……ちょっとした、好奇心で……
「へえ?」 
 その先を言い淀む俺に言葉の続きを促すように、煙草を持った手が俺の顎を持ち上げた。
耳元で巻紙の焼ける音が聞こえる。
得物を狙う猛禽類のような瞳に見下ろされてしまえば、隠しごとなどなんの意味もなさない。
「あなたとキスすると……甘いから……煙草のせいなのかと思って……
 近づいてきた唇が重なって、口の中でもごもごと転がしていた言葉尻ごと、あっと言う間に舌を絡めとられた。
「んッ……ッはぁ」
 頭の芯が痺れて、体の力が抜けるようだ。
オーナーとのキス越しに吸い込んだ煙草の煙は、やっぱり甘ったるくて癖になる。
「君はどうやら、受動喫煙の方が口に合うらしいね」
 すっかり息の上がった俺にオーナーは口の端を舐めながらそう言って微笑んだ。