────── さぁ、起きて。私の小さな友人。顔を見せられない無礼はどうか許してください。
貴方に頼みがあります。貴方にしか出来ないことです。貴方なら、主を止めることが出来る。主を救うことが出来る。世界を正しき姿に戻すことが出来る。これは貴方なら出来る、貴方にしか出来ないこと。
これから先、貴方が歩んでゆく未来は複雑で、困難で、耐え難いものかもしれません。しかしどうか忘れないで。貴方は世界に望まれていることを。貴方にしか救えない者があるということを。
私は貴方を信じています。清く正しい心を持った貴方なら、世界に正しいあり方を伝えることが出来ると。友人よ、どうか私の悲願を、叶えてくれませんか?
- 被告人H
ハミィ・エレミアは木こりである。両親共々、このエトナの街では名が知れた木こり中の木こりであり、彼女は木こり×2の血を受け継いだ純粋な木こりの跡継ぎである。他にも彼女は翼の紋章がない冒涜者だったりするが、そんなことよりも彼女は木こりなのである。冒涜者というのは、神の支配を受けていない者のことであり普通であれば背中に翼の紋章が刻まれている。レグルス大陸のほとんどの人間が神
…全能神グラウディを崇めるグラウン教の信者であり、いかなる状況であっても時間になれば祈り、我が子でさえも命じられれば喜んで捧げてしまうのだ。そんな世界の中で、冒涜者は非常に異端な存在なのである。しかしそんなことはどうでもいい。彼女は木こりなのだから。彼女はかれこれ14年間、木こりとして木を切り倒してきた。彼女の初伐採は生後6ヶ月である。木こり魂を娘へ伝授しようとした両親により初めて斧に触れた彼女は、寝返りによって斧を投げ飛ばした。彼女の投げた斧は木を切り倒しながら2キロほど進み勢いを弱めた。彼女は生まれた時から木こりであり、人生の全てを木こりとして生きてきたのだ。
そんな彼女には夢がある。それは天界に存在するという幻の大樹、「命の宿木」を切り倒しログハウスを建てることである。命の宿木は大陸の全種類の木を切り倒したという木こり界の英雄、コリーキ2世でも到達できなかった強敵である。夢は樹齢1000年の大樹よりも大きくと父から教わってきたハミィは、この夢をも叶えるために、この14歳の誕生日に旅立つことに決めたのだ。
これは、一人の木こり少女が伐採ついでに世界を救う物語である。
3月31日、天気(晴)
「おわぁ〜今日もいい天気だねぇ〜!こんな日は木を切るに限るよぉ!」
ハミィは一人、だだっ広くて何も無い面白みも無い人気も無い道をぽつぽつと歩いていた。辺りを見渡しても草、草、草、ブロッコリーみたいな木、草。常人であれば飽き飽きとしてくる景色である。しかしこの木こり、ハミィ・エレミアは違った。彼女の心は樹齢100年の木を切り落とす前くらいにワクワクしていた。内心では木こりの歌を歌いながらキャンプファイヤーをしていた。何故なら、田舎生まれ田舎育ちの彼女は村から一度も出たことがなかった。両親が稀に木材を街へと売り出しに行くことはあったが、ハミィは伐採に夢中で街へ赴こうとなど思ってすらなかったのである。
こうして半日ほど歩いた末に、ようやく目的地の”聖都”が近づいてきたのだった。レグルス大陸の4つの都の中でも最も栄えた場所、それが聖都。ハミィが聖都へ向かったのは、聖都は最も天に近い国と呼ばれているからである。何故そのような名で呼ばれているのか。まずは全能神を信仰するグラウン教徒の数が多く、神の使者が訪れる機会が多いからである。そしてもう1つ、物理的に天界と距離が近いのがこの都だからである。聖都の中央、グラウン聖教会の裏庭には天界へ続く螺旋階段が存在する。勿論、この階段はパンピーには登ることの許されない神聖かつ厳格な聖地である。勿論、ハミィがどんなに自信満々で優れた木こりだったとしても今のハミィは傍から見ればパンピー仲間である。このまま教会を訪ねても到底登らせてなどくれるはずがない。ではどうするか?簡単な話だ、登ることが出来る存在になればいい。教会では年に一度、「大祭司」と呼ばれる聖職者を人類の代表として天界へ送っている。大祭司とは、得を重ね人々に認められた清き心の持ち主であり、加えて道中の様々な強敵達を打ち倒す強さを持つ者が選抜される。つまり、今から聖都で人々への奉仕活動を続けついでに力をつけていけばいずれか成れるというわけだ。なんて簡単な話だろう。つまりだ、木を切り倒せば良いのだ。木を切れば木材は手に入りついでに森も通り抜けやすくなり人々に感謝される。これが今までのハミィの奉仕活動のやり方であった。というわけで、聖都門手前までやって来たハミィは宿を見つけることもなく近くの木々の方へ猪の如く向かっていった。
「さて
…ハミィ・エレミア被告。異論は
…?」
「いろん?メロンならしってるよぉ!」
「ええいふざけるなよこのピンク頭!貴様が切った木は先祖代々受け継いできた樹齢1000年のオリーブの木、俺の収入源だったんだ!どう責任取ってくれるんだ!」
結果、ハミィは裁判所にいた。ハミィが切り倒したオリーブの木はどうやら男の収入源だったらしい。男はオリーブの見やオイルを収穫することで生活していたそうだ。
「1000年じゃないよぉ!999年と7ヶ月15日だよぉ!」
「黙れ!四捨五入を知らんのかお前は!この田舎者の恥さらし低脳め!」
今までに見た事のないくらい静まり返った裁判所で原告人と被告人の言い争いが響き渡る。かれこれ言い争いは半日続いており、裁判官も観客ももはや飽き飽きしていた。そんな会場の様子を見かねた裁判官の一人が原告人へと話しかけた。
「あの
…グレイ原告、そろそろ審判戦を
…」
「うるさいぞ公務員!お前はどうせ安定した収入を得てるんだろう?だからんな事が言える!仮にお前が俺の立場でこの裁判に負けたとしても、お前には収入源がある。でもなぁ、俺にはねぇんだよ!だからここで万が一のことがありゃ、俺は無職まっしぐらだ!審判戦なんて半分見世物じみたことに付き合ってる余裕はねぇ!今すぐ判決を下せ!客観的事実に基いてなぁ!」
「ひっ!お、落ち着いてよ原告人
…!審判戦の必要が無いのは原告人が冒涜者だった時のみ、これはこの都の決まりなんだ
…決まりを破ったとなれば今度は貴方が神に逆らった反逆者として処刑されてしまうよ
…?」
「
………チッ」
裁判官の言葉にイラついたように舌打ちした原告人は、懐から小刀を取り出すとハミィに向き合った。
「
………?どうして刃物を持ってるの?危ないよ?」
「クソっ
…俺に女をいたぶる趣味はねぇけどよぉ。俺だって生きてかなきゃなんねぇ。生きるためには、勝訴を得るしかねぇんだよ。嬢ちゃんに悪気があったとは思えねぇ。大人気ないと思うかもしんねぇ。が、悪人に人権などねぇからなぁ!」
「
…………???」
勿論、本日この都を訪れたばかりのハミィには知る由もなかった。この都の”裁判”とはどういうものなのかなど。斧を手に取る気のないハミィを見た裁判官は口を開いた。
「
…ええと、被告人。
…君はもしかして、聖都の裁判のやり方をご存知無かったり
…?」
「よくわからないけど、ここにはさっき来たばっかりだよ!」
「
………君もなんというか
…災難だね
…。
…この都の裁判は特殊なんだ。最初にそれぞれの言い分を述べてもらうけれども、結局判決は”審判戦”の勝敗で決まる」
「およ?しんぱんせんって?」
「審判戦とは
…被告人と原告人が戦うのさ
……戦いで勝った方が勝訴という判決になる
…………そして君とグレイ原告には今から審判戦を行ってもらうんだよ」
裁判官はハミィを見た。ハミィはよだれを垂らしていた。
「およ〜〜〜?」
「
…………ええと
…つまり君は目の前の彼と戦って、勝てば罰を受けずに済むってことだよ
…わかった?」
「
……………どうして?」
「え?」
「どうして戦うの?」
ハミィの言葉に観客たちがざわめく。裁判官は顔を顰めた。
「それがここ
…聖都の裁判のルールなんだ。さっき原告へ告げた通りこのルールを破れば”反逆者”として見なされ罪に問われることになる
…このルールを作ったのは全能神、グラウディ
…様、だから
…」
「でも、おかしいよ!悪いことしたかどうかを決めるために集まってるのに、最後は戦って決めようなんて!正しいことを言った人が死んじゃうことだってあるんでしょ?それは」
「悪人が何を偉そうに!今、その正しい奴ってのが俺で悪人はお前だ。悪人が正しさなんぞ語るんじゃねぇ!」
原告人
…グレイは小刀を構えハミィを見る。一方で裁判官は、先程よりも深い顰めっ面をして考え込んでいた。彼とでこの都の裁判の仕方には賛同していない。公平さを決断する裁判が人々の見世物になってしまうなどあってはならないことなのだ。今では裁判所は闘技場であり、裁判とは人々の楽しみの1つになってしまっている。彼女の述べることは一理あるし、同時にこんな”木を切った”だなんて些細な問題で人1人の命が失われるなどあってはならないことなはずなのだ。しかし
…ただの裁判官の1人である彼にはこれに逆らう力など無い。よって2人の決闘を見届け、結果を見て審判を下すことしか出来なかった。
「
……被告人、武器を持て
…………君に拒否権はないよ
…唯一できる拒否があるとするのなら、武器を持たず彼に一方的に切り刻まれることだけだ
…」
裁判官の言葉を横耳に、ハミィは斧を持つことは無かった。その間に開戦のコングが準備された。
「嬢ちゃん、さっきも言ったな?俺はあんたが女だからって情けをかけてやれるほどお人好しじゃないんでね。死にたくなきゃその無駄にでけぇ斧でも振るいな。生憎、俺はギルド傭兵のD級バッジを持っていてな。上京したてのガキに勝てるとは思えんが、それでも希望は捨てるべきじゃあないぜ?」
「
…………………」
ゴーン、ゴーン
力強く打たれたコングの振動が、裁判所全体に響き渡る。始まりの証だった。
そして同時に原告人が踏み出し、小刀を構えてハミィに飛びかかり、ハミィの左胸目掛けて刀を──────
「はいそこまで!」
ハミィの胸に刃が突き刺さる寸前のところで、グレイの腕を、細身の腕が捕まえていた。
「えっ
…」「何事!?誰よあれ!」「部外者か?審判戦に立ち入るなんてそれこそ裁判沙汰じゃないか?」
予想外の展開に外野がどよめき、裁判官も呆気に取られていた。
「
……誰かは知らんが離しやがれ、取り込み中だ」
「紳士淑女の皆々様、どうぞ静粛に。舞台上のキミもね。お芝居にはあっと驚く展開も必要だけれど、最後はハッピーエンドにしなくちゃ」
「おわぁ!お兄さん、力持ちだねぇ!一緒に木こりやらない?」
煌びやかな青年は、未だにグレイの腕をがっしりと掴んでいる。爽やかな佇まいで明らかに自分の何倍もの体格差のある男を、片手で止めているのだ。グレイはこの青年のことが気味悪く感じてきた。
「なんなんだお前は
…!おい裁判官!部外者の妨害は禁止行為じゃないのか!?今すぐこいつを連れ出して首でも落としてやれ!」
「ええと
…それは
…」
「ノンノン!暴力なんてナンセンスだよ!レッドカーペットはウール100%じゃなきゃダメって決まってるんだ!これは舞台法2条に書いてあるはずさ!」
「いや
…そんなもの聞いた事ないんだけど
…」
裁判官が呆れた声を出した。観客からは野次が飛び交い、男はブチ切れ寸前だった。ハミィは青年の三つ編みが気になるようであった。
「とにかく
…ボクのスポットライトが当たる場所で血を流そうだなんてボクが許さないよ。ボクの都(ステージ)ではみんなが笑ってなくちゃいけないんだから!ね、キミもそう思うでしょ?」
青年はグレイの胸ぐらを掴み彼の顔を、瞳を覗き込むようにじっと見つめる。グレイはひっ
…と引きつった声を上げると青年から逃げるように後退り、その場に倒れ込んだ。その様子に裁判官は目を細め青年を見、先程まで騒がしかった観客達は黙り込んでいる。ハミィは三つ編みよりもシルクハットに興味が移ったようだ。
そして青年は周囲の様子などまるで劇中の演者のように気にすることも無く、何事も無かったかのように微笑んだ。
「まぁ話を聞いた限りだと悪いのはお嬢さん、キミなんだろう?でもね?キミはつい先程ここにやって来た、来園お初のお客さんさ。常連客は増やしたいし、初めましてで怖い思いをして欲しくは無いからね。だからさ!
…そこの座り込んでるキミ!」
青年は座り込み地獄の深淵でも覗き込んだような顔をしたグレイに向けてビシッと指をさす。
「キミの新しい収入源を彼女が見つけてくる、それまでは彼女がキミの分の生活費を出すってことで手を打たないかい?厳しい分はボクも手伝うよ。何なら、オリーブ業よりももっと良い仕事を見つけてきてもらえばいいさ!」
「ちょっ
…ちょっと待って
…何勝手に進めているんだい君は
…!
…そもそも誰だ?」
裁判官の一声をきっかけに静まり返っていた外野がまたもや元気を取り戻し始める。
「そうだぞ!そもそも裁判の妨害行為こそ裁かれるべきじゃないのか!?」「裁判所の入口は締め切ってるはずだし不法侵入でも訴えられるわよ!」と「審判戦を邪魔しやがって!部外者はさっさと消えろ!」
「静粛にしたまえ」
突如響き渡った厳格な声に、人々の野次はすぐさま収まる。コツコツと足音を響かせ、凛々しい態度で向かってきたのは、
「なっ、裁判長
…!?」
「裁判長だって?お、おい!この部外者を早くどうにかしろ!お前の責任だろ!?」
「およよ?さいばんちょー?」
コツリ、コツリと音は止まる。裁判官は口を開いた。
「─── その者の参加は私が許可した。天法では部外者の侵入や妨害については触れられていない。つまり処罰される行為では無い。」
「な
………」
(いや、あの厳格な裁判長が天法に載ってないからって部外者の侵入を許す?そんなのって有り得るのか?書いてあることならともかく、書いていないことだぞ
…?こうして自らが出てまで正当性を主張するなんて有り得ない以前の話だろ
…?)
混乱する裁判官を置き去りに、外野は騒ぎ出すが
……そんな彼らに青年は澄んだ声を響かせる。
「観客の皆々様、有意義な演劇鑑賞の時間を邪魔してしまって申し訳ない。でもわかって欲しいんだ。ボクは笑っていて欲しいんだよ。観客にも、舞台上の演者にも
……わかってくれるかい?」
そう言って涙を浮かべて訴えかけた。
(いや、あの人バカなのか?何ぶりっ子してるんだよ
…そんな一方的に邪魔してきた男が泣き真似したって誰も
…)
「ま、まぁ彼の言うことも一理あるんじゃないか?」「そうね
…裁判長様もああ仰っているし
…」「まぁ確かに他都の裁判は審判戦などしないって言うしな
…」
(えぇ
…嘘でしょ
…???)
「ええと
…泣かないで?」
(被告人は慰めてるし
…)
「心配かけてごめんねお嬢さん!泣いてなんていないから安心したまえ!」
(もはや清々しいほどの笑顔だし
…)
「あぁ
…も、もう意味が
…わからねぇよ
…」
(原告人
…災難だなぁ
…)
「うむ」
(うむ、じゃねーよ
…何に納得してるんだよ
…裁判長
…そんなキャラじゃなかっただろ
…)
そして外野の流れが変わったところで、青年は今度はグレイに向き合った。
「ね?ちゃんとキミの生活についてはボクが保証するとも!彼女には償ってもらって、もっと今までより良い生活を送ろうじゃないか?逆転劇ってやつさ。ね?」
青年の笑顔を直視したグレイは
「
…あ、あんたがそう言うならまぁ
…なんとかなる気がしてきた
………仕方ねぇな、今回だけはそれで妥協してやる。嬢ちゃん、俺とその男と裁判長に感謝しろよ」
「ええと、ありがとぉ?」
「!
…キミ!本当にありがとう!恩に着るよ!よし、お嬢さん。彼には絶対に良い収入源を見つけようね!」
「うん!ハミィ、お仕事頑張るよぉ!」
「うむ」
外野からは「おめでとー!」「頑張れよ!」などの賞賛の声が響き渡っていた。
こうしてこの裁判に関しては、無事一件落着の形で終えたのだった。
(えぇ
…ホントにどういうことなんだこれ
…こんなことってある
…?)
ただ1人、裁判官のみがその場に置いていかれていた。
「さて、まず君自身の収入源を探さないとね。伐採で稼ごうとしたみたいだけど、聖都には森林が少ないから勝手に切る事は違反になってしまうんだ。そこでなんだけど
…」
青年はくるりと東の方を向くと、白レンガ造りの大きな建物を指さした。
「ギルドで働いてみようか。折角、素敵な斧を持ってるんだしさ?」
「およ?ギルド?」
「そうさ!ギルドはね、街や村の人から出された依頼を傭兵達に引き渡す、都公認の派遣組織さ!任務の内容は雑草抜きから魔獣討伐まで様々。1人で受けてもいいし、チームを組んで受けても良い。キミのやりたいように働くことが出来る、自由な組織だよ!」
聖都ギルド。全国各地から”依頼”を集め、加入している傭兵たちに引き渡すことで成り立っている組織である。傭兵たちは実力毎にランクで分けられ、ランクに見合った任務を任される。ギルド内には傭兵たちが寝泊まりする巨大な宿泊施設もあり、ギルド自体がひとつの街のようになっているのだ。
「どうだい?やってみない?」
「もちろん!楽しそうだねぇ!」
ハミィは満面の笑みで答えた。実際にハミィの本来の目的、大祭司に選ばれるためにも実に合理的な決断である。ギルドで任務を受け得を重ねれば、人々からの支持を得ることも出来るかもしれない。
…最も、ハミィ本人はそこまで気は回っていないのだが。
「よーし!決まったなら早速だね!ギルドの入口までは送ってあげるから、そこから先は頑張ってくれるかい?もちろん、生活において困ったことがあればいつでも訪ねてくれ!ボクの家の地図を、キミに渡しておくよ!」
そう言って用意周到に、青年はメモ用紙に書かれた簡易な地図をハミィに渡した。
「ありがとぉ!今度木の実ケーキを作ったら遊びに行ってもいい?」
「もちろん!何時だって歓迎するとも!
…それじゃあそろそろ日も暮れちゃうし
…」
「少しいいかな?諸君」
不意に後ろから聞こえた聞き覚えのある声に、2人は振り返る。そこには先程の裁判長と
…彼に引きずられるように連れてこられた裁判官の姿があった。
「ギルドで稼ぐと言ったな?確かに最も効率良く都に詳しくない少女にも稼ぎやすい場であろう。しかし忘れてはおるまいな?君は原告人、グレイの生活費の分まで稼がなければならない。お主1人では戦力としては心もとないだろう。だろう。そこでだ」
裁判長は、引きずりたてほやほやの部下
…裁判官をハミィの方へ突き飛ばす。
「ぐえっ
………ちょっ、あの」
「
………そいつを連れて行け。そいつと共にギルドで働き、原告人の生活費を稼ぎながら彼の収入源も探せ。それがお前にできる償いだ」
「えっ僕関係なくない?」
「
……裁判長!わざわざ彼女のことが心配で追いかけてきてくれたんだね!?ホントに優しくて素敵な人だよキミは!キミみたいな人がトップに立ってくれているなら、今後の裁判関係は安心できるよ
…!」
「ありがとぉさいばんちょー!ハミィ、頑張るね!」
「うむ」
(だからうむ、じゃねーんだよぉぉぉ)
裁判官の心の叫びも虚しく、裁判長は満足気に踵を返して裁判所へと戻って行った。
「さて、キミがいるならボクがギルドへ道案内する必要もないかな?それじゃあ異国からやってきたお嬢さん、また会おうね!」
「うん!今度遊びに行くねぇ!ばいばーい!」
そう言って青年も姿を消した。そしてこの場に残るは
…
(僕と
…この変な女の子
…)
「ねぇ!」
「ひゃい!?
…あっ、どうも
…」
「ハミィはハミィだよぉ!君のお名前は?」
「
………ラズベリル
…ラズベリル・ブラッド」
「ラズくんだねぇ!よろしく!それでなんだけど
…」
その途端、主にハミィの下腹部の方からぎゅるるるるるるるっと盛大な音が聞こえた。
「お腹減ったよぉ!でもハミィ、お金もってないんだ!ラズくん助けてよぉ!」
「
…………………はぁ
…」
裁判官は本日何回目かもわからないため息をついた。飲食店ならここからギルドへ向かうついでにいくらだってあるだろう。その内のどこかに入ればいいやと心に決め、裁判官
…ラズベリルは少女を連れて歩き始めた。
こうして、木こりと裁判官の不思議な旅は幕を開けたのだった。