宵闇の空から音もなく降ってくるのは、ふっくらとした大粒の雪。それが徐々に積もってきて、縁側から見える景色が白く染め上げられていく。
その光景を、白藍は雪の降り始めからずっと眺めている。最初は「ちょっとだけ」と言っていたのに、俺が音晴との夜の修行を終えた後も湯浴みを済ませた後も、縁側から離れようとしない。
余程初めて見る雪が気に入ったのか。まあ、俺も幼い頃は雪ってすげえ好きだったし、見るだけじゃなくて真っ白に積もったところをぐちゃぐちゃになるまで踏みしめて遊んでいたこともあるから、雪に魅入られる気持ちは分からなくもない。
が、白藍がいくら人間というよりは妖よりの体とは言え、さすがにこれ以上は冷えちまう。
「おい、いい加減体が冷え切っちまうぞ」
その左隣に立って声を掛けると、白藍がキョトンとして俺を見上げた。小さな鼻も雪に負けないくらい白い頬もほんのり赤らんでる。やっぱり冷えちまってるじゃねえか。
「確かに、体の芯が冷えたかも」
「ほら、言わんこっちゃねえ」
「でも、悪い気分じゃない。むしろ、この冷たさが心地いいよ」
俺の心配も何のその、とばかりに白藍が屈託無く笑う。
「昨日まで春めいた陽気だったし、桜の蕾もこの雪の一粒みたいにふっくらとしていたのに……今日は別世界に来たみたい」
「今年はもっと寒い時期に雪が降らなかったからな。桜もびっくりしてるんじゃねえか?」
「そうかもね。びっくりしすぎて開花しなかったらお花見ができないから困るけど」
「花見で食う稲荷寿司は格別に美味いからな、それは困る」
「ショウノシンらしいね」
くす、と白藍が浅葱色の目を細めて笑い声を立てる。その笑みに胸の下か少しもぞ、とする。白藍と接していると時々なる、何とも言えない感覚だ。まあ、悪い気分にはならないからいいけど。
「その稲荷寿司を作るお前が体壊したら、もっと困るよ。だから雪見はその辺にしとけ」
「うーん……でももう少し見ていたいな。明け方には止むかもって、音晴が言ってたし」
そんなに赤い面をしているくせに、まだ眺める気でいるらしい。全く、強情なやつだ。
だからって、「わかったよ、じゃあおやすみ」と言うわけにもいかねえ。下手をすれば明け方まで粘りかねねえし。
俺はため息をつくと、冷たい床に腰を下ろした。冷たすぎて湯浴みで温まった尻尾が一瞬ぶわりと逆立って、白藍がわ、と声を上げる。
「大丈夫?」
「大丈夫じゃねえけど、お前がちゃんと寝るまで見届けるまでは安心して眠れねえからな。あと少しだけなら、付き合ってやる。ほら」
元の毛並みに戻った尻尾を向けてやれば、白藍がぱっと浅葱色の目を輝かせて、一部をそっと胸に抱き寄せる。白藍の腕は冷たかったが、胸は少しだけ温かくて、俺は密かに安堵した。
If you make a mistake, you can cancel it by pressing the reaction.