【あしゅやよ】分かち合いたい甘えたな気持ち

中々おねがショタに甘えてくれないので、ご都合主義猫化したおね(ロリ)がショタに甘えてもらうお話。
あしゅやよ編。

唐突だが黒阿修羅は大いに戸惑っていた。
彼は常日頃から夜宵に頭を撫でられたり大事に大切に抱き締められるのをそのままそっくり相手にしたいと思っていた。何故ならば、してもらった時とても嬉しくてずっとして欲しい気持ちが浮かぶからだ。
寒くて辛いとは正反対の想いをどうか夜宵にも感じて伝えたい、そんな思いからだった。

……お姉ちゃん」
「違う。今の私はお姉ちゃんじゃなくて、猫。にゃー」
「うぅ……

ただし受け止められるものにも種類と限度がある。



夜宵が帰ってくるまで静かにひとり彼女の部屋でお絵かきして待っていたら、勢いよく扉を開けるなりガバっと飛び掛かられた。幸い頭を床に打ち付ける前に、床に平行になるよう両肘を曲げ腕全体で体を支えることが出来た。
黒阿修羅のやせ細った胸の中に飛び込んできた相手は顔を俯かせたまま動かない。腕をじりじり動かして上半身を完全に起こした黒阿修羅が夜宵の両肩をやんわり掴み心配した面持ちで覗き込んだ時。

「にゃあ」

顔を上げ招き猫よろしく軽く握った手をくいっと動かす真顔な夜宵と目が合った。
普段と同じ格好。強いて違う点を挙げるならば、今まで被っていなかった猫耳付きフードを被っている。ゆったりとしたフードの隙間から夜宵の長いサイドの髪が垂れ下がり揺れていた。
完全に虚を突かれた黒阿修羅の夜の川のような瞳がパチクリ瞬き、その夜の川のような瞳を夜宵の重瞳が真っすぐ見つめ逸らされない。
暫し無言の後、夜宵が徐に指をふんわり丸めた所謂猫の手を黒阿修羅の薄い胸板に置き頬ずりを始めた。
「! !?」
猫の鳴き真似に次いで胸に頬ずりする夜宵に黒阿修羅は驚きっぱなしだった。
すり、すり。衣服越しでも分かる夜宵の柔らかい頬の感触にむず痒さに似た感情が黒阿修羅の中に生まれ、むにっと頬を押し付け上目遣いで見上げてくる姿に黒阿修羅が思わず小さく呻いた。
「撫でて」
そう言われ夜宵の肩に置いていた手を浮かせ、数回躊躇してからようやく黒阿修羅は彼女の頭をフード越しに撫でた。とっくに止まっている心臓がドコドコ大きく鳴り、困惑と照れ恥かしさから生気のない黒阿修羅の頬が血色を取り戻す。
たどたどしく撫でる手付きに夜宵が納得したように頷き、口で「ゴロゴロ」と鳴き始めるものだから余計に黒阿修羅は混乱の一途を辿る。

そして、冒頭の状況に陥るのだった。



夜宵が自分に甘えてくれるのは嬉しい。照れ恥かしさが勝るが嬉しい気持ちは確実に黒阿修羅の中に産まれ大きく膨れ上がる。
「お姉ちゃん、猫なの?」
「そう猫。にゃー」
なんとまあ可愛らしい鳴き真似をして猫耳フードを掴む仕草に黒阿修羅の口が少しだけ尖った。猫は可愛い、可愛いのだが彼としては彼女の頭をフード越しではなく直接撫でたかった。
だが、フードを被り直されてしまってはそれも出来ない。黒阿修羅は小さな不満を誤魔化すべく、夜宵の体を抱き寄せ自分の肩口に彼女の額を優しく埋めさせ頭を撫でた。
鼻を掠める夜宵の匂い。ずっと包まれていたい匂いが黒阿修羅の顔を夜宵のフードに埋めさせる。控えめに頬を摺り寄せ、あまりない距離の近さに黒阿修羅が浸っていれば、何やら胸の辺りを一定のリズムで押されているのに気が付いた。
「なにしてるの?」
「パン職人の朝は早い」
……パン?」
顔を上げ黒阿修羅が問い掛けたら、重瞳をキラリ輝かせた夜宵と目が合うなり彼は小首を傾げた。
言っている内容が理解できないのもあるが、一番は男と云えども胸の辺りを継続して触られる恥ずかしさから黒阿修羅の心拍数がどんどん上がっていった。
恐らく夜宵の行動に何かしらの意味はある。だが、止めてほしくて黒阿修羅の両手がそっと彼女の手を掴んだ。
包み込むように止められた夜宵の重瞳が視線をやや落として合わせようとしない黒阿修羅を見遣る。
「いやだった?」
「ちょっと苦手」
「分かった」
無理強いをしない夜宵に黒阿修羅が掴んでいた手を離し彼女と目と目を合わせた。
細く柔い彼女の腰元を抱き寄せ、ちゃっかり猫耳フードを取り直接頭を撫でる。夜宵の頭頂部に揺れている特徴的な髪が黒阿修羅の手に撫でつけられるたび跳ねた。
何度も頭のかたちに沿って撫でていく黒阿修羅の手は優しく、夜宵はとうとうフードを被り直すのを諦めた。黒阿修羅の胸の辺りに置かれていた夜宵の手はいつしか黒阿修羅の背中に回されぎゅっと掴む。
赤みを帯びた重瞳に映り込む夜の川のような瞳は何処までも暗く黒い。されど、ほんのり宿る優しさに夜宵はやおら目を閉じ自ら黒阿修羅の肩口に顔を埋めた。
「お姉ちゃん」
黒阿修羅の穏やかな声音が夜宵の鼓膜奥に注ぎ込まれる。
「猫にならなくても、僕いつでもぎゅってして頭なでなでするよ」
少しだけ強張るも抱き着く力を強める夜宵に黒阿修羅も目を閉じ彼女を抱き締め頭を撫でた。
あれだけ五月蠅かった心音は今は静かで、なんなら重なり合った胸同士から聞こえる心音は夜宵の方が速かった。頬を摺り寄せた先、頬から伝わる微かな熱に黒阿修羅は夜宵の体を強く抱き締める。
瞼裏に隠された瞳が黒目と白目が反転した瞳に上書きされ、黒阿修羅の足元から伸びる幽玄の手たちが夜宵をさらに抱き締めた。