店員さんとお客君+③【甘えん坊】

ぶっ倒れた時のお客君サイドのお話。

死ぬような経験は何度かありました。
思い出してみるなら……例えばある夏の朝礼。
その日は確かいつものやっている朝の番組のお天気コーナーで昼には最高気温になると言われていたような、とてもとても暑い日だったと思います。
朝ですらすでに誰もがゾンビのように呻き耐え難いと主張する暑さで、私の体内にあるはずの水分が立っているだけでもみるみる奪われていくのがわかりました。濡れるはずの地面も瞬時に乾いてしまうのです。
けれども朝礼はすぐには終わりません。学校側は甘く見ていたのかこの日もいつも通り進行しようとしていたのです。
頑張って耐えようとしていましたが数分も立たぬうちに頭を割ってしまおうというほどの激痛に、視界も段々滲んできてしまいました。最初はまつげについた汗の露だろうと思いこんでいましたが。
後から先生から聞きましたが、周りから見たら私はとんでもないことになっていたそうです。
立っていたはずなのにぱっと暗くなって。
永遠に続く気がしました。
涼しくも暑くもないたった黒一色のこの時間が。
けれど、ふっと明るくなるとかすかだけれど夏の蝉が何重に鳴く声の聞こえる病院のベッドにいたのです。

それからは暑い時期はみんなが校庭で暑さに耐えながら聞いている中私一人だけ教室の放送から朝礼を聞いていました。
家族や教員の方々からの弱い私への精一杯の配慮でした。
でもそんな私の姿を見れば見る程学内で仇となっていき「大人は私を贔屓している」と噂されるようになります。

「先生ーどうして法月だけいっつもテントで休んでるのー?」

「私だって日陰で休みたいのになー私も体弱かったらよかったのにー」

「日陰は涼しいからいくらでも髪伸ばせていいよな?あはは」

遠くで聞こえる内容のどれもが自分本位で。
彼ら・彼女らは、きっと弱者の目線に立つことはないのでしょう。
私はこんな「楽」を得たことで遠慮として旅行と遠足も同じ時間を過ごすはずの同級生とも思い出をまともに作ることはなかったのです。
否定の言葉が私の耳に届けば、届くほど、痛み、心臓が軋み、頭も心臓も急に張り裂けて、終い、そうだったので、苦しみ、耐えられなくて、こんな惨めな、死んで終いたかったです。

………軽率な行動のせいで店員さんの前で倒れてしまいました。
あの真っ暗の中に今います。
死んでしまうのでしょうか。
でも私、生きるって決めたんです。
店員さんが寂しくならないように死ぬわけにはいきません……
愛する人達がまだ生きる世界にいますから……


願っていると明るくなった視界に久しぶりの白い天井が。
急に息が吸えるようなった所為で飛び起きる形になった私に店員さんは変わらない態度で接してくれるのです。
そこにあなたがいたことが嬉しかった。
あの時目が覚めるまで家族がずっと寄り添ってくれたことを思い出します。


「あ、起きた。起きたならもう帰ってもいいそうですよ。……でも体弱いなら無理は禁物です。一層気をつけないと」
…………!」

途端にこみ上げる涙。

「え?何故?」

店員さんが家族とあまりうまくいってないというお話を思い出したことも、側にいてくれることも……
場所なんて考える余裕もなく耐えられなくて大声をあげて泣いてしまうのでした。
あなたと私が、同じ学校の同級生だったなら……もっと早く私達は友達らしい友達になれて楽しい時間をさらに過ごしていたのかもしれないのになどとしょうもないしあり得ない夢想をしてしまいます。
その間もわんわん子供のように泣き続ける私を店員さんは止むまでずっといつも通り感情の薄い不思議そうな目のまま、けれど手は暖かく優しくよしよしとあやしていました。

……―――私の辛いことを受け止めてくれるあなたが辛いことに直面したなら。その時私が、代わりに受け止めてあげます。