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ガイベル
2024-03-04 10:40:28
2147文字
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お話
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左手に光るリング
ランダムお題
サニーくんが指輪をプレゼントしてくれた。
少し前に彼と親友であり恋人、という関係になったは良いものの、今までそういった類のものを贈り合うなんてことはしてこなかった。
髪飾りやブレスレットをつけることのある自分に比べて、彼はそういう装飾品を付けることをあまり好まないだろうと思っていたし
……
ぼくの ──良かれと思った行動がうまくいかない事ばかりだ、ということを痛いほど自覚した分の── 身勝手な保身もあった。
昔は大人に近づくにつれ出来ることばかりが増えるものだと思っていたけれど、実際そんなことはないのだ。
絶対に失いたくないと思えば思うほど、行動が慎重になる。穏やかな停滞は心地よくて、このまま何も変わらなければ良い、とさえ思う事もある。
だからそのリングを目の前にしても、気の利いた言葉の一つだってすぐには出てこなかった。
特に目立つ装飾などもない、とてもシンプルな指輪。
それでもぼくにとっては今、何より輝いて見えた。
「あ、ありがとう
………
」
なんとか絞り出した最初の言葉は、間違ってはなかったと思う。いつもはすらすらと出てくるような言葉が今に限ってなかなか出てこない。
言いたい事、たくさんあるはずなのに。
身体中が火でもついてしまったかのように熱い。手汗もすごい気がするし、自分の鼓動の音が、耳まで届くほどの強さで脈を打っているのがわかる。
確かに自分の手のひらの中にある丸い輪を、いまだに少し信じられないような気持ちで見つめながら呟く。
「ぼく、ずっとずっと
……
大事にするね」
「
…………
つけないの?」
「えっ」
ぼくの様子を静かに見ていたサニーくんが、少し訝しむような顔で問いかけてくる。
確かに、指輪なのだから指につけて然るべきである。
そんなことはわかっているけど、でも、もう少しだけこのまま眺めていたい。
……
それに、くれた本人の目の前で、どこの指につけるのが正解なのか
……
わからない。
とはいえ曲がりなりにも恋人同士。
本当は彼に贈ってもらった指輪をどこにつけたいかなんて、そんなの決まりきっている。それにサニーくんは単なるアクセサリーの一つとして渡してきただけで、きっとどこだって気にしないかもしれない。
……
でもやっぱりぼくは気になるし、気にする。
そして流石に自分で、それも彼の目の前でその指につける勇気は今のぼくには足りなかった。
いっそのこと昔の自分なら無邪気に、傲慢に、なんの屈託もなく、喜んでつけられたかも。
どうしよう。
視線をずっと手のひらのそれに落としたまま、質問にもはっきり答えられずにいるぼくに何を思ったのか、サニーくんが指輪をヒョイと拾い上げる。
自分の手の中にあった大切な重さがするりと無くなる感覚。
「!!!だ、だめ!返して
…
!!」
咄嗟のことでいつもより強くなったぼくの声にサニーくんは少しうるさそうに、そしてム
……
とした表情になる。
で、でも、だって、
……
だって。
確かにサニーくんがくれた物ではあるけれど。
もうそれはぼくのもののはず、じゃないの。
一気に不安が押し寄せる。
「
……
もう一回手、出して。僕がつけるから」
そう言って、何も持っていない方の手をこちらに差し出してきた。
な、なんだ、そういう事か。それなら
……
それならきっと、絶対に大丈夫だ。
またよくない思考で先走ってしまった。
それにもし、今後もつけることがあるならそれに
倣
なら
えばいいのだ。
……
。
「
…………
なくさないでね」
そう言ったサニーくんは、迷わずぼくの左手を引いて薬指にぐいとそのリングを押し込んだ。
期待がなかったといえば嘘になる。
彼がそれを選んでくれたらどんなに良いかって。
「
………………
サニーくん」
「
……
うん」
「本当に、貰っていいんだよね」
「うん」
「このままつけてても、いいんだよね」
「うん」
「
……
もう返して欲しいって言われても、返せないよ」
「うん」
「絶対、返さないからね」
「うん」
「
……
もし、
……
きみがぼくのこと
……
嫌いになっても、返さないからね」
「ん」
「
……
ぼくの話、あんまり聞いてないでしょ」
「うん
……
?
……
聞いてるよ。」
サニーくんの、どこまでも優しい声と表情が返ってくる。
彼がぼくの話をきちんと聞いているなんて、そんな事、誰よりわかっているつもりなのに。
いつもつい確かめたり、試すようなことばかりしてしまう。もう彼の負担になるふるまいはやめよう、と思っているのに。
……
やっぱりぼくは、うまくできない。
声が震える。
「サニーくんは
……
サニーくんは指輪、つけないの?」
できれば同じものを、同じ場所につけて欲しくて。
……
こればかりは今聞くことを逃したら、もしかすると一生タイミングを逃し続けるような気がしたから。ぼくも少しでも、彼を縛る物が欲しかった。
ぼくの言葉を聞いた彼は少し恥ずかしそうにポケットを探ると、そこからもう一つ、同じような指輪を出した。
「受け取ってもらえたら、つけようと思って」
と言うと、再びぼくに指輪を渡し、空の左手を差し出してくる。
今度はぼくの番だ、と言う事らしい。
ぼくは震えておぼつかない手で、彼の手を取った。
end.
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