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雨月 ひより
2024-03-03 23:10:03
5438文字
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少女に一目惚れをした蛙の話
Twitter(X)のハッシュタグ『#怒らないから正直にどんな小説を書いて欲しいか言ってごらんなさい 』のリクエスト
『ゲッコウガ×むらびと(女の子)』のお話。
以前やった診断メーカーで出たお題も使ってみました!
拙者は人間の少女に一目惚れをした。
本日は主人が乱闘の予定が入っている為、拙者も同行している。
主人は手持ちにいつもの三匹を共に連れているので拙者は応援と言う形だ。
我等ポケモン自身で闘う者達は本来は主人を伴わない。
そもそも拙者には最初から主人はいない。
それでは困ると、最初に此処に来た時この世界を創った者から言われ、特例として主人がいないポケモン達には主人をつけることになったのだ。
拙者の主人となったのは長い黒髪を持つ少女だ。
どのポケモンを選ぶのかは主人達によって決められる。
候補にはもう一人少年がいて、その少年と相談し公平になるように決めた結果、拙者の主人は前出の少女になったのだ。
どちらが主人になろうと、選ばれたからには全力を尽くすまでだ。
主人に従い、主人の望むような闘いをして勝つことだけだ。
主人のあとについていくと、小さな少女がいた。
「ゲッコウガ、今日はむらびとちゃんと一緒に戦うんだよ」
主人の後ろからそちらを覗くと小さな少女と目が合った。
体に似合わない大きな目と、桃色の髪が目立ち、主人と同じ人間の少女だった。
(何と可愛い、でござる
…
か)
拙者はその少女に一目惚れした。
「あ、ゲッコウガったら、もうっ
…
」
あまりにも可愛のでもう少し見ていたかったが、他人をそんなに見る訳にもいかず、目を背け主人の後ろへと隠れる。
(あの
娘
こ
『むらびと』と言うのでこざるか
…
)
主人とむらびと殿は、何やら話をしていた。
これから始まる乱闘の打ち合わせだと思われる。
先程、本日はむらびと殿と組むと主人が言っていたから『チーム乱闘』と言う種類での闘いなのだろう。
それでも主人を勝利に導くのが拙者の務めである。
しかし、本日はむらびと殿もいる。
共に闘いながらも一目惚れした可愛い少女を守りつつ、もしも近付くことが出来ればと半、邪な感情も抱く。
「それじゃあ二人共、今日はよろしくね!」
(コクッ)
「はいっ!」
主人の言葉に拙者は頷き、むらびと殿は元気良く声を発する。
その声も可愛らしかった。
主人と拙者、むらびと殿と組んだ闘いは我等の勝利で終わった。
初めての共闘にしては良く出来たと我ながら思う。
普段よりも本日の闘いの方が充実していた。
主人にも、むらびと殿にも勝利を捧げることが出来たからだ。
「ゲッコウガお疲れ様。今日はもう好きにしていいよ」
闘いに勝利したことにより主人は機嫌が良かった。
しばしば負けることもあるが、それでも主人は決して不機嫌さを我等には出さなかった。
己の弱さを語り、次へはどう活かそうか等の反省会を行う程、己への厳しさを持つがその厳しさを我等ポケモン達には求めたりはしない。
しかし、主人が己を反省していると言うのに我等ポケモンは甘える訳にはいかない。
主人が負けた日は拙者も一から鍛錬をやり直すのだ。
主人が負けたのは我等ポケモンの責任もある。
それを忘れてはならないと常日頃から心に誓っていることだ。
しかし、本日は勝利で終わることが出来て嬉しかった。
本日はもう乱闘は入っていない。
『好きにしていい』と主人から許しを貰い、拙者はその場を離れた。
屋敷を離れ森の奥へとやって来た。
この森の奥を進むと拓けた場所に出てくる。
そこには大きな池があるのだ。
拙者はこの大きな池が好きなのである。
拙者は水タイプのポケモン故、雨、水辺のある場所がなければ不安にもなる。
肌を清潔に保ちたいのもあるし、乾燥も苦手なのだ。
水タイプの悩みである。
池には遮るものはなく日光が直接差し込む。
水面に日光が反射し目を開けられない程眩しくなる時間帯がある。
今は少し日が傾いたこともあり、水面に日光は当たっているものの眩しさは軽減されていた。
此処は誰も知らない、主人にも教えていない特別な場所なのだ。
拙者はこの池にいつも少しだけ泳ぎに来ている。
本日もそのつもりで来たのだが、先客が来ていた。
(誰でござろう
…
?)
拙者からには後ろ姿しか見えない。
しかし拙者にはその先客の後ろ姿に見覚えがあった。
「あれ?ゲッコウガ
…
さん?」
此方を振り返って見せたその姿は先程、主人と共に闘ったむらびと殿だった。
「むらびと殿、どうして此方に?」
本来、我等ポケモン達は人の言葉を話すことは出来ない。
出来ないのだが、この世界を創った者の特別な力で人の言葉を話せるようにしてもらったのだ。
特別な力のことは詳しく分からない(聞いても教えてくれない)がそれにより主人、それ以外の者達とも話すことが出来るようになった。
人の言葉を話せるようにしてもらったが、拙者は喋るのが苦手である為、主人の前でさえも必要なこと以外は口に出さない。
それなのに、むらびと殿の前ではつい言葉を発したくなり話しかけた。
「ここは、わたしの好きな場所の一つなの。わたしが住んでいた場所にもここと同じくらい大きな池があって
…
。とてもキレイで似てるなって
…
」
拙者同様、彼女もまたこの場所が好きなのだと教えてくれた。
「そうでござったか
…
」
むらびと殿と少し離れた所に座り光が差し込む池を眺める。
時々、柔らかい風が吹いてくる。
顔は正面の池を見たまま、僅かに視線だけをむらびと殿の方へ向けると風に吹かれて彼女の髪が靡いている。
風で靡いていた横髪を押さえる仕草が何とも可愛らしい。
肩には付かない長さの桃色の髪は柔らかそうだ。
彼女が足を投げ出し時々、足先をパタパタ動かすのは子供
…
歳も実際に主人とさ程だ変わらないように見える。
ほぼ初対面に近い者にそんなことを聞きはしない(聞くことは失礼にあたると思っているので)そう思っただけである。
(何故、拙者はこんなにも
…
)
触れられそうな位、彼女が傍にいると言うのにそれは出来ない。
拙者は蛙ポケモンだ。
世の中には蛙が嫌いだと言う者もいる。
もし、むらびと殿も嫌いだとしたら
…
。
しかし、本日の乱闘で我等と組んだが、あれは無理をしていたのだろうか。
主人にも拙者にもそのことを悟られないように振る舞っていたのだろうか。
「
………………………
」
蛙が好きか嫌いか、どちらにしても拙者のこの気持ちは彼女に伝えることは出来ない。
一匹のポケモンが一人の人間の少女に一目惚れしようとは自分でも思っていなかった。
それ程、彼女は魅力的に感じたのだ。
だが人間とポケモンは決して結ばれることはない。
人間の彼女を好きになってもポケモンである拙者が釣り合う筈もなく
…
。
何故、拙者は彼女に一目惚れしてしまったのだろう。
そんなことは叶わぬ夢だと分かっているのに
…
。
「ゲッコウガさん
…
?」
余計なことを考えていたのか、いつの間にかむらびと殿が拙者の傍にまで来ていた。
「む、むらびと殿
…
っ?!」
忍たる者、人の気配に気付かなかったとは何と不覚なことか!
それは一目惚れした彼女であっても同じだ。
「ごめんなさい。そんなに驚くとは思わなくて
…
」
「いや、その、失礼致した!」
気配に気付かなかったのもあるが、やはり一目惚れした彼女が拙者の目の前にまで来たことにより更に気が動転してしまった。
「だって、ゲッコウガさん、あのあと全然しゃべらなくなっちゃったから何か心配事があるのかと思って
…
。これでも何度か呼んでから来たんだけど
…
」
彼女は突然傍まで来ていた訳ではなく、きちんと呼んでくれていた。
それに何も答えずにいた拙者のことを心配して来てくれたのだ。
だが拙者はそれに気付かず色々と考え事をしていた。
「
…………………
」
呼びかけに答えなかった拙者を心配して傍まで来てくれたと言うのに『何でもない』と答えるのは違うと思う。
それでは心配して来てくれた彼女にも失礼なことになる。
彼女がここまでしてくれたのだから拙者も忍の意地を見せよう。
これは叶わぬ夢だと分かったのだ。
もう何も恐れることはない。
「むらびと殿、聞いてほしいことがあるのでござる
…
」
彼女の目を真っ直ぐ見て、これまでに思っていたことを伝える。
「拙者はむらびと殿に一目惚れをしたでござる。しかし、拙者はポケモンでござる故、人間である貴殿と釣り合わないことは承知しているでござる。それでも拙者は貴殿のことを好きになり申した
…
」
気持ちをまとめたつもりであったが、こうも緊張してしまうとは。
だが、彼女に一目惚れしたと言うことと、好きになったと言うことはきちんと伝えられたと思う。
答えは聞かずとも分かっているので伝えられたことだけでも十分である。
「ゲッコウガさん
…
」
むらびと殿は拙者の手を取る。
彼女の手は小さくて温かく、柔らかい。
「ゲッコウガさんの気持ちは分かりました。それならわたしも、きちんと伝えますね」
拙者の手を取り握ると真っ直ぐに見て口を開いた。
「ゲッコウガさんを見た時『カッコいいな』って思ったよ。ゲッコウガさんがわたしのことを『好きだ』って言ってくれたのも本当に嬉しかった。でも、わたしの中ではまだあなたは『カッコいい』の域を出ていません。だから
…
」
ここまで言われれば答えはもうすぐだ。
その答えの先ももう分かっている。
「まずは、あなたのことを好きになることから始めたいなと思います。あなたを、好きになってもいいですか
…
?」
「ゲコ
…
ッ?!」
断られることを確信していたいたのだが、思っていなかったことを彼女から告げられて驚いたあまりに鳴き声が漏れてしまった。
人の言葉を話せるようになる前の拙者の鳴き声である。
人の言葉を話せるようになった今では使わなくなっていたが、久しぶりに地声を聞いた。
何とも腑抜けた声である
…
。
先程の彼女の言葉を今一度、整理してみよう。
彼女は拙者のことを格好良いと思ってくれていた。
拙者が彼女に好きだと伝えたことが嬉しいと言ってくれた。
だが、彼女は拙者のことはまだ格好良いの域を出ていない。
そこまで聞き、拙者は断られることを覚悟したのだ。
しかし、そのあとに好きになることから始めたい。
好きになっても良いか
…
と。
好きになっても良いか
…
とは一体?
「む、むらびと殿っ
…
!」
先程はそこで思考が止まってしまったが、改めて思い返すと自分の身に何が起こったのか分からなくなった。
「つまり、その
…
」
恥ずかしさからなのか彼女は拙者の手を離してしまい、その手で自分の顔を覆ってしまった。
しかし言いかけた拙者の言葉に頷いてくれた。
フワ
…
風に靡いた彼女の横髪が舞い現れた耳は真っ赤に染まっていた。
嗚呼、彼女は何て可愛らしい
娘
こ
なのだろう。
彼女の話し方も姿も仕草の一つ一つに益々、惚れた。
そんな彼女を主人同様、守りたいと感じた。
しかし、まだ好きになることから始まるのだ。
そうだ、まだ始まったばかりなのだ。
拙者のこれからの言動、行動により彼女の心が変わるかもしれないのだ。
惚れた者に振られぬ様、粗相なくせねばならない。
慎重にしなければ
…
。
ヒュー
…
夏とは言え、日が傾くと少々寒く感じる。
おまけに此処は池だ。
更に寒く感じるだろう。
水面が風に吹かれて揺れている。
水タイプである拙者にはこの位がちょうど良いが、人間である彼女には寒いと思う。
「むらびと殿。寒くなってきた故、そろそろ戻りましょう」
自らの手で顔を覆っている彼女に呼びかける。
拙者の言葉にそのまま彼女は頷いてくれた。
空を見上げると日も傾き始めてきていた。
もうじき夜が来る。
この池は森の奥にある為、暗くなってしまっては行動が出来なくなってしまう。
拙者は水タイプのポケモンな為、暗い夜道を明るく照らす技を習得出来ない。
もしも戻れなければ、この暗い森で一夜を明かさなければならない。
拙者のみなら出来るが、彼女にまで強いたくはない。
早く森を出て屋敷に戻らなければ。
「うん、分かった
…
」
いつの間にか覆っていた手がなくなり、むらびと殿が顔を見せてくれた。
辺りが薄暗くなってきたが彼女の笑みは見えた。
この可愛らしい笑顔を守らなければならない。
「ゲッコウガさん」
彼女が拙者に手を差し出してきた。
もう少し周りが明るかったら差し出された彼女の手を取ることを躊躇ったかもしれない。
しかし夜が迫ろうとしている今なら出来る。
差し出された彼女の手を取り握った。
先程感じた温かく、柔らかい。
そっと握ると彼女は拙者の手を握り返してくれた。
そして彼女に歩幅を合わせ、森をあとにした。
拙者は人間の少女に一目惚れをした。
一目惚れからの思いを伝えるで終わろうとしていたのが、まさかの彼女から『好きになっても良いか』との答えでこれから始まろうとしている。
これからが大変だ。
拙者の選んだことにより彼女の心が変わるかもしれないのだ。
先の未来を共に歩みたいのであるなら、拙者は努力も惜しまない。
全ては彼女の為にだ。
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