雨月 ひより
2024-03-02 22:06:11
4363文字
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君にいたずらを…

Twitter(X)のハッシュタグ『#ハロウィンなのでトリックオアトリートってリプしてくれた人にさらさら〜とお菓子という名のSSをあげる』でリクエスト頂いたので書いた『ちょっぴり甘めのクロル腐SS』です。
遅めのハロウィンのお話です。

『トリック・オア・トリート〜!!!』

「お菓子をくれないと、いたずらしちゃうぞ〜!」

「ガオ~!」

十月の終わりの日の夕方、スマブラの屋敷の中は子供達の声で賑やかだった。

これはハロウィンと言う海外のお祭りだ。

国が違えば悪魔の復活を願う祭だったり、作物の収穫を祝う祭等、祝い方はそれぞれ違うらしいけど、お祭りが楽しいものには違いない。

そして、このスマブラではファイターの一人である、むらびとの住む世界でのハロウィンの催しを元に開催することになっていた。

動物、怪物等、それぞれ個性的な仮装をして子供達が大人に『お菓子をくれ!』とねだっている声があちこちで聞こえていた。

『トリック・オア・トリート』

その意味は『お菓子をくれなきゃいたずらをするぞ』と言うらしい。

「はい、どうぞ」

「わ〜い!ありがとう!」

大人達はいたずらをされちゃ堪らないとこの日までに用意していたお菓子を仮装した子供達に渡していた。

僕が見る限り、スマブラのハロウィンのお祭りはこれで二回目だ。

一番最初の時は子供達が少なくと、言うよりも初めてのことばかりで色々忙しくてそれどころではなかったと一番最初から参加している人達から聞いたことはあった。

僕が見た限りでは二回だけど、スマブラ全体では四回目の開催らしい。

そして今回、四回目のハロウィンは大人達も仮装してみよう!と言うことになって思い思いの衣装なんだけど

(僕は要らないって言ったのにな

参加するつもりはなかったんだけど、今日はたまたま休みだったこともあり、急遽仮装してくれと女性方に頼まれた。

子供達にお菓子をあげるだけで良いかと思っていたのに、まさか仮装まで頼まれるとは思っていなかった。

しかも、この衣装

(特務機関で見たことあるな

別の世界のある特務機関で見たことがある物と良く似ていたんだ。



今日の昼頃、突然部屋に来たピーチ姫に白混じりの灰色の獣の付け耳、肉球が目立つ獣の手、ふわふわの尻尾のセットを渡された。

「いつも着ている格好の上から付けるだけで良いですわよ!すぐに取れますし、お手軽でしょう?!」

この仮装セットを持って来たピーチ姫にそう言われて渡されたら『要らない』とは言えなかった。

「子供達が来たらお菓子渡してあげて下さいな」

「あっ、はい

獣の仮装セットを渡されるとすぐに出て行ってしまった。

「はぁ

仮装の必要のない人達が羨ましい。

このスマブラには様々な世界の人達が集まっているから、獣の人達もいた。

その人達は特に仮装する訳でもなく、と言うよりは魔法使いの帽子位被る程度だった。

僕もあれ位でちょうど良いのにな

半ば強引に渡された獣の仮装セットを仕方なく身に着けることにした。



「ルフレ〜、トリック・オア・トリート!」

「ルフレ〜お菓子ちょうだい!」

「くれないといたずらしちゃうぞ〜!」

夕方になると、子供達がお菓子をくれと僕の部屋にやって来た。

ガチャ

「はい。あげるから、いたずらしないでね」

『わ〜い、ありがとう!!』

肉球が目立つ獣の手だとうまく取れないのでそれは此処では省略した。

「ルフレ、そのオオカミさん可愛いね!」

「めちゃめちゃ似合ってるよ〜」

僕の仮装を見た子供達から似合うと褒めてもらった。

「あはは、ありがとう

こんな年で生まれて初めての仮装を褒めてもらえた。

此処に来ている子供達は皆、正直で素直で良い子達だから、本心だと思う。

「ねぇねぇ、アレつけて『ガオ〜』ってやってみてよ!」

「えぇっ?!」

あれと言うのは目立つ肉球が付いた獣の手だ。

毛並みが気持ち良い獣の手だけど、大きすぎてあれを付けてしまうと何も掴めないし不便だから付けないでいたんだ。

その獣の手を付けてくれとおねだりされてしまった。

しかも『ガオー』と追加で。

こんなこと来年はやらないし、折角だからやってみようかな。

『お願〜い!』

それに、子供達のキラキラ輝く目でおねだりされたら、断ることは出来ない。

「じゃあ

子供達にもお菓子をあげたので獣の手を付ける。

そして

「が、がおー

獣の手を付けてのポーズ。

流石に大きな声では言えなかったけど、自分が出来る最大でやった。

『可愛い〜!!』

「ウーちゃんみたい!」

「うん、ウルフさながらだね!」

そこまで褒められるとは思わなかった。

本物の狼であるウルフのようだと言われるのは、ちょっとおこがましいけども、嘘ではないと信じることにする。

でも、ここまですると流石に恥ずかしい。

「じゃあ、ルフレにもお菓子あげる!」

「うん、可愛いの見せてくれたお礼!」

僕があげた物とは違うお菓子を子供達から貰ってしまった。

あげる側だったのに、貰えるとは思わなかった。

しかも、獣に仮装した僕がただ獣の手を付けて小さな声で『がおー』と言っただけのお粗末なものなのに何故かお礼としてくれたのだ。

「あ、ありがとう

子供達から飴玉やチョコレートを貰えた。

「あっ、次に行こう!」

「そうだね!まだまだ貰わなきゃ〜」

『じゃあね〜、ハッピーハロウィーン!』

他の人達からお菓子を貰う為に子供達は僕の部屋から出て行った。

「は、ハッピーハロウィン

バタン!

部屋の扉が閉まると廊下から子供達の賑やかな声が響いてきた。

「はぁ

子供達にもお菓子をあげたし僕のハロウィンはお終いだ。

今回のハロウィンも賑やかに終われたかなと思う。

前回の時も賑やかだったけど、今回の方が更に人数が増えたこともあり賑やかさが増していて、少し疲れたけども。

あと、まさか自分も仮装するとは思わなかった。

「さて、そろそろ脱ごうかな

特に獣の手が邪魔で仕方ない。

大きすぎて何も掴めなくて本当に不便なんだ。

身に着けている獣の手を掴んで外そうとした時だった。



「ルフレ、入るぞ」

ガチャ

声がしたのと同時に部屋の扉が開いた。

中に入って来たのはクロムだった。

「く、クロム?!」

せめてノック位はして欲しい。

……………………

突然の訪問で彼は何の用で来たんだろう?

ノックもせず入って来た彼は僕の仮装を見ても何も言わなかった。

沈黙は嫌だから、せめて何か言って欲しい。

似合わないでも何でも良いから。

「良く、似合ってるぞ」

「えぇ?」

沈黙を破っての最初の一言は、まさかの反応だった。

似合わないと言われるかと思っていたからだ。

でも、子供達は噓じゃないと思えるけど、彼からのは、申し訳ないけど信じられない。

「君、本当にそう思っているかい?」

………………………

また黙ってしまった。

あぁ、やっぱりお世辞だったんだ。

正直に似合わないと言ってくれた方がまだ良かった。

子供達は正直に言ってくれて嬉しかったけど、自分では似合っていないって感じていたんだから。

「っ

彼は口元を手で覆った。

この姿の僕に笑いを堪えているのだろうか。

それならば堪えないで思いっ切り笑い飛ばしてくれた方がよっぽど良い。

「クロム

いつもは、はっきり物事を言う彼なのに今日は何だかおかしい。

「ねぇ君、僕に何か用があったんじゃないのかい?」

………………

僕が聞いても口元を手で覆ったままで、何も答えてくれない。

「クロム。僕の話、聞いているかい?」

獣の手を外すことを忘れ、彼に近付くとその腕を掴まれた。

「な、何っ?!」

口元は手で覆ったまま、だけどもう片方の手で僕の腕を掴んでいる。

掴まれた腕を引き寄せられて僕は彼の胸の中に収まった。

「く、クロム?」

彼の手が僕の背中へと伸びて抱き締められる。

「すまない。お前のその姿があまりに似合い過ぎて、可愛いなと思ったから何も言えなかった

耳元で本当に小さな声で褒めてくれた。

こんな仮装と言えない簡単なものなのに良く似合っているから、何も言えなくなったなんて、彼の方こそ可愛らしいじゃないか

そうだ、彼は嘘は嫌いだ。

いつも本当のことしか言わないのは分かっていることじゃないか。

(正直すぎるから時々、他の人と揉めることがあるとは言えないけど)

信じなかった僕が悪かった。

「ありがとう

彼の胸の中でお礼を言うと、少しだけ強く抱き締められた。



「クロム。君、お菓子持っていないかい?」

「菓子?」

「うん、今日は何の日だか、分かっているよね?」

「あぁ。でも

今日はハロウィンだ。

子供達にはお菓子をあげたけど、折角なら、僕達も楽しみたい。

もし、クロムがお菓子を持っていなかったらいたずらしてみようかななんて、少しだけ思ったから聞いてみた。

「すまない。此処に来る途中、子供達に会ったから渡してしまったお前も欲しかったのか?」

残念ながら、持っていなかった。

でも、仮に持っていたとしてもいたずらしてみようかなとは思っていたんだ。

「そうじゃないよ、でもさ

「でも何だ?」

その続きを聞こうと彼は耳元から顔を離すと僕を見下ろす。

僕は肉球の目立つ獣の手を被ったままで彼の頬に触れる。

「お菓子を持っていないなら、君にいたずらしなくちゃいけないんだよ」



『お菓子をくれなきゃいたずらするぞ』

それを合言葉に子供達がお菓子を求めて練り歩く。

それがハロウィンのお約束だ。

僕達は子供ではないけど、少し位、童心に帰っても悪くはないだろう?

「無いものは仕方ない。お前からのいたずら、甘んじて受けよう」

「流石はクロム」

これからが彼へのいたずらの始まりだ。

「次回はお前にも菓子を用意しておこう」

「次があるか分からないじゃないか」

「俺は次回もあると信じている」

「そうか。じゃあ、その時は宜しくね」

「あぁ」

次があるかは分からないけど、今回の僕のハロウィンは彼へのいたずらで終わることになる。

次は彼から貰えるお菓子を楽しみにして。



ところで、彼は何の用があって来たのだろう?

「クロム、僕に用があったんじゃ

「そうだった筈なんだが忘れてしまった」

「そう

きっと大したことないかもしれないし、いずれ思い出すだろう。

でも今は彼へのいたずらを先に。

僕の彼へのいたずらは



ハッピーハロウィン。