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雨月 ひより
2024-03-02 21:49:19
4791文字
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貴方が選んだのは…
Twitter(X)のハッシュタグ『#書いて欲しい話をリプで教えて貰うタグ』でリクエスト頂いたリヒシモです。
リクエスト内容は『後味の悪い話のリヒシモ』で、温いですが血等の描写がありますのでご注意下さい。
この屋敷には地下室があった。
地下室があることを知っているのは極僅かな者達だけらしいが。
その中の一人に俺も入っていた。
数年前に誰かが使っていたらしい痕跡があったのは、初めてこの地下室に来た時に見つけた。
誰が使っていたのか、誰をこの地下室に閉じ込めていたのか。
それは知らないし、興味はない。
今は俺が所有しているのだから。
俺は俺の大切な、愛しい人をこの地下室に閉じ込めた。
その人はとても眩しくて、厳しくもあるが優しくて
…
。
俺のご先祖様だ。
眩しく美しい彼を誰の目にも映したくなかった。
誰の手にも触れさせたくなかった。
俺だけのモノにしたかったから彼をこの地下室に閉じ込めた。
ご先祖様の血の繋がりがある俺も体は丈夫で力もある。
ただ閉じ込めただけでは破られてしまう。
動けなくする必要があった。
体が丈夫だからと言って、大切な人を無闇に傷付けたくなかったから、ドクターマリオに『眠れない』と嘘の相談して睡眠薬を貰った。
騙してしまったのは悪かったと思うが後悔はしていない。
それを大切なご先祖様
…
シモンを呼び、一緒にお茶を飲む時に彼のお茶の中に騙して手に入れた睡眠薬を入れた。
飲むのを見届け、眠った隙にこの地下室へと連れて来た。
地下室には窓はなく灯りがなければ暗闇に包まれる。
照明器具は元々ないようだ。
窓がなく換気出来ないからか、地下室特有の湿り気と臭いが漂う。
今までこの部屋に訪れた者達の臭いなのだろうか。
それと、誰かがいたような痕跡が未だに残ったままだ。
鎖が天井に繋がれた状態、床には何だか分からない液体の染みがそのままだ。
この地下室に閉じ込められた何者かの名残なのか。
天井に繋がれた鎖をシモンが身に付けている両手首の腕輪に繋ぐ。
騙して手に入れた睡眠薬は俺専用に処方してもらった物だ。
丈夫な体を持つ俺だから市販のでは効かない、特別な物であるらしく、使用頻度を守れば良く眠れるとドクターから言われた。
俺でなく、シモンに使ったが、体の丈夫さは同じだから使っても問題はないだろう。
ただ、良く効く物だから今日はこのまま目が覚めないだろうけどな。
シモン、貴方は今日から俺だけのモノだ。
だから、もう二度とこの部屋から出さない。
俺だけしかその目に映さないでくれ。
その声で俺以外の者達の名前も呼ばないでくれ。
貴方の全ては俺のモノだ。
これから俺だけを見る為、俺の名前だけを言う為に貴方を調教していきます。
今日から
…
。
×年 ×月 ×日、××曜日。
今日からこの日誌を書いていくことにする。
今日、シモンをこの部屋へ閉じ込めた。
明日から俺好み通りに彼を調教していくことにする。
×年 ×月 ××日、××曜日。
「リヒター、止めてくれ
…
!」
睡眠薬から覚めた彼の最初の声は『やめてくれ』だった。
天井に繋がれた鎖をジャラジャラと鳴らし全てを拒み続ける。
食事を、俺が触れることを
…
。
「頼む、此処から出してくれ
…
!」
すぐに暗闇に慣れ、真っ先に俺を見て『此処から出してくれ』と懇願される。
最初は強気だった。
『何故、自分をこんな所に閉じ込めたのか』とか聞かれた。
例え子孫の俺でも屈しないと思っていたが、閉じ込めた理由を伝えるとその顔はみるみるうちに変わっていった。
そう、こんなことをした俺に怒り、軽蔑した顔だ。
俺がすることを、話すことを全て拒むようになった。
最初のうちはそうなることは分かっていた。
理由も言えば軽蔑されることも。
分かっていたがやはり傷付くんだな。
だが、そうした以上、後戻りは出来ない。
出しても拒否する食事を無理矢理摂らせたり、今までの気持ちを耳元で伝えていく。
首を横に振り『近付くな!その穢れた手で私に触れるな!』と拒まれる。
拒まれる度に彼の美しい髪を掴み、言い聞かせた。
俺に何度頼もうとも、貴方はもう二度と此処から出られない。
貴方は俺のモノだから此処から出さない。
「嫌だ、止めろ
…
!」
彼は言い聞かせても屈しなかった。
それでこそ、俺のご先祖様だ。
屈しないその姿が眩しくて、同時に思い知らせる。
こんなことをしている愚かな俺を。
××年 ×月 ××日、×曜日。
何も鞭ばかり与える訳ではない。
時には飴もあげた。
決してご先祖様の綺麗な体を傷付けることはしなかった。
心には傷を付けたが、体だけは
…
。
「此の様な事、嫌だ
…
」
相変わらず口では俺を拒み続けているが、口付けを捧げると体は喜んでくれた。
彼の美しい体は俺を受け入れてくれるようになった。
その体は俺を欲するようになっていた。
「貴方は俺のモノだ、例え貴方のモノでも俺のモノだからな
…
」
貴方の全ては俺のモノなんだ。
だから、貴方のこの美しくも逞しいこの体も俺だけのモノなんだ。
「もう嫌だ、止めてくれ
…
っ」
未だに嫌だ、止めてくれと懇願はされるが体はもう俺無しではいられなくなったようだ。
何度繋がっても体は離れなくなった。
心と体は別物だった。
この時点で体への調教は成功していた。
あとは心も
…
。
もう少しで彼の全てをモノに出来る。
×年 ××月 ××日、××曜日。
この頃になると俺の言うことを拒むことはなくなっていた。
言うことを聞いてくれるようになっていた。
ただ、時には反論することがあったが、少しでも口答えしようものなら体にお仕置きをする。
そうするとすぐ謝ってくる。
謝るが体は正直ですぐ反応してしまう。
それすらも可愛い。
「ゆ、許してくれ
…
もう、言わ無いからっ
…
」
「それ、昨日も言っていたぞ。許してあげるから
…
」
許してあげる代わりに体を繋ぐ。
体を繋がれるとそれは嫌だと拒む声を挙げる。
だが暫くすると拒む声は懇願する声へと変わっていくようになった。
「頼む、其を
…
」
「お願いする場合はどう言うんでしたっけ?」
「ち、頂戴
…
」
「はい。良く言えました」
心も体も素直に受け入れてくれるようになった。
これで調教は完了した。
これでご先祖様は完全に俺だけのモノになった。
これからも沢山可愛がって更に俺好みの彼にするんだ。
この時まではご先祖様の調教は成功したと思っていたのに。
××年 ××月 ×日 ××曜日の午後。
それから少し経った頃だ。
いつものように地下室へ行った。
今日はご先祖様の体を拭く為に訪れた。
この頃には抵抗することもなくなっていたから繋いでいた鎖を外していた。
だが筋力は一般的にまで低下していたようでこの地下室の扉を力ずくで開けることは出来なかった。
今までであれば簡単に出来ただろうがそれも奪ったのは俺だ。
彼は美しくあれば逞しくなくても良い。
綺麗であればそれで良いんだ。
「シモン。体拭くから
…
」
地下室の重い扉を開けて中へ入る。
地下室の扉は誰も寄せ付けないような大きく重い。
子供や女性、力のない者は一人で開けるのは不可能だ。
この地下室を利用していたのは俺のように力がある者だろうと簡単に予想出来た。
地下室に入ると異臭が鼻につく。
昔、この臭いを嗅いだことがあった。
「これは血の、臭い
…
?」
灯りは蝋燭を机の上に置いていた。
その蝋燭の灯りの中いるのは今まで調教してきたご先祖様のシモンだけ。
「シモン
…
!」
机の上には蝋燭を乗せている燭台とどす黒く染まった血が垂れている。
机の上に広がったどす黒い血は床へ染みを作っていた。
椅子に座ったシモンがどす黒く染まった血が広がっている机の上に突っ伏していた。
「シモン、どうしたんだ?!」
このどす黒く染まった血の持ち主はシモンのだった。
腕輪は筋力が落ちていて重いと言っていたから外していた。
腕輪が外された手首に代わりにあったのは何かで切った深い傷跡だった。
机の下には食事の時に使ったフォークが落ちていた。
利き手である右手でフォークを持ち左手首に突き刺したのだろうか。
こんな深い傷でも今までのシモンの体では血が出ることはなかっただろう。
だが、俺がこの地下室に閉じ込めてベルモンド一族特有の筋力を失わせたから深い傷を負っても血が流れ出た。
大量に出て止まらなかったんだ。
シモンの名前を呼んだが反応はなかった。
首に触れると脈もなく、冷たくなっていた。
既にシモンは
…
。
「何故、こんな
…
」
右人差し指の腹にもどす黒くなった血が付いていた。
机の上の端には何かが書かれていた。
蝋燭の灯を書かれている箇所へ向ける。
『私は君のモノにはならない。これから先もずっとだ』
血で書かれた俺へのメッセージだった。
調教してきたつもりだったが、違っていたんだ。
生きてこの部屋から出ることが叶わないのなら、いっそうのこと
…
。
シモンはそちらを選んでしまった。
今まで俺に従っているフリをしていたんだ。
「
…
違う」
俺はこんなことになるのを望んでいたんじゃない。
この地下室でシモンと共に、ずっと一緒にいられれば何も要らなかった。
シモンが傍にいれば十分だった。
シモンさえいれば
…
そうだった筈なのに。
俺は自分でシモンを失った。
体を奪われたが、心までは奪われたくなかった。
心も奪われる位なら自らの手で遠くまで逃げてやる。
俺が、いや、誰も辿り着けない場所まで逃げてやる。
それが、生きている者は決して行くことが出来ない場所へ逃げること。
『来られるものなら、来てみろ』とでも言われているようだった。
「俺だって貴方と同じ所に行けるものなら、行きたいさ
…
」
俺はシモンと同じ所には絶対に行けない。
こんなことをした俺を一族の先祖は誰も許さない。
シモンは俺の所から逃げることに成功した。
体を奪われても心を奪われる前に、俺に渡したフリをして、ずっとその機会を狙っていたんだ。
やっと、その願いは叶った。
最期まで俺の、思い通りにはならなかった。
「くそぉっ!!」
バタン!
シモンの冷たくなった体をそのままに地下室を出た。
×××年 ×××月 ×××日、×××曜日。
俺の愛するシモンへの調教はここで終わった。
シモンは俺の前から消えてしまったから、この日誌ももう付ける意味はない。
もう二度とこの日誌も開くことはないから燃やして何もなかったことにする。
「くらえ
…
」
シモンが使っていた聖水でその日誌を燃やした。
シモンの聖水は赤い火柱が出る物だ。
日誌に聖水をかけるとすぐに火が点いた。
日誌は赤い炎の中で燃えて書いた字が黒く焦げて読めなくなっていった。
『シモン』の名前も炎の中で消えていく。
とうとう日誌は燃えて跡形もなく消えた。
燃やす物がなくなり、聖水で出た炎も小さくなり遂には消えた。
本当に何もかもなくなった。
シモンがいたことさえも、俺が彼にしたことも全部消え失せた。
あれから地下室はマスターハンドが鍵を変えて誰も使えないようにしてしまった。
もうマスターハンドから許可は下りない。
もう二度と誰もその地下室に入ることは出来ない。
ただ、名残だけはそのままだ。
今まで使っていた者達と閉じ込められた者達の生きていた名残だけが。
シモンがいた名残も共にその中に閉じ込められた。
もう誰も、俺もその名残すら見ることも触れることも出来ない。
もう二度と、いや、永遠にずっと
…
。
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