雨月 ひより
2024-03-02 21:14:25
3636文字
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幸福のマシュマロ

Twitter(X)のハッシュタグ『#リプもらった番号のワードを使って文を書く』でリクエスト頂いて書きましたリヒシモ。
キス描写があります。

指定番号12番ワード『マシュマロ 感触、息遣い、絡める』です。

乱闘終了後、喉が渇いたからミネラルウォーターを取りにリビングに入ると、シモンがいた。

シモンは椅子に座り、中央のテーブルに置いてある白い何かを摘まんだと思ったらそれを口に運ぶ。

シモンがいる位置からはモニターの大画面が良く見えるのだが、それは見ず、ただ、目の前の白い何かだけを口に運んでいた。

周りには何か袋のような物が見えたがそれ以外は特になく、ただ、その白い何かが入っている器しかなかった。

瞬きもせず、その白い何かのみだけを見て、口に運ぶ。

ミネラルウォーターを取りに来たことを忘れてその姿を見ていた。

「シモン」

俺が呼ぶと此方を向いて、白い何かを口に運ぶ手を止めた。

「居たのか

「何、食ってたんすか?」

「あぁ、此は

何を食べていたのか聞くと手招きをしたのでシモンの元まで行く。

器の中身を見せてくれた。

「何だこれ?」

「此は『マシュマロ』と言う菓子らしい」

マシュマロ

初めて聞く名前だ。

ただ、何となく可愛らしい名前の菓子だと感じた。

器に入っていたのは白くて四角のような形の物だった。

「えと、どんな味なんだ?」

「どの様な味だと言われても君も食べてみると良い」

味の感想を聞いたが俺も食べてみろと、器を差し出し食べるように促してくれた。

「じゃあ、一つ

白いマシュマロを一つ摘まむと口に入れる。

……………

とても柔らかく、仄かに甘かった。

一度は噛んでしまったが、これは、噛まなくても溶けてしまいそうだ。

「どうだ?」

「あぁ、うん

先程俺が聞いた味の感想を反対に聞かれてしまった。

うん、旨いとは思う

「旨いとは思うが、何と言うかその

「そう、説明が出来ぬのだ。どう、旨いのか考えているうちに手が伸びてな

うまく味の感想を伝えられない。

伝えられないから、ついつい手が止まらなくなり

「え?じゃあ、何個食べたんだ?」

「分からぬ位食べた。としか言えない

旨いとは思うが、何個食べたのかさえ分からなくなる程の味。としか言えなかった。

「しかも、この感触は何とも良い物だ。柔らかくも有るが、程良い柔らかさで噛むのが惜しくなるだから

シモンはまたマシュマロを一つ摘まむと口に入れた。

………

そのまま微動だにせず、黙ったままだ。

「シモン

済まない。口に含んでしまったからには飲み込むまで話すのは行儀も悪いし、失礼にあたるからな」

少しすると口を開いた。

食事に関してシモンは終わるまで誰とも話さない。

たが、相手の話を聞いていない訳ではなく、話しかければ相槌程度は打ってくれる。

勿論、終われば話してくれる。

ただ食事の時間だけ、話すことはしない。

目の前の食事に祈りを捧げ感謝するのだ。

「だから、その先は何だ?」

その先を言いかけたから、その先は何を言いたかったのだろうか?

「だから、つい、何個食べたのかさえ分からなくなる位食べてしまったと言う事だ。其だけだ」

今、器にあるマシュマロは数個のみ。

「どの位あったんだ?」

「マシュマロが入っていた袋にはグラム数しか書いていなかったから、個数までは分からない。気になるなら近くに入っていた袋が有るから見てみると良い

シモンから少し離れてマシュマロが入っていた袋の裏を見た。

確かにグラム数しか書かれていなかったので正確な個数までは分からなかった。

袋を置き、再びシモンの所に戻って来た。

マシュマロが入っている器をもう一度見る。

数個しないのは、知らずうちにシモンが食べたのは間違いない。

「残りは君が食べると良い」

「あ、じゃあ、いただきます

もう一つ摘まみ、口に入れる。

俺もシモンと同じようにゆっくりとその感触を味わってみる。

先程は噛んでしまったが今度はゆっくりと溶かすように味わう。

しかし、何も口にしていない相手をずっと待たせる訳にはいかない。

シモンは俺がマシュマロを味わうのを何も言わずに静かに待っていてくれた。

待たせるのは何とも申し訳ないので一旦、それは飲み込んだ。

「シモンも、もう一つ食べないか?」

ほら、とマシュマロを一つ摘まみ、シモンの口元近くまで持って行く。

「いや、しかし、其は君にあげた物だ。私はもう

話す為に口開いた所に摘まんだマシュマロを入れてあげた。

「説明が出来ぬ味だが、旨いな

「そうだな」

口の中でゆっくり溶かし、味わいながら二人で食べた。



数個あったマシュマロもあと一つだけとなった。

「此は君が食べると良い」

「いや、シモンが

元はシモンの物だ。

一人でゆっくり味わっていた所に俺が来たことで分けてくれたんだ。

だから最後もシモンに

「俺は数個貰っただけで十分だ。最後は貴方が

「前にリュウから聞いた事が有った。リュウの国には『残り物には福がある』と言う諺が有ると。言い方あまり良くないが最後に残った物には幸福が宿るそうだ。だから、君に幸福が訪れる様に

最後の一つのマシュマロに、俺に幸福が訪れるようにと祈りを捧げてくれた。

それなら、尚更貴方に食べて欲しい。俺は貴方に幸せになってもらいたいんだ」

シモンが俺に幸福が訪れるようにと祈るならば、俺はシモンに幸福が訪れるようにと祈る。

「有難う、君は優しいな

目元、口元を少し緩ませた笑みを俺に向ける。

低く優しい声で礼を言われた。

「では、此の最後の一個、二人で食べようではないか」

「えっ?」

こんな小さなマシュマロ一つをどうやって半分にするんだ?

「しかし、千切ってしまうと折角の可愛らしい形が台無しになってしまうなどうしたものか

少々困っている感じを見せるが苦笑いしていて何処か楽しそうに見える。

たった一個のマシュマロに『互いに幸福が訪れるように』と祈りを捧げ、それを半分にするには



「シモン」

最後のマシュマロを口に含み、そのままシモンに口付ける。

「リ、ヒ?!」

口に含んだマシュマロをシモンの舌の上に乗せるように転がす。

「う、ぐ

シモンが舌でマシュマロを俺の舌へ押し返してくると、また俺がシモンの舌へと押し戻す。

それを交互に繰り返し、互いの舌に乗せるように動かしマシュマロを転がし合う。

次第に互いの唾液が絡まり、マシュマロの表面が滑り出していくと互いの唾液の量が増えていく。

量が増えた互いの唾液で絡め合うと、ゆっくりとマシュマロが溶けていくのを感じた。

マシュマロの優しい甘さが口いっぱいに広がっていく。

シモンは最初は抵抗して俺の肩を掴んだが、マシュマロが溶けていくとその抵抗もしなくなっていた。

少しの間、互いの舌で転がし合っていくと、たった一個のマシュマロはとうとう溶けてなくなってしまった。

互いに幸福が訪れるようにと祈りを捧げた、たった一個のマシュマロは口付けで溶けてなくなった。

マシュマロが解けてなくなってしまっても、口付けは続ける。



「は、り、ひ

シモンの青い目は涙で潤んでいた。

深い青色でとても綺麗だ。

もう少しこの感触を味わいたい。

合間の息遣いもとても色っぽく感じる。

いつもの低い声が少しだけ高くなっていた。

「あぁ」

少しだけ高くも切ない声を挙げた。

(もう終わりか)

名残惜しかったが無理はさせたくないので、仕方なく唇を離した。

俺が唇を離すと、シモンの口端からは絡ませ合った互いの唾液が伝う。

飲み込み切れなかった残りだ。

最後まで味わう為、シモンの口端に伝う唾液を舐め取る。

仄かにマシュマロの甘味を感じた。

たった一つのマシュマロを二人で分けるにはどうすれば良いのか?

答えはこれだ。

口付けでゆっくり溶かしていけば互いに味わえる。

簡単なことだ。

「り、ひたっ」

シモンは俺の胸元に額を宛て寄りかかる。

額のサークレットが当たって少々痛いが、そのまま胸元を貸す。

口付けの余韻で、まともに動けないようだ。

「もう、頼む

「部屋にお連れしますね」

マシュマロが入っていた器と袋はあとで片付けるとしよう。

まずはシモンを部屋に連れて行く。

椅子に座っていたシモンの両膝裏に自分の腕を入れ、抱え上げる。

「君の、部屋に

「分かりました」

シモンの頬に軽く口付けてリビングを出た。



そのあとは俺の部屋で互いへの幸福を祈りを沢山捧げた。

互いへの幸福を祈り捧げたたった一つのマシュマロは、仄かに甘く、ゆっくり溶けてなくなった。

貴方にも俺にもこれから沢山の幸福が訪れるように祈りを捧げます。