リョ三 お題「上書きできない」

リョ三ワンドロワンライ通常回区切りのお題「上書きできない」 お借りしました。
軽めの事後描写あります

 会うの何箇月ぶりだよ、と確認したくなくて、口に出そうになるたびに、三井は手や唇を差し出した。
 宮城は勘ぐりもせずに受け取って、そのたびに、こっちで三井サンに会えるなんて。と、かわいいことを言ってくれる。
 たしかに、アメリカの空の下で、久しい恋人に会うのは格別だった。
 宮城が通う大学の授業の都合と、どうにか連休の高額チケットを工面した三井の都合。どうにか噛みあわせても、丸二日には満たない。
 アメリカの青空の下で過ごせたのは、その滞在時間のうち、わずかな割合だった。
 宮城の通う大学やふだん利用している飲食店を案内してもらい、ストリートコートも眺めて。
 あとで来ようね、なんて宮城は言っていたけれど、早めの夕食を摂って軽食を買いこんで三井の宿泊先ホテルに来たら、もう室から一歩も出ていない。Don’t disturb us というやつだ。
 カーテンを閉め切って、ドア外に件の札も下げて、出発数時間前でセットしたアラーム頼りで時計もろくに見ないで、ほとんど裸で過ごしている。
 ガスなしミネラルウォーターのボトルを手に三井はベッドへ戻った。縁へ座ると、宮城が腕を回して腰を抱いてきた。
「んー……三井サンだ」
 満足げなうなり声と、腰にぺたりと吸いつく感触があって、三井の頬がゆるむ。髪のこすれるくすぐったさもあるから、間違いなく宮城の頬が押し当てられている。
 身長差のあるせいか、宮城は三井が座っているところにくっつくのが好きだった。三井の家に泊まりに来たときなどは、宮城がベッドに座って、床に座った三井を足の間に挟んで背中から抱きつくのを特に好んでいた。
 水をひと口飲み、三井は前に回された腕の密着度合いにかすかに息を吐く。
 重たい。日本にいたころよりみっしりとした肉がついている。足を抱えられたときに、記憶との差にいちばん戸惑わされた。
 この腕の重さは宮城の努力の証だ。
 三井はボトルを脇へ置いて、宮城の腕に腕を添わせた。
 宮城の手のひらが、三井のへそ上から下腹部へかけてゆっくりと撫で回す。
 乾いた指の腹で、三井の腹筋の凹凸をなぞる。
「ねえ三井サン、昨日より体重増えた?」
 太く、しっかりした指が、三井の腹の肉をつまんだ。
 明らかに、筋肉やウェイトと言う意味ではない仕草だ。三井はベシッと宮城の腕を叩いた。
 たしかに、昨日の夕食も買いこんだ食品もハイカロリーなものだったし、身体も疲れてはいるが、筋トレやバスケ由来の疲労ではない。
「昨日の今日でいきなり贅肉がつくかよ」
 宮城がつまめた肉は贅肉ではないし、三井は当たり負けしないよう適度にウェイトを増やせと言われるくらいだ。
「そりゃ、昨日からやってばっかだけどよ」
 わざわざアメリカまで来て、やってばっかだなんてもったいねーだろ、と三井も思う。
 だが、宮城とするバスケは宮城としかできないが、バスケは宮城以外の誰とでもできる。昨日から浸っているこの行為だって宮城以外ともできるが、宮城としかしたくないのだから、宮城とずっとベッドの上にいるというのは、ここでしかできないことなのだ。
「えっとさ、そーじゃなくて……
 宮城が弁解しながら三井の腹を撫でる。さんざんその奥を突かれたし、休憩のあとにまた満たされるだろうそこをいとおしむやわらかさだ。
 三井の腰にくっつけられていた頬が離れていく。
「俺と一緒にいて、嬉しかったり楽しかったりした記憶の分、三井サンの体積が増えてたらいいなって思って」
 三井はこらえられなくて、両手で顔をおおった。
 かわいいこと言ってんじゃねえ! という言葉は胸のうちに秘めて、腰を捻って振り返り、宮城の髪をかき回した。だいぶ崩れていたが、さらに崩れて試合後の様を彷彿とさせる。最後まで走り続ける宮城の、敏捷な小動物めいた姿が目に焼きついているが、今この体躯では印象もいくらか変わりそうだ。
「おまえそんなの、走れねーしスリーも打てなくなるぞ」
 宮城のパスを受けてやれないし、シュートも決めてやれない。いちばん嫌な事態のはずだ。
 だが、宮城は三井の手の下で、頬を赤くしてうろたえている。
「もー……
 三井の太腿に、宮城が額を押しつけてきた。腿の熱さで、宮城の額の暑さが知れる。
 なんでいきなり、と三井は首を傾げる。刈り上げられた宮城の後頭部をさりさりと撫でた。
「もっと重くなっていーよ」
 ボソリと言われて、宮城の照れている理由にやっと気がつく。
 走れないくらいに重くなるとは、つまり、昨日から宮城と過ごして増えた体積の見積りを伝えたも同然だ。
 三井は宮城から手を離した。宮城が上体を起こして、三井の腿を台に腕を組む。唇を少し尖らせて、重ための瞼で上目遣いに仰いでくる。
「もっと、って、どんくれーだよ」
 三井は手を伸ばして、宮城の額にかかる髪をかきあげてやった。
「三井サンが地面にめり込んじゃうくらい」
「バトル漫画かよ」
 いくら体重が増えたところで、人間の範疇を超えた重力操作レベルの現象だ。
 三井の返しに宮城は片眉をはねあげたが、楽しいやつだよ、と、限定を先に入れる。
「俺との楽しい記憶、全部取っといて。他の奴で上書きしないで」
 お互いに忘れられないくらいに深く刺さっている記憶は、それこそ地にめり込むほどの後悔をもたらして、今も抱えている。だからか、宮城は楽しいやつ、と限定した。
「三井サンの容量、俺でいっぱいにしてよ」
 三井は、気づかないフリを自分にさせた。
 終わりが来る。
 帰国までのアラームを仕掛けなくても、残り時間が知れてしまったようなものだ。宮城がこんなことを言い出すなら、あと半日も残っていないだろう。
 三井は宮城を腿から降ろさせ、ベッドに乗りあげた。肘を立ててあげられた宮城の額に唇を当てる。
「おまえのは、全部別枠だよ。できるわけねーだろ、」
 上書きなんて。という続きは口内に消えた。
 離れていった宮城の唇は濡れていて、三井の目を引きつけて、開かれる。
「休憩、もういい?」
 三井は右膝を立てて、足の間へ招くように宮城へ腕を伸ばした。
「おまえでいっぱいになってやるよ」