あましろ
2022-02-05 00:10:16
6174文字
Public たてゆ
 

【単発】ぼくらのバレンタインバスターズ

ギャグ。時系列を考えたら負けのギリシャ仕様。
最近観た映画の影響をモロに受けています。
コイツはバレンタインを何だと思っているのだろうか。

「バレンタインに怪奇現象?」
「えぇ、何でも剣の勇者様を信仰している国で多く発生するようです。我が国メルロマルクは四聖勇者様を等しく信仰しておりますので全く被害がないわけではないのですが。今は剣の勇者様本人が住居を構えるようになって、無視できなくなってきたのです」

 そうして女王に依頼されて俺たち四聖勇者は指定の場所へやって来たのだが、手渡されたのは作業着と謎の機械だった。

「これは?」
「それは…………

 女王曰く、特殊な戦闘用の服だという。機械はバックパック型で背負うと脇からホースのようなものが伸びていて先は銃のようになっている。

「僕は使えると思いますけど、錬さん元康さんはどうでしょうか?」

 樹が不安そうに二人を見る。
 くそ、最初から俺が勘定に入れられてねぇ。俺が盾だからか!
 そう思っているうちに、錬と元康は普通にバックパックを装備していた。

「ん、背負えたな。銃が使えなくても最悪これで殴れば良いだろう」
「同じくですぞ!」

 元康と錬が銃のようなものを握っていると、女王が俺を手招いた。

「イワタニ様にはこちらです」

 そこには立派な野外キッチンが設営されていた。材料も用意されているのか、甘い香りが鼻腔をくすぐる。

「お菓子作りに必要な道具は全て揃っています。材料も用意させました」
「ほう! 凄いですな!」

 元康と錬と樹は感心したように周囲を見渡していた。
 テレビの撮影セットのような異様な空間だ。

「イワタニ様は怪奇を呼び寄せるためにここでチョコレートを作って下さい」
「は?」
「怪奇の正体はバレンタインにチョコレートを貰えないすべての男性の怨念が魔物化したものです。とびきり美味しいチョコレートを作ればその気配を察知して集まってくるでしょう」

 なんだそりゃ!? だから剣教の国で多いのか………。まあ、それならわかる気もするけどさぁ。
 俺は渋々ながら、チョコレートを作り始めた。

「ではよろしくお願いしますね」

 こうして俺たちのバレンタインデーが始まった。
──数時間後

「はい。できた」
「早いですね。もう終わったんですか?」
「ああ」

 ラフタリアに手伝ってもらって作った大量のチョコケーキを皿に乗せる。
 匂いにつられて、暇を持て余していた三勇者もやってくる。

「う、うまそうだな………
「いただきますぞ!」

 元康と錬は真っ先に食べ始める。これ、食べて良いのか? 作るのが目的だから良いのか。
 しばらくすると、小さな白い塊が現れ机の上をぴょこぴょこと歩き始めた。よく見ると水兵の格好をしたマシュマロに見える。

「よし、俺に任せるですぞ!」

 元康がフォークを持って立ち向かった瞬間、それが巨大化し、元康に飛びかかった。

「ギャー! ですぞ!」
「ちょっと、元康さん!?」

 慌てて樹が援護に入る。

「ふん!」

 錬がフォークでそれを弾き飛ばした。そこをすかさず樹が銃のようなものを構えて放った。

「プロトンビーム!」

 何だその掛け声は。 
 ボンッという音と共に閃光が走り、それが命中するとマシュマロっぽい何かは煙となって消えた。

「やりましたぞ!」
「ふぅ……まさかこんなことになるとは。ちなみに僕の装備はウェポンコピーですよ」
「女王、今のは何だ?」
「あの白い魔物が怪奇現象の正体です。あれを倒すことで怪奇現象を止められるようです」

 なんとも不思議な話だけど、この世界じゃそういうものらしい。これは終わりが見えない作業な気がして来たぞ。

「ラフタリア、次はもう少し日持ちするやつを作るか」
「はい」

 それから俺たちはチョコ菓子を大量に量産していった。途中、元康が俺に抱きついてきそうになったけど、錬と樹に助けられた。
 ゴムヘラを取ろうと手を伸ばした先に、先程より大きいマシュマロが現れる。

「くっ! またか!」
「ナオフミ様、ここは私が!」

 ラフタリアが麺棒で弾き飛ばす。そこをすかさず錬が銃剣を持って両断した。いつ間にか三勇者は武器を使いこなしていた。通常通りに使うとビームだが、気を込めることで剣や槍の形にもなるなしい。
 マシュマロを爆発させたのを確認してから作業に戻ろうとすると、またマシュマロがいやがる。………竹串でつついたらどうなるんだろうな?

「ナオフミ様?」

 本物のマシュマロより柔らかく、クリームに串を刺したかのように竹串が通った。こいつ刺されてもニコニコしてやがる。これでもダメージ0なんだろうな。だから攻撃できたんだな。 

……

 俺は無言でそのマシュマロを持ち上げる。

「おい、尚文、何をしている?」
「いや、ちょっと好奇心で」

 チョコレートを湯煎するために用意されたかまどにマシュマロを近づける。マシュマロは手足をパタパタさせてニコニコした表情のまま焦げ目がついって、膨らんで、弾けた。すると、飛び散ったマシュマロの破片から質量保存の法則を無視した大きさのマシュマロが大量に湧いてくる。

「うわ! キモ!?」

 マシュマロは俺の体に纏わりついてきた。足をつたって胴体、腕にも張り付いて来た。ものすごく砂糖の甘い匂いがする。

「ナオフミ様!?」

 異常に気がついたラフタリアは予備のバックパックを取りに行った。

「何やっているんですか尚文さん!」
「お義父さん! どうすればいいのですかな?!」
「ええい、離れろ!」

 錬が銃剣を振ると、俺にへばりついたマシュマロが爆ぜる。

「錬、助かった」
「いや……まあ……それなら良かった」

 錬は照れたように顔を背ける。いやいや、まだマシュマロは全部取れてないどころか増えているんだぞ! 何とかしろ!

「とにかく俺を攻撃して良いから早く剥がしてくれ!」
「はい!」

 樹が俺に近づいてきて銃を向ける。

「プロトンビーム!」

 ボンッと閃光が走り、マシュマロの残骸が吹き飛ばされる。痛みはないが驚いて尻餅をついてしまう。
 その隙を縫って元康がやってきた。

「今お助けしますぞ!」

 元康が手を伸ばす、俺はそれに掴まって体を起こす。

「助かった」
「いえいえ、当然のことをしたまでですぞ!」
「元はと言えば、尚文さんがふざけたのが原因では?」

 そこへ元女王がやって来る。パチンと扇を畳む。

「それなのですが、先程入った調査報告によりますと、そのマシュマロとやらはより美味しく、より愛情を込めたチョコレートを作っている者に反応するそうです」

 調査? そういえば最近、リーシアやエクレールが城に呼び出されていたな。この件だったんだろうな。
 それに気が付いた樹と錬の表情が暗くなる。調査に時間を取られて二人のチョコを作る時間が絶望的だということに気が付いたのか。

「というわけで、もっと愛情を込めたおいしいチョコを作ってくださいね」
「愛情ねー………

 愛を込めてとか言われてもな。俺がチョコを作れて攻撃力がないから仕方がないんだろうが、それなら元康にでも作らせた方が良いだろ。
 いや、鳥への行き過ぎた愛が詰まったチョコなんて触媒にしたらどんなマシュマロの化け物に進化するか分からん。却下だ却下。

「そうだ、思いついたことがあるので試してもらえませんか?」

 樹がそっと耳打ちする。なるほどな。
 俺は冷蔵庫モドキからハートに型取ったチョコレートを取り出す。

「樹」
「はい?」
「はい、あーん」

 樹にチョコを食べさせる。言い出しっぺの法則だ。さっきは俺が不用意な行動をしたから襲われたんだ、樹もその身をもって味わうがいい。

「ふぁああ! はひほはんふぇす!」
「弓の勇者ァ!! ナオフミ様になんてことをお願いするんですか!!!」

 ラフタリアが珍しくマジギレしてんなー。さっき俺がマシュマロに襲われたからか?
 そうだ、武器を持ってる全員に試してみるか。

「はい、ラフタリア。あーん」
「!! ありがとうございます!」

 幸せそうにもぐもぐと食べるラフタリア。俺の手伝いばかりであんまり食べてなかったからな。二、三個追加で放り込んでやる。

「錬」
「なんだ?」
「はい、あーん」
「な、さっきから何をやってるんだ尚文!?」
「樹がチョコを食べさせてやったらどうかって言われてな」
「何だ、作戦か………驚かせるなよ」

 錬は顔を真っ赤にしながら目を閉じて口を開いた。何だその体勢は。まさか本当に俺に食わせてほしいんじゃないだろうな。
 錬にチョコレートを放り込む。

「うわ! これはうまいな!」
「そりゃ良かった」

 そして先程それをじっと見つめる視線が一つ。

………元康」
「なんですかなお義父さん!」
「はい、あーん」
「あーんですぞ!」

 チョコを摘んだ指ごとぱくっと食いつく元康。こいつ指を舐めてきやがった!! 何するんだ!!
 慌てて指を引き抜くと、もきゅもきゅと口を動かし、やがてゴクリと飲み込んだ。

「お義父さんからの愛の注入ですな!」
「マシュマロモドキを出すためだからあながち間違っていないのが腹立つな………

 製菓材料の運搬や警備を行なっている兵士たちから「何を見せられているんだ………」という視線が突き刺さる。俺も好きでやっているんじゃない!
 イラッとしたのでチョコを配って黙らせた。勇者共の真似なのか、どいつもこいつも物欲しげに口を開くもんだから動物にエサをあげるが如くぽいぽいチョコを放り込んでやった。これはこれで結構楽しいな。

「では、チョコ作りを再開しましょうね」
「あ、あぁ………

 ラフタリアが俺の腕を引っ張ってキッチンへと連れ戻す。ラフタリアにももう一つチョコを食べさせてやる。

「ナオフミ様、お気持ちは大変嬉しく思うのですが、悪ふざけはほどほどにしてください。先程マシュマロモドキに襲われたのを忘れたのですか?」
「う、確かに………

 チョコ作りに戻ろうと砂糖の詰まった袋を掴むと、袋がもぞもぞ動いたと思ったら袋を破いてマシュマロが現れた。え、この中身全部マシュマロなのか?

「ナオフミ様!?」
「おいおい、いくらなんでも多すぎないか?」

 わらわらと大量に湧いてくるマシュマロ。一体どこから出て来るんだ。
 一部の奴らは袋を持った腕を伝って登ってきやがる! また俺か!!
 ラフタリアも気でビームを武器の形に変えてマシュマロを攻撃しているが、小さくて素早いのかなかなか有効打を与えられないでいる。
 周囲に散らばった方のマシュマロはくっついてぶくぶくと巨大化していく。嫌な予感がする。

「お義父さんがマシュマロに覆われてしまっていますぞ!」
「あっ。これ、魔竜騒動やチョコレートドラゴンを思い出しますね」
「樹! 余計なことを言うな! 尚文を助けに行くぞ!!」

 お菓子を食べていた三人が立ち上がって武器を構える。
 体に纏わりついて膨らんでいくマシュマロを腕で払い除けるが、払っても払っても寄ってくる。どうなってんだ!
 その時、ドスンという足音が背後から聞こえた。振り返ると、巨大なマシュマロが立っていた。目測18メートル、フィトリアと同じくらいか?

「なんだあれ?」
「皆さん、恐らくあれを倒せば事態解決です!」

 遠くから元女王の声が聞こえる。つまり、この巨大マシュマロがボスか?

「ナオフミ様! 上です!」

 見上げると、巨大マシュマロの腕が俺に向かって伸びてきている。

「りゅ、流星盾EX!」

 円形のバリアが身体中のマシュマロを弾き飛ばす。すっかりマシュマロに覆われてしまったのか、見渡す限り真っ白だ。ラフタリアの攻撃で潰れたマシュマロはただのマシュマロになってしまっているのか、服にくっついたままだ。
 しかし、嫌な記憶を彷彿とさせるシチュエーションだ。だが、今回はラフタリアや頼れる仲間がいる。
 そんな希望を打ち砕くかのように、流星盾に亀裂が入り小さなマシュマロが入ってきている。

「ゲ!」

 異世界非モテの怨嗟の集合体は、EXの盾でさえ砕くと言うのか。

「ナオフミ様ーッ!!」
「お義父さん!!?」
「尚文!!!」
「プロトンビーム!!」

 外からパニック状態に近い叫び声が聞こえてくる。外でも何か起こっているようだ。このままじゃ不味い。
 俺たちはどうしてこんなマシュマロごときに苦戦しているんだろうな?

…………マシュマロ?」

 手についたマシュマロの残骸を口に含む。甘くて美味しい。
 毒物鑑定、範囲をフィロリアルに拡大! 問題なし!!

「アタックサポート!! 全員、俺に構わず全力攻撃!!」

 爆発と共に受け身をとってラフタリアたちの前に転がる。

「ナオフミ様!? ご無事ですか!!!」
「ああ、大丈夫だ。元康!」
「何ですかな?」
「村のフィロリアルをありったけ連れて来い。このマシュマロを食い尽くさせるぞ」

 食えることを理解させるために汚れていない部分のマシュマロの残骸を人差し指の先にくっつけて元康の口の中に突っ込む。最初は驚いていたが、指までべろべろ舐めていたのでどうやら美味かったようだ。

「バレンタインの準備で忙しい奴や甘いものが苦手な奴を無理して連れて来る必要はないからな。そこは元康の判断に任せる」
「わっかりましたぞー! ポータルスピアー!」

 数十分後。
 グワグワ、クエクエ、美味いだのもっとだの、様々な声がそこら中から聞こえてくる。
 ラフタリアも城から連れて来たメルティもドン引きである。
 村や城にいたおおよそ暇を持て余しているであろう全てのフィロリアルが集められていた。その中には元康より食欲を取ったフィーロも居る。フィトリアにも依頼して、眷属のフィロリアルも何体か来ているらしいが俺にはさっぱり分からん。
 このマシュマロを片付けるフィロリアルを連れて来た功労者である元康が喜んでいるからそれはそれで良いか。

「俺たちの苦労って何だったんだろうな………
「攻撃して倒すならこのプロントパックしか手段はありませんが、食べて倒す分にはその限りではない、と言うことでしょうかね………

 樹が呆れたように呟いた。
 まあ、これで丸く収まるのならば良しとしようじゃないか。………なんて言えるわけないだろ! マシュマロまみれになったんだぞ! しかも大量に! このマシュマロめ、どう料理してくれようか………

◇◇◇

「あらー、それでナオフミちゃんは八つ当たりでマシュマロ料理を作っているのね………
「俺は留守番だったから聞いてないが、兄貴は相当だったらしいぞ」
「くそ、マシュマロなんてスモアにしてやる! 元康! 火だ!」
「分かりましたぞ! ファイアアイ! ですぞ!」
「わー、兄ちゃんこれうめーな!」
「村のみんなは喜んでいますし、これでナオフミ様の気が晴れるならいいんじゃ無いでしょうか」

 こうして、バレンタイン前のマシュマロバスターズは幕を下ろしたのだった。