rai_13
2024-03-01 22:46:28
2916文字
Public
 

運命の歯車が回った日

皐月賞

幻覚です。
ィク🌗ドゥ🎾です。
未実装幻覚U娘出ます。
オリジナル設定あります。
キャラ解釈違うかもしれません。
以上了承できる方のみ閲覧ください。

初対戦は4月、クラシック第1冠皐月賞。
曇りの中山レース場は、午後になって良に回復した馬場は内がまだ完全には良くなっていなくて。
多くの人が埋め尽くすスタンドを眺める彼女は、1番人気のプレッシャーなんて知らぬ顔と言うようで。
メイクデビューからわずか3戦目の私は大きくなる歓声に、少し震えた手を握り息を吐いた。

(これがG1ウィナーこの方全く緊張していない。)

今思えばこれが彼女の圧倒的な長所の一つなのだと気付かされた一幕だったとも思う。
飄々としていて、ゲート内であっても静かで、大レースであろうと緊張しない。それでいてレースに対する熱は誰よりも高い。
G1らしいゲート裏の殺気だった雰囲気の中でただ一人、白とグレーの勝負服を纏う彼女は殺気だちもせずそれでいて緊張しているわけでも無い独特の雰囲気を漂わせていた。

「ゲートいれるよー!!」

ゲート係さんの声が響き渡ると、すぐにファンファーレが鳴り出した。
そう、そうだ。ここはG1皐月賞。
つま先で芝を叩き、ゲート順を待つ。
一際大きな歓声と拍手が地を揺らし、空気を震わせる。
ただの重賞とは違う空気感。ピリピリと肌に伝わる殺気と緊張が、まだ幼かった私の背中を押した。
今だからこそわかる。この歓声と拍手は運命のファンファーレだったのだと。
先に緑の枠にはいる彼女の不敵な笑みを見てしまったあの時から、歯車が噛み合ったような感覚を持ったあの時から。背中を押されてゲートに入ったあの時から。

『全てのウマ娘の憧れ。』

運命的なにかの糸を掴んでしまったその時から。
あの“光”を、私の目は捕まえてしまった。

『クラシック第1関門!』

『夢と憧れへ!皐月賞スタート!!!』


一つ目の運命のゲートが開いてしまったのだ。
この時はまだ、私は気がついていなかった。



1-2



負けた。2着だった。
練習のない午後の放課後、私はだらしなくカフェテリアに突っ伏していた。
勝ったのは同室のジオグリフ。見事なレースをしたとか言いようがない結果だった。最後の進路内じゃなくて外走らなければいけなかった。
レースで疲れきった身体はテーブルに突っ伏しているだけで眠気を感じ始めていたが、私は苦労して起き上がると横のテーブルを見つめた。
1番人気の彼女。タフなのかレース後もケロッと即プールに入り、毎日のようにカフェテリアや食堂でオグリさんにも負けない大喰らいを見せている。今もそう。
彼女は3着だった。最後外外回して上がり最速の3着。
今までのレースとは違ったハッキリとした決め打ちに多くの人は驚いてたが、彼女はあいも変わらず飄々とした表情で山盛り……いやアルプス盛りというべきなのか、大量の食事を胃に詰め込んで止まらない。
なんなのでしょう、この方は。この丈夫すぎる胃腸は。
正直食事が喉に通らない私にとってすごくすご〜〜く羨ましい限りです。
ふと、彼女が私の事を見つめてきた。そしておもむろにフォークに刺さった大きいステーキ肉の切れ端を差し出してくる。

「ぁすみません、レース明けは食欲が無く
そうなんだ。じゃあこれ。」

代わりに差し出されたのはすりおろされたりんごがかけられているヨーグルトだった。

「ぁあ、どうも……
「食欲がないなら胃が荒れるの防止するためにヨーグルトがいい。」

受け取られたヨーグルトは、彼女が食べる量には不釣り合いな小さな可愛らしいスプーンが刺さっていて。
スプーンを手に取る寸前、ふとした疑問が湧いたのを感じた。


「貴女は、悔しくないのですか?」


「朝日杯を勝った貴女なら、皐月賞が最大の目標だったはず。」


しまった。
感じたままについ口を滑らせていた。レース後マスコミの方々を相手する姿のようにまるで何事もなかったかのような表情で、まるで血が流れ出しているように頭の奥から血の気が引いていくのがわかった。

うーん……

ステーキが刺さっているフォークを口に運ぶと、もぐもぐと咀嚼しながら無言のまま私の頭を撫でた。

「んぐっ……あのね、エクレア。」
「イクイノックスです。」

撫でていたのは頭ではなく流星だった。
そして私の名前をエクレアと間違えていた。

あのね、イクイノックス。」
「そのままいくんですか。」
「確かに残念な結果だった。1番人気に支持されていた期待に応えられなかったところは僕にとってもとても残念ではあったけれど、僕にとって収穫もあった。」

私の頭から手を離して拳を握りしめる。
硬く握られた拳は悔しさなのか、ほんのすこしだけ震えているように見えた。

「ここが1番の目標なら、もっと前につけていたよ。」

明るいブラウンの瞳と視線が重なる。
惹き込まれるような瞳の奥は、私が思っていたよりも深く大きな光が宿っていた。
皐月賞は一つのステップなのか。彼女がみている“世界”は一体どこまで広く、壮大で、美しいのか。

「僕が見据えるのはダービーだよ。」
……ダービー

雷鳴に撃たれたような、ゾクゾクするような感覚が肌を揺らした。
ダービーが最終目標では無い。“ダービーですら通過点”なんだ。この人が見据えるのはもっと、もっともっと奥にある夢。

「僕はダービーを勝って世界へ行く。だけど、君は何を目指す?」
「わ私は……

私の目指すべき地点はなんだ?何を持って走っている?ダービー?G1勝利?栄誉?

違う。

“目指すべき”ではなく、“目指したいモノ”だ!
私が欲しい叶えたい!私だけの大いなる夢こそ!!

「世界」

「世界一のウマ娘になる。」

「貴女を越えて、世界一の称号を獲る!」

「それが、私の目指す頂点です。」


私の中の運命の歯車が加速していく。
心臓が弾けそうなほど鼓動している。身体が熱くなって、全身が走らせろという疼きが気持ちがいい。

「いいね。」

目の前の彼女はいつのまにか雰囲気を変えていた。
無限に広がる世界を持っていた瞳はガラリと色を変えて、いつか見たライトアップされたアンダリュサイトのように美しい光を放っている。

「僕はもうゴールを先頭で駆け抜ける事しか考えていないよ。」
「勝つのは、私です。」
「そうこなくちゃ。もっと楽しくなってくるね。」

不敵な笑みを除かせた彼女に、ある種の確信めいたものを感じている。
ダービーを勝つのは、私か彼女だ。
熱くなった胸に手を当てて、息を吐く。
これがダービーなんだ。始まる前からこんなに興奮できる、一生に一度の祭典なんだ。


「そうだ、自己紹介をしていなかった。」


加速した運命の歯車は大きな分岐点を迎えている。
全てのウマ娘の夢と憧れ。日本ダービー。
世代の頂点を決める祭典に向かって宿命のレールが引き直されたのだと、そういわざるを得ないほど確信を得ていた。


「僕の名前はドウデュース。」


「互いに、ダービーでの健闘を祈るよ。」


私の耳に響き渡る心臓の鼓動が、ファンファーレのように日本ダービーが始まっている事を刻みつけていた。