小椋
2020-09-19 00:16:37
1778文字
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【ランパシ】陽だまりのひと

ランパシ版ワンドロ・ワンライ(@LaPa1dw)に参加させていただいたもの。第3回目のお題「微笑ましい」



「ついてこい」
 視察に訪れたウェールズの城内で、再会のあいさつもそこそこに告げられた台詞にランスロットは目を丸くした。
 アグロヴァルが身を置く玉座を辞去したのだから、あとの予定といえばフェードラッへに帰って陛下に謁見し、今回の報告書をまとめて提出することくらいのものだ。早く済ませるに越したことはないものの、まだ陽が高い時分ゆえにそう急ぐこともない。その他の執務を挙げ連ねればきりがないが、至急の要件はひととおり片づけてきた。騎士団のことはヴェインに任せてあるから、よほどの緊急事態でも起きない限り心配はいらないだろう。
 よって断る理由は特にないのだが、あまりに曖昧で唐突な誘いだ。ランスロットがとっさに言葉を返せずにいれば、パーシヴァルの眉間にしわが刻まれた。小言を浴びせられるかと覚悟したところで、いや、と顔が逸らされる。
「ついてきてくれ」
 そう殊勝に言い直したわりに、返事を聞かないまま歩きだしてしまう。たいていは訊かずとも詳細を明かしてくれるのだが、今回はその気がないらしい。いつにない言動にひっかかりを覚えたランスロットは、いつもどおりに声をかけようとして思いとどまった。遠ざかる背中が珍しく緊張の色をまとっている。どうしたんだよという問いかけを呑みこむことにして、了承の意を伝えるように早足でパーシヴァルを追いかけた。
 無言の案内に従って城館の外に出る。中庭に立ち寄ったパーシヴァルは、ちょうど作業をしていた庭師に声をかけてから花を摘みとりはじめた。現時点で見事に咲き誇っているものは意図的に避けているようで、あと少しで花開きそうなつぼみに手を伸ばしている。パーシヴァルは一輪ずつ五種類ほど集めると、再び庭師に声をかけてその場を離れていく。目的や事情が掴めないうちに首を突っこんでも邪魔になるだけだろうと一定の距離を置いて見守っていたランスロットは、庭師とのやりとりを二度の黙礼のみに留めた。
 誰かに会いにいくのか。手でまとめただけの贈りものにしてはささやかな花束を用意したのは、見舞いのためだろうか。そんなふうに予測を立てていると、パーシヴァルはひとけのない城郭の裏手へ回った。以前よりは交流を持つようになったとはいえ、ウェールズにはまだまだ訪れたことのないところがたくさんある。ここはそのなかでも、容易く足を踏み入れることは叶わない場所だといえた。
 ひとつの墓石の前でパーシヴァルが芝生の上に片膝をつく。豪奢な造りこそしていないものの、大事に管理されていることが窺える佇まいだ。時間の経過を示すように風化しつつも、刻まれた文字を読みとることはできる。ヘルツェロイデ。パーシヴァルの母親の名だ。
 手にしていた素朴な花束を手向けたパーシヴァルが、目を閉じて祈りを捧げる。ランスロットがその静謐な横顔を見つめていると、しばらくののちに伏せられた瞼が開かれた。
「母上は、中庭の草花を愛でるのがお好きだったからな」
 しめやかに紡がれる言葉にランスロットは耳を傾ける。
「俺が戯れに摘んでしおれさせた花を笑顔で受け取って、大事に活けてくださった」
 それはきっとパーシヴァルにとって、かけがえのない想い出なのだろう。どうしてここに連れてきてくれたのかと訊ねるのは、簡単だが無粋に過ぎる。場所を譲ってくれたパーシヴァルに続いて、ランスロットも墓石の前に片膝をついた。
 パーシヴァルはウェールズに帰るたび、母親のことを思いながら花を選んでそっと供えてきたに違いない。長く国を離れていた間も、花を手向けることは叶わずとも想いを馳せていたのだろう。
 どうか心穏やかにありますようにと、ランスロットは静かに祈りを捧げる。会ったことこそなくとも、優しいひとなのだということは痛いほどに伝わっていた。祖国を離れ研鑽を積み、理想の実現に邁進する愛息子の姿を、きっと温かく見守っているに違いない。
 祈りを終えて立ち上がったランスロットは、すっと背筋を伸ばした。傍らにあっても、離れていても、恥ずかしくない己でありたい。決意を新たに振り返れば、パーシヴァルはくしゃりと目を細めるなり背を向けて歩きだす。最後に墓石へ一礼したランスロットもあとに続いた。
 ふたりの道行きに、昼下がりの陽光が微笑むようなやわらかさで降り注いでいる。