小椋
2016-11-29 00:01:03
1453文字
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【勇ヴィク】ウェイク・ミー・アップ

#勝生勇利生誕祭2016



 いつの間にか、主役の姿が消えていた。
 実に五年ぶりに催すのだという誕生会は、夜の深まりとともに宴会の様相を呈してきている。
 ヴィクトルも例に漏れず上機嫌にごちそうを口へ運び、アルコールを煽っていたのだが、気づくと隣がぽっかり空いていたのだ。
 トイレに行ってみても出会すことはなく、念のために玄関を覗いてみてもスニーカーは残っている。ならば私室かと、ヴィクトルはひんやりとした夜気に包まれた廊下をぺたぺたと歩いた。
「勇利」
 突き当たりの扉に向かってノックしても声を掛けても、部屋の主からの返事はない。開けるよ、と前置いて、ヴィクトルは引き戸をするりと動かした。
 和室の中央に目的の人物を見つけるなり、ヴィクトルはふっと目を細める。
ベッドと机の合間で、たくさんのぬいぐるみに埋もれた勇利がすやすやと寝息を立てていた。
 寿司やエビフライ、ドーナツにおにぎりなど食べものを模したぬいぐるみがほとんどを占める中で、勇利はトイプードルのぬいぐるみを抱き締めている。ちょうど、ヴィクトルが愛用しているティッシュカバーと同じくらいのサイズだ。マッカチンのことをとても心配していたから、なにか思うところがあったのかもしれない。
 勇利を囲むぬいぐるみは全て、ロシア大会のリンクで観客から贈られたプレゼントだろう。一緒に投げ込まれていた生花は、いまでも館内のあちこちを美しく彩っている。
そのどれもが、勇利への愛を訴えているのだ。
「勇利」
 起きて、と肩を揺する。
 祝いの言葉はたんまりと贈った。感謝の気持ちも捧げている。
 とはいえ、この世に生まれ落ちた日を迎えたことも、グランプリファイナルへの出場を決めたことも、ヴィクトルとってはこれからへの通過点だった。
 大事な節目だが、永遠の全てではないのだ。
 貪欲に欲して、期待に高鳴る心を抑えることはできない。するつもりもなかった。
「んん……
 眉間に皺が刻まれて、あどけない唸り声が空気を震わせた。
 無防備に身動ぎをしたことで、トイプードルのぬいぐるみがころりと転がる。ヴィクトルはそれを、食べものの山にそっと置いた。
視線を戻せば、名残惜しげに開かれた双眸がようやくヴィクトルの形を捉える。
「探したよ」
 小首を傾げた勇利は、やがてくわりと欠伸を溢した。
「べつに、隠れてたわけじゃないんだけど」
「そうだね。それでも、俺は見つけた」
 のんびりとした瞬きが届く。寝起きなせいで、鈍い反応しか返せないのだろう。
 いじらしい振る舞いが微笑ましくて、ヴィクトルはたまらず勇利を抱き寄せた。すりすりと頬を擦りつける。火照った皮膚が擦れあう感触が心地よい。
 半端に体を起こす格好になった勇利は、そのまま身を任せていたかと思うと、ひとつ溜息をついた。それに首筋を撫でられて、ぞくぞくと肌が震える。ヴィクトルはうっとりと吐息を紡いだ。
 背中に添えられた掌が、ゆっくりと背骨の上を滑り降りていく。腰のあたりをさまよわれる心許ない触れ方に、ヴィクトルは焦れたそぶりで下腹部を押しつけた。
 意図を秘めた指先で耳を撫でられ、促されるまま顔を上げれば、熱に揺らぐ瞳に射抜かれる。ヴィクトルはまるで味見をするかのように、勇利の鼻先に唇を寄せた。
 世界が反転して、ヴィクトルには勇利しか見えなくなる。
 まだまだ、満足なんてできない。
 魔法をかけられて開花した王子様が真に咲き誇るときを、いまかいまかと待ち望んでいる。



小椋@OgrYtk