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小椋
2015-07-15 20:17:12
2013文字
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【つるみか】ワンドロ第十一回
※ お題:勝負、判決
間違いない。焦がれている目だ。
手に入らない遠くのなにかを欲して、飢えた煌めきを宿している。
その視線の先を追うことで、三日月は鶴丸が求めるものの正体を知った。
門前はどこか緊張感の漂う賑わいに満ちている。第一部隊が帰城したのだ。
新たな刀剣の獲得と最下層への到達という目標を達成したことで、三日月を始め大阪城の調査に当たっていた面々は、いったん前線を離れることになった。
今は短刀と脇差で編成された部隊が、三条大橋への出陣を重ねている。
どうやら第一部隊は、思うように行軍できぬまま帰還を強いられたらしい。それでも存分に活躍できるとあって、短刀や脇差たちの顔は明るかった。
怪我を負った者たちが手入部屋に運ばれていき、本丸で待機していた者たちが代わりに入る。まだ時間にゆとりがあるため、再び出陣するつもりのようだ。
幼さの浮かぶ顔立ちに疲労の影はなく、諦めの色も浮かんではいない。長らく探し続けている新たな刀剣を見つけて帰ってくる日も、そう遠くはないだろう。
「さて。とっとと片づけるか」
「
――
そうだな」
三日月と鶴丸は、水撒きの道具を倉庫にしまう途中で門から届く喧騒に足を止めていたのだ。鶴丸の声を合図に、三日月は歩みを再開した。
颯爽と足を運ぶ鶴丸の横顔に、先程まで滲んでいた情動は見受けられない。
池田屋事件に関する合戦場での戦闘は全て夜戦のため、太刀では充分に実力を発揮することができず、足手纏いになってしまう。歴史修正主義者が断念する気配を見せぬ以上、当分は池田屋事件周辺での歴史改変を阻止しなくてはならない。三日月や鶴丸に出陣の呼び声が掛かるのは、しばらく先のことになるはずだ。
鶴丸は絶えず驚きを求める姿勢を忘れないとはいえ、内番も家事当番も真面目にこなしている。出陣の機会が得られなくても、無理を通して戦に出ようとはしない。
だからこそ、抑えきれなかった思いが不意に覗いてしまうのだろう。
気に留めなければ、さらりと見逃してしまうくらいの些細なものだ。しかしそのささやかな色は、三日月の心へ針のようにちくりと刺さった。
「鶴」
障子戸越しに声を掛ければ、まもなくすらりと境界が取り払われた。
鶴丸が用件を問う前に、三日月は胸元に掲げた手土産を小さく揺さぶってみせる。ちゃぷり、と控えめな水音が響いた。
「やるか?」
「おっ。いいねえ」
にやりと微笑みあってから、三日月は鶴丸に招かれるまま座敷に足を踏み入れる。肴の用意はなかったが、鶴丸もさして気にする様子を見せなかった。
畳に腰を下ろして、まずは一献と杯を傾ける。ひとたび酌み交わしてしまえば、言葉を交わすよりも酌をしあうほうが捗った。
寝酒と呼ぶには差し障りのある量を収めたところで、先に鶴丸が根を上げる。こてんと三日月に寄り掛かった鶴丸は、楽しげに喉を鳴らした。
「やれやれ、負けた負けた」
「んん?」
「相変わらず君は強いな」
いつからか飲み比べだと捉えられていたらしい。頬が押しつけられた肩に火照りを感じながら、三日月は杯に残っていた酒を煽った。
三日月とて、鶴丸ほどではないものの酔いは確かに回っている。そろそろ終わりにするかと思っていたところで、鶴丸が三日月の太腿を枕にごろりと横になった。三日月がゆるりと視線を落とせば、悪戯っぽい笑みを返される。空いた手で額を撫でてやると、すかさずその指先を掴まれた。酒精を帯びているせいで、鶴丸の手はいつもより温もっている。
「俺を酔わせてどうするつもりだ?」
「はっはっは」
「もう夜更けだぜ。期待したくもなるだろう?」
「ふむ。
……
いいぞ」
冗句にあっさりと乗れば、鶴丸はぱちぱちと瞬きをしてみせる。素直に驚きを現す情人に、三日月は悠然と口元を持ち上げた。
「明日の手合せ、本気でやるか」
一呼吸ののちに、鶴丸は耐え切れないとばかりに噴き出した。ひとしきり笑ってから、ああ、と溜息のような声を漏らす。
「まったく、君には敵わないな」
そうひとりごちて、鶴丸はゆっくりを上体を起こした。三日月の左手はなおも捕われていて、しばらくは解放してもらえそうにない。
「負けてもいいんだが、なんてのたまう君が、本気を出すと来た。ずいぶんと気前がいいじゃないか」
「んん? そうか?」
「こんなに甘えていては、いつか罰が当たりそうだ」
戯れの最中に少しの自嘲が溶けていると察していても、三日月は言葉を重ねはしなかった。
三日月は鶴丸を甘やかしてなどいない。ただ、焦がれる矛先を逸らそうとしているだけだ。
鶴丸に罰を与えようとする不届きものがいるとすれば、その誰かを許せそうにない。
思惑の全てを声にしないままに、三日月は穏やかな笑みを崩さずにいる。
鶴丸の眼が己を映しているのなら、あとはなにもかも瑣末なことだった。
小椋@OgrYtk
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