小椋
2015-06-26 23:04:17
1153文字
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【つるみか】ワンドロ第九回

※ お題:朝



 つん、と鼻をつつかれて、鶴丸は眠りの淵から引き上げられた。意識は覚醒したものの、瞼がくっついて剥がれない。
 眠気を振り払えずにいるうちに、今度は頬に指先が沈められた。つつかれるだけならばまだしも、ぐに、と摘まれてしまっては、寝たふりを貫いてもいられない。眉間に思いきり皺を寄せれば、とっくに狸寝入りだと気づいていただろう共寝の相手から笑い声が転がってきた。
「どうせなら、もっと色気のある触り方をしてくれたっていいんじゃないか?」
 瞼を押し上げながら抗議すれば、やわらかく綻んだ美貌に迎えられる。
「すまんな」
 わざと惚けているのか素直に詫びているのか、あっさりとそう返した三日月に、鶴丸はたまらず笑みを零した。
 すずめの鳴き声に誘われるまま、ぴたりと閉ざされた障子戸に目をやる。
 昨日一日降り続いていた雨は、未明のうちに上がったようだ。障子戸を介して淡く射し込んだ陽の光が、朝の訪れを告げていた。
 いつも通り朝早く抜け出すつもりでいたのに、今日に限って少々寝過ごしてしまったらしい。とりあえずは身を起こそうと褥に肘を着いたところで、三日月が擦り寄ってきた。
「三日月?」
 するりと背中へ腕が回って、やわく抱き締められる。
「行くのか?」
 朝から心臓に悪い。俯いているせいで顔が見えないのが、余計にいけなかった。つい、都合のいい想像を加速させてしまう。所詮は戯れだと理解していても、寝惚けた頭では処理が追いつかないのだ。
 普段の三日月ならば、こんなふうに分かりやすく未練を覗かせるような真似などしない。鶴丸が出ていくことに気づきもせずに、すやすやと眠っているのが常だった。
 どう返事したものかと迷っているうちに、頬を肩に擦りつけられる。髪を撫でつつ顔を上向かせれば、どこか悪戯っぽい微笑みと出会した。
 名を呼ぼうとした矢先、欠伸が込み上げてくる。抗わずにくわりと口を開いて、呼気混じりに間抜けな声を漏らす。そのまま閉じようとしたところで、すかさずなにかが差し込まれた。三日月の指だ。
 瞳の中に浮かぶ三日月が、眼間で楽しげに煌めいている。先程の期待に応えて、三日月なりに色気のある触れ方を試みてくれたらしい。
 軽く銜えた指を食むようにむにむにと唇を動かしてやれば、三日月はくすぐったそうに笑った。ちゅ、と音を立てて、鶴丸は三日月の指を解放してやる。それを己の指で絡め取ってから、仕返しに啄ばんでやろうと顔を寄せていく。
 まもなく唇に触れるというところで、無粋な邪魔が入った。互いの腹の虫だ。なんとも緊張感の欠けた響きに、ふたりして肩を震わせてしまう。
 どうやら今は、夜とは違う飢えを満たさなければならないようだ。
「起きるか」
「そうだな」



小椋@OgrYtk