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小椋
2015-06-19 23:10:49
1630文字
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【つるみか】ワンライ第八回
※ お題:ジューンブライド
目を覚ますと、隣の温もりが忽然と消えていた。身を起こそうと褥に手を着けば、存外にひんやりとした感触を得る。どうも、今さっき起きたというわけではないらしい。三日月は障子戸を開けて、静かに自室を後にした。
わざわざ見回すまでもなく、周囲に誰かがいる気配はない。朝から降り続けている雨のせいで、どこか肌寒い廊下を進んでいく。
やがて辿り着いた縁側に腰掛けて、より鮮明になった雨音に耳を傾けた。月や星の明かりが届かぬ分、深い宵闇に沈んだ庭の景色を見るともなしに眺めていれば、微かな足音が近づいてくる。
「お、起きたのか」
しれっとそう呟いた鶴丸は、夜着の上にいつもの羽織を纏っていた。黙したままの三日月が視線を庭先に戻せば、鶴丸はその隣にどかっと腰掛ける。
「一度起きたら、目が冴えて眠れなくてな。ちょっかいを掛けてみても君は起きないし、退屈だからぐるっと散歩してたのさ」
「
……
ちょっかいとはなんだ?」
「ああ。こうだ」
すっと伸びてきた指先で、ぶに、と頬を軽く摘まれた。三日月がなにかを言う前に、鶴丸はあっさりと指を離す。
「名を呼んでも髪を撫でても頬を抓っても起きないときた。鼻を摘まなかっただけ褒めてほしいくらいだぜ」
「はっはっは」
わざとらしく呆れた物言いをする鶴丸に、三日月はつい笑ってしまう。
すると、黙っていなくなって悪かった、という謝罪の言葉と共に、ばさりと羽織が被せられる。肩からずり落ちそうになるのを咄嗟に押さえれば、滑らかな手ざわりに迎えられた。
「そういえば、これはどうした?」
「歩いているうちに寒くなってきたからな。部屋から持ってきた」
鶴丸の腕が再び伸びてきて、ふわりと頭になにかを乗せられる。羽織に縫い着けられた頭巾だろう。
「梅雨の時季に結婚する花嫁は幸せになれるらしいぜ」
「ふむ」
「結婚を司る異国の神から、加護を授かれるんだと」
どこかから仕入れてきたらしい知識を披露した鶴丸は、三日月の手を取った。
「今は指輪を贈り合うんだっけか」
左手の薬指を優しく撫でられる。突拍子もなく始まった戯れに三日月が首を傾げれば、鶴丸は楽しげに喉を鳴らした。
「いやなに、それくらいは君の元へ通ったなあと、ふと思っただけだ」
通うもなにも端から同じ屋敷に暮らしているわけだが、ここで口を挟むほど三日月も無粋ではない。
「白無垢に似てるだろう」
悪戯っぽく目を細められたが、三日月はどうにも釈然としない。
「幸せになるのは花嫁だけか?」
「ん?」
返事を待たずに羽織を脱いだ三日月は、それを目を丸くした鶴丸の肩に掛けた。仕上げに、先程されたように頭巾を被せてやる。
「お前にも幸せになってもらわねば困る」
きょとん、としていたかと思えば、鶴丸は不意に噴き出した。
「いや
……
っ、花嫁が幸せなら、花婿も幸せになれるんじゃないか?」
「そうか。
……
だが、これはやはりお前のほうが似合うぞ」
「そりゃあ嬉しいねえ。なにせ一張羅だからな」
ようやく笑いを収めた鶴丸が、ふっと庭先に目を向けた。雨粒が木の葉や地面に落ちて弾ける心地よい音色は、絶え間なく鳴り響いている。
「それにしてもやまないな」
「遣らずの雨だろう」
しれっと惚けた三日月に、鶴丸は愉快げに笑みを転がした。そう来たか、と呟きながら腰を上げて、すっと手を伸ばしてくる。三日月が手を重ねれば、存外にしっかりと握られた。
「せっかくだ。明日はもちでも食べるかい」
「確か、万屋に大福があったぞ」
「三日夜のもちが大福かよ!」
「うまいだろう」
「全くだ」
「正式な手順を踏みたいなら、もちの前に文だろう。もらった覚えがないぞ」
「しまった。痛いところを突かれたな」
手を繋いだまま部屋に戻って、ひんやりとした褥に潜り込む。冷えた体を寄せあえば、自然と視線が絡む。どちらからともなく目を細めると、誓いの口づけを贈りあった。
小椋@OgrYtk
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